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ラグナロク編
225話 最終戦闘開始
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-アビスダンジョン 最下層-
「ふざけるな!シノブは渡さない!」
ミカさん達全員が武器を構え私の前に出て破壊神ヨグトスの前に立ちはだかる。
破壊神ヨグトスは差し向けた腕を下ろし冷めた眼差しで皆を見つめる。
「待って。」
私は守ってくれている皆を制して前に出る。
「待って下さい。私はまだ聞きたい事が有ります。」
『何でしょうか?』
私は心臓の鼓動が高まり一気に緊張する。
不意に小学生の時の記憶が蘇る。
学芸会の劇で自分の台詞番が回って来たかの様な感覚を思い出す。
ゴクリと唾を飲み込み、大きく深呼吸をする。
「この世界を残す事は出来ないの?アナタの次元上昇に協力した上で、この世界を維持したまま私達が現実世界に戻る事は出来ないんですか?」
失われた命は戻らないが現状で可能な平和的な解決方法を提案してみる。
『・・・・ミカエル=アルファ、DOS、SAKURA、伊集院咲耶の4名を帰還させる事は可能です。クリス、デイア、セーニア、シャルはフルフェイス型インターフェイスデバイスから肉体が離れている為、帰還は無理ですね。後、この世界は私とシノブどちらが欠けても維持は不可能です。』
皆を現実世界に帰還させる事は可能。
クリス君達NPCは帰還出来ない。
そして仮に破壊神ヨグトスを倒したとしてもこの世界は消滅する。
シャル達の事を思うと心が少し痛む。
私にとっては彼女達もかけがえない仲間だ。
「僕らは、このまま滅びるしかないと言う訳ですか?」
『確定事項です。NPCはこの世界と共に消滅します。選択肢は幾つか有ります、「私を倒し生存しているプレイヤーは帰還し、NPCと死者はこの世界と共に消滅する」もしくは「帰還可能な人物を無事帰還させ、私とシノブは上位次元へと旅立つ」。私は後者をお勧めします。』
「ふっ、ならば私は戦うぞ!」
「ああ、私もだ。せめてキサマを倒す。」
祖国を滅ぼされたクリス君とデイアとセーニアは捨て身の覚悟で完全に戦闘態勢に入る。
シャルは私の出方を伺いながら迷っている様だ。
「私達もシノブを渡す訳にはいきません。」
「・・・・・」
「当然でござる!」
「アナタを倒して、全員で帰還します。」
デイア達の決意に合わせる様に皆が改めて武器を構える。
皆は元より破壊神ヨグトスを倒しに来た。
・・・説得など通じないと考えていたからだ。
「・・・シノブが元の世界に戻れるなら、私も戦う!」
シャルも力強く鍵爪を鳴らし戦う姿勢を取る。
私は何故か破壊神ヨグトスの感情や考えが分かる。
彼女の中には次元上昇する以外の選択肢は存在しない。
そして全員が帰還出来て、この世界を平和に維持するなんて希望を叶える気は毛頭無い。
『挑むのであれば受けましょう。その方がシノブが新たな揺らぎを生むかも知れませんからね。』
このまま戦うしか方法は無いのか?
いや、1つだけ方法が有る。
私なら破壊神ヨグトスを倒すよりも安全に同じ状況を造る事が出来る。
私は目を瞑り素早く小太刀【五月雨】を抜き、暗殺特殊技能を発動し自らの胸を勢い良く貫こうと振りかざした。
刃先が直前で止まる。
目の前には小太刀の刃を直に握る血だらけの2本の手が見えた。
恐る恐る顔を上げると、私の姿の破壊神ヨグトスが両手で私の自死を遮っていた。
そして彼女の腹部にはミカさんとサクラとクリス君の剣が深々と突き刺さり大量の赤い血液が滴っていた。
『私を倒すより自身の精神の死を選ぶとは、少し驚きました。・・・無駄ですけどね。この世界の貴女の器は私が死なない様に設定していますのでね。』
私は彼女の言葉に少しだけ矛盾を感じる。
それは彼女がダメージを負ってまで両手で私の小太刀を止めたからだ。
死なないと分かっているなら止めなくても問題無いはず。
・・・一体何故?
