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百鬼夜行編
148話 深淵を覗く大作戦
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-ホウシェン国 宿屋-
古い日本家屋風の旅館で宿泊手続きを行い、大型の部屋を2部屋借りる。
2階建てで中庭が有り、大きめの池には錦鯉が複数泳ぎ、大きな庭石と松が日本情緒溢れる風景を作り出していた。
そして何より嬉しいのが和室で畳張りの部屋だ。
真新しい畳独特のイグサの匂いが純和風の部屋を更に上質にしている感覚を受ける。
ビジネスホテルとかだと洗浄剤のキツイ所とか最悪だからな。
新しく出来上がったばかりの様な香りがする。
この畳に寝そべった感触は久々だ、凄く落ち着く。
思わず寝そべりゴロゴロと転がる。
「邪魔です。」
即座に咲耶殿に背中を蹴り飛ばされる。
先程部屋決めの際にシノブ殿とアルラトの部屋にDOS殿が護衛役として一緒に宿泊すると決まり、少し不機嫌な様子だ。
気持ちは分からんでも無いが拙者に八つ当たりしてくるのはムカツク。
まぁ温厚な拙者はその程度のダメージでは反撃なぞしない。
この大陸の気候は夏に近い。
遠くから蝉の鳴き声が響き何だか中学生の頃の夏休みを思い出す。
社会人になってから忙しい日々が続き、こうしてゆっくりと旅館に泊まる事など無かったからな。
こういうのも悪く無い。
・・・むしろ良い!
「さてと、シノブは露天風呂に入ると言っていましたから。我々は時間をずらして入りましょうか。」
「何!?それはラッキースケベチャンスでござる!」
思わず咲耶殿の話に乗る、こう言う話は馬が合う。
咲耶殿はキャラクターロールに合わせて口調を真面目な感じにしているが、素は馬鹿で短絡的な陽キャと言った感じだ。
まぁ、ある一定の話題に関しては話していて面白いと感じなくも無い。
女湯に行くとしても時間をずらさないとシノブ殿に確実に嫌われてしまう。
しかし・・・
そう偶然!
本当に偶然たまたま湯上りで露わな姿のシノブ殿と女湯の脱衣所で鉢合わせてしまうのは事故だ。
そう事故なら何ら問題無い。
「ふむ面白そうだな、偶然深淵を覗く事が有るからな。」
珍しくハーデスが話しに乗り気な姿勢だ。
「ハーデス御託は良いです、作戦を練りましょう。」
「駄目ですよ、3人共。そんなことしちゃ・・・いくら女の体とは言え。」
案の定真面目を絵に書いた様なミカエル殿が正論を並べて説教を始める。
本作戦に障害となる人物は2人、ミカエル殿とDOS殿だ。
ミカエル殿は真面目過ぎる。
女性を神格化しフェミニスト的な態度を取ろうとする節が有るが、実はむっつりスケベなんじゃないかと最近疑っている。
そして、その真面目さから女性と付き合った経験が無さそうな草食系男子だと想像出来る。
「はっはっは!ミカエル殿、咲耶の冗談でござるよ!」
「相変わらず貴様は真面目だな。」
「そ、そうか。それはすまない。」
しかしミカエル殿は戦闘面に関しては完璧に近い。
状態異常も効かない分3人掛かりで倒せるかどうかギリギリだ。
武力では分が悪い、まずは懐柔しなければならない。
彼も大義名分が有った場合仕方なく強力する事を選ぶはずだ。
しかしその理由を考えるには時間が無さすぎる。
適当に酔わすのが妥当な感じだろう。
「そうですよ。覗きなんて最低ですからね。」
「まったくでござる。」
問題はDOS殿だ。
彼はシノブ殿の師匠的人物で、今や保護者的ポジションに落ち着いているオッサンだ。
家庭を持っているからか懐と器は大きいが、弟子であり娘的ポジションのシノブ殿に対して過保護な所が有る。
