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第四章
第四章-03-
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東都市・北部にやって来た輝斗たちは、まだ狼男が潜伏しているとされるスラム街で捜索を始めた。
今回は輝斗と忍。嵐と威。そして羽鳥と侑李で組んでいる。幸弘と千景はワゴン車内に待機しており、隊長の政宗も同行していた。
「男性ふたりが殺されたのは歓楽街だったな」
多くの娼館が並ぶ歓楽街を、輝斗と忍は歩いている。
「ちょっと、そこのお兄さんたち。遊んでいかない?」
「安くしとくわよ?」
まだ日が高いというのに、娼婦たちがしきりに声をかけてくる。
「だああっ、鬱陶しい。あっち行け!」
嫌悪感をあらわにし、忍が怒鳴った。
「そんなこと言わずに、お願い」
「……っ!?」
胸の部分が大きく開いた大胆なデザインの服を纏った女性が、忍に近づくなり腕を絡めてくる。豊満な胸を押しつけ、タイトなミニスカートから下着が見えそうになるのも気にせず足を割り込ませ、しなだれかかった。
「アナタ体格もいいし、顔も整っていて素敵ね。サングラスで目元を隠してるけど……。あら、金色の目をしているのね。トパーズみたいで綺麗だわ」
密着してきたのに動揺した忍は、ずり落ちたサングラスを戻すこともせず硬直している。
「左目の下に黒子がセクシーだわ。ねえ、アタシと遊びましょう? 楽しませて、あ、げ、る」
「ひっついてくるな。つーか、テメェ……女じゃねぇだろ」
忍の首筋に、ぽつぽつと鳥肌が立っている。
瞬きを繰り返した後、女性は妖艶な笑みを浮かべた。
「あら、よく気づいたわね。胸は詰めたんだけど、下はまだなの」
「離れろおおおおおおおおおおおおっ!」
「忍?」
力一杯に引き剥がした忍は、その場からダッシュで逃げ出したので輝斗も走りだす。
通りを挟んで別の場所へ移動したが、ここも娼館がずらりと立ち並んでいる。
「忍、まだ狼男の情報を得ていない」
「そんなの、ここじゃなくても出来んだろ!」
大股で歩く忍は、一刻も早く立つ有りたいのか鬼のような形相だ。
「ねえ、お兄さん。今晩どう?」
「お兄さん、僕と遊ばない?」
「あそこの店で働いてるんだけど、良かったら遊びに来て」
先ほどから忍は娼婦たちに絡まれている。女性だけでなく男性まで混じっていた。
「俺に近づくなああああああああああっ!」
絶叫をあげる忍を、輝斗は離れた所で眺めている。
「大人気だな」
「傍観してねぇで、助けろおおおおおおおおっ!」
「無理だ」
「てめぇ、後で覚えてろよ!」
彼女たちは忍のような容姿が好みらしい。ひとり、またひとりと彼の元へ集まっていく。
「どうするか……」
あの中に混ざるのは避けたい。しかし、任務もおろそかに出来ないので、解決策はないものかと思案を巡らせる。
「あら、フェイじゃない。もう動けるようになったの?」
「はい」
まだ声変わりもしていない少年の声がした。周囲の娼婦たちに比べ、随分と痩せ細っている。着ている服もよれよれで、サイズが合っていない。顔や腕に傷痕があって痛々しい姿だ。
「この子、こないだ男ふたりを相手したそうよ」
「へえ、やるじゃない」
娼婦たちは、フェイト呼ばれた少年を指さして笑っている。
「それがタダで犯されたんですって。あはは、バカじゃないの」
「またなの? 本当、いつまで経っても成長しないわね」
嘲笑する女たちに、フェイは慣れているのか気にしている様子もない。愛想笑いを浮かべ、口を開く。
「でも、助けてくれた人がいたから……。あの、僕もう行かなくちゃ」
フェイは紙袋を抱え直し、ぺこりとお辞儀をすると歩き始めた。
「フン」
すると、行く先にいた娼婦のひとりが、わざと足をひっかける。
「あっ!?」
躓いて転んだフェイを見て、彼女たちは大声で笑った。
「あははっ、鈍くさい子」
