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ハーレムとは呼べない
脅迫
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「来たね。こっちだよ」
桜井桃香が前を歩く。ハーフアップにして編み込んだ桜色の長い髪が歩調に合わせてゆらゆら揺れた。
同じくヒラヒラと左右に反復する制服のスカートから艶やかで白い足がスラリと伸びる。
桃香先輩は寮へ続く中庭脇の通路をテクテクと無言で進んだ。
(やっぱり桃香先輩かなァ。生徒会長だし)
『本物の恋』が何なのか分からないが、『生徒会長』というのは良い線を行っている気がする。
肩書きもそうだが、何より桃香先輩は周りと比較しても、飛び抜けて美人だ。
お人形のように顔が小さくまつ毛が長い。吊り気味のネコ目は意志の強さを感じるが、柔らかそうな頬はいたいけな少女のように可愛らしい。
可能性があるとしたら、桜井桃香な気がする。
慎重に考えなくては。
何せ命がかかっているのだ。
重い足取りで桃香先輩の後を追いながら、教室でのやり取りを思い出した。
♦︎
「ざっけんな。なんで僕が死ななきゃならん!」
咄嗟に立ち上がる。歓談に満たされた教室に、椅子の足を引きずり不快な音が響く。
ヒソヒソと話す周りの女子に気付き、咳払いをして座り直した。
「1年。猶予はそれだけだよ。1年以内にキミが『本物の恋』を学ばなければ、キミという存在は消滅することになってる」
「だから、なんで?! 僕は前世でも善良だったろ?!」声をひそめて非難を飛ばす。
「詐欺師がよくもまぁ、いけしゃあしゃあと」ロリ神が半眼で顔を顰めた。
「いやいや。僕は悪くないだろ? 騙されるやつが悪い」
――いいか真。詐欺師が悪いんじゃねぇ。騙される奴が悪いんだ。
咄嗟に出た自分の言葉で、ふとアイツのことが頭に浮かんだ。
目を細めて舌打ちすることで振り払う。
ロリ神は僕の舌打ちを別の意味に受け取ったのか、大きくため息を吐いた。
「そんな調子じゃ本当に死んじゃうよ?」肩を落として弱々しくロリ神が言う。
「なら、僕をいじめるのをすぐさま止めろ」
教室前方の扉が開き、数学教諭が入ってきた。
僕は引き出しから教科書を抜き出し、無造作に机上に置く。
「それは出来ないよ。これはキミの乗り越えなきゃならない試練のようなものなんだから」
「なんだよ試練って。神様気取りかよ」
「神様だよ!?」
まったく面倒くさい。
もし、こんなアホなミッションで失敗したら、死んでも死にきれん。化けて出てやろう、と心に決める。
「まぁでも、ヒントくらいは上げても良いかな。まずは身近な女子との接点を増やしてごらんよ」
ロリ神が上から目線で全くヒントになっていないヒントを出す。
僕がありがたがるとでも思っているのだろうか。
思っているのだろう。ロリ神は今か今かと僕に向けた期待のチラ見を繰り返していた。
僕は礼の代わりに立ち上がって大声で言う。
「先生ェー、神山さんが授業中にポッキー食べてますゥー」
ロリ神が目をかっ開き、『こいつマジか……!』とでもいうかのような非難がましい視線を放つ。
「神山ー。廊下に立ってなさい」
神山ローラさんは涙目で廊下に出て行った。
♦︎
「何してるの? こっちだよ。早く」
桃香先輩が手招きする。
木目調の扉の前。いつの間にか、寮に着いていた。
温かみのある巨大なログハウスのような外観。
招かれるままに中に入ると、湿気を帯びた木の心地よい香りが充満している。
桃香先輩がパチっと照明を付けると、一層香りが強くなったような気がした。
「ここが鷺原くんが今日から暮らす『仲良し寮』だよ」
橙色がかった照明光が部屋内を照らしている。
寮に入ってすぐのところには広い共有スペースが広がっていた。
中央にリビング。
食事用テーブル、ソファ、テレビと一通り揃えられている。
奥にキッチン、風呂、トイレと水回りの設備があるようだ。
左右に3つずつ扉があり、個室になっていた。ここが寮生の個人部屋だろう。
「まだ他の寮生は決まっていないけど、鷺原くんは皆より一足先に入寮することになってるから」桃香先輩が寮生部屋の一つの扉を開く。勉強机とベッドでほぼ埋まっている6畳ほどの部屋が見えた。
桃香先輩は淡々と設備の説明をする。
僕はそれを遮るように質問した。
「というか、ここ男子寮ですよね? なんで、桃香先輩がそんなに男子寮に詳しいんです?」
先輩が怪訝そうな顔をする。
「男子寮なわけないでしょ。今どき、男子を寮に入れる家庭なんて少数派だよ。ここは男子と女子、混合の特別寮よ」
……なん……だと……!
