33 / 34
本編
第32話 桐生さんと宮間さん
しおりを挟む
「クロ、桐生さんがケーキ買ってきてくれたぞ」
「桐生さん……ありがとう!」
クロの笑顔で部屋が少し明るくなる。
「宮間さん、おめでとう。すごいね。今年中に優勝できそうじゃない?」
「麗子がすごいんですよ。もともとオンロードだったのに、私のわがままに付き合って転向してくれて」
用意したお茶をソファ前のローテーブルに用意すると、クロは当然のように宮間さんの横に座った。
「クロ。こっちに来なさい」
「宮間さんとケーキ食べるっ」
「クロ君は宮間さんとケーキ食べるんだもんねぇ」
宮間さんはクロにデレデレである。クロが宮間さんに懐いているのはいい。しかし、それを見ている桐生さんの顔が寂しそうなのがつらい!
「じゃあ今日はオチューシャしてやらないぞ」
クロの耳がピンと立ち、そしてジリジリと俺のほうへにじり寄ってきた。そのあからさまな態度に全員が吹き出す。
「新名さん、休暇調整してくださって、本当にありがとうございました。それに……クロ君のことで社内の私を見る目も変わったというか……クロ君を助けたかった一心だったのに、逆に私が助けられました」
確かに社内の雰囲気はガラリと変わった。クロの法的手続きなどの進行はどうしても俺自身が出向かなければならないことが多かった。そうなると当然会社の調整も必要になり、宮間さんはプライベートのみならず会社でも大立ち回りしてくれたのだ。その功績で社員登用の話が持ち上がったのだが、「車のレース優先」である。
アルファ顔負けのアクロバティックな生活に、人柄も相まって、一躍社内の話題の中心となった。ついでに今までオメガ擁護という名で他人を叩いていた女子社員も、彼女がオメガである以上やっかみも言えない状況に追い込まれた。
「宮間さんの人柄あってこそだよ。クロの件も、宮間さんいなかったらこんなにはやく日常に戻れなかった」
言ってしまったあと、しまったと桐生さんを見る。案の定、彼女は寂しそうな顔をしていた。宮間さんがオメガという性を受け入れないこと、それは桐生さんの思いに応えないことと等しいからだ。
「ハルチカ、食べよ?」
変な沈黙の中で、クロだけが呑気にかわいい。
「クロ君をはじめて見た時。こんなに今風のカッコいい男の子なのに、新名さんにしがみついて震えてて。でもすごく笑顔が眩しくて。なにもかもチグハグなのに、クロ君も新名さんもお互い大好きで。そういうの、いいなって。思ったんです」
滔々と話す宮間さんに、クロも驚いて耳を立てた。
「クロ君に助けられたのは私です。だから、もう一度レースに挑戦しようって、そう思ったんです」
「俺も宮間さん好き!」
「私もクロ君好き!」
よくわからない告白大会になってしまったが、当人同士が納得していればよかろう。
「宮間さんもオチューシャしてもらう?」
クロが意味不明なことを言い出したので俺はクロをソファに引き寄せた。
「宮間さんは大人だからオチューシャしないよ」
「だって、オチューシャしてほしいって匂いしてるよ!」
こんな地獄のような空気は、4人の中では日常茶飯事だった。だから特段気に留めず、フォークで一口大にしたケーキをクロの口に運ぼうとした時、久しぶりの爆弾が投下された。
「じゃあ……麗子にオチューシャしてもらおうかな……」
俺はかつてのクロのように、フォークごとケーキを落とした。
宮間さんは自分で言っておきながら、顔を真っ赤にして俯いている。いや、もはや宮間さんなんてどうでもいい! 桐生さんを見やると、発作を疑うほど全身をガタガタ震わせていた。
え、なんで俺の家を焼け野原にするの?
桐生さんは急に前屈みになって焼け野原にへたりこんだ。同じアルファとしてお察しいたします!