「荷物落ちたわよ? さっさと拾いなさいな」
袋の中身が地面に散らばっている。中身はパンと果物だ。転がったリンゴを拾おうと手を伸ばしているので、輝斗が先に拾ってやる。
「これだな」
「ありがとう……ございます」
驚いた表情を浮かべ、フェイは輝斗の手からリンゴを受け取った。
「向こうにもリンゴが転がってるな。取ってくるから、他の物を集めてろ」
「はい……」
輝斗は落ちているリンゴを拾い、フェイの元へ引き返す。
彼が手にしているのは、包帯や消毒液などの医療品だ。食材以外も買っていたらしい。
「これで全部か?」
「は、はい。あの……手伝ってくれて、ありがとうございます」
フェイは丁寧にお辞儀をした。
「怪我をしているようだが、大丈夫か?」
治りかけているが、顔や腕などにある傷痕が気になった。
「少し前にちょっと……。でも、治りかけてるので大丈夫です」
「おい、さっきはよくも見捨てやがったな!」
ようやく解放されたのか、忍がまなじりをつり上げ、大股で向かってくる。
「無事だったか」
「当たり前だ!」
「あの……」
遠慮がちに話しかけてきたフェイは、輝斗たちを見上げている。
「お兄さんたちが嫌じゃなかったら、今晩僕を買ってくれませんか?」
「ふざけんな!」
「……っ」
忍は顔を真っ赤にさせ、もの凄い剣幕で怒鳴った。その勢いに、フェイは身をすくませる。
「すまないが、それは出来ない」
「そうですか……。あの人の治療費どうしよう……」
小さくため息をつくと、フェイは視線を落とした。
「他にも怪我人がいるのか?」
「はい……。だから、お金が必要なんです」
「なるほど……」
少し考えてから、輝斗はおもむろに財布を取り出した。そこから一万円札を取り出すと、フェイに差し出す。
「これで足りるか?」
「そんな……。何も奉仕していないのに頂けません」
受け取れないと首を横に振っている。
「気にしなくていい」
困惑しているフェイの手にお金を握らせると、輝斗は背中を向けた。
「俺たちは用があるから。それじゃあ……」
「あっ……」
「フンッ」
歩き出した輝斗に続き、忍も一瞥をしてから足を動かした。
× × ×
狼男捜しを再開した輝斗と忍は路地裏へやって来た。ここは男性ふたりが殺害された現場だ。今は綺麗に血痕も洗い流されているが、アスファルトが陥没した箇所がある。ここで男たちが踏み潰されたのだろう。
「おい、神条」
憮然とした面持ちで忍が呼んだ。
「なんだ?」
「さっきのガキに金を与えていたが、同情で施しをするだけ無駄だ。ここの連中は平気で嘘をつく」
冷たく言い放つ忍に、輝斗は反論する。
「あの子が嘘をついているようには見えない」
「ハッ、どうだかな。いいことをしたつもりだろうが、お前の行いはただの偽善だ」
「……そうかもしれない」
忍の言うことは正しい。スラム暮らしの少年ひとりに金を与えたところで、ここでの生活が良くなるわけではない。一度堕ちてしまったら、まっとうな暮らしは出来ないのだから。それでも一時的とはいえ生活の足しになるのならば、と思ったのだ。
「はあ……。さっさと狼男を見つけて、こんな所おさらばしたいぜ」
「何か手がかりがあれば……っ!」
建物と建物の隙間から、向こう側の路地が見える。
輝斗の視界に映ったそれに、大きく心臓の鼓動が脈打つ。
「あれは……」
ほんの一瞬だったので確証はないが、見覚えのある男が通り過ぎたような気がした。
そう……あれは――。
「聖……?」
昔よりも大人びた雰囲気だったが、八年前に死んだ親友にそっくりだった。
「そんなまさか……」
「どうした?」
動揺している輝斗に声をかけるが、無視されてしまう。
「聖!」
突如、輝斗が駆け出した。
「おいっ!?」
忍も慌てて追いかけようとするが、道が細いため建物の隙間に鞘が引っかかってしまう。
「ちぃっ……」
そうしている間に、輝斗の姿は見えなくなってしまった。
「あいつは、どうしていつもいつも……。ああ、くそっ! こちらNr.2。神条の奴が、また勝手に飛び出しやがった。そっちで追跡できるか?」