「男女混合だなんて、そんなん許されるの?!」
いや、だってこの世界の女子は肉食獣の如きヤバめのやつばかりなんだぞ?!
猛獣の檻に子羊を放り込むようなものだ。
「男性人口を増やしたい上からの圧力で、試験的に行われている制度だから。私だって正直、どうかと思うけど……」
おい……。この国、政府公認の乱行パーティー会場を作ろうとしてるよ。ヤバすぎだろ、この世界。
「ま、まぁ、他の寮生が入居するのはまだ先だから!」
桃香先輩があせあせと取り繕う。こういう時だけ、天使のような優しい笑みを見せるのな。
額に張り付く汗が彼女の動揺を表していた。
だが、考え方によってはこれはチャンスだ。
僕への罪悪感やら同情やらを利用しない手はない。
僕の要求は今、通りやすい状況にあると言えた。
「でも、僕一人かァ。寂しいなァ……今晩一緒に過ごしてくれる優しい人、いないかなァ~?」
桃香先輩をチラチラと上目がちに見て、言ってみる。
先輩とお近づきになる機会を作るのだ。
あわよくば身体の関係を持つ。間違いでも気まぐれでも何でも良い。とにかくそこまで行けば、勝率9割だ。
さぁ、どうでる桃香先輩?
「イルトイイネー」
桃香先輩はどうでも良さそうにそれだけ言うと、再び設備や遵守事項等の説明を再開した。
あからさまに脈なしである。
これをすぐすぐどうにかするのはいくら僕でも無理筋だ。
時間をかける必要があった。
「それで、門限は9時で、それを過ぎた場合は――」
「――桃香先輩、桃香先輩っ」
またも説明を遮ると桃香先輩はジロリと僕を睨みつける。
「…………何」
刺々しい声で返ってきた。
僕はあえてすっとぼけ、何も気付いていない風を装う。
「先輩もこの寮に住むんですか?」
「そんな訳ないでしょ。応募すらしてないわよ」
バカなこと言わないで、とでも言うかのように短く息を吐いた。
これは由々しき事態だ。
男女の仲というものは基本的に『どれだけ同じ時間を過ごすか』が最も大切な要素なのだ。
ましてや桃香先輩は3年生なのだから、2年の僕が顔を合わせる機会は滅多にない。
つまり、このままでは僕が桃香先輩を落とすというミッションにおいて、必要最低条件である『頻繁に顔を合わす』という大前提を欠くことになる。
「まだ間に合うでしょ? 先輩、応募しましょ? ね?」諭すように言ってみる。
「そりゃ間に合うっちゃ間に合うけど。私が申し込み用紙を取りまとめてるからね。でも応募する理由がないもの」
「僕の好感度が80上がる」
「別に上がらなくて結構」
取り付く島もない。
多分この人には、お色気作戦も効果なしだろう。
こうなったら作戦を変えるしかない。逆転の発想だ。
再び説明を開始する先輩の話を聞き流しながら、チャンスを待った。
「で、もし寮に誰もいなくなる場合は、キッチンの下の棚を開けるとガス栓があるから――」
桃香先輩がキッチンの下の棚に頭を突っ込む。
安産型の良きお尻が棚から生えた状態になった。
スカートが垂れて、かろうじて下着は見えないが、お尻の形はハッキリ分かる。
――――ここだ!
