運命の番(Ω)がガチ目の犬すぎてこまる

大田ネクロマンサー

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本編

第22話 珍しいランチ

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昼休み。今日はいつも一緒に外に食べに行く同僚が外回りだったから、社員食堂に来た。一流企業と謳いながら社員食堂の味は並以下で、あまり賑わっているとはいい難い。しかし午後イチで商談があることも手伝って久しぶりに立ち寄った。

社員証で決済を済ませ、トレイを持った状態で閑散とした食堂に放り出される。どこに座ったっていいのだが、一人肩身が狭そうに座る女性に目がとまった。

「宮間さん、ここ、座っても平気?」

「に、新名さん!」

クロを助けてもらってから、宮間さんとの距離が少し近くなった。相変わらず仕事面でしか会話はないが、少なくとも話しかける障壁は低くなったと感じている。

「宮間さん、いつも社員食堂なの?」

「あ、え、いえ……最近は、はい。前は女子社員の人と外に食べに行っていたんですが、その……この辺って平気で2千円とかいっちゃうので……」

「2千円!? いいもん食べてるなぁ。別に牛丼屋だってあるのに……って女性は入りづらいか……」

宮間さんはクスクス笑って座るように視線を動かした。

「今度さ、安くていいお店に連れていくよ。クロのお礼もできてなかったし。あ、それなら高いところのほうがいいか」

宮間さんは嬉しそうに笑う。でも俺の誘いにイエスとは言わなかった。それに少しだけ気落ちすると、彼女は慌てて弁解をはじめた。

「あの、すごく嬉しいですし、ランチもご馳走になりたいんですけど! ……その、新名さんは私と一緒にいるところあまり見られないほうがいいというか……その……」

「え……」

俺はまるで理解できないといった声を漏らしながらも、雰囲気で宮間さんの言わんとしていることはわかった。オメガの人権を振りかざす女性社員に、ネタを与えないほうがいい、宮間さんはそう言っているのだ。

彼女たちが本気でオメガの人権を守ろうとするのならば、まずは宮間さんが契約社員であることに言及するだろう。それにこの前のヒートの時もそうだ。平気で宮間さんを置いて帰った。

彼女たちは「自分の正義」というマウントとファッションのために宮間さんを利用しているだけなのだ。それを証拠に、利用価値がなくなればこうやって置き去りにする。

「クロがさ。最近花屋さんでバイトをはじめたんだよ。宮間さんもクロを見たからわかると思うんだけどさ。クロはちょっと、その。人とは違うというか。その……ちゃんと働けるか心配だったんだ」

俺は暗い話題を避けようと、無計画に話しはじめてしまった。そういえば宮間さんにはクロは大学の関係で、こっちに来たと話した気がする。大学生にもなってバイトができるか心配なんて、少しおかしいだろうか。しかしここで話題を逸らすほうこそおかしい気がして続けてしまう。

「バイト先は俺の同級生の父親が切り盛りしてるんだけど、クロの笑顔が目当てで来るお客さんまでできたんだって」

なんだこの中身のない話は。言ったそばから自己嫌悪に陥っていると、宮間さんは意外にも目を輝かせた。

「クロ君の笑顔はすごく眩しいですもんね! 私も照射された時、眩しすぎて目をあけてられませんでした! えぇ……いいなぁ、私もクロ君の働いてるところ見たい……」

「俺も心配だから見たいんだけどさ、クロも土日休みで見に行けないんだよ。一生懸命やってるみたいでさ。毎日ハンドクリーム塗ってあげても手がガサガサで……」

「えぇ……ハンドクリームなにを使ってるんですか?」

「え? ハンドクリームのメーカー?」

「私も肌が弱くて水仕事するとすぐに荒れちゃうんですよ……もしよろしければオススメのハンドクリーム、教えますよ! 尿素とか入っているやつが効果が高いんですけど、クロ君匂いとか気にしてたから、香料とかも気をつかってあげたほうがいいと思うんですよね」

宮間さんはあんなに短いあいだのうちに、クロのコンプレックスを見破っていた。そしてそれを気遣う彼女の優しさに衝撃を受ける。俺の女性像が、母やオメガ人権団体の女性社員で歪められていることを、否応なしに気づかされた瞬間でもあった。

「そういえば……クロは宮間さんいい匂いしてたって、羨ましがってたな……」

「え……?」

「ハンドクリーム、宮間さんのオススメを教えてほしいな。クロに買ってやったらすごい喜んで、家がめちゃくちゃにされそう」

「どんだけ喜ぶんですか!」

悲しいかな実証済みです、と2人で笑いあったら、俺のスマホが震えた。
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