平凡な俺が双子美形御曹司に溺愛されてます

ふくやまぴーす

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ハネムーン編

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「結構疲れたね~」
「買いすぎなんだよ、お前」
「だって、どれもこれも、翔に似合いそうだったからさ」


夕刻、両手でも収まらないくらいの大荷物を持って、俺たちはホテルへと戻ってきた。
あの後も蓮は、いつも通り優しかった。何も変わらない。だけど俺の心にはずっと、先ほどの出来事が引っかかって、頭から離れなかった。


「俺、ちょっと汗掻いたから……シャワー、浴びてきます」
「ん、いってらっしゃい」


爽やかな笑顔の蓮を尻目に、俺は一人そそくさとバスルームへ向かう。
このモヤモヤした気持ちを紛らわせたかったのと、二人と一緒にいるのと、見えない不安に押しつぶされてしまいそうだった。


「はぁ。ほんと、一人でなにやってんだろ……」


二人何も悪いことなんて何1つしていない。
むしろ悪いのは、ずっと二人の好意や要望から逃げ続けてきた俺の方なんじゃないか。
だからこそ、なおさら不安になる。
結婚した当初は、いつかお役御免になって捨てられる日が来るものだと思っていた。それが当たり前だと思った。
だけど今、二人に捨てられることを想像するだけで、こんなにも怖い。

少しぬるめのシャワーを浴びながら、俺は自身の手をそっと後ろに伸ばした。
恐る恐る、中指を蕾へとあてがう。


「……ぅ…」


少しソコに触れただけで、凄まじい違和感だった。
正直まだ、どうしてココがそんなにいいのか、二人がなぜ求めるのかはわからない。
それでも、ハルと澪に教わったことを思い出して、俺は指を少しづつナカにつぷり、押し込んだ。


「やっぱ、怖い……怖いけど、やるしか……」


異物感で体がふるふると震える。それでも、大好きな二人にちゃんと応えたかった。
今日こそ。二人が俺に愛想をつかしてしまう前に、ちゃんと自分から言おう。

バスルームで一人声を押し殺し、俺はゆっくりと、恐怖や不快感に耐えながら、二人を受け入れるための準備をした。








すっかり疲弊した俺は、とぼとぼとリビングルームへと戻る。
だが、二人の姿はそこになかった。
ベッドルームにひょっこりと顔を出してみると、見たくない光景が、視界に入ってしまった。

二人はなにやら小さな声で話し込んでいる。
蓮の右手には、さっき渡されたものであろう、折癖のついたメモが握られていた。


「蓮、くん……?」


思わず、愛する人の名前が口からこぼれ落ちる。
二人は俺が戻ったことに気がつき、蓮は持っていた紙をさりげなくポケットにしまってから、俺に笑いかけた。


「おかえり。さっぱりした?」
「……う、ん」
「翔、大丈夫?今日、ちょっと疲れてない?」


ベッドから立ち上がり、蓮は俺の元まで歩み寄る。俺の顔色を確かめるように、耳にかかる髪をさらりとかき上げた。

優しい、蓮くんだ、いつもの蓮。きっと大丈夫、大丈夫だよ。
あの紙は俺が心配しているようなものではないし、二人は変わらずに俺のことを好きでいてくれてるはず。
俺は頭の中で、必死に自分へ言い聞かせた。


「蓮、そろそろ」


その時、蘭がポツリと呟く。その言葉に、何かを思い出したかのように蓮はああ、と頷き、俺の頭を撫でた。


「ごめん翔。俺たち少しだけ出てくるから、休んでて」


ドクンと心臓が跳ね上がり、嫌な汗がどっと溢れてくる感覚が俺を襲う。
まさか、さっきの美少年のところに?
嫌な想像が、頭をよぎった。


「ど、こに……行くんですか…?」


少しだけ震える声で恐る恐るたづねると、蘭はぼそりと呟いた。


「仕事だ……翔には関係ねぇ」


冷たく言い放たれたセリフ。
蘭は、目を合わせてくれなかった。またしても、心臓がぎゅう、と締め付けられるように、苦しい。


「1時間もしたら、戻ってくるよ」


蓮がそう言い残すと、二人は俺の横をすっ、と通り抜けて、スタスタと歩いていく。
この旅行中、二人は俺を一人にすることは、決してなかったのに。

めまいがして、息苦しい。
もはや正常な思考能力がほとんど残っていない頭の中で、いろんな思惑が飛び交った。

なんで、どうして突き放すの。離れていくの。仕事なんて嘘だよね。
二人であの子のところにいくの?
もう、俺を待つの嫌になった?

