特に呼ばれた記憶は無いが、異世界に来てサーセン。

黄玉八重

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第16章 -勇者 VS 魔王-

†第16章† -29話-[広域結界魔道具作製依頼②]

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「これっ……本物っ!?」
 インベントリから取り出した無属性の竜の魔石をボッタルガに渡したところ慌てふためき始めた。
 竜が巣を構えるには必ず、自然魔力マギウスヴィスルの噴出孔が存在する。
 竜はその奔流を糧とし、体内で魔石を結晶化させる。そして飽和した力を吐き出す時、残滓として放たれる結晶——それこそが無属性の竜魔石であった。簡単に言えば、う〇こである。
 竜の巣にはそこかしこに排泄物として放置された無属性魔石が転がっており、これが長い年月を掛けて竜が放つ属性魔力に染まっていく。
 青竜フリューアネイシアの巣であれば水氷属性の竜魔石になるわけだ。

 そのう〇こを興味深く熱心にべたべた触り観察するボッタルガに話を進める為声を掛ける。
「いくら調べても本物だから……、いいかげん話を進めてもいいか?」
「<万彩カリスティア>!これはそんなぞんざいに扱っていい代物じゃないんだぞっ!これ一つでどれだけの魔道具を大型化出来ることかっ!全く持って夢が広がるってもんさっ!」
 人の頭より大きな竜魔石を手に大興奮のボッタルガは、キラキラした瞳で宗八そうはちに語る。
 しかし、宗八にとっては、ただ竜に許可を得て拾い集めただけの石。だが、研究者にとっては無限の夢を孕む至宝。その価値観の隔たりこそが、彼にとって最も面倒であった。

「これはどこのドレイクの巣で確保したんだい?」
「ドレイク?」
 ボッタルガとしては当然の事を聞いたつもりだった。
 現存の竜種と言えばドレイクという魔物を指す事が一般的だ。空を飛ぶワイバーンという選択肢もあるが、巣の位置が高地の危険域となればアクセスがしやすいドレイクの巣から盗んで来たと考えるのが普通であった。
 しかし、質問された宗八そうはちの表情に浮かぶのは困惑。———なら、どこから?

「ドレイクの巣じゃないの? なら、ワイバーン?」
「いやいや、目の前に居るじゃん。竜」
 いつも通りの宗八そうはちが軽い扱いで肩に登っていた子竜を抱き上げ見せつける。
 ボッタルガはその言葉に従い、じっくりと子竜を眺め観察した。
 ドレイクならば四足歩行をなのだが身体の構造が違い、子竜は二足歩行が可能である。
 ワイバーンならば腕が翼となっているのだが、翼はその背に生えている。まぁ飛べるようには見えない小ささだが……。
「竜……の特徴はあるけど、僕の知る竜種とは異なるなぁ。新種?」
 どちらかといえば古竜の部類だろう。
「こいつは青竜ブルー・ドラゴンフリューアネイシア。由緒正しい氷竜の親玉だ」
 氷竜って知ってるかな?
 フリューアネイシアで表情の見えなくなったボッタルガの顔を覗き込んでみると、顔色が真っ青で固まっていた。
 その表情には恐怖が浮かんでいる。

「あれ? なんでそんなに怖がってるんだ?」
 とりあえずフリューアネイシアを彼から離し肩に戻す。
 その後ボッタルガが再起動するのに数分掛かって、ようやく顔色が悪くなった真相が語られた。
「僕達海恵丑ウミノサチは海の全域に何があるかを知っているんだ。当然その中には氷竜の巣がある孤島も含まれているんだよ。いくら僕達が強い種族でも”本物”の竜に喧嘩を売るほど馬鹿じゃないから、近づかない様にしていたんだよね……」
 言われて納得した。
 竜の巣の中で大陸ではなく海に囲まれているのは氷竜の巣だけだ。あとは立地的に地竜の巣も知ってそうだった。
 ボッタルガが”本物”というのだから、やっぱりドレイクはモドキって事で良いのだろうか。

『何もしていないのに怖がるなんて失礼だね。今の僕はこんなに可愛らしい見た目をしているっていうのに』
 自分から可愛いというのはどうかと思ったが、宗八そうはちは口にしなかった。
 フリューアネイシアの言葉を聞いたボッタルガも反省してか青い顔が今度は暗くなる。一応人の姿をしているが、海恵丑ウミノサチは本来魔物だ。その生存本能が竜を怖がるのは仕方のない部分ではないだろうか。
 このままでは話が遅々として進まない事を懸念した宗八そうはちは、ボッタルガの心情を無視して話を強引に進める事を決めた。