腹部を貫かれた彼女は血液を垂らしながらも顔色一つ変える事無く腕に力を入れる、すると私の持っていた【五月雨】が目の前で砕け散り粉々になる。
耐久値無限に強化した愛刀【五月雨】が簡単に砕け散った。
幾度となく見たシステム外の特殊技能だ。
破壊神ヨグトスの腹部を貫いていたミカさん達の剣が左右幾方向に振り切られ、私そっくりの破壊神ヨグトスは上半身と下半身に分かれて宇宙空間の様な地面に崩れる。
見えない地面に溶け込む様に破壊神ヨグトスの反応と気配が消失する。
その瞬間に後方から腕を引かれてよろけそうになる。
「何を考えてるんだ!?自殺する気だったのか!!」
DOSが私の肩を掴み、大声で怒鳴りつける。
機械種の彼に表情無い。
けれど、今までに感じた事の無い位怒っているのは言葉の強さで伝わって来る。
「でも、私が死ねばヨグトスは何も出来なくなるはず!この世界が消滅したとしても、皆が傷付く事は無いでしょう!?」
感情と勢いに任せて大声で叫ぶ。
別に死にたかった訳じゃ無い。
安直かも知れないが誰も傷付かない方法を取ろうとしただけだ。
「私も皆もそれを望んではいない。仮に皆が無事に帰還したとしても、シノブが死んだら意味が無いんだ!」
後ろからペシリと頭を頭を叩かれる。
振り向くとそっぽを向いたサクラがいた。
彼は何を言う事も無くそっぽを向いて顔を見せようとはしなかった。
ミカさんがDOSの肩に手を置き、私に話しかける。
「シノブ、私達を守ろうとしてくれたのですね。貴女の気持ちは嬉しいし大切にして欲しい。でもね・・・自死と言う方法で私達は助かったとしても、多分一生貴女を救えなかった事を後悔し続けるでしょう。」
ミカさんが優しく諭す様に話し掛ける。
「そうですよ、シノブは私が守りますから。それにシノブは死ねない設定になってるって言ってたじゃないですか。・・・しかし、破壊神自らの手で止めていたと言う事は自死は別なのでしょうか?」
咲耶が全員に能力向上魔法を掛けながら私の頭をポンポンと柔らかく叩く。
皆の困った様な優しげな表情と言葉に、思わず涙が込み上げて来る。
「咲耶!!私がシノブを1番守りますからね!」
「私も同じ気持ちです。この世界は消えますが、最後までこの剣で貴女を守る事をお許し下さい。」
「私は皆よりも強くは無いが、仲間としてこの拳を振るわせてくれ。」
「我が国の為に命を賭して戦ってくれたのだ、私も最後まで戦おう!」
おこがましいかも知れないが、私が皆を思っている以上に皆は私を大切に思ってくれているのが伝わる。
心が温かい。
今まで生きてきた中で初めて感じた感覚だ。
私はその感覚をかみ締める様に目を閉じると自然と涙が頬を伝った。
「ありがとう。皆、勝手な事をしてごめんなさい。」
私は涙を拭い、立ち上がる。
その時フロア全体に破壊神ヨグトスの声が響いた。
『フフフフフ・・・初めての感じる波長ですね、新しい発見をした気分です。シノブは喜怒哀楽が希薄な所が有りましたからね。』
周囲に気配は無く【索敵】に反応も無い。
このフロアの周囲を囲む星々が流れる様に後方に動いて消えて行く。
まるで透明の部屋で宇宙空間を飛行している様な光景だ。
そこに破壊神ヨグトスの声だけが木霊する。
『仲間・・・貴女の心が1番揺れるのは、仲間と言葉を交わし触れ合った時なのですね。』
前方に黒い影が現れ人の形を形成する。
その姿は【黒猫スーツ】を着た私の姿だった。
こうして客観的に見ると少し恥ずかしい恰好だな。
【索敵】に敵勢反応として赤いマーカーが発生する。
「良い!」
「ああ、良い!」
サクラと咲耶が腕組みをしながら頷き合って居る。
なんか、さっきまでの感動を返せと言いたい。
男の声で話しているので、仕草も相まって完全なオッサンだ。
いや、開き直ったネカマと言うべきか?