平凡な俺なんかを待つよりも、すぐにやらせてくれる、容姿端麗な人の方がよっぽどいいって、気づいてしまった……?


「……っま、待って!」


俺は振り返り、二人の腕を掴んだ。
このまま二人が行ってしまったら、もう俺の元に戻って来てくれないんじゃないか。
そんな不安に、どうしようもなく駆られてしまった。


「あの、俺……、俺っ」


抱いて欲しいって、もう覚悟はできたって、そう伝えれば、二人は、踏みとどまってくれる?
俺を、これからもずっと好きでいてくれるのかな。


「ごめん、翔。少し急いでるんだ」


俺の言葉を遮って、振り返った蓮は困ったように言う。
蘭に至っては、俺の方を見もしなかった。

全身を引き裂くような絶望が、俺の言葉を、勇気を奪うのは造作も無いことだった。

何も出来ず、二人の手を離すと、蓮は小さく「ごめんね」とつぶやいて、二人は足早に部屋を出て行った。
バタンと閉まった扉をただ眺めながら、俺はその場に立ち尽くした。


「バカ……ほんと、バカ……っ」


可愛くも、かっこよくも、綺麗でもない平凡な俺を、二人は何年も思い続けてくれたのに。
俺は、二人に何も返せてない。今だって、なにもできなかった。
中途半端でバカな俺が招いた結果だ。
二人の優しさに、気持ちにあぐらをかいて、結局失うんだ。

気がつけば、両目からぼろぼろと涙がこぼれ落ちていた。
知ってたつもりだけど。俺、こんなに、


「……ッ二人のこと、好きなんだ……」


泣いたって二人が帰ってくるわけじゃない。そんなのわかってるけど。勝手に溢れて止まらなかった。

手の甲でごしごしと涙を拭う。こんなところ、誰かに見られたら余計な心配をかけてしまう。

驚くことに、思ったよりも俺の脳みそはどこか俯瞰していて冷静だった。


「あ、そうだ……あれ」


俺はハルからもらったハーブティの存在を思い出し、冷蔵庫から取り出した。
気持ちを落ち着かせてくれるって、たしかそう言っていたはず。
ぼろぼろ泣きながらも、俺はそのペットボトルを一気に傾け、ごくごくと豪快に飲んだ。

ふう、と一息つくと、後味が変なことに気がつく。
確かに美味しいが、なんか、人工的な苦味がやたらと舌に残っている。

ひとまず座ろうと、足を一歩踏み出した瞬間、急に全身から力が抜けるのを感じ、俺はその場に膝から崩れ落ちた。


「あ、れ……?」


リラックス効果にしては、何かがおかしい。身体に力が入らなさすぎる。
蓮の言う通り、俺はこんなになるまで疲れてしまっているのだろうか。
そう推測したのはほんの一瞬で、次の瞬間、それは間違っていることに気づく。


「なん、か……熱、い……なに、これ」


だんだんと全身の熱が上がっていき、息が荒く、心臓の鼓動が早まる。
明らかに、おかしい。そこでようやく俺は、先ほどの苦味の正体に勘付いた。

(もしかして、これ、媚薬ってやつなんじゃ……)

全身の熱に頭が侵され、どんどん体に力が入らなくなる代わりに、全身の感覚が敏感になっていく。
呼吸で揺れたTシャツが自身の胸にこすれただけで、俺はビクンと体を揺らし、あられもない声がでてしまった。


「っん、ぅ…っや、ば………」


水が欲しい。だけども力が入らない。
二人は出て行ってしまったし、そもそも貸切のこのホテルでは誰も来るわけがない。
だんだんと考えることを放棄していく頭に、脱力する身体。
俺は、どうしようもなくて目を閉じる。

だがその時、玄関の扉がバタン、と開いた音がした。

熱が上がりすぎて、幻聴でも聞こえたのかと思った。けど、そうではないらしい。
一人分の足音が近づいてくる。うっすらと瞼を開けると、目の前にいたのは夫でも、安藤夫妻でもなく、


「奥さん、どないしたんっ」


その美しい見た目とはかなりギャップのある、コテコテの方言で流暢に同じ言語を話す、蓮にメモを渡した張本人だった。


「うわわ、どないしよ。時間になっても部屋来ぉへんから来たのに、おらへんし」


その美少年は、倒れている俺の身体を抱き上げた。
話の内容からするに、やっぱり二人はこの美少年と会う約束をしていたんだ。
仕事と嘘をついたのは、俺に罪悪感を感じてなんだろうか。