僕の右腕が瞬時に空を裂き、ブォンと唸る。
空振ってはいけない。
お尻に当ててもいけない。
絶妙な位置にスイングをしなければならない。シビアな精度が求められる。
僕の手は見事、桃香先輩のスカートだけを引っ掛け、めくり上げた。
淡い紫色のレースのあしらわれたキュートなパンティが露わになる。お尻の割れ目のところだけ、少し食い込み谷ができ、そこから細いシワがパンティ全域に広がっている。
「きゃァァァァアアアアっ!」
甲高い叫びと共に桃香先輩はゴンッと頭を棚の上板にぶつけた。あれは痛そうだ。
頭とお尻、どちらを抑えようか一瞬躊躇い、先輩はお尻を選んだ。
のそのそと棚から出てくると、殺気を放ちながら僕の胸ぐらを掴み上げる。
「な、な、な、何すんのよ!」
目に涙を溜めて、燃えさかる炎のように頬が赤い。桃香先輩はハァハァと胸を上下させて荒い呼吸を繰り返していた。
「どうです? これで分かったでしょ?」僕は優しく微笑みかける。
「はァ?! 何っがよ!」噛みつかれるかと思うほど歯を食いしばって僕を睨みつける。
僕は堂々と胸を張って宣言した。
「僕はこの寮にくる女の子、全員のスカートをめくりますよ?」
「――ッ?!」先輩はビクッと反応してから固まった。僕の言葉の真意を考えているのだろう。もう一押しだ。
「もう一度言います。僕はこの寮の女の子全員にセクハラをかまします。かましまくります。いいんですか?」
「い、良い訳ないでしょ! なんでそんなことすんのよ」
心なしか僕を非難する勢いが少し弱まっている。本当は僕の言いたいことが分かっているんだろ桃香先輩?
「僕を止められるのは、もう生徒会長である桃香先輩だけですよ? 先輩が寮に入居するのであれば、僕も自重しましょう。流石に生徒会長にそんな失礼なことできませんから」
「さっき思いっきり失礼なことしてたよね?!」
「細かいことは言いっこなしです」
「私のパンツは細かいことじゃないんですけど!」
本当に細かい先輩である。
パンツくらい良いじゃん。触ったわけでもあるまいし。
「桃香先輩が入居しなかった場合は女子全員を孕ませるとここに誓います」
「そんなこと誓わないでくれる!?」
この先輩は基本的に良い人だ。
優しくて、正しい。この短い間の付き合いでも、それは分かる。
だからこその作戦だ。
この人は必ず折れる。
「子を授かった暁には一人目を桃子、二人目を桃実、三人目を桃代、四人目を――
「――分かった! 分かったから! 分かったから止めて! 子供に桃シリーズの名前付けるのは止めて!」
……勝った。
がっくりうなだれて、大きなため息をつく先輩は、もうほとんど泣いていた。てへぺろっ❤︎
桜井桃香が前を歩く。ハーフアップにして編み込んだ桜色の長い髪が歩調に合わせてゆらゆら揺れた。
同じくヒラヒラと左右に反復する制服のスカートから艶やかで白い足がスラリと伸びる。
桃香先輩は寮へ続く中庭脇の通路をテクテクと無言で進んだ。
(やっぱり桃香先輩かなァ。生徒会長だし)
『本物の恋』が何なのか分からないが、『生徒会長』というのは良い線を行っている気がする。
肩書きもそうだが、何より桃香先輩は周りと比較しても、飛び抜けて美人だ。
お人形のように顔が小さくまつ毛が長い。吊り気味のネコ目は意志の強さを感じるが、柔らかそうな頬はいたいけな少女のように可愛らしい。
可能性があるとしたら、桜井桃香な気がする。
慎重に考えなくては。
何せ命がかかっているのだ。
重い足取りで桃香先輩の後を追いながら、教室でのやり取りを思い出した。
♦︎
「ざっけんな。なんで僕が死ななきゃならん!」
咄嗟に立ち上がる。歓談に満たされた教室に、椅子の足を引きずり不快な音が響く。
ヒソヒソと話す周りの女子に気付き、咳払いをして座り直した。
「1年。猶予はそれだけだよ。1年以内にキミが『本物の恋』を学ばなければ、キミという存在は消滅することになってる」
「だから、なんで?! 僕は前世でも善良だったろ?!」声をひそめて非難を飛ばす。
「詐欺師がよくもまぁ、いけしゃあしゃあと」ロリ神が半眼で顔を顰めた。
