Rewind Seven

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第六章

第六章-01-

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 午後になり、政宗がミーティングルームにやって来た。大きなアタッシュケースを持って登場したので、輝斗たちは何だろうと不思議そうに見つめている。
「よいしょっと……」
 政宗は足元にアタッシュケースを置くと、一同を見回した。
「さてと、新たな任務だ……って、侑李。随分と顔色が悪いようだが大丈夫か?」
「大丈夫です……。さっき胃薬を飲みましたから……」
 ぐったりとソファーの背もたれに寄りかかっていた侑李は力なく答える。テーブルの上には、水が入ったコップと胃薬の箱が置かれていた。
「腹の調子が悪いのか?」
「ちょっと色々ありまして……」
「さっき、小鉄さんの特製ラーメンをご馳走になったみたいなんです」
 苦い顔を浮かべ、幸弘が代わりに説明する。
「ああ、なるほど」
 全てを察した政宗はコクリと頷いた。
「辛かったら、そのままでいいぞ」
「ありがとうございます……」
「それじゃあ、任務の説明に移る」
 政宗は革張りの椅子に腰を下ろした。
 彼の背後に飾られた書は『医食同源』とある。病気の治療も普段の食事も、ともに人間の生命を養い健康を維持するためのもので、その源は同じであるとする考え方である。まさに今の侑李にこそ、ためになる言葉かもしれない。
「まずは、これを見てくれ」
 壁掛けテレビの画面に表示されたのは、男女八人の顔写真だ。年齢も若者から中年と様々で、一見すると共通点はなさそうに思える。
「この八人は、今月に入って行方不明になった。見ての通り年齢も職業もバラバラで、当然顔見知りではない」
「住んでいる所も分散しているようですが、全員この近くに集中していますね」
 政宗の説明を受け、輝斗は神妙な面持ちで呟く。
 表示された東都市ミナトシティの地図には赤い点は八箇所示される。行方不明者の住んでいる場所だが、全員同じ街の住人であるのが共通点とも言える。しかも天々来のある場所からほど近い。
「輝斗の言う通り全員この街の住人だ。彼らが行方不明になったのは深夜で自宅で休んだ後、忽然と姿を消している」
「寝ている間に消えたということですか?」
「そうだ」
 一人暮らしの者もいるが、家族と暮らしている者もいる。何かしら異変に気付くはずだが、どういうことだろう。
「このご時世、防犯のために街のいたる所にカメラが設置されている。マンション、駐車場、路地……様々なカメラ映像を解析した結果、消えた八人は寝間着姿のまま深夜の街を徘徊していることが分かった」
「ちょっと近くのコンビニまで買い出しとかじゃなく?」
 ソファーに腰を下ろし、足をぶらつかせていた嵐は、きょとんとした表情を浮かべる。
「若い人はともかく、深夜にわざわざ行くかなぁ?」
 威は人差し指で頬を掻きながら呟く。
「むしろ、そんな遅い時間に出歩くから犯人に狙われたんじゃないの」
「違うと思うなぁ」
「威の言う通りだ。この防犯カメラの映像を観てほしい。千景、頼む」
「はい」
 千景はパソコンを操作し、画面に映像を流す。
 表情はよく見えないが、寝間着姿の男がふらふらと歩いている。
「なんで、こいつは裸足なんだ?」
 壁に寄りかかっていた忍は、映像を見るなり訝しげに尋ねた。いくらなんでも裸足で外を歩くのはおかしい。
「そう、彼は裸足だ」
 千景は映像を切り替えた。こちらは中年女性で、やはり寝間着姿で裸足で歩いている。
「こっちの映像は、表情も分かると思う」
 カメラの方へ向かっているため、だんだん顔がはっきりしてきた。
「あれ、もしかして寝てる?」
 威は目を瞬かせる。女性は目を閉じて歩いているようだ。ふらふらと揺れているのも危なっかしい。
「まるで夢遊病みたいですね」
 コップに入っていた残りの水を飲み干した侑李が、ぽつりと呟いた。
「そう、それ!」
 画面を指さしながら威が答える。
「このカメラがある道の先にコンビニがあるんだけど、そこの店員が女性を目撃しているよ」
 千景は証言を記録したファイルを開いた。