戦闘スタイルは異なるが、ミカエル殿に匹敵する能力とプレイヤースキルを持っている。
そして洞察力と勘の鋭い彼を欺くのは至難の技だ。
恐らく露天風呂の入口で守護をしているに違いない。
彼の持つ光学迷彩マント【エレイス】が装備出来れば、拙者が【不可視化】能力を存分に発揮出来るのにと悔しさが込み上げる。
恐らく自室では無いので女湯に【粘着罠】や【麻痺罠】は仕掛けられていないはずだ。
一般客を巻き込む様な真似はシノブ殿はしない。
そこが狙い目でも有る。
「まずは酒盛りだ!な!咲耶。ミカエル殿も重い鎧を脱いで飲もうでは無いか!」
「いえ、私はお酒は苦手だから。」
拙者は多少棒読み加減になりながらも咲耶殿に向かって何度かウィンクをする。
拙者の作戦を察した咲耶殿は酒盛りでミカエル殿を酔わす作戦に賛同する。
ハーデス殿のアイテムストレージから機械都市ギュノス国のグラズヘイムで貰ったアルコール度数の高いお酒を取り出しミカエル殿にはストレートで注ぐ。
そして我々には咲耶殿と売上勝負で使ったと言う度数の低いお酒を注ぎ配る。
「ミカエル、我の注いだ命の水が飲めんと申すか?」
「い、いえ。そう言う訳では・・・。」
ハーデス殿が暗黒オーラを発しながら度数の高いお酒をなみなみと注いだコップを差し出す。
そして自分も一気に飲み干し、拙者と咲耶殿も一口で飲み干す。
濃い・・・美味しくはない。
これは濃い麦茶にアルコールっぽい風味のする妙な飲物だ。
・・・風呂上りにでもきちんとした上質な酒を飲もう。
「ほらほら、ミカエル。このお酒は果実の香りが強く口触りも良いので美味しいですよ。」
咲耶殿がミカエル殿に体を寄せて流し目でお酒を進める。
見た目はスーツを着た美人OLで声も女だ。
中身が男だと分かって無ければな・・・
結局ミカエル殿も一口飲んで「美味しい。」と驚く。
そして咲耶殿の進めるがままに、度数の高いお酒をお酌され次々と飲んで行く。
ハーデス殿も煽る様に「流石だな、結構強いでは無いか!」とミカエル殿を上げる発言をする。
術中に嵌ったミカエル殿は次々と杯を重ねて行った。
そして酒盛りが始まり、約20分が経過する頃にはミカエル殿は酔い潰れて完全に「混乱」「睡眠」の状態異常に掛かっていた。
状態異常無効化能力の【アイギスの鎧】を脱がせた効果は抜群だ。
彼は畳に横になり、そのまま寝息を立てて寝てしまった。
拙者達は互いに顔を見合わせニヤリとほくそ笑む。
「さて、下準備は整ったでござるな。」
「おう!次はDOSですね。」
「奴は勘が鋭い。シノブが露天風呂に入るなら女湯の入口で不可視化状態で待機して我々が女湯に侵入するのを阻むだろう。」
ハーデス殿の言っている事は正解だろう。
シノブ殿とアルラトが入浴中は女湯の入口で待機しているはずだ。
上手く彼を女湯入口から遠ざけて内部に侵入しなければならない。
3人で頭を捻る。
入浴時間は長くて1時間程度だろう。
もう入浴を始めているとしたら余り時間は無い。
「・・・・こう言う作戦は如何でしょうか。」
咲耶殿の作戦はこうだ。
咲耶殿の魔法でミカエル殿の睡眠を解除し、幻惑魔法をかけてDOS殿に嗾ける。
その隙に女湯に潜入すると言う作戦だ。
酔っているとは言え混乱幻惑状態のミカエル殿を抑えるのはDOS殿1人では苦戦は必至のはず。
装備を外したミカエル殿に【アグネイヤ】や【課金弾丸】と言った強力な武器も使う事は無いはずだ。
「よし、このまま女湯の近くまで運ぶぞ。サクラは運ぶ役だ、咲耶は従業員に見つからない様に周囲の警戒。もしもの時は睡眠魔法で眠らせればいい。」
「了解でござる。」
「行きましょう。」
拙者達は行き当たりばったりの作戦を実行し始める。
ダラダラと作戦会議をしている時間は無い!