悪態をつき、忍はイヤモニに手を当てると諜報に連絡を取った。
今回は輝斗と忍。嵐と威。そして羽鳥と侑李で組んでいる。幸弘と千景はワゴン車内に待機しており、隊長の政宗も同行していた。
「男性ふたりが殺されたのは歓楽街だったな」
多くの娼館が並ぶ歓楽街を、輝斗と忍は歩いている。
「ちょっと、そこのお兄さんたち。遊んでいかない?」
「安くしとくわよ?」
まだ日が高いというのに、娼婦たちがしきりに声をかけてくる。
「だああっ、鬱陶しい。あっち行け!」
嫌悪感をあらわにし、忍が怒鳴った。
「そんなこと言わずに、お願い」
「……っ!?」
胸の部分が大きく開いた大胆なデザインの服を纏った女性が、忍に近づくなり腕を絡めてくる。豊満な胸を押しつけ、タイトなミニスカートから下着が見えそうになるのも気にせず足を割り込ませ、しなだれかかった。
「アナタ体格もいいし、顔も整っていて素敵ね。サングラスで目元を隠してるけど……。あら、金色の目をしているのね。トパーズみたいで綺麗だわ」
密着してきたのに動揺した忍は、ずり落ちたサングラスを戻すこともせず硬直している。
「左目の下に黒子がセクシーだわ。ねえ、アタシと遊びましょう? 楽しませて、あ、げ、る」
「ひっついてくるな。つーか、テメェ……女じゃねぇだろ」
忍の首筋に、ぽつぽつと鳥肌が立っている。
瞬きを繰り返した後、女性は妖艶な笑みを浮かべた。
「あら、よく気づいたわね。胸は詰めたんだけど、下はまだなの」
「離れろおおおおおおおおおおおおっ!」
「忍?」
力一杯に引き剥がした忍は、その場からダッシュで逃げ出したので輝斗も走りだす。
通りを挟んで別の場所へ移動したが、ここも娼館がずらりと立ち並んでいる。
「忍、まだ狼男の情報を得ていない」
「そんなの、ここじゃなくても出来んだろ!」
大股で歩く忍は、一刻も早く立つ有りたいのか鬼のような形相だ。
「ねえ、お兄さん。今晩どう?」
「お兄さん、僕と遊ばない?」
「あそこの店で働いてるんだけど、良かったら遊びに来て」
先ほどから忍は娼婦たちに絡まれている。女性だけでなく男性まで混じっていた。
「俺に近づくなああああああああああっ!」
絶叫をあげる忍を、輝斗は離れた所で眺めている。
「大人気だな」
「傍観してねぇで、助けろおおおおおおおおっ!」
「無理だ」
「てめぇ、後で覚えてろよ!」
彼女たちは忍のような容姿が好みらしい。ひとり、またひとりと彼の元へ集まっていく。
「どうするか……」
あの中に混ざるのは避けたい。しかし、任務もおろそかに出来ないので、解決策はないものかと思案を巡らせる。
「あら、フェイじゃない。もう動けるようになったの?」
「はい」
まだ声変わりもしていない少年の声がした。周囲の娼婦たちに比べ、随分と痩せ細っている。着ている服もよれよれで、サイズが合っていない。顔や腕に傷痕があって痛々しい姿だ。
「この子、こないだ男ふたりを相手したそうよ」
「へえ、やるじゃない」
娼婦たちは、フェイト呼ばれた少年を指さして笑っている。
「それがタダで犯されたんですって。あはは、バカじゃないの」
「またなの? 本当、いつまで経っても成長しないわね」
嘲笑する女たちに、フェイは慣れているのか気にしている様子もない。愛想笑いを浮かべ、口を開く。
「でも、助けてくれた人がいたから……。あの、僕もう行かなくちゃ」
フェイは紙袋を抱え直し、ぺこりとお辞儀をすると歩き始めた。
「フン」
すると、行く先にいた娼婦のひとりが、わざと足をひっかける。
「あっ!?」
躓いて転んだフェイを見て、彼女たちは大声で笑った。
「あははっ、鈍くさい子」
「荷物落ちたわよ? さっさと拾いなさいな」
袋の中身が地面に散らばっている。中身はパンと果物だ。転がったリンゴを拾おうと手を伸ばしているので、輝斗が先に拾ってやる。
「これだな」
「ありがとう……ございます」