「あー……あの。ケーキとお茶はクロと俺で……」
「クロ君、じゃあオチューシャあるから宮間さんは帰るね」
「宮間さん! もう帰るの?」
宮間さんはカクカク不自然な動きで桐生さんに近寄り、腕を引っ張りあげる。
「香織……ごめん……今、立ったら……」
「わかってるわよ、バカ……」
うわぁ、今の「バカ」はやべぇな。桐生さん絶対イったでしょ。俺はかわいそうになって、桐生さんの肩を担ぐ。桐生さんの体は熱く、息が浅い。完璧にラット状態だった。
車を運転して帰れるのだろうか、と心配したら、宮間さんが運転席に座った。なんかいろいろとチグハグだな、と思った時、宮間さんの言葉の意味を理解した。
「桐生さん……ありがとう!」
クロの笑顔で部屋が少し明るくなる。
「宮間さん、おめでとう。すごいね。今年中に優勝できそうじゃない?」
「麗子がすごいんですよ。もともとオンロードだったのに、私のわがままに付き合って転向してくれて」
用意したお茶をソファ前のローテーブルに用意すると、クロは当然のように宮間さんの横に座った。
「クロ。こっちに来なさい」
「宮間さんとケーキ食べるっ」
「クロ君は宮間さんとケーキ食べるんだもんねぇ」
宮間さんはクロにデレデレである。クロが宮間さんに懐いているのはいい。しかし、それを見ている桐生さんの顔が寂しそうなのがつらい!
「じゃあ今日はオチューシャしてやらないぞ」
クロの耳がピンと立ち、そしてジリジリと俺のほうへにじり寄ってきた。そのあからさまな態度に全員が吹き出す。
「新名さん、休暇調整してくださって、本当にありがとうございました。それに……クロ君のことで社内の私を見る目も変わったというか……クロ君を助けたかった一心だったのに、逆に私が助けられました」
確かに社内の雰囲気はガラリと変わった。クロの法的手続きなどの進行はどうしても俺自身が出向かなければならないことが多かった。そうなると当然会社の調整も必要になり、宮間さんはプライベートのみならず会社でも大立ち回りしてくれたのだ。その功績で社員登用の話が持ち上がったのだが、「車のレース優先」である。
アルファ顔負けのアクロバティックな生活に、人柄も相まって、一躍社内の話題の中心となった。ついでに今までオメガ擁護という名で他人を叩いていた女子社員も、彼女がオメガである以上やっかみも言えない状況に追い込まれた。
「宮間さんの人柄あってこそだよ。クロの件も、宮間さんいなかったらこんなにはやく日常に戻れなかった」
言ってしまったあと、しまったと桐生さんを見る。案の定、彼女は寂しそうな顔をしていた。宮間さんがオメガという性を受け入れないこと、それは桐生さんの思いに応えないことと等しいからだ。
「ハルチカ、食べよ?」
変な沈黙の中で、クロだけが呑気にかわいい。
「クロ君をはじめて見た時。こんなに今風のカッコいい男の子なのに、新名さんにしがみついて震えてて。でもすごく笑顔が眩しくて。なにもかもチグハグなのに、クロ君も新名さんもお互い大好きで。そういうの、いいなって。思ったんです」
滔々と話す宮間さんに、クロも驚いて耳を立てた。
「クロ君に助けられたのは私です。だから、もう一度レースに挑戦しようって、そう思ったんです」
「俺も宮間さん好き!」
「私もクロ君好き!」
よくわからない告白大会になってしまったが、当人同士が納得していればよかろう。
「宮間さんもオチューシャしてもらう?」
クロが意味不明なことを言い出したので俺はクロをソファに引き寄せた。
「宮間さんは大人だからオチューシャしないよ」
「だって、オチューシャしてほしいって匂いしてるよ!」
こんな地獄のような空気は、4人の中では日常茶飯事だった。だから特段気に留めず、フォークで一口大にしたケーキをクロの口に運ぼうとした時、久しぶりの爆弾が投下された。
「じゃあ……麗子にオチューシャしてもらおうかな……」
俺はかつてのクロのように、フォークごとケーキを落とした。
宮間さんは自分で言っておきながら、顔を真っ赤にして俯いている。いや、もはや宮間さんなんてどうでもいい! 桐生さんを見やると、発作を疑うほど全身をガタガタ震わせていた。
え、なんで俺の家を焼け野原にするの?