「ともかく、これなら実用に耐えられるかだけを今は考えてくれ」
 今回取り出した竜魔石の大きさは人の顔よりも大きい。
 目途がある程度立っているものに関してはいざ知らず、魔石はこれ以上の物を用意するにはそれなりの期間が必要となる。
 ボッタルガが「もう放さない」とばかりに大事に抱え込み始めた竜魔石並みの大きさなら巣にゴロゴロと落ちている。
「<万彩カリスティア>が言う長期的な運用次第になるけど、実用出来るかに関してなら問題ないよ。そうだな……。君が拠点にしているアスペラルダ王都にこの魔石の魔道具を設置したとして物理結界だけなら1週間は持つだろうね。その間に魔力補充をすればもっと持つけど、魔力量が絶望的に足りないと思うよ」
 話を持ち込んだとはいえ、宗八そうはちは魔道具については素人同然だ。
 先のボッタルガの説明の中で言われた、その「一週間」という言葉の重みを、宗八は測りかねていた。

『そもそも結界魔道具は魔石の問題があって、持久力も半日持つ程度デスカラァ……。街を囲めて1週間持つだけで”破格”デスケドォ』
 見兼ねた闇精カティナの補足を受けて、宗八そうはちは納得する。
「強度はどうなんだ? 一部破壊された場合の補修は可能なのか?」
「そこは魔法式次第としか言えないね。結界と言えど結局は魔法の再現だから人が発動するか魔石から発動するかの違いしないんだよ。ちなみに今の一般的な結界はBランクの魔物からは完全に守ってくれるけど、破壊される場合は一気に全部が砕け散るよ」
 この質問はもちろん宗八そうはちが気になった事でもあるのだが、一番の理由は……。チラリ。
『ノイ、ここの魔法式を破壊された箇所の破棄と修復に組み替えて』
『防御力はどうするです? 今のままだとAランクまでは対応可能ですけど魔力消費が少々気になるです』
 今の話を聞いて水精アクアーリィが軌道修正の指示を出している。
 ノイティミルが常に操る障壁魔法は、使い捨てを前提とする。砕かれる前に退く、それが常道であった。
 しかし、結界魔道具として利用する場合は、長期的運用を前提に張りっぱなしにする必要がある。
 それも必要となる場合は瘴気モンスターに囲まれ、倒せば瘴気が大量に発生する状況なので光魔法も組み込みながら魔法式はどんどん書き上げられていく。

『お父様、こちらをどうぞ。試作一号ですがアクア姉様が試してみて欲しいとの事です』
「ありがとう」
 闇精クーデルカから渡された紙には、魔方陣が書かれていた。
 水精アクアーリィと地精ノイティミルに加え、光精ベルトロープの三人を中心としたグループが魔法式の構築を行い、闇精クーデルカと風精ニルチッイと火精フラムキエのグループが魔法式から魔方陣への変換を担当しているらしい。
 ちなみに無精アニマは両方を見ながら適宜アドバイスを付け加えている。
「というわけで、試作一号だそうだ」
 魔方陣の書かれた紙をボッタルガに見せる。
 その瞬間まで竜魔石に執着していた男の瞳が、魔方陣へと吸い寄せられた。構成を追う視線は鋭く、やがて言葉を忘れたかのように沈黙した。
 真剣に解読を進めたのか、しばらくそのまま黙って髪を見つめていたが、やがて大きく息を吐きながら椅子に深々と倒れ込んだ。

「ふぅ~、疲れたぁ。精霊は凄いね……。こんな見事な魔法式を魔方陣に纏め上げるなんて。アーティファクトの魔方陣と似て非なる物だ……」
 ボッタルガはそう言いながら、机に置かれた魔方陣に魔力を流す。
 指先から魔方陣を構成する一本一本の線に魔力が染み渡り徐々に光り始める。

 精霊はその属性に合った魔法式を理解している。
 その魔法式を自分の中で適当に組み上げて使用するのが【精霊魔法】と呼ばれる名も無き魔法だ。
 ただ、魔法式を意図的に可視化する為に書き起こしても人族が魔法を使用する事は叶わなかった。
 その魔法式を人族が使用出来る様にするにはまず魔方陣に落とし込む手順が必須で、粉末状にした魔石を溶いた特殊な墨で描く必要があった。更に含有魔石が不足していれば発動せず、多すぎると魔方陣が爆発するなど問題点が多くあった。

 問題は続く。
 魔方陣化に一部の研究者が成功する一方で、魔法を使う為に魔方陣を持ち歩く不便が生じたのだ。
 紙に書けば雨などで使用不可となり、石板に書けば重くて持ち運びに苦労した。
 やがて闇精カティナが研究に参入し、停滞していた流れは大きく変わる。魔方陣は「書」に刻まれ、読まれることで術者の身に融け、想起と共に発動する——それが魔導書の誕生であった。

 ———バンッ!
 魔法が起動し、直径二メートルの障壁が空間に展開した。
 次の瞬間——その結界に拒まれたボッタルガの身体は、弾丸のように弾き飛ばされ、背後の壁に叩きつけられる。
「ぐふぅっ!」
『「あ……」』
 水精アクア―リィと宗八そうはちの親子の口から同時にやらかした時の声が漏れる。
 人は通すが魔物は通さない結界魔法を海恵丑ウミノサチであるボッタルガが発動した結果、発動者本人が吹き飛ばされるという事故が起こってしまったのだ。

