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本編
最終話 お母さんに花束を
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いつもは風呂上がりと決まっていたが、今日は桐生宮間ペアの乱入で、ハンドクリームを塗り忘れていた。ちなみにこれは宮間さんセレクトのハンドクリームで、買って帰った時には家が荒れた。
夕ご飯を食べたあと、ソファでくつろぎながら、クロの話を聞く。
「今日は、おばあちゃんがお店の前で転んで、キューキューシャ呼んで。でも近いから担いでいけっておじちゃんが俺におばあちゃんを乗せたんだよ」
「そうか。明日からクロのあだ名は救急車だな。えらいぞ……でも、おばあちゃん大丈夫だったのか?」
「うん。骨折れてないって。飴をもらった……」
飴を頬張るクロを想像して、それをねだるようにキスをする。深く浅く、舌を絡ませて、飴を探す。見つからない飴に寂しさを感じながら唇を離すと、クロはぼんやりとしていた。
「宮間さんオチューシャしてもらったかな」
俺はハンドクリーム塗りに戻って、指を絡ませる。
「クロは宮間さん大好きだな」
「ハルチカは俺のこと一番好き?」
「犬でも人間でも一番好きだよ。クロは?」
「ナイショ」
クロがナイショと言って笑う時の顔が好きだ。それを聞いた俺はきっと嬉しそうな顔をしているのだろう。だからクロはこの質問に答えてくれたことはない。
そして、クロが10年どうやって生活をしていたのかということも絶対に教えてくれなかった。それはきっと俺が悲しそうな顔をすると思っているのだろう。
「新名クロ君、オチューシャしたら教えてくれるかな?」
「ナイショー!」
「教えてほしいなぁ!」
服の裾から手を突っ込むと、クロは抵抗した。
「服めくるやつも!」
「ああ、そうだった。新名クロ君は今日もいい子だったから、ちゃんと検診しなきゃな。じゃあ新名君、お腹を見せてください」
クロは満足気に笑って、服の裾をめくり上げた、その時。
「あ! 待って!」
クロはスッと立ち上がって、走りだす。ドタバタと自分の部屋に引っ込んでしまったから、さっき渡したスーツを部屋にしまいに行ったのだと思った。現在、俺の服は一度クロの部屋を経由してからクリーニングされるという謎のルーチンが出来上がっている。
手持ち無沙汰になり、スマホでニュースを読んでいたら、先に匂いが飛び込んできた。視線を上げると、目の前にさまざまな色が広がる。
「これ、俺が作ったやつ。ちゃんとお小遣いで買ったよ」
それは花束だった。
「クロが……作ったのか……?」
熱いものが込み上げて、一気に目頭が熱くなる。俺は涙もろいほうではないが、クロの成長についてだけは涙腺が緩い。クロが宮間さんに誠意をもって謝った時の号泣も、それが理由だった。
あんなに不器用なクロが、こんなに立派な花束を作れるようになっただけでも涙腺決壊寸前なのに……。
「俺に……買ってきてくれたのか……?」
権藤さんからもらうささやかなバイト代で俺にプレゼントなんて。あとひとことでも発したら咽び泣いてしまう、と思ったところでクロは言い放った。
「ハルチカのじゃないよ!」
「え?」
「お母さんの!」
視線を落とすと確かに菊が入った仏花だった。
花を包むセロファンにバタバタと涙が落ちる。その音にクロはびっくりして鼻を鳴らしはじめた。
「クロ……」
「クゥーン、クゥーン」
花束をソファにそっと置いて、クロを抱き寄せた。しばらく嗚咽でどうにもならなくなってしまい、クロを抱き寄せたままピタッと時間が止まってしまった。
「クロ……ありがとう……。明日お母さんの墓参りに行こう……」
嗚咽がおさまってクロの顔を覗き見たら、イーッと変な顔をしていた。
「違うよ、クロ。怒ってない。本当にありがとう」
クロはなんでもわかっている。俺なんかよりも、どんな人間よりも、わかっているのだ。
「お母さんも寂しがってるもんな」
クロは俺の涙をベロリと舐めて心配そうな顔をしていた。
「お母さんもクロが来たら喜ぶぞ! クロ、ちゃんと挨拶できるか?」
クロは嬉しそうに吠え散らかしたあと、ビシッと直立する。
「新名クロです! ハルチカの番です! ハルチカはお母さんのことが大好きです!」
<了>
最後までお読みいただきありがとうございました!
