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百鬼夜行編

146話 実装日がサービス終了告知の日

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-ピトゥリア国 西の船着き場-

セーニアをコダ国へ無事送り国王と王妃にピトゥリア国で起きた事の詳細を報告する。

アレクス王子との婚姻の話もセーニアの口から発表され、その報告に国王と王妃も驚きながらも涙して喜んでいた。

そして、当のセーニアは顔を赤くしながらツンツンとした態度を取っていた。
う~ん、微笑ましくも可愛い。

本人は「深紅の薔薇」に入り冒険をしたいと言っていたが、現在自分が置かれた状況を理解して残念そうに諦めていた。

「皆、本当にありがとう。私の我侭をきちんと受け止めてくれたのは皆がが初めてかも知れない。本当は皆の旅に付いて行きたいが今回は流石に我慢するよ。皆の旅の武運を陰ながら祈っている、もしまたこの国に立ち寄る事が有ったら王宮を訪ねてくれ。いつでも歓迎する。」

「ありがとうございます。姫も色々と忙しくなると思いますが、脱走しては駄目ですよ。」

セーニアは苦笑しながら私達を見送ってくれた。
私達は街に戻り回復アイテムや食材等を補充する。

街は未だ蜃気楼の街の話題で冒険者が多数滞在していた。
レイドボスのメジード自体は存在しないらしく、蜃気楼の街から帰還する冒険者も増えたそうだ。
今ではコダ国の観光収入として有名になりつつ有るらしい。

「そうか、嬢ちゃん行ってしまうのか。寂しくなるな。」
「嬢ちゃんとか失礼ですよ、親方!」
「うるせぇな!おらぁ嬢ちゃんと仲が良いから良いんだよ!嬢ちゃん、旅が終わったらまた寄ってくれよな。」
「この馬鹿がシノブさんの石像作るって聞かねぇんだよ。」

「せ、石像?!何で!?」

冒険者兼石工職人のおじさんとその弟子が街の中央に私を模した石像を造ると言う事らしい。
既に国王の許可は得ていると言っていた。

そんなもん作ってどうするんだろうか・・・
観光スポットにでもするのか?

コダ国を後にした私達は再度ピトゥリア国に戻り、ピトゥリア国の南西に当たる船着き場から船に乗り更に約2日間の船旅に出る。

「暑かったり寒かったりと同じ大陸の隣国とは思えない程の気候差でしたね。」

「うん、ゲームでは気にして無かったけど実際に気温を肌で感じると全然違うね。」

ゲームでは気温差なんて感じる事は無かったが、この世界では肌で気温を感じその土地の風の匂いとでも言うのだろうか。

環境の独自性を五感を通して感じれるのだ。

この船の上でも戦い日差しと少し寒さを感じる海風が肌を擽る。

2日間の船旅は特にトラブルに見舞われる事無く順調な航海だった。
咲耶とアルラトは相変わらず重度の船酔いに見舞われベッドに張り付いていた。




航海2日目昼過ぎにホウシェン国の有る小さな大陸の船着き場に到着した。
砂浜に防風林として黒松に似た植物が多数生えており、何処か懐かしさを感じる風景が広がっていた。
松林独特の匂いを孕んだ海風がこの島の雰囲気を伝えて来る。

「日本に帰って来たみたい。」

「そうですね、松ボックリとか見ると懐かしい感じがしますね。」

砂浜を眺めると、少し先の岩場に囲まれた場所に数人の漁師風の人々が集まり何かをしている様だった。

私達が近付いて見ると蜥蜴人間種リザードマンの男が人間種ヒューマンに取り囲まれ袋叩きに合っていた。
事情は分からないが私達は取り敢えず漁師たちの間に入り止めに入る。

