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22章:安らげる場所/静かなる焦燥
3話:弔い酒(ウルバス)
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死んだ隊員を見送った日、流石にラウンジは会話が少なかった。時に空元気で笑うその声も、少し虚しく通り過ぎていく。
その空気に耐えきれず、ウルバスはラウンジを出て二階から修練場を見下ろしていた。
「ダメだな、久しぶり過ぎて忘れてる」
呟く様な言葉が、温かくなり始めた風に流されていく。
「ウルバス」
声にそちらを見れば、他の師団長達が立っている。なんとも言えない、作った笑みを浮かべて。
「みんな」
「弔い酒、行くぞ」
グリフィスの少し強引な態度が今は好ましい。ふとすれば立ち尽くしそうな今を動かしてくれる。
ウルバスは少し笑って頷いて、彼らの元へと向かった。
ウルバスの部屋に集まって、五人はそれぞれのグラスに酒を注ぐ。そこには二つ余計にグラスが用意され、そこにも酒が注がれた。
「なんか、久しぶりだったね」
ウェインが呟く。それに、全員が少し黙って酒を飲み込んだ。
「昔は、それこそ毎日でしたのに」
「まぁ、それも異常な事だったんだがな」
「あの時は戦争で、現場は常に異常だっただろうが」
オリヴァーが、アシュレーが、グリフィスが言う。それを、ウルバスは静かに聞いて頷いた。
ここ数年、平和だったと思う。実際は平和ではないけれど、少なくとも一緒に過ごした仲間が犠牲になる事はなかった。だから、免疫が落ちたんだと思う。
「大丈夫、ウルバス?」
気遣うようなウェインに、ウルバスは無理矢理笑った。そうでもしなければ大丈夫って言えない気がした。
「うん、平気。少し、気が重くなってただけだよ。気持ち入れ替えなきゃね」
「お前も無理をするな」
アシュレーが静かに言って酒を飲む。
「ルースさんが敵に回った。あの人は何を考えているか、よく分からないからな」
これもまた、気持ちが落ち込む要因に思える。
ルースという人は他を犠牲にしても平気な人だ。眉一つ動かしはしない。他の団長達はもっと感情的で、泣くも笑うもよく分かるのに。
「僕、あの人苦手」
「得意な人っているのかよ」
「なんと言うか、独特な雰囲気のある方でしたからね」
「そうだね」
以前、仲間達と笑い合って話していた時に言われた事がある。
『明日も、同じように笑って居られるといいのですけれどね』と。
ふと、飲む者のないグラス二つを見る。その先に、二人の隊員が笑っていてくれる気がした。グラスを持って、その二つに向かって掲げ、ほんの少しウルバスは笑った。
「お前達の分まで、頑張るよ。これ以上犠牲など出さないように、皆で頑張るから」
呟くような微かな言葉に、他の四人も穏やかに、そして強く頷く。そしてウルバスと同じように、グラスを掲げた。
「よーし、飲むぞ!」
「おい、弔い酒だと言っただろう。バカ騒ぎするな」
「なーに、湿っぽいのは性に合わねぇ。送り出される奴等だって、しみったれてちゃ心配すんだろうが」
「あはは、そうかもね」
「グリフィスにしてはいい事を言いますね」
みんなが笑う。その中で、ウルバスも笑える。気持ちはずっと落ち着いた。そして、負けるものかという気持ちが生まれてくる。不思議だ、彼らといると長く落ち込まない。
「心配ないからね。絶対に、みんなで乗り越えるよ」
強い誓いの言葉を胸に、ウルバスもまたいつものように穏やかに笑った。
その空気に耐えきれず、ウルバスはラウンジを出て二階から修練場を見下ろしていた。
「ダメだな、久しぶり過ぎて忘れてる」
呟く様な言葉が、温かくなり始めた風に流されていく。
「ウルバス」
声にそちらを見れば、他の師団長達が立っている。なんとも言えない、作った笑みを浮かべて。
「みんな」
「弔い酒、行くぞ」
グリフィスの少し強引な態度が今は好ましい。ふとすれば立ち尽くしそうな今を動かしてくれる。
ウルバスは少し笑って頷いて、彼らの元へと向かった。
ウルバスの部屋に集まって、五人はそれぞれのグラスに酒を注ぐ。そこには二つ余計にグラスが用意され、そこにも酒が注がれた。
「なんか、久しぶりだったね」
ウェインが呟く。それに、全員が少し黙って酒を飲み込んだ。
「昔は、それこそ毎日でしたのに」
「まぁ、それも異常な事だったんだがな」
「あの時は戦争で、現場は常に異常だっただろうが」
オリヴァーが、アシュレーが、グリフィスが言う。それを、ウルバスは静かに聞いて頷いた。
ここ数年、平和だったと思う。実際は平和ではないけれど、少なくとも一緒に過ごした仲間が犠牲になる事はなかった。だから、免疫が落ちたんだと思う。
「大丈夫、ウルバス?」
気遣うようなウェインに、ウルバスは無理矢理笑った。そうでもしなければ大丈夫って言えない気がした。
「うん、平気。少し、気が重くなってただけだよ。気持ち入れ替えなきゃね」
「お前も無理をするな」
アシュレーが静かに言って酒を飲む。
「ルースさんが敵に回った。あの人は何を考えているか、よく分からないからな」
これもまた、気持ちが落ち込む要因に思える。
ルースという人は他を犠牲にしても平気な人だ。眉一つ動かしはしない。他の団長達はもっと感情的で、泣くも笑うもよく分かるのに。
「僕、あの人苦手」
「得意な人っているのかよ」
「なんと言うか、独特な雰囲気のある方でしたからね」
「そうだね」
以前、仲間達と笑い合って話していた時に言われた事がある。
『明日も、同じように笑って居られるといいのですけれどね』と。
ふと、飲む者のないグラス二つを見る。その先に、二人の隊員が笑っていてくれる気がした。グラスを持って、その二つに向かって掲げ、ほんの少しウルバスは笑った。
「お前達の分まで、頑張るよ。これ以上犠牲など出さないように、皆で頑張るから」
呟くような微かな言葉に、他の四人も穏やかに、そして強く頷く。そしてウルバスと同じように、グラスを掲げた。
「よーし、飲むぞ!」
「おい、弔い酒だと言っただろう。バカ騒ぎするな」
「なーに、湿っぽいのは性に合わねぇ。送り出される奴等だって、しみったれてちゃ心配すんだろうが」
「あはは、そうかもね」
「グリフィスにしてはいい事を言いますね」
みんなが笑う。その中で、ウルバスも笑える。気持ちはずっと落ち着いた。そして、負けるものかという気持ちが生まれてくる。不思議だ、彼らといると長く落ち込まない。
「心配ないからね。絶対に、みんなで乗り越えるよ」
強い誓いの言葉を胸に、ウルバスもまたいつものように穏やかに笑った。
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