林檎の蕾

八木反芻

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さん『エンマ様が判決を下す日はお気に入りの傘を逆さにさして降ってきたキャンディを集めよう』

8 シロクマ◆②

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「あっつぅー」
 仁花は薄いブラウスのボタンを外し、手で首もとをあおいだ。ベッドから立ち上がり太ももにへばりついたスカートをはがしながら、クーラーを調整する。
 脱いだ上着をハンガーにかけるハル。
「俺をここへ誘うということはもちろん、セックスしたことはあるんだろうな」
「あるよー? 当たり前じゃん。てか、最初からそのつもりだったくせに~」
 温度を下げては上げて、繰り返し微調整を行い、ようやく適温を見つけた仁花は弾むようにまたベッドに座った。
(……シロクマ?)
 仁花は、ハルが紙袋から取り出したぬいぐるみへ目を向けた。そのぬいぐるみの角度を気にしながらベッドのわきに置く。
「これ春彦さんの趣味? かわいい~」と、無邪気にぬいぐるみへ伸ばした仁花の手をハルは掴んだ。
「触るな」
「え? なんで? 別にいいじゃん」
「俺の大切なものなんだ」
「えへへ、なにそれ? ぬいぐるみ愛ってやつ? 変なの~」
 仁花は寝っ転がると足を軽くバタつかせ、
「こんなところに紙袋持ってくるんだもん。変なオモチャが入ってると思ってドキドキしちゃった。なのにぬいぐるみって……ふふっ」
 あどけなく笑う。
「春彦さんって意外とかわいいんだね」
 誘うそうな上目使いで微笑む仁花を、ハルは静かに見下ろし背を向けた。
「先にシャワー浴びる」
「ね、一緒に入る?」
「断る」
「えー、ショックぅ。断られたことないんだけどー?」
 体を左右に揺らす仁花を横目に、ハルはバスルームへ向かった。
 首元と袖のボタンを外し念入りに手を洗う。シャツは脱がず、ズボンのポケットから携帯電話を取り出すと、なにかを開き、そのまま画面を眺めた。
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