桐生さんは急に前屈みになって焼け野原にへたりこんだ。同じアルファとしてお察しいたします!
「あー……あの。ケーキとお茶はクロと俺で……」
「クロ君、じゃあオチューシャあるから宮間さんは帰るね」
「宮間さん! もう帰るの?」
宮間さんはカクカク不自然な動きで桐生さんに近寄り、腕を引っ張りあげる。
「香織……ごめん……今、立ったら……」
「わかってるわよ、バカ……」
うわぁ、今の「バカ」はやべぇな。桐生さん絶対イったでしょ。俺はかわいそうになって、桐生さんの肩を担ぐ。桐生さんの体は熱く、息が浅い。完璧にラット状態だった。
車を運転して帰れるのだろうか、と心配したら、宮間さんが運転席に座った。なんかいろいろとチグハグだな、と思った時、宮間さんの言葉の意味を理解した。
0
あなたにおすすめの小説
花喰らうオメガと運命の溺愛アルファ
哀木ストリーム
BL
αからの支配から逃げるには、この方法しかなかった。
Ωの辰紀は、αが苦手とする強い匂いを放つ花を、ヒートが始まる前から祖母に食べさせられていた。
そのおかげでヒート中にαに襲われることから逃れていた。
そして祖母が亡くなったある日。両親に売られてしまった祖母の形見を探しに骨董品屋に向かうと、先に祖母の形見を集めているαの有栖川竜仁と出会う。彼を騙して祖母の形見を回収しようとしていたが、彼には花の匂いが効かなかった。それどころか両親が隠したはずの首輪の鍵を持っていて、番にされてしまう。
「その花は、Ωを守る花ではない。喰らわれるのは君の方だよ」
花の中毒症状から救おうと手を差し伸べる竜仁。
彼は、祖母を苦しめたαの孫だと知りーー。
11月から更新します。
完璧な計画
しづ未
BL
双子の妹のお見合い相手が女にだらしないと噂だったので兄が代わりにお見合いをして破談させようとする話です。
本編+おまけ後日談の本→https://booth.pm/ja/items/6718689
至高のオメガとガラスの靴
むー
BL
幼なじみのアカリちゃんは男の子だけどオメガ。
誰よりも綺麗で勉強も運動も出来る。
そして、アカリちゃんから漂うフェロモンは誰もが惹きつけらる。
正に"至高のオメガ"
僕-ヒロ-はアルファだけど見た目は普通、勉強も普通、運動なんて普通以下。
だから周りは僕を"欠陥品のアルファ"と呼ぶ。
そんな僕をアカリちゃんはいつも「大好き」と言って僕のそばに居てくれる。
周りに群がる優秀なアルファなんかに一切目もくれない。
"欠陥品"の僕が"至高"のアカリちゃんのそばにずっと居ていいのかな…?
※シリーズものになっていますが、どの物語から読んでも大丈夫です。
【至高のオメガとガラスの靴】←今ココ
↓
【金の野獣と薔薇の番】
↓
【魔法使いと眠れるオメガ】
完結・オメガバース・虐げられオメガ側妃が敵国に売られたら激甘ボイスのイケメン王から溺愛されました
美咲アリス
BL
虐げられオメガ側妃のシャルルは敵国への貢ぎ物にされた。敵国のアルベルト王は『人間を食べる』という恐ろしい噂があるアルファだ。けれども実際に会ったアルベルト王はものすごいイケメン。しかも「今日からそなたは国宝だ」とシャルルに激甘ボイスで囁いてくる。「もしかして僕は国宝級の『食材』ということ?」シャルルは恐怖に怯えるが、もちろんそれは大きな勘違いで⋯⋯? 虐げられオメガと敵国のイケメン王、ふたりのキュン&ハッピーな異世界恋愛オメガバースです!