 さて、この大問題は誰が悪かったのだろうか。
 精霊達は結界として当然の対象を設定していたし、宗八そうはちも魔方陣の紙を渡しはしたが発動しろとは言っていない。
 つまり……。
「うん、海恵丑ウミノサチも吹っ飛ばすこの威力!悪くないなっ!」
 勝手に発動した彼が悪くて、宗八そうはちと子供達は悪くないという結論に落ち着いた。
 宗八そうはちは結界の威力を目の当たりにして子供達を褒める。
「痛て……。結界の話をしていたのに完全に性質を忘れていたよ……」
 魔方陣から発動した結界は、すでに通された魔力を消費し尽くし姿を消している。
 発動に必要な魔力量、そして結界を継続する為に必要な魔力消費量。これらがやはりネックだなぁ、とボッタルガは嘆息する。

 世界の危機についてはカティナから情報提供を受けており、正しく理解している。
 遠く離れる仲間にも触角を用いた遠話えんわで裏取りも取った。
 宗八そうはちが持ち込んだこの結界は、実際の所ボッタルガ自身も必要性は十分に理解していたし、魔物である自分達を守ってくれるものではないとも把握していた。
 それでも、なんとか完成させて仲間も含めて結界内に受け入れてもらう手段を模索する。
 これがボッタルガが魔道具製作を手伝う代わりに宗八そうはちに受け入れさせようと画策した交換条件でもあった。

「ゴホン……。<万彩カリスティア>、今の問題点は解決出来るかな?」
 あえて問題点という言葉を選んだ。
 魔物とはいえ、聖獣とまで呼ばれる知能と対話能力を持つ自分達種族の有用性を宗八そうはちは正しく理解していると感じ取った。人権問題と紐づけて考えてもらえるなら、人族も受け入れてくれるかもしれない……。
 その一人目として説得するならば宗八そうはちほど理解もあり、立場を持っている人材もそう居ないだろう。ここがボッタルガにとっても正念場でもあった。

「うちにも猪獅子ヤマノサチが居るし、冒険者の中には小型の魔物を使役している者もいるからな。そこは最初からどうにか手を打つつもりだったぞ」
 その時、ボッタルガの心情の動きを受けて眼の色が変わった。
 これが水無月宗八みなづきそうはちか……。
 闇精カティナからの報告が彼の主な情報源だったとはいえ、何の警戒もなしに受け入れる予定であったと言われては、その温情に感謝も込めて全力で協力せざるを得ない。宗八そうはちの器の大きさを感じたボッタルガが跪く。
「<万彩カリスティア>様。この度の魔道具製作につきましては必ずや成功させて見せる事をここに誓わせていただきます。我ら海恵丑ウミノサチ一同、以降は<万彩カリスティア>様の軍門に下ろうと存じます」

「え?なんで?」

 突如の誓言に、宗八の思考は一瞬止まり、ただ困惑の声だけが漏れた。
 魔物であるボッタルガのこの行動は、実のところ小型の魔物と同じ思考だった。
 自分より強く、出来る事に命令ではなく願い、自分を守ってくれる価値観を持つ。その共存関係は人に魔物が下るという過程を経ていた。
 ただ、小型の魔物は喋る事が出来ないので愛嬌で何とかしている事を海恵丑ウミノサチである彼は言葉として示しただけなのだ。
『まぁまぁアニキ。悪い事では無いデスカラァ、受け入れてあげて欲しいデスヨォ』
 闇精カティナの援護も入り、呆気に取られていた宗八そうはちも冷静にボッタルガに視線を送る。
「別に軍門に下る必要は無いけど、一緒に連携をとれるように連絡役とか務めてくれると助かるな」
「呼ばれれば即座に駆けつけましょう。我らの力が、猪獅子ヤマノサチをも凌ぐことを証明してみせます」
 ここに猪獅子ヤマノサチタルテューフォが居れば怒り狂っていた事だろう。
 急なボッタルガの心変わりに戸惑いつつも受け入れた宗八そうはち達は、改めて魔道具製作の話を詰めていく事となった。

 * * * * *
 とある人物から連絡が入った。
「応、どした……え? ハイエルフの里に着いた!? すぐ合流する!森の位置だけ教えてくれ!」
 この場で整えられる話を詰め、まとめに入った段階で宗八そうはちはその連絡に立ち上がって興奮する。
「悪いなボッタルガ、急用が出来たから今日はここまでだ。じゃあな!」
 宗八そうはちはゲートをその場で繋げると、ボッタルガとカティナの返事も待たずに子供達と青龍を連れて嵐の如く去って行った。

 その後、勇者を放り出したゲートから魔族領に降り立った宗八そうはちは、全力の魔力縮地まりょくしゅくちで勇者PTの旅路二カ月分を数時間で踏破し勇者と合流を果たした。
「うひょー!」
 テンションが上がった宗八そうはちの口から聞いた事も無い言葉が発された事だけ、ここに明文しておく。
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