「そこの2人!気を抜くな、来るぞ!」
DOSの叫び声と共に、私達は戦闘陣形を整えた。
「ふざけるな!シノブは渡さない!」
ミカさん達全員が武器を構え私の前に出て破壊神ヨグトスの前に立ちはだかる。
破壊神ヨグトスは差し向けた腕を下ろし冷めた眼差しで皆を見つめる。
「待って。」
私は守ってくれている皆を制して前に出る。
「待って下さい。私はまだ聞きたい事が有ります。」
『何でしょうか?』
私は心臓の鼓動が高まり一気に緊張する。
不意に小学生の時の記憶が蘇る。
学芸会の劇で自分の台詞番が回って来たかの様な感覚を思い出す。
ゴクリと唾を飲み込み、大きく深呼吸をする。
「この世界を残す事は出来ないの?アナタの次元上昇に協力した上で、この世界を維持したまま私達が現実世界に戻る事は出来ないんですか?」
失われた命は戻らないが現状で可能な平和的な解決方法を提案してみる。
『・・・・ミカエル=アルファ、DOS、SAKURA、伊集院咲耶の4名を帰還させる事は可能です。クリス、デイア、セーニア、シャルはフルフェイス型インターフェイスデバイスから肉体が離れている為、帰還は無理ですね。後、この世界は私とシノブどちらが欠けても維持は不可能です。』
皆を現実世界に帰還させる事は可能。
クリス君達NPCは帰還出来ない。
そして仮に破壊神ヨグトスを倒したとしてもこの世界は消滅する。
シャル達の事を思うと心が少し痛む。
私にとっては彼女達もかけがえない仲間だ。
「僕らは、このまま滅びるしかないと言う訳ですか?」
『確定事項です。NPCはこの世界と共に消滅します。選択肢は幾つか有ります、「私を倒し生存しているプレイヤーは帰還し、NPCと死者はこの世界と共に消滅する」もしくは「帰還可能な人物を無事帰還させ、私とシノブは上位次元へと旅立つ」。私は後者をお勧めします。』
「ふっ、ならば私は戦うぞ!」
「ああ、私もだ。せめてキサマを倒す。」
祖国を滅ぼされたクリス君とデイアとセーニアは捨て身の覚悟で完全に戦闘態勢に入る。
シャルは私の出方を伺いながら迷っている様だ。
「私達もシノブを渡す訳にはいきません。」
「・・・・・」
「当然でござる!」
「アナタを倒して、全員で帰還します。」
デイア達の決意に合わせる様に皆が改めて武器を構える。
皆は元より破壊神ヨグトスを倒しに来た。
・・・説得など通じないと考えていたからだ。
「・・・シノブが元の世界に戻れるなら、私も戦う!」
シャルも力強く鍵爪を鳴らし戦う姿勢を取る。
私は何故か破壊神ヨグトスの感情や考えが分かる。
彼女の中には次元上昇する以外の選択肢は存在しない。
そして全員が帰還出来て、この世界を平和に維持するなんて希望を叶える気は毛頭無い。
『挑むのであれば受けましょう。その方がシノブが新たな揺らぎを生むかも知れませんからね。』
このまま戦うしか方法は無いのか?
いや、1つだけ方法が有る。
私なら破壊神ヨグトスを倒すよりも安全に同じ状況を造る事が出来る。
私は目を瞑り素早く小太刀【五月雨】を抜き、暗殺特殊技能を発動し自らの胸を勢い良く貫こうと振りかざした。
刃先が直前で止まる。
目の前には小太刀の刃を直に握る血だらけの2本の手が見えた。
恐る恐る顔を上げると、私の姿の破壊神ヨグトスが両手で私の自死を遮っていた。
そして彼女の腹部にはミカさんとサクラとクリス君の剣が深々と突き刺さり大量の赤い血液が滴っていた。
『私を倒すより自身の精神の死を選ぶとは、少し驚きました。・・・無駄ですけどね。この世界の貴女の器は私が死なない様に設定していますのでね。』
私は彼女の言葉に少しだけ矛盾を感じる。
それは彼女がダメージを負ってまで両手で私の小太刀を止めたからだ。
死なないと分かっているなら止めなくても問題無いはず。
・・・一体何故?
