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異世界崩壊編 後編

206話 絶望

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不意に目が覚める。
赤い空が少し薄くなっている様な気がする。

日差しが眩しくて手で遮ろうとするが腕が上がらない。

私はどうなったんだっけ?

思考が上手く働かない・・・
ゲーム的に言えばHP残数が残り少ないんだと思う。

何か強い衝撃を受けた様で体が動かない。

私はそのまま目を閉じる。
自分の心臓の音が聞こえる。

規則的な音が心地良い。
意識が少しずつ戻って来る様な気がする。

しかし意識が戻るにつれて、同時に痛覚も蘇る。
・・・体の至る所がズキズキと痛み始める。

『・・・の・・・・・お・・・・・』

遠くの方で何かを喋っている声が聞こえる。

『・・・ノブ・・・・・・・きて!』

ゆっくりと目を開く。

『・・・シノブ!シノブ!起きて!』

どこかで聞いた事の有る幼い声。

アルラト?

似ているけど違う・・・・
アルラトは死んだ。

私の手の中で光の粒になって消えた。

じゃ誰の声?
赤い空に黒い霧の様な物で霞む。

濃い霧は周囲を黒く染めていく、それはまるでしばらく見ていない夜空の様だ。

『お・き・ろ!』

耳のすぐそばで叫ばれてビクッとして上半身が起きた。

動ける。
私は自分の体を改めて確認する。

皮膚は焼け痛みを感じる、全身の装備はボロボロで体の節々が痛い。
何でこんな・・・ゆっくりと記憶の糸を辿り思い出した。

古代神カノプスの放った回避不可能な聖属性魔法を喰らって意識を失ったんだ。
神衣カムイカヴァーチャ】が私を守ってくれたのか。

手元には【破壊刀イレース】が落ちていた。
先程の黒い霧と起こそうとしていたのはレイだったのか?

私は刀を鞘に納め膝を抑えながらヨロヨロと立ち上がった。
アイテムストレージから上位回復薬【ハイポーション】を取り出し使用して外傷を癒す。

少しだけ楽になったが、まだ全身が痛む。

周囲を確認すると、すぐ近くにサクラが倒れており近付いて調べるとどうやら息をしている様でホッとした。

サクラも全身ボロボロで装備が自身の血液で染まっていた。

サクラにも上位回復薬【ハイポーション】を使用するが、未だ意識は戻ら無さそうだったのでサクラを担いで窪地から這い上がり周囲を見渡し絶望する。

それは例え様が無い光景だった。
歴史の授業で見た終戦後の日本の更地となった荒野の写真と同じ様な光景が眼前に広がっていた。

巨大な城門も街並みも城も全てが瓦礫に変わり、まるで別世界に飛ばされた様な感覚さえ覚える。

私の覚えている記憶は、聖属性魔法が有り得ない範囲で発動し街全体を光が包んでいた。

多分街の人々も含め全ての生物が爆発し、その魔力衝撃により街が破壊されたんだろう。

その後シャル、セーニア、クリス君の3人を発見した。
大怪我を追っていたが全員生きていた。

未強化とは言え、皆のアイテムストレージに眠っていた能力の高いレア装備が3人を守ったのだろう。

少し離れた所で暗黒神ハーデスハーちゃんと彼を守る様に倒れる咲耶を発見した。
2人に在庫が有るだけの上位回復薬【ハイポーション】を使用する。

「シノブ・・・ありがとうございます。」

「不覚だ。カノプスはどうなった?」

「分からない。気が付いたら、もう・・・・それよりも回復を手伝って!私はミカさんとDOSどっちゃんと生存している人達を探して来るから!」

回復効果の特殊技能スキルが付いている暗黒神ハーデスハーちゃんの主力武器【カドゥケウス】と咲耶の回復魔法で怪我人の回復をして貰い、私はミカさん達の配置されていた城門の付近を捜索しに行った。

城門付近で下半身を失ったDOSどっちゃんを発見し咲耶の元へ運んだ。
機械種アンドロイドでも回復魔法で復元するのだから凄い万能感を感じる。

私は改めてミカさんの捜索を開始し、街の有った場所の中央付近で両腕を失って死亡しているミカさんを発見した。

私は焦りつつアイテムストレージから最後の即時復活薬【アナスタシン】を使用した。

彼の両腕は再生し心臓の鼓動が戻る。
灰色だった身体は見る見る色付き蘇生を完了しミカさんが息を吹き返す。

「ああ・・・シノブ。私は・・・」

ミカさんは目を覚まし起き上がり、急に涙を流し始めた。
ゲームでもこの世界でも強くて頼り甲斐が有り、常に皆を纏めて毅然とした態度のリーダーが目の前で泣き始めた。

どうして良いか分からずにオロオロとしてしまう。

私は駄目だ・・・・
掛ける言葉を見つける事が出来ずに背中を擦る事しか出来なかった。




一頻り泣いたミカさんは少しずつ話し始めた。

電撃属性魔法以外の耐性の高いDOSどっちゃんと聖属性耐性の有るミカさんは私達とは違い、古代神カノプスの攻撃魔法をHP3分の1程度のダメージで攻撃を耐えたらしい。

しかし彼らはその耐性の高い代償として目の前で冒険者、聖騎士団、魔法師団、街の住人達が爆発し弾け飛んだ瞬間を目撃したそうだ。
何千人単位の爆発の威力は凄まじく一瞬で街を破壊した。

そして2人は怒りと絶望を感じながらも第2形態の古代神カノプスに挑んだ。
古代神カノプスから放たれる圧倒的な攻撃力の斬撃を前に惨敗した。

DOSどっちゃんは斬撃をギリギリの所で回避したが、腰を両断されて動けなくなった。
そして下半身を失った瀕死の状態で気絶したと話していた。

「深紅の薔薇」の中でも最強の防御力を持つミカさんが手も足も出ないまま殺し、状態異常無効化の【アイギスの鎧】を無視して精神的絶望を負わせたのだ。

壊れない武器を破壊する能力や状態異常無効化を貫通する。
・・・もはや何でも有だ。

私はミカさんを支え皆の所に1度戻り、再度街の有った場所に生存者の捜索に出向いた。
街の惨状はミカさんの話通り見るに堪えない状態だった。

骨まで全て消滅し死体すらも残っていない。
ただそこには街の形を失った瓦礫だけが残っているだけだった。

半日以上捜索したが生存者は誰一人見つける事は出来なかった。
「深紅の薔薇」のメンバー以外は全て一瞬で消滅した様だ。

しかし古代神カノプスは何処に姿を消したのだろうか?
・・・ハイメス国か、それともギュノス国か。

暮れる事の無い赤い空の下で、私は自分の無力さから立ち尽くすしか出来なかった。
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