特に呼ばれた記憶は無いが、異世界に来てサーセン。

黄玉八重

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第16章 -勇者 VS 魔王-

†第16章† -30話-[ハイエルフ移住計画①]

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 勇者プルメリオに合流した宗八そうはち一頻ひとしきはしゃいだ後にしっかりと仕事に取り組んだ。
「———って事なんだけど、問題点ってどのくらいある?」
 揺蕩う唄ウィルフラタの先に繋がっているのは、フォレストトーレ国王のラフィートだった。
 旧王都が廃墟となって以来、グランハイリアの聳えるハルカナムに王政府を設置して国政を動かしている。
 〔すぐ思い浮かぶものとして、まず……〕

 * * * * *
「結論から言うと、ハルカナムは無理」
 彼の国は発足したばかりの政府が手探りで復興を進めながら、巨大牧場街ギガフォームの町づくりも同時進行している。
 そのうえでハルカナムの町中にある大樹にハイエルフを住まわせるというのは、流石に負担が大きすぎた。
 更にパスカルの使役する大型魔物も一緒に避難となると住民に不安が広がりかねないし、そもそもハイエルフの食料となる木の実はグランハイリアには成らないので町の人から買い上げる必要などが出て来る。

「ひとつひとつ説明されれば、流石にゴリ押しで押し付ける事は出来なかった……」
 ラフィートから断られた理由をプルメリオ達に説明すれば、彼らも納得の表情を浮かべる。
 ただ、候補地となる精霊樹がある場所を宗八そうはちも知らなかったので取れる手段は大幅に狭まってしまった。
「今から探すっていうのは?」
「無理ね。いくらなんでも世界中のどこにあるかもわからない精霊樹を見つけるなんて無謀よ」
 プルメリオの提案を安直だとミリエステが否定する。
「とは言っても、判明している精霊樹はハイエルフが把握している2ヶ所でどちらも今頃は……」
「だな。禍津屍マガツカバネが辿り着いちまってるだろうな……」
 マクラインと言葉を引き継いだクライヴの二人も良い案が浮かばない様子で腕を組み悩んでいる。
 プーカも会議には参加しているが、黙って考えるタイプなのか瞳を閉じたまま眉を寄せていた。

 いくら雁首揃えて悩んでも文殊の知恵の様にうまく案が浮かぶわけでは無い。
 そんな中で時間が勿体ないと考えた闇精クーデルカが切り込んだ。
『お父様。もうこの森ごと致しましょう』
 宗八そうはちも最後の手段に、とは頭をかすめた案だったが……。
「置換、とは何じゃ?」
 クーデルカの案が聞こえたパスカルが興味を示し質問をする。

「……位置を入れ替える事を”置換”と言います。つまり、この森をどこかの土地と入れ替えようと娘は提案しているのです」
「ほう。その様な事が可能なのか?」
 パスカルが興味を持った事が引き金となり三老師もこちらの話に耳を傾け始める。
 宗八そうはちとしては強引過ぎるやり方なので最終手段に考えたのだが、あまり時間を掛けたい問題でもなかった。
 ハイエルフ達を比較的安全な場所に移住させなければ、勇者PTは大魔王城へ再出発が出来ない。
 大魔王討伐が遅れれば、いずれ訪れる破滅ヴィネアの侵攻に対し、常に大魔王の影を念頭に置かねばならなくなる。そのノイズは、戦略を狂わせるに十分なであった。

「こう……腕だけとか」
 目の前でマジックみたいに肘から先だけを離れた場所に出現させたら……。
「うおっ!気持ち悪いのぉ……」
 若い見た目のパスカルの言葉に宗八そうはちの表情は固まった。ひそかにショックを受けたのだ。
 ハイエルフにあれだけ興奮していたのだ。その場に居たメンバーは察して心の中で宗八そうはちに合唱をする。
「ほ、他にはぁ物と物を入れ替えたりぃ……」
 少々声が震える場面もあったが、自分達に出されたお茶と木の実の皿を入れ替えて見せるとパスカル達は理解を示した。
 その上で更に疑問が浮かぶのは当然の事だった。

「しかし、森を置換なぞ本当に出来るのか?」
 精霊樹を信仰しているだけあって精霊にも魔法にも精通しているのかパスカルの疑問点はその消費魔力量だった。
 いくら効率が良い魔法だとしても、規模を考えれば人種に関わらずハイエルフだとしても魔力は全然足りないと想像に難くなかった。
 ——だが、実態は異なる。
「魔力は問題ないし、制御力は子供達が揃っているから全然余裕ですね」
 確かに森の広さや根の深さを考えれば莫大な魔力を要求される事になるだろう。
 しかし、宗八そうはちは不完全ながら神力エーテルを使用する事が出来る。

 身体の魔力に耐え得る強度は人種によって様々だ。
 これは魔物にも言えることでスライムも多少なりに魔力を持っているのだが、意図的に魔力を注いでやれば一瞬で爆発四散する。
 逆に竜に魔力を注いでもどうこうなる事は無い。彼らは自分で必要以上の魔力を身体から排出することが出来るし、強度も違うので爆発四散までに猶予があるのだ。

 例えるならば、器に注がれる水のようなものだ。
 人の身が許す最大は千として。満ちれば器はひび割れ、やがて破裂する。
 この魔力を魔法制御で圧縮して、高濃度魔力の百とする。すると身体への負担は軽減されて余裕が生まれる。
 さらに圧縮を極めれば、ただの魔力は変質し、神力《エーテル》となる。宗八が辿り着けるのは、いまのところその第一段階に過ぎない。