「いやいや。僕は悪くないだろ? 騙されるやつが悪い」
――いいか真。詐欺師が悪いんじゃねぇ。騙される奴が悪いんだ。
咄嗟に出た自分の言葉で、ふとアイツのことが頭に浮かんだ。
目を細めて舌打ちすることで振り払う。
ロリ神は僕の舌打ちを別の意味に受け取ったのか、大きくため息を吐いた。
「そんな調子じゃ本当に死んじゃうよ?」肩を落として弱々しくロリ神が言う。
「なら、僕をいじめるのをすぐさま止めろ」
教室前方の扉が開き、数学教諭が入ってきた。
僕は引き出しから教科書を抜き出し、無造作に机上に置く。
「それは出来ないよ。これはキミの乗り越えなきゃならない試練のようなものなんだから」
「なんだよ試練って。神様気取りかよ」
「神様だよ!?」
まったく面倒くさい。
もし、こんなアホなミッションで失敗したら、死んでも死にきれん。化けて出てやろう、と心に決める。
「まぁでも、ヒントくらいは上げても良いかな。まずは身近な女子との接点を増やしてごらんよ」
ロリ神が上から目線で全くヒントになっていないヒントを出す。
僕がありがたがるとでも思っているのだろうか。
思っているのだろう。ロリ神は今か今かと僕に向けた期待のチラ見を繰り返していた。
僕は礼の代わりに立ち上がって大声で言う。
「先生ェー、神山さんが授業中にポッキー食べてますゥー」
ロリ神が目をかっ開き、『こいつマジか……!』とでもいうかのような非難がましい視線を放つ。
「神山ー。廊下に立ってなさい」
神山ローラさんは涙目で廊下に出て行った。
♦︎
「何してるの? こっちだよ。早く」
桃香先輩が手招きする。
木目調の扉の前。いつの間にか、寮に着いていた。
温かみのある巨大なログハウスのような外観。
招かれるままに中に入ると、湿気を帯びた木の心地よい香りが充満している。
桃香先輩がパチっと照明を付けると、一層香りが強くなったような気がした。
「ここが鷺原くんが今日から暮らす『仲良し寮』だよ」
橙色がかった照明光が部屋内を照らしている。
寮に入ってすぐのところには広い共有スペースが広がっていた。
中央にリビング。
食事用テーブル、ソファ、テレビと一通り揃えられている。
奥にキッチン、風呂、トイレと水回りの設備があるようだ。
左右に3つずつ扉があり、個室になっていた。ここが寮生の個人部屋だろう。
「まだ他の寮生は決まっていないけど、鷺原くんは皆より一足先に入寮することになってるから」桃香先輩が寮生部屋の一つの扉を開く。勉強机とベッドでほぼ埋まっている6畳ほどの部屋が見えた。
桃香先輩は淡々と設備の説明をする。
僕はそれを遮るように質問した。
「というか、ここ男子寮ですよね? なんで、桃香先輩がそんなに男子寮に詳しいんです?」
先輩が怪訝そうな顔をする。
「男子寮なわけないでしょ。今どき、男子を寮に入れる家庭なんて少数派だよ。ここは男子と女子、混合の特別寮よ」
……なん……だと……!
「男女混合だなんて、そんなん許されるの?!」
いや、だってこの世界の女子は肉食獣の如きヤバめのやつばかりなんだぞ?!
猛獣の檻に子羊を放り込むようなものだ。
「男性人口を増やしたい上からの圧力で、試験的に行われている制度だから。私だって正直、どうかと思うけど……」
おい……。この国、政府公認の乱行パーティー会場を作ろうとしてるよ。ヤバすぎだろ、この世界。
「ま、まぁ、他の寮生が入居するのはまだ先だから!」
桃香先輩があせあせと取り繕う。こういう時だけ、天使のような優しい笑みを見せるのな。
額に張り付く汗が彼女の動揺を表していた。
だが、考え方によってはこれはチャンスだ。
僕への罪悪感やら同情やらを利用しない手はない。
僕の要求は今、通りやすい状況にあると言えた。
「でも、僕一人かァ。寂しいなァ……今晩一緒に過ごしてくれる優しい人、いないかなァ~?」
桃香先輩をチラチラと上目がちに見て、言ってみる。
先輩とお近づきになる機会を作るのだ。
あわよくば身体の関係を持つ。間違いでも気まぐれでも何でも良い。とにかくそこまで行けば、勝率9割だ。
さぁ、どうでる桃香先輩?