 ――溜まったゴミをダストボックスに捨てようと袋を入れ替えてたんですけど、パジャマ姿の女の人がふらふら歩いてるのを見ました。裸足で歩いてるし、痛くないのかなと思ってたら、どっからともなくフルートのような音色が聞こえてきたんです。

「フルートのような音?」
 輝斗は眉をひそめる。それが行方不明になる理由と関連があるのは間違いない。
「――不思議に思った店員は周囲を見回したけど、音の発信源は分からなかった。それから改めて女性の方を見たら、姿は消えていたらしい。心霊現象かと思って、急いで店内に引き返したそうだよ」
 僅かな時間で女性は姿を消したことになる。
「笛の音色で人々が姿を消すなんて、ハーメルンの笛吹き男みたいだね」
 羽鳥の呟きに、輝斗は口を開く。
「確か、笛の音に誘われて子供たちが連れて行かれるというおとぎ話ですよね」
 中世の時代、ハーメルンという街で起きた物語だ。
 ねずみ捕りと名乗る男が、街を荒らすねずみの群れを笛の音で惹きつけて退治した。街からねずみが一掃されたことで約束の報酬を求める男に、ハーメルンの住民たちは支払いを渋った。怒った男は笛を吹き鳴らし、大人たちが教会でお祈りをしている間に子供たちを連れ去ったという。
「当時流行していた死の病を物語にしたという説もあるね」
 千景は古い書物の挿絵を表示させた。笛を持った男の後ろで、子供たちが一列に並んで歩いているというものだ。
「目撃者の証言から笛の音がどこからか聞こえたとあるが、防犯カメラの映像も乱れている。元に戻ったときには姿が消えてるんだ」
 カメラは音が拾えないので無音であるが、ノイズが走り映像が乱れた。それも数秒のことで元に戻った後、そこにいたはずの女性の姿が忽然と消えている。確かに証言通りだ。
「そして、消えた場所には人差し指くらいの大きさの人形が落ちていた」
「人形?」
 怪訝そうに尋ねる輝斗に、千景は幸弘へ視線を送る。幸弘は首を縦に振ると、膝の上に載せていたパソコンを操作し、画面に人形の画像を映した。
「熊やロバの人形だよ。製造元は不明。ハンドメイドの可能性が高いんだけど、指紋もDNAも検出されていない。ただし人形からは微弱ながら悪魔反応があった」
「それで僕が千里眼サイコメトリーで読み取ろうとしたんだけど、残念ながら何も見えなかった」
 幸弘の言葉を継いだ千景は目を伏せた。
「千景の能力でも見えないって、その人形に何か術でもかけられているのかな」
 羽鳥の疑問に千景は頷いた。
「おそらくね。その割に犯人は人形を現場に残し、悪魔反応を僅かに残している。僕はわざとやっているように思えてならない。人形は何かの合図なのかも」
「熊とロバの人形か……」
 輝斗は人形の画像を見つめる。わざわざ、その動物をモチーフにするのだから意味があるはずだ。
「――ということで、今回の任務は行方不明になった八人の捜索と犯人を見つけ出すことだ。なお『破壊者フェアニヒター』に対抗するため、本部から新しい装備が支給されることになった」
 言い終わると、政宗はアタッシュケースを机の上に置くと蓋を開けた。
「本日付で全部隊に支給された特別仕様だ」
 ケースの中には人数分の弾倉と銀弾丸が姿と見せる。
「いつものと大差ないように見えるが、お前たちのアミュレットと同じ石を粉砕したものが中に入っている。悪魔への効果は従来のものより大きいが、その分霊力の消耗も激しい。使う際は慎重にな」
「これが新しい弾丸……」
 自分の弾を受け取った輝斗は、まじまじと見つめる。炎の紋章が刻まれた弾倉に装填するようだ。
「俺の獲物は刀だから関係ないな」
 さして興味なさそうに忍が言うと、政宗は箱を取り出して渡した。
「忍はこっちだ。鍔にお前のアミュレットと同じ石をはめ込んである。つけ替えてくれ」
「了解」
 新しい鍔を受け取り、忍はフッと笑う。
「大悪魔と対抗するために、開発チームが作り出した新装備だ。有り難く使わせてもらおうじゃないか」
「はい!」
 輝斗たちは頷き、各々の新装備を握りしめた。
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