 宗八そうはちの事も無げな言い分にハイエルフ達は半信半疑だ。
「え~と……。じゃあ置換出来るとしてどこに引っ越すかを考えましょうか」
 空気を換える為に話を進める事を提案したのは、プルメリオだった。
 手紙にはパメラ達が暮らす辺境の町への避難を呼びかける内容が書かれていたのだが、精霊樹の都合上そういうわけにはいかなかった。つまりその部分をクリア出来れば町への避難は出来なくとも辺境への避難は出来るはずだ。
「じゃあ、現地視察に行きましょう。森をそのまま持っていけるならどこでも良いだろうけど、安全面を考えればやっぱり辺境がいいでしょう。パメラの件もあるし、まずはあっちと合流しましょう」
 言葉をどれだけ重ねた所でハイエルフの不信を拭う事は難しいだろう。
 場所が決まってしまえばこちらの物だと宗八そうはちはプルメリオの援護に便乗して話を強引に前進させるのであった。

 * * * * *
「いらっしゃませ~! あれ?水無月みなづきさん?」
 占い師の館に入店すると村民の客と店番をしていた娘二人が出迎えてくれる。
 台詞に疑問視が含まれるのは宗八そうはちがうっかり偽装を忘れて人間の姿のまま入店してしまったからだった。
「いや……。角は無いし魔力もかなり落ちてるけど見た目は水無月みなづきさんだね……」
「パメラに相談があって来たんだが居るか?」
 入店時こそ宗八そうはちに集まった視線だったが、その後に入店するハイエルフのパスカルを目にするとs\店内が慌ただしくなった。
「すぐパメラさん呼んで来ますから、そちらの席に座ってお待ちくださいぃ~!」
 一人は店の奥へ駆けて行き。
「最高級の木の実をお持ち致しますので少しお待ちください!」
 一人は戸棚から木の実を取り出し皿に並べるとテーブルに広げた。
 どうやら、彼女たちの眼にはハイエルフが燦然と輝いて見えていた様だ。一目で正体を看破してからは媚びへつらって今までの軽い雰囲気はどこかへ吹き飛んでしまった。

 娘が奥へ駆け込んだ途端、戸の向こうから慌ただしい声と衣擦れの音が重なり合った。
 器が倒れたような音に続き、誰かが「急いで!正装を!」と叫ぶのが微かに聞こえる。
 やがて、正装をしたパメラが姿を現しハイエルフを歓迎する。
「ようこそ、ハイエルフ様。この地へ訪問頂く日を一日千秋の思いでお待ちしておりました」
 手紙を勇者に託してから早2カ月が経ったとはいえ、一日千秋は言い過ぎではないか?と宗八そうはちは思ったが口にはしなかった。
 ハイエルフの子孫が純潔のハイエルフと再開する貴重な日なのだ。
 宗八そうはちがいらない茶々を入れて台無しにして良い場面では無かった。

「貴様がパメラじゃな? 儂は代表としてそこな人間に避難先を案内あないさせたところじゃ。気にせずとも良い」
 指差され視線を誘導されたパメラの視界に、角無しの宗八そうはちが映った。
 只者ではないと思っていたが人間とは思いもしていなかったパメラだったが、少しの付き合いながら宗八そうはちが悪い人ではないと見抜いていた為か特にコメントを残すことなく視線はパスカルへと戻って行った。
「では、この村に避難されるという事でしょうか?」
「いや、我らハイエルフは精霊樹と共に生活しているのじゃ。この村に精霊樹が無い以上、この村に避難は許容出来ぬ」
 パスカルの言葉にパメラは目を見開く。
 精霊樹の情報をパメラは知らなかったので。そのうえで宗八そうはちにハイエルフの避難を相談した事に若干の申し訳なさを感じたのだが、当の宗八そうはちが深刻な様子を見せていない事からまだ話は終わっていないのだと判断し先を促す。

「それでは……。何を確認する為にこの村へ来られたのでしょうか?」
 パメラの言葉にパスカルは鼻息を荒げて返答する。
「面白い話なのだがな!この人間が我らハイエルフが住まう村を森ごと移転させようと言い出したのだ!その候補地としてこの村の近くを紹介してもらいたいのじゃっ!」
 半信半疑のパスカルは若干宗八そうはちを煽る言い方をしてその反応を楽しもうとした。
 しかし、当の宗八そうはちは森の置換が出来る事を確信しているのでパスカルの口撃に何の反応も示さない。
 その様子を面白く無さそうに眉間に皺を寄せるパスカルに、パメラは状況を何となく察して村近くの空き地へ案内することにした。
「そういう事であれば近くの広い場所を案内致しましょう。イクダニム、大丈夫なのよね?」
 念の為だがパメラは宗八そうはちへ問い掛ける。
 ハイエルフの血が混じっているとはいえ、序列で言えばやはり純潔には劣るパメラ達にとってハイエルフの里が近くに出来る事は夢のような出来事だった。
 宗八そうはちが普通の人間ではないと知っているパメラだが、ここでハイエルフの不評を買いたくはなかった。

「———大船に乗ったつもりで居てくれ」
 この村は大陸の中でも内陸部にある。
 つまり船を良く知らないパメラにとってその言葉は、一切信用に値しない台詞であった。
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