借金のカタで二十歳上の実業家に嫁いだΩ。鳥かごで一年過ごすだけの契約だったのに、氷の帝王と呼ばれた彼に激しく愛され、唯一無二の番になる
水凪しおん
BL
名家の次男として生まれたΩ(オメガ)の青年、藍沢伊織。彼はある日突然、家の負債の肩代わりとして、二十歳も年上のα(アルファ)である実業家、久遠征四郎の屋敷へと送られる。事実上の政略結婚。しかし伊織を待ち受けていたのは、愛のない契約だった。
「一年間、俺の『鳥』としてこの屋敷で静かに暮らせ。そうすれば君の家族は救おう」
過去に愛する番を亡くし心を凍てつかせた「氷の帝王」こと征四郎。伊織はただ美しい置物として鳥かごの中で生きることを強いられる。しかしその瞳の奥に宿る深い孤独に触れるうち、伊織の心には反発とは違う感情が芽生え始める。
ひたむきな優しさは、氷の心を溶かす陽だまりとなるか。
孤独なαと健気なΩが、偽りの契約から真実の愛を見出すまでの、切なくも美しいシンデレラストーリー。
洗濯日和!!!
松本カナエ
BL
洗濯するオメガバース。BL。
Ωの鈴木高大は、就職に有利になるためにαと番うことにする。大学食堂で出逢ったαの横峯大輔と付き合うことになるが、今までお付き合いなどしたことないから、普通のお付き合い普通の距離感がわからない。
ニコニコ笑って距離を詰めてくる横峯。
ヒート中に俺の部屋においでと誘われ、緊張しながら行くと、寝室に山ができていた。
巣作りしてもらうために洗濯物を溜め込むαと洗濯するΩ。
12話一旦完結からの17話完結。
卒業旅行番外編。
(素敵な表紙はpome様。感謝しかありません)
※大島Q太様のTwitter企画「#溺愛アルファの巣作り」に参加したのを加筆して出します。
※オメガバースの設定には、独自解釈もあるかと思います。何かありましたらご指摘下さい。
※タイトルの後ろに☆ついてるのはRシーンあります。▲ついてるのはオメガハラスメントシーンがあります。
ナッツに恋するナツの虫
珈琲きの子
BL
究極の一般人ベータである辻井那月は、美術品のような一流のアルファである栗栖東弥に夢中だった。
那月は彼を眺める毎日をそれなりに楽しく過ごしていたが、ある日の飲み会で家に来るように誘われ……。
オメガ嫌いなアルファとそんなアルファに流されるちょっとおバカなベータのお話。
*オメガバースの設定をお借りしていますが、独自の設定も盛り込んでいます。
*予告なく性描写が入ります。
*モブとの絡みあり(保険)
*他サイトでも投稿
番じゃない僕らの恋~俺の唯一だった君~
伊織
BL
高校1年生の蓮(れん)は、成績優秀で運動神経も抜群なアルファ。
誰よりも大切に想っているのは、幼い頃からずっとそばにいた幼なじみのオメガ・陽(ひなた)だった。
初めての発情期(ヒート)──それは、蓮と陽の関係を静かに、でも確実に変えていく。
「陽が、知らない誰かに抱かれるのは嫌だ」
その言葉をきっかけに、陽は蓮だけに身体を預けるようになる。
まだ番にはなれない年齢のふたり。
触れ合えば触れ合うほど、高まる独占欲と焦燥、そして不安。
ただ一緒にいられる今を、大切に過ごしていた。
けれど、優しくあるはずのこの世界は、オメガである陽に静かな圧力を与えていく。
気づけば、陽が少しずつ遠ざかっていく。
守りたくても守りきれない。
アルファであるはずの自分の無力さに、蓮は打ちのめされていく。
番じゃない。
それでも本気で求め合った、たったひとつの恋。
これは、ひとりのアルファが、
大切なオメガを想い続ける、切なくて愛しい学園オメガバース・ラブストーリー。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる