Rewind Seven

tasuku

文字の大きさ
27 / 64
第四章

第四章-04-

しおりを挟む
 白瀬聖は、八年前に死んだ――。
 分かっているのに、彼によく似た姿を目にした瞬間、自然と体が動いていた。
(別人かもしれない……。でも、あの日――聖の死体は見つからなかった)
 攻撃が苛烈すぎて跡形もなく消し飛んでしまったのだ、と誰もが口にしていた。
 聖の遺品は、寮に残っていた私物以外に奇跡的に見つかったアミュレットのラピスラズリの欠片しか残っていない。その石は輝斗が引き取り、今も大切に保管している。
 聖は幼い頃に家族を交通事故で失い、天涯孤独の身だった。奨学金を受けながら勉学に励んでいたので、成績上位を常にキープしなければならないプレッシャーもあっただろう。
 しかし、彼の実力は本物で、入学して早々に学年主席に上り詰めた。
 それなのに――あれだけ周囲から将来を期待されていたのに、彼の未来を奪ってしまった。
(もし……さっき見かけた男が、聖だったら?)
 この八年間、聖が実はどこかで生きているのではないかと、心の奥底で願っていた。
(聖なのか、この目で確かめたい!)
 入り組んだ細道を、直感で進み続ける。
「――っ!」
 右の角を曲がると、先ほど見かけた白いインバネスの後ろ姿が見えた。
 追いついた、と輝斗の表情が明るくなる。
「聖!」
 声に出して名前を叫ぶ。けれども、男の耳に届いていないのか立ち止まる様子はない。そのまま男は次の角を左に曲がったので、輝斗も遅れて追いかけるが……。
「行き止まりか……」
 コンクリートの壁を見つめ、輝斗は乱れた呼吸を整える。左右のビルの隙間は狭く、とてもじゃないが人が通り抜けられそうにない。
 男はどこに消えたのだろう――。
「やっぱり、気のせいだったのか……」
 聖によく似た容姿をしていたから、過剰反応したのかもしれない。
「バカみたいだ……」
 自嘲し、輝斗は髪をくしゃりと掴んで項垂れる。
「……そうだ、忍」
 不機嫌そうに眉を寄せた忍が脳裏に浮かぶ。彼を置いてきてしまった。今頃、相当頭にきているだろう。早く引き返さなければ、と輝斗は体の向きを反転させた。
「!!」
 不意に、頭上から殺気を感じ取る。輝斗は反射的に真横に飛んだ。
 刹那、タンッとアスファルトの地面を叩く音が響いた。
「チッ、外したか」
 輝斗が立っていた場所に着地したのは小柄な青年だ。落下する速度の勢いのまま、かかと落としを食らわせようとしていたらしい。部分的に編み込まれた若葉色の長い髪がなびいている。
「……っ!?」
 顔を上げたその容貌に、輝斗は大きく見開いた。
 透き通るような白い肌に右目は橙色、左目は灰色と左右の瞳の色が異なるオッドアイだ。中華街でよく見かける異国風の服を纏い、ダブルベルトの両サイドには小ぶりのナイフが納められている。
「何者だ!?」
 攻撃してきたことからも、相手は敵意を放っている。
「っ!?」
 輝斗はホルスターから拳銃を引き抜こうと手を伸ばすが、それよりも青年の方が速かった。一足飛びで距離を詰め、鋭い蹴りを放ってくる。腕を交差させて攻撃を防ぐが、すぐに姿を見失った。
「どこに……っ!」
 気配を探ろうとした刹那、足に衝撃が走る。
「痛っ……」
 体勢を低くし、地面に手を付けて輝斗の足を払ったのだ。その場に倒れた輝斗は、寝転がりながら連続攻撃をかわす。
(動きが速すぎて、目で追うことが出来ない!)
 なんとか体勢を立て直した輝斗の目に飛び込んだのは、青年の手に握られた拳銃だ。安全装置がないそれは連射速度が速い。おまけに防弾チョッキも貫通する代物だ。
(不味い!)

 ――パンッ、パンッ!

 強烈な破裂音が響き渡る。一発ではなく、何発も続いた。
「……しぶといな」
 青年は顔を渋面にさせ、舌打ちした。
「はあはあ……」
 輝斗は意識を集中し、身につけていたアミュレットの力で銃弾を防いだ。足元には炎に熱せられて溶けかけている弾が転がっている。
(危なかった……。反応が遅れていたら死んでいた)
 まさに間一髪だ。緊張から冷や汗が頬を伝って流れ落ちる。
 だが、輝斗もやられてばかりではない。反撃に出ようと、輝斗も加速ヘイストを使ってスピードを上げた。接近戦で必ずしも拳銃が勝るわけではない。
 輝斗は銃ではなく、敢えてナイフを手にした。青年の首を狙ってフォアハンドで切り払うが、余裕の表情でかわされてしまう。ならば、と胴体を切りつけようとするが、これも避けられた。
「はっ!」
 連続攻撃を繰り出すも、左右に首を傾けて全て避けられる。輝斗は左利きのため、右利きよりも攻撃の予測がしにくいとされる。それなのに目の前の青年は攻撃を全て見切っていた。
(嵐が持つような予測感知を持っているのか? それと加速ヘイストも同時に使っている)
 同時に二つのクラフトを発揮するにしても、この戦闘力の高さは異常だ。あまりにも反応が良すぎる。
(まさか……)
 頭によぎったあることに、輝斗はゴクリと唾を飲み込む。
(左右に色違いの瞳……。その特徴を持つ人間は極めて珍しい。確か人間とあやかしの混血か妖の先祖返りが、その特徴を持つとか千景さんが言ってたような……)
 そうだとしたら、厄介なんてものではない。
「遅い」
 青年は輝斗の手に触れ、一瞬のうちに背後に回り込んだ。
「なっ!?」
 ナイフを振り上げて突き刺せないようにすると、今度は輝斗の頭を掴んで引っ張った。
「ぐっ……」
 バランスを崩し、後ろに倒れそうになる。左手がガラ空きなのに気づき、輝斗は横目で青年を見た。彼の手にもナイフが握られている。それは輝斗の背中――肝臓がある箇所を狙って突こうとしていた。
「させるか!」
 ナイフを包むように炎が出現する。
「――っ!!」
 驚いた青年は、咄嗟に手を離して距離を取った。
「はあっ!」
 輝斗は振り向き様、空中に火の玉を生み出す。しかし、当たる直前で青年の姿が掻き消えた。
「なにっ!?」
 更に速く動けるのかと愕然する。
「ぐはっ」
 真横から強烈な蹴りが放たれた。防ぐ暇もなく、輝斗はコンクリートの壁に叩きつけられる。
「かはっ……」
 呼吸が出来ず咳込む。打ち所が悪かったのか、背中だけでなく頭がクラクラする。何とか立ち上がろうとするも身体が言うことを聞かず、だんだん意識が遠のいていく。
 青年がナイフを投げようと構えている。
(避けないと……)

「マオ、止めろ」

 不意に、別の男の声がした。
「邪魔する気?」
「もう充分だ」
 ひらり、と白いインバネスが動きに合わせて翻らせ、こちらへゆっくりと近づいてくる。
 顔を確かめようと、輝斗は目だけを動かす。けれども帽子を被っているため、よく見えない。
(もう……)
 確かめたいのに目を開けていられない。ぷつりと糸が切れたように視界が暗転する。
 そして、輝斗は意識を失った。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

灰かぶりの少年

うどん
BL
大きなお屋敷に仕える一人の少年。 とても美しい美貌の持ち主だが忌み嫌われ毎日被虐的な扱いをされるのであった・・・。

上司、快楽に沈むまで

赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。 冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。 だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。 入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。 真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。 ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、 篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」 疲労で僅かに緩んだ榊の表情。 その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。 「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」 指先が榊のネクタイを掴む。 引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。 拒むことも、許すこともできないまま、 彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。 言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。 だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。 そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。 「俺、前から思ってたんです。  あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」 支配する側だったはずの男が、 支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。 上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。 秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。 快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。 ――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。

後宮の男妃

紅林
BL
碧凌帝国には年老いた名君がいた。 もう間もなくその命尽きると噂される宮殿で皇帝の寵愛を一身に受けていると噂される男妃のお話。

君に望むは僕の弔辞

爺誤
BL
僕は生まれつき身体が弱かった。父の期待に応えられなかった僕は屋敷のなかで打ち捨てられて、早く死んでしまいたいばかりだった。姉の成人で賑わう屋敷のなか、鍵のかけられた部屋で悲しみに押しつぶされかけた僕は、迷い込んだ客人に外に出してもらった。そこで自分の可能性を知り、希望を抱いた……。 全9話 匂わせBL(エ◻︎なし)。死ネタ注意 表紙はあいえだ様!! 小説家になろうにも投稿

R指定

ヤミイ
BL
ハードです。

夜が明けなければいいのに(洋風)

万里
BL
大国の第三皇子・ルシアンは、幼い頃から「王位には縁のない皇子」として育てられてきた。輝く金髪と碧眼を持つその美貌は、まるで人形のように完璧だが、どこか冷ややかで近寄りがたい。 しかしその裏には、誰よりも繊細で、愛されたいと願う幼い心が隠されている。 そんなルシアンに、ある日突然、国の命運を背負う役目が降りかかる。 長年対立してきた隣国との和平の証として、敵国の大公令嬢への婿入り――実質的な“人質”としての政略結婚が正式に決まったのだ。 「名誉ある生贄」。 それが自分に与えられた役割だと、ルシアンは理解していた。 部屋に戻ると、いつものように従者のカイルが静かに迎える。 黒髪の護衛騎士――幼い頃からずっと傍にいてくれた唯一の存在。 本当は、別れが怖くてたまらない。 けれど、その弱さを見せることができない。 「やっとこの退屈な城から出られる。せいせいする」 心にもない言葉を吐き捨てる。 カイルが引き止めてくれることを、どこかで期待しながら。 だがカイルは、いつもと変わらぬ落ち着いた声で告げる。 「……おめでとうございます、殿下」 恭しく頭を下げるその姿は、あまりにも遠い。 その淡々とした態度が、ルシアンの胸に鋭く突き刺さる。 ――おめでとうなんて、言わないでほしかった。 ――本当は、行きたくなんてないのに。 和風と洋風はどちらも大筋は同じようにしようかと。ところどころ違うかもしれませんが。 お楽しみいただければ幸いです。

吊るされた少年は惨めな絶頂を繰り返す

五月雨時雨
BL
ブログに掲載した短編です。

敗戦国の王子を犯して拐う

月歌(ツキウタ)
BL
祖国の王に家族を殺された男は一人隣国に逃れた。時が満ち、男は隣国の兵となり祖国に攻め込む。そして男は陥落した城に辿り着く。

処理中です...