俺はただ、熱に侵された頭でぼんやりと状況を整理しようと試みるが、荒い吐息が漏れるだけで、言葉が出てこない。


「ちょ、待ってな。とりあえずベット連れてくわ」


本当は彼にいっぱい聞きたいことがあるのに。俺の二人の旦那様との関係も、会って何をするつもりだったのかも。
なぜこの部屋に入れて、そして、どうして俺が二人の妻であることを知っているのかも。

彼は優しく、ベットの上に俺を下ろす。
仰向けに寝転がり視界に入る彼の顔はやっぱり綺麗で、美しいという言葉がぴったりの容姿だった。


「……ッ、み、ずを……」
「水?わかった、待っとき」


とにかく今ごちゃごちゃ考えても体がこんなだと何もできない。
俺は見ず知らずの彼にお願いするのは悪いと思いつつも水を懇願した。
バタバタと走って戻ってきた彼の手には、ペットボトルがあった。


「これでええか?」
「あ、りが……」
「お礼はええから、まず飲み」


キャップを外し、彼は水を差し出す。俺はそれを受け取り、震える手でゴキュゴキュと一心不乱に飲み込んだ。


「マジなんで、こんなエッロいことになってんねん。こんな目ぇトロンとさせてハァハァ言うてたら、一発でごっつい兄ちゃんたちにとっ捕まってぶち犯されるで」


その美しい顔にはあまり似合わないようなセリフを、彼は流暢に放つ。
水を飲むのに必死になっている俺を、穴があくほどに見つめる彼の頬は赤く上気していた。

一本分を飲み干すと、心なしか先ほどより症状が落ち着いてきたような。


「……これ、あれやんな。そーいう薬やろ?二人もおらへんのになんで飲んだん」
「え……、と…」
「もしかして、あれか?欲求不満だったんか?誰か連れ込む気ぃやったとか?」
「……ッち、ちが……」


旦那の知人らしき人間に、言われのない誤解をされては困る。
俺は否定しようと声を張り上げた。だが、上半身を起き上がらせているだけでも必死な俺の体は、その反動でよろめいた。
彼はとっさに、俺の身体を抱きしめるような形で俺の身体を支えた。


「……ッんぅ、」


その時、彼の腕が偶然俺の胸をかすめ、条件反射で高く掠れた声が口から溢れ出た。


「……ッやッば、なんなんもう、エロすぎやって。ちんこいらいらしてくるわ」
「な……っ、」
「やっぱ、間近で見ると超絶かわええなあ。もろにタイプやわ……」
「……は?」


彼は色気を孕んだ声で、俺の耳元でねっとりと語りかけた。
今、この状況には俺たち二人しかいない。聞き間違いじゃなければ、この人は。

(俺に、興奮してる……!?)

この美少年は、蓮や蘭に近づいてきたナンパではなくて、二人の知り合いで、俺のことも知っていて……正直、何がなんだかわからなかった。

けど1つだけハッキリしたことは、二人は俺に愛想を尽かして、浮気をするつもりで出て行ったのではなさそうということだ。
また、勝手に俺が先走ってしまっただけだったんだ。

 
「なぁ、二人ずっと童貞やったから、テクニックで満足させてもらえてないんちゃうの」
「な、……んの、話…」
「俺なら男でも女でも、天国連れてく自信あるで。だから、なぁ……二人に内緒で少しくらい楽しいことせぇへん?」
 

彼は自身の腰を俺の腹の辺りにぐり、と押し付けてきた。
固く、熱いその感触に、全身がぞわりと震える。


「っひ……や、…っ」
「そんな顔されたら興奮してまうやん」


依然、身体に力の入らない俺を、流れるように自然にベッドの上に押し倒す。

 
「大丈夫やって。慣れてるやろ?いつも二人分相手にしとるんやし」
 

手首をがちりと掴まれ、押さえつけられ。
俺の上には、大好きな二人ではなく、見知らぬ男の姿。

こんな状況で、不意に蓮の言葉を思い出した。

『こっちの人は翔みたいに色白で小柄な子が好みだから、絶対に俺たちのそばを離れたらダメだよ』
 
蓮くん、離れたくなかったよ。
蘭くん、どうして俺を置いて行ったの。
俺、これ以上、二人以外の人間に触れられたくなんかないのに。


「なぁ、キス、してええ……?」


腰に手が回され、綺麗な顔がゆっくりと近づいてくる。
いつの間にか、一度引っ込んだはずの涙がまた溢れ出す。

怖い、気持ち悪い、もう、嫌だ。


「……えっ、えっ?どないしたん、なんで?」


唇が触れそうな距離で、突然泣き始めた俺に気がついた彼は、驚いた様子だった。


「い、いやだ……っ俺、まだ二人ともしてない、のに……」
「は……?それ、ほんまなん?」


コクコクと頷くと、彼は黙って頭を抱えた。
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