腹部を貫かれた彼女は血液を垂らしながらも顔色一つ変える事無く腕に力を入れる、すると私の持っていた【五月雨】が目の前で砕け散り粉々になる。
耐久値無限に強化した愛刀【五月雨】が簡単に砕け散った。
幾度となく見たシステム外の特殊技能だ。
破壊神ヨグトスの腹部を貫いていたミカさん達の剣が左右幾方向に振り切られ、私そっくりの破壊神ヨグトスは上半身と下半身に分かれて宇宙空間の様な地面に崩れる。
見えない地面に溶け込む様に破壊神ヨグトスの反応と気配が消失する。
その瞬間に後方から腕を引かれてよろけそうになる。
「何を考えてるんだ!?自殺する気だったのか!!」
DOSが私の肩を掴み、大声で怒鳴りつける。
機械種の彼に表情無い。
けれど、今までに感じた事の無い位怒っているのは言葉の強さで伝わって来る。
「でも、私が死ねばヨグトスは何も出来なくなるはず!この世界が消滅したとしても、皆が傷付く事は無いでしょう!?」
感情と勢いに任せて大声で叫ぶ。
別に死にたかった訳じゃ無い。
安直かも知れないが誰も傷付かない方法を取ろうとしただけだ。
「私も皆もそれを望んではいない。仮に皆が無事に帰還したとしても、シノブが死んだら意味が無いんだ!」
後ろからペシリと頭を頭を叩かれる。
振り向くとそっぽを向いたサクラがいた。
彼は何を言う事も無くそっぽを向いて顔を見せようとはしなかった。
ミカさんがDOSの肩に手を置き、私に話しかける。
「シノブ、私達を守ろうとしてくれたのですね。貴女の気持ちは嬉しいし大切にして欲しい。でもね・・・自死と言う方法で私達は助かったとしても、多分一生貴女を救えなかった事を後悔し続けるでしょう。」
ミカさんが優しく諭す様に話し掛ける。
「そうですよ、シノブは私が守りますから。それにシノブは死ねない設定になってるって言ってたじゃないですか。・・・しかし、破壊神自らの手で止めていたと言う事は自死は別なのでしょうか?」
咲耶が全員に能力向上魔法を掛けながら私の頭をポンポンと柔らかく叩く。
皆の困った様な優しげな表情と言葉に、思わず涙が込み上げて来る。
「咲耶!!私がシノブを1番守りますからね!」
「私も同じ気持ちです。この世界は消えますが、最後までこの剣で貴女を守る事をお許し下さい。」
「私は皆よりも強くは無いが、仲間としてこの拳を振るわせてくれ。」
「我が国の為に命を賭して戦ってくれたのだ、私も最後まで戦おう!」
おこがましいかも知れないが、私が皆を思っている以上に皆は私を大切に思ってくれているのが伝わる。
心が温かい。
今まで生きてきた中で初めて感じた感覚だ。
私はその感覚をかみ締める様に目を閉じると自然と涙が頬を伝った。
「ありがとう。皆、勝手な事をしてごめんなさい。」
私は涙を拭い、立ち上がる。
その時フロア全体に破壊神ヨグトスの声が響いた。
『フフフフフ・・・初めての感じる波長ですね、新しい発見をした気分です。シノブは喜怒哀楽が希薄な所が有りましたからね。』
周囲に気配は無く【索敵】に反応も無い。
このフロアの周囲を囲む星々が流れる様に後方に動いて消えて行く。
まるで透明の部屋で宇宙空間を飛行している様な光景だ。
そこに破壊神ヨグトスの声だけが木霊する。
『仲間・・・貴女の心が1番揺れるのは、仲間と言葉を交わし触れ合った時なのですね。』
前方に黒い影が現れ人の形を形成する。
その姿は【黒猫スーツ】を着た私の姿だった。
こうして客観的に見ると少し恥ずかしい恰好だな。
【索敵】に敵勢反応として赤いマーカーが発生する。
「良い!」
「ああ、良い!」
サクラと咲耶が腕組みをしながら頷き合って居る。
なんか、さっきまでの感動を返せと言いたい。
男の声で話しているので、仕草も相まって完全なオッサンだ。
いや、開き直ったネカマと言うべきか?
「そこの2人!気を抜くな、来るぞ!」
DOSの叫び声と共に、私達は戦闘陣形を整えた。
応援ありがとうございます!
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