・・・ここは実行有るのみだ。
廊下の角で止まりそっと覗き込む。
異常無し。
運良く従業員には出くわしていない。
シノブ殿の様に【索敵】が使えればもっ楽に庫王道が出来るのだが。
まさにステルスゲームをしている様な感覚だ。
喋る事無く目線と手の合図だけで互いを誘導し女湯付近の曲がり角を目指す。
身を隠しながらゆっくりと進み女湯付近の曲がり角に到着する。
「さぁ、作戦決行でござる!」
「行きましょう!」
「よかろう。深淵を覗くSランクミッションだ。貴様等も抜かるなよ。」
拙者達は気合を入れる様に片手を差し出し強く握り絞めた互いの拳を重ねる。
これより命を懸けた女湯潜入作戦の決行だ。
古い日本家屋風の旅館で宿泊手続きを行い、大型の部屋を2部屋借りる。
2階建てで中庭が有り、大きめの池には錦鯉が複数泳ぎ、大きな庭石と松が日本情緒溢れる風景を作り出していた。
そして何より嬉しいのが和室で畳張りの部屋だ。
真新しい畳独特のイグサの匂いが純和風の部屋を更に上質にしている感覚を受ける。
ビジネスホテルとかだと洗浄剤のキツイ所とか最悪だからな。
新しく出来上がったばかりの様な香りがする。
この畳に寝そべった感触は久々だ、凄く落ち着く。
思わず寝そべりゴロゴロと転がる。
「邪魔です。」
即座に咲耶殿に背中を蹴り飛ばされる。
先程部屋決めの際にシノブ殿とアルラトの部屋にDOS殿が護衛役として一緒に宿泊すると決まり、少し不機嫌な様子だ。
気持ちは分からんでも無いが拙者に八つ当たりしてくるのはムカツク。
まぁ温厚な拙者はその程度のダメージでは反撃なぞしない。
この大陸の気候は夏に近い。
遠くから蝉の鳴き声が響き何だか中学生の頃の夏休みを思い出す。
社会人になってから忙しい日々が続き、こうしてゆっくりと旅館に泊まる事など無かったからな。
こういうのも悪く無い。
・・・むしろ良い!
「さてと、シノブは露天風呂に入ると言っていましたから。我々は時間をずらして入りましょうか。」
「何!?それはラッキースケベチャンスでござる!」
思わず咲耶殿の話に乗る、こう言う話は馬が合う。
咲耶殿はキャラクターロールに合わせて口調を真面目な感じにしているが、素は馬鹿で短絡的な陽キャと言った感じだ。
まぁ、ある一定の話題に関しては話していて面白いと感じなくも無い。
女湯に行くとしても時間をずらさないとシノブ殿に確実に嫌われてしまう。
しかし・・・
そう偶然!
本当に偶然たまたま湯上りで露わな姿のシノブ殿と女湯の脱衣所で鉢合わせてしまうのは事故だ。
そう事故なら何ら問題無い。
「ふむ面白そうだな、偶然深淵を覗く事が有るからな。」
珍しくハーデスが話しに乗り気な姿勢だ。
「ハーデス御託は良いです、作戦を練りましょう。」
「駄目ですよ、3人共。そんなことしちゃ・・・いくら女の体とは言え。」
案の定真面目を絵に書いた様なミカエル殿が正論を並べて説教を始める。
本作戦に障害となる人物は2人、ミカエル殿とDOS殿だ。
ミカエル殿は真面目過ぎる。
女性を神格化しフェミニスト的な態度を取ろうとする節が有るが、実はむっつりスケベなんじゃないかと最近疑っている。
そして、その真面目さから女性と付き合った経験が無さそうな草食系男子だと想像出来る。
「はっはっは!ミカエル殿、咲耶の冗談でござるよ!」
「相変わらず貴様は真面目だな。」
「そ、そうか。それはすまない。」
しかしミカエル殿は戦闘面に関しては完璧に近い。
状態異常も効かない分3人掛かりで倒せるかどうかギリギリだ。
武力では分が悪い、まずは懐柔しなければならない。
彼も大義名分が有った場合仕方なく強力する事を選ぶはずだ。
しかしその理由を考えるには時間が無さすぎる。
適当に酔わすのが妥当な感じだろう。
「そうですよ。覗きなんて最低ですからね。」
「まったくでござる。」
問題はDOS殿だ。
彼はシノブ殿の師匠的人物で、今や保護者的ポジションに落ち着いているオッサンだ。
家庭を持っているからか懐と器は大きいが、弟子であり娘的ポジションのシノブ殿に対して過保護な所が有る。
戦闘スタイルは異なるが、ミカエル殿に匹敵する能力とプレイヤースキルを持っている。
そして洞察力と勘の鋭い彼を欺くのは至難の技だ。
恐らく露天風呂の入口で守護をしているに違いない。