驚いた表情を浮かべ、フェイは輝斗の手からリンゴを受け取った。
「向こうにもリンゴが転がってるな。取ってくるから、他の物を集めてろ」
「はい……」
輝斗は落ちているリンゴを拾い、フェイの元へ引き返す。
彼が手にしているのは、包帯や消毒液などの医療品だ。食材以外も買っていたらしい。
「これで全部か?」
「は、はい。あの……手伝ってくれて、ありがとうございます」
フェイは丁寧にお辞儀をした。
「怪我をしているようだが、大丈夫か?」
治りかけているが、顔や腕などにある傷痕が気になった。
「少し前にちょっと……。でも、治りかけてるので大丈夫です」
「おい、さっきはよくも見捨てやがったな!」
ようやく解放されたのか、忍がまなじりをつり上げ、大股で向かってくる。
「無事だったか」
「当たり前だ!」
「あの……」
遠慮がちに話しかけてきたフェイは、輝斗たちを見上げている。
「お兄さんたちが嫌じゃなかったら、今晩僕を買ってくれませんか?」
「ふざけんな!」
「……っ」
忍は顔を真っ赤にさせ、もの凄い剣幕で怒鳴った。その勢いに、フェイは身をすくませる。
「すまないが、それは出来ない」
「そうですか……。あの人の治療費どうしよう……」
小さくため息をつくと、フェイは視線を落とした。
「他にも怪我人がいるのか?」
「はい……。だから、お金が必要なんです」
「なるほど……」
少し考えてから、輝斗はおもむろに財布を取り出した。そこから一万円札を取り出すと、フェイに差し出す。
「これで足りるか?」
「そんな……。何も奉仕していないのに頂けません」
受け取れないと首を横に振っている。
「気にしなくていい」
困惑しているフェイの手にお金を握らせると、輝斗は背中を向けた。
「俺たちは用があるから。それじゃあ……」
「あっ……」
「フンッ」
歩き出した輝斗に続き、忍も一瞥をしてから足を動かした。
× × ×
狼男捜しを再開した輝斗と忍は路地裏へやって来た。ここは男性ふたりが殺害された現場だ。今は綺麗に血痕も洗い流されているが、アスファルトが陥没した箇所がある。ここで男たちが踏み潰されたのだろう。
「おい、神条」
憮然とした面持ちで忍が呼んだ。
「なんだ?」
「さっきのガキに金を与えていたが、同情で施しをするだけ無駄だ。ここの連中は平気で嘘をつく」
冷たく言い放つ忍に、輝斗は反論する。
「あの子が嘘をついているようには見えない」
「ハッ、どうだかな。いいことをしたつもりだろうが、お前の行いはただの偽善だ」
「……そうかもしれない」
忍の言うことは正しい。スラム暮らしの少年ひとりに金を与えたところで、ここでの生活が良くなるわけではない。一度堕ちてしまったら、まっとうな暮らしは出来ないのだから。それでも一時的とはいえ生活の足しになるのならば、と思ったのだ。
「はあ……。さっさと狼男を見つけて、こんな所おさらばしたいぜ」
「何か手がかりがあれば……っ!」
建物と建物の隙間から、向こう側の路地が見える。
輝斗の視界に映ったそれに、大きく心臓の鼓動が脈打つ。
「あれは……」
ほんの一瞬だったので確証はないが、見覚えのある男が通り過ぎたような気がした。
そう……あれは――。
「聖……?」
昔よりも大人びた雰囲気だったが、八年前に死んだ親友にそっくりだった。
「そんなまさか……」
「どうした?」
動揺している輝斗に声をかけるが、無視されてしまう。
「聖!」
突如、輝斗が駆け出した。
「おいっ!?」
忍も慌てて追いかけようとするが、道が細いため建物の隙間に鞘が引っかかってしまう。
「ちぃっ……」
そうしている間に、輝斗の姿は見えなくなってしまった。
「あいつは、どうしていつもいつも……。ああ、くそっ! こちらNr.2。神条の奴が、また勝手に飛び出しやがった。そっちで追跡できるか?」
悪態をつき、忍はイヤモニに手を当てると諜報に連絡を取った。
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