「え、え? は、ハルチカ、大好き!」
クロの飼い主はハルチカ
夕ご飯を食べたあと、ソファでくつろぎながら、クロの話を聞く。
「今日は、おばあちゃんがお店の前で転んで、キューキューシャ呼んで。でも近いから担いでいけっておじちゃんが俺におばあちゃんを乗せたんだよ」
「そうか。明日からクロのあだ名は救急車だな。えらいぞ……でも、おばあちゃん大丈夫だったのか?」
「うん。骨折れてないって。飴をもらった……」
飴を頬張るクロを想像して、それをねだるようにキスをする。深く浅く、舌を絡ませて、飴を探す。見つからない飴に寂しさを感じながら唇を離すと、クロはぼんやりとしていた。
「宮間さんオチューシャしてもらったかな」
俺はハンドクリーム塗りに戻って、指を絡ませる。
「クロは宮間さん大好きだな」
「ハルチカは俺のこと一番好き?」
「犬でも人間でも一番好きだよ。クロは?」
「ナイショ」
クロがナイショと言って笑う時の顔が好きだ。それを聞いた俺はきっと嬉しそうな顔をしているのだろう。だからクロはこの質問に答えてくれたことはない。
そして、クロが10年どうやって生活をしていたのかということも絶対に教えてくれなかった。それはきっと俺が悲しそうな顔をすると思っているのだろう。
「新名クロ君、オチューシャしたら教えてくれるかな?」
「ナイショー!」
「教えてほしいなぁ!」
服の裾から手を突っ込むと、クロは抵抗した。
「服めくるやつも!」
「ああ、そうだった。新名クロ君は今日もいい子だったから、ちゃんと検診しなきゃな。じゃあ新名君、お腹を見せてください」
クロは満足気に笑って、服の裾をめくり上げた、その時。
「あ! 待って!」
クロはスッと立ち上がって、走りだす。ドタバタと自分の部屋に引っ込んでしまったから、さっき渡したスーツを部屋にしまいに行ったのだと思った。現在、俺の服は一度クロの部屋を経由してからクリーニングされるという謎のルーチンが出来上がっている。
手持ち無沙汰になり、スマホでニュースを読んでいたら、先に匂いが飛び込んできた。視線を上げると、目の前にさまざまな色が広がる。
「これ、俺が作ったやつ。ちゃんとお小遣いで買ったよ」
それは花束だった。
「クロが……作ったのか……?」
熱いものが込み上げて、一気に目頭が熱くなる。俺は涙もろいほうではないが、クロの成長についてだけは涙腺が緩い。クロが宮間さんに誠意をもって謝った時の号泣も、それが理由だった。
あんなに不器用なクロが、こんなに立派な花束を作れるようになっただけでも涙腺決壊寸前なのに……。
「俺に……買ってきてくれたのか……?」
権藤さんからもらうささやかなバイト代で俺にプレゼントなんて。あとひとことでも発したら咽び泣いてしまう、と思ったところでクロは言い放った。
「ハルチカのじゃないよ!」
「え?」
「お母さんの!」
視線を落とすと確かに菊が入った仏花だった。
花を包むセロファンにバタバタと涙が落ちる。その音にクロはびっくりして鼻を鳴らしはじめた。
「クロ……」
「クゥーン、クゥーン」
花束をソファにそっと置いて、クロを抱き寄せた。しばらく嗚咽でどうにもならなくなってしまい、クロを抱き寄せたままピタッと時間が止まってしまった。
「クロ……ありがとう……。明日お母さんの墓参りに行こう……」
嗚咽がおさまってクロの顔を覗き見たら、イーッと変な顔をしていた。
「違うよ、クロ。怒ってない。本当にありがとう」
クロはなんでもわかっている。俺なんかよりも、どんな人間よりも、わかっているのだ。
「お母さんも寂しがってるもんな」
クロは俺の涙をベロリと舐めて心配そうな顔をしていた。
「お母さんもクロが来たら喜ぶぞ! クロ、ちゃんと挨拶できるか?」
クロは嬉しそうに吠え散らかしたあと、ビシッと直立する。
「新名クロです! ハルチカの番です! ハルチカはお母さんのことが大好きです!」
<了>
最後までお読みいただきありがとうございました!
「え、え? は、ハルチカ、大好き!」
クロの飼い主はハルチカ
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