彼の持つ光学迷彩マント【エレイス】が装備出来れば、拙者が【不可視化】能力を存分に発揮出来るのにと悔しさが込み上げる。
恐らく自室では無いので女湯に【粘着罠】や【麻痺罠】は仕掛けられていないはずだ。
一般客を巻き込む様な真似はシノブ殿はしない。
そこが狙い目でも有る。
「まずは酒盛りだ!な!咲耶。ミカエル殿も重い鎧を脱いで飲もうでは無いか!」
「いえ、私はお酒は苦手だから。」
拙者は多少棒読み加減になりながらも咲耶殿に向かって何度かウィンクをする。
拙者の作戦を察した咲耶殿は酒盛りでミカエル殿を酔わす作戦に賛同する。
ハーデス殿のアイテムストレージから機械都市ギュノス国のグラズヘイムで貰ったアルコール度数の高いお酒を取り出しミカエル殿にはストレートで注ぐ。
そして我々には咲耶殿と売上勝負で使ったと言う度数の低いお酒を注ぎ配る。
「ミカエル、我の注いだ命の水が飲めんと申すか?」
「い、いえ。そう言う訳では・・・。」
ハーデス殿が暗黒オーラを発しながら度数の高いお酒をなみなみと注いだコップを差し出す。
そして自分も一気に飲み干し、拙者と咲耶殿も一口で飲み干す。
濃い・・・美味しくはない。
これは濃い麦茶にアルコールっぽい風味のする妙な飲物だ。
・・・風呂上りにでもきちんとした上質な酒を飲もう。
「ほらほら、ミカエル。このお酒は果実の香りが強く口触りも良いので美味しいですよ。」
咲耶殿がミカエル殿に体を寄せて流し目でお酒を進める。
見た目はスーツを着た美人OLで声も女だ。
中身が男だと分かって無ければな・・・
結局ミカエル殿も一口飲んで「美味しい。」と驚く。
そして咲耶殿の進めるがままに、度数の高いお酒をお酌され次々と飲んで行く。
ハーデス殿も煽る様に「流石だな、結構強いでは無いか!」とミカエル殿を上げる発言をする。
術中に嵌ったミカエル殿は次々と杯を重ねて行った。
そして酒盛りが始まり、約20分が経過する頃にはミカエル殿は酔い潰れて完全に「混乱」「睡眠」の状態異常に掛かっていた。
状態異常無効化能力の【アイギスの鎧】を脱がせた効果は抜群だ。
彼は畳に横になり、そのまま寝息を立てて寝てしまった。
拙者達は互いに顔を見合わせニヤリとほくそ笑む。
「さて、下準備は整ったでござるな。」
「おう!次はDOSですね。」
「奴は勘が鋭い。シノブが露天風呂に入るなら女湯の入口で不可視化状態で待機して我々が女湯に侵入するのを阻むだろう。」
ハーデス殿の言っている事は正解だろう。
シノブ殿とアルラトが入浴中は女湯の入口で待機しているはずだ。
上手く彼を女湯入口から遠ざけて内部に侵入しなければならない。
3人で頭を捻る。
入浴時間は長くて1時間程度だろう。
もう入浴を始めているとしたら余り時間は無い。
「・・・・こう言う作戦は如何でしょうか。」
咲耶殿の作戦はこうだ。
咲耶殿の魔法でミカエル殿の睡眠を解除し、幻惑魔法をかけてDOS殿に嗾ける。
その隙に女湯に潜入すると言う作戦だ。
酔っているとは言え混乱幻惑状態のミカエル殿を抑えるのはDOS殿1人では苦戦は必至のはず。
装備を外したミカエル殿に【アグネイヤ】や【課金弾丸】と言った強力な武器も使う事は無いはずだ。
「よし、このまま女湯の近くまで運ぶぞ。サクラは運ぶ役だ、咲耶は従業員に見つからない様に周囲の警戒。もしもの時は睡眠魔法で眠らせればいい。」
「了解でござる。」
「行きましょう。」
拙者達は行き当たりばったりの作戦を実行し始める。
ダラダラと作戦会議をしている時間は無い!
・・・ここは実行有るのみだ。
廊下の角で止まりそっと覗き込む。
異常無し。
運良く従業員には出くわしていない。
シノブ殿の様に【索敵】が使えればもっ楽に庫王道が出来るのだが。
まさにステルスゲームをしている様な感覚だ。
喋る事無く目線と手の合図だけで互いを誘導し女湯付近の曲がり角を目指す。
身を隠しながらゆっくりと進み女湯付近の曲がり角に到着する。
「さぁ、作戦決行でござる!」
「行きましょう!」
「よかろう。深淵を覗くSランクミッションだ。貴様等も抜かるなよ。」
拙者達は気合を入れる様に片手を差し出し強く握り絞めた互いの拳を重ねる。
これより命を懸けた女湯潜入作戦の決行だ。
応援ありがとうございます!
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