「事情は分かりませんが、集団で暴行とは見過ごせませんね。」

「ああん!何か用・・・・うおっ!」
「すげー、美人だな。外人か?」
「お、おい!後ろに忍者と侍がいるぞ・・・」
「何処かの将軍家の方々じゃないか?ヤバいぞ。」
「お、おい!蜥蜴野郎!もう密漁するんじゃねぇぞ!お前ら行くぞ!」

止めに入ったミカさんを見て一瞬鼻の下を伸ばした様に見えた漁師はサクラの姿を見て顔色が変わり、早々に立ち去って行った。

一応設定が日本の江戸時代がモチーフの設定だから、高価そうに見える着物を着たサクラが高位の侍に見えたのだろう。
咲耶が蜥蜴人間種リザードマンに駆け寄り回復魔法で傷を癒す。

「すみません助けて頂いて。でも悪いのは俺なんです、禁漁区域に入り人探しをしていて密漁と勘違いされて・・・。」

「誰を探しているかは分かりまんが、その土地のルールは守った方が良いですよ。」

蜥蜴人間種リザードマンは丁寧にお辞儀をして、その場を立ち去った。
何を探していたか分からないが怪我が治ったし平気だろう。

我々も密猟者と間違われない様にその場を離れた。

海で蜥蜴人間種リザードマンを助けると言う状況から浦島太郎の話を思い出す。
後に竜宮城とかに連れてってくれないかな。




-ホウシェンの街-

浜辺から整備された道を暫く進むと松林に囲まれた城下町が見えて来た。
日本の文化と中国の文化が融合した様な東洋の神秘的な国〖ホウシェン国〗。

木造瓦張りの長屋が立ち並ぶ街並みが広がる。
現実よりも家々が豪華な造りでゲームと同じ様な風景が広がっている。

入国制限は特に無く街の人々も犯罪者印どくろマークが付いた人も多く居る様に見える。
この街の入口に在る労働組合ギルドに立ち寄りカードを更新する。

「イベントの始まりってさ、どんな感じだったっけ?開始10分前にシステムコールで通達されるだけだった様な・・・背景とか語られてたっけ?」

「虚無だ。存在せん。」

元運営スタッフの暗黒神ハーデスハーちゃんがあっさり答える。
このイベントが実装された時は別のプロジェクトに参加していたらしい。

このイベントを制作していた時期にSMOスタッフ数は大幅縮小されたと語る。
その為、細かい作り込みが出来て無いと話していた。

この国とレイドイベントが実装されたと同時にこのゲームのサービス終了が運営によって告知された様だ。
返金処理が出来ないゲーム内課金の課金注意告知等が行われていたのは記憶に新しい。

アイテムガチャの新規追加アイテムは、以前実装された装備の色違いで名前が変更された物が並び、そして超超高性能な使い回しばかりになった。

その為、プレイヤー間で運営は最終集金モードになったと話題になっていた。

以前は激レアアイテムとしてドロップ率が低かったアイテムのドロップ率が大幅に緩和され、経験値増加アイテムも無料で大量に配られたりとゲーム内は混沌を極めていた。

「この世界でのイベント開始フラグを探す必要が有るってことですね。」

「手分けして百鬼夜行に関する情報を集めないといけないでござるな。」

「シノ~、百鬼夜行って何?」

「え~と、妖怪の大名行列的な感じ?」

ゲームでは妖怪的にデザインを変更されたモンスターが99匹出現し、100匹目にレイドボス「空亡そらなき」が出現し倒すとクリアとなる。

「取り敢えず、街を散策しながら今日の宿を探しましょうか。」

街は夕暮れの傾いた太陽でオレンジ色に染まり、夕焼けに照らされた街並みは何処かノスタルジックな気分になる。
子供達が燥ぎながら家路に帰り、民家からは夕食匂いが漂い始める。

現実の日本に近い環境のせいで懐かしい気持ちで心が満たされる。

多分皆もそう感じているんじゃないかな・・・
表情がどことなく優しい気がする。

様々な思いを胸に皆でホウシェンの街を練り歩くのだった。
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