「イルトイイネー」
桃香先輩はどうでも良さそうにそれだけ言うと、再び設備や遵守事項等の説明を再開した。
あからさまに脈なしである。
これをすぐすぐどうにかするのはいくら僕でも無理筋だ。
時間をかける必要があった。
「それで、門限は9時で、それを過ぎた場合は――」
「――桃香先輩、桃香先輩っ」
またも説明を遮ると桃香先輩はジロリと僕を睨みつける。
「…………何」
刺々しい声で返ってきた。
僕はあえてすっとぼけ、何も気付いていない風を装う。
「先輩もこの寮に住むんですか?」
「そんな訳ないでしょ。応募すらしてないわよ」
バカなこと言わないで、とでも言うかのように短く息を吐いた。
これは由々しき事態だ。
男女の仲というものは基本的に『どれだけ同じ時間を過ごすか』が最も大切な要素なのだ。
ましてや桃香先輩は3年生なのだから、2年の僕が顔を合わせる機会は滅多にない。
つまり、このままでは僕が桃香先輩を落とすというミッションにおいて、必要最低条件である『頻繁に顔を合わす』という大前提を欠くことになる。
「まだ間に合うでしょ? 先輩、応募しましょ? ね?」諭すように言ってみる。
「そりゃ間に合うっちゃ間に合うけど。私が申し込み用紙を取りまとめてるからね。でも応募する理由がないもの」
「僕の好感度が80上がる」
「別に上がらなくて結構」
取り付く島もない。
多分この人には、お色気作戦も効果なしだろう。
こうなったら作戦を変えるしかない。逆転の発想だ。
再び説明を開始する先輩の話を聞き流しながら、チャンスを待った。
「で、もし寮に誰もいなくなる場合は、キッチンの下の棚を開けるとガス栓があるから――」
桃香先輩がキッチンの下の棚に頭を突っ込む。
安産型の良きお尻が棚から生えた状態になった。
スカートが垂れて、かろうじて下着は見えないが、お尻の形はハッキリ分かる。
――――ここだ!
僕の右腕が瞬時に空を裂き、ブォンと唸る。
空振ってはいけない。
お尻に当ててもいけない。
絶妙な位置にスイングをしなければならない。シビアな精度が求められる。
僕の手は見事、桃香先輩のスカートだけを引っ掛け、めくり上げた。
淡い紫色のレースのあしらわれたキュートなパンティが露わになる。お尻の割れ目のところだけ、少し食い込み谷ができ、そこから細いシワがパンティ全域に広がっている。
「きゃァァァァアアアアっ!」
甲高い叫びと共に桃香先輩はゴンッと頭を棚の上板にぶつけた。あれは痛そうだ。
頭とお尻、どちらを抑えようか一瞬躊躇い、先輩はお尻を選んだ。
のそのそと棚から出てくると、殺気を放ちながら僕の胸ぐらを掴み上げる。
「な、な、な、何すんのよ!」
目に涙を溜めて、燃えさかる炎のように頬が赤い。桃香先輩はハァハァと胸を上下させて荒い呼吸を繰り返していた。
「どうです? これで分かったでしょ?」僕は優しく微笑みかける。
「はァ?! 何っがよ!」噛みつかれるかと思うほど歯を食いしばって僕を睨みつける。
僕は堂々と胸を張って宣言した。
「僕はこの寮にくる女の子、全員のスカートをめくりますよ?」
「――ッ?!」先輩はビクッと反応してから固まった。僕の言葉の真意を考えているのだろう。もう一押しだ。
「もう一度言います。僕はこの寮の女の子全員にセクハラをかまします。かましまくります。いいんですか?」
「い、良い訳ないでしょ! なんでそんなことすんのよ」
心なしか僕を非難する勢いが少し弱まっている。本当は僕の言いたいことが分かっているんだろ桃香先輩?
「僕を止められるのは、もう生徒会長である桃香先輩だけですよ? 先輩が寮に入居するのであれば、僕も自重しましょう。流石に生徒会長にそんな失礼なことできませんから」
「さっき思いっきり失礼なことしてたよね?!」
「細かいことは言いっこなしです」
「私のパンツは細かいことじゃないんですけど!」
本当に細かい先輩である。
パンツくらい良いじゃん。触ったわけでもあるまいし。
「桃香先輩が入居しなかった場合は女子全員を孕ませるとここに誓います」
「そんなこと誓わないでくれる!?」
この先輩は基本的に良い人だ。
優しくて、正しい。この短い間の付き合いでも、それは分かる。
だからこその作戦だ。
この人は必ず折れる。
「子を授かった暁には一人目を桃子、二人目を桃実、三人目を桃代、四人目を――
「――分かった! 分かったから! 分かったから止めて! 子供に桃シリーズの名前付けるのは止めて!」
……勝った。
がっくりうなだれて、大きなため息をつく先輩は、もうほとんど泣いていた。てへぺろっ❤︎
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