皇帝に追放された騎士団長の試される忠義

大田ネクロマンサー

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番外編:ミオの秘密

ミオの秘密 ※

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 俺が動きを止めたら、竜神は両手で俺を更に強く抱いて、体中を撫ではじめた。

「もう悲しくない?」

「なんで……ミオはそんなに優しいんだ……」

 さっき罪悪感を覚えたのは、過去の恋慕に未練を抱くのは不義理だという一般的な自戒だ。

「運命っていうのはさ、気持ちは関係がないんだよ。レジーみたいな強情な奴はさ、自分が思っていることとは全然違う行動をしちゃうだろ? でも運命は表に出たその行動でしか変えられないんだ」

 ミオが不思議な話をしだしたから、俺は胸から顔を離しミオを仰ぎ見た。

「本当だったら、皇帝と結ばれてたんだ。だから気持ちが運命に追いついていないんだよ。はやく……悲しくなくなればいい……」

 ミオの壮大な愛で胸も顔も熱で焦がれて、またミオのフサフサの毛に顔を埋めてしまう。

「そういえばさ俺、淫魔に擬態を教わったから皇帝にも擬態できるよ。その、そういうことしようとするとこの姿になっちゃうけど……」

「やめるんだ」

 さっきの愛に溢れる言葉を考えれば、悪意が無いことなどわかっているのに、自分でも驚くほど強い否定をしてしまう。それは皇帝への忠誠でも恋慕でもない、ミオが身を削って俺に尽くすことに疚しさを抱いていたからに他ならない。 

「ご、ごめん……」

 いつもだったら口ごたえするのに、俺の剣幕にミオは萎縮してしまった。素直に謝りたいのに、どこからどこまで事細かに説明すればいいのか分からずに黙ってしまう。こういった「ミオならわかってくれるだろう」という慢心が取り返しのつかないことになるのに。

「ミオ……」

 俺が顔をあげると、ミオは目を細めて長い首を折り畳む。胸の毛を掴んでいた手を離して顔を包んだらミオは嬉しそうに笑った。

「俺さ、レジーが恥ずかしがったり困ったりする顔……好きなんだよ……ごめん……」

 ミオの笑顔に胸がギュッと潰されて、なりふり構わず唇を求める。ミオは口角を上げたまま俺の拙い謝罪を受け入れてくれた。そして俺の腰を引き寄せ、ミオの昂った熱が、もう待てないと催促する。

「ミオ、前々から聞こうと思っていたのだが……」

「うん?」

「ミオのこれは、俺の中に入る時にどのくらいの大きさなのだ?」

 竜神は胸から腹にかけて七色に光るフカフカの毛に覆われている。俺に入ってしまっては全貌を見ることはできないし、ミオも好んで見せてはくれなかった。

「昨日は少し大きかったかな? やっぱりお腹痛い?」

「いや、俺に合わせて小さくしているのであれば、なんだか申し訳ないと思って……」

 初めて見た時の印象は成人男性の腕くらいだった。それに伸縮可能で自在に動かせることもわかっていたが、それがミオにとってどうであるかは不明だった。

「小さくなれば神経が集中して、すごく……気持ちよくなるよ……」

 ミオが珍しく恥ずかしがっている。しかし俺は別に彼の恥ずかしがっているところを見たいわけではなかった。

「どのくらいか少しやってみてくれないか? 俺が握っているから」

「な……なんで……?」

「俺もミオの秘密が知りたい」

 ミオは切長の美しい目を細めてわずかに俯いた。ミオは自分の体にあまり自信を持てないでいる。その美しさから出会った他種族はツノや鱗や爪さえも剥がしにくるというのに、彼は自分自身の姿に懐疑的だ。

「ミオが……本当に嫌だったら無理にとは言わないが……」

 ミオは目を逸らして口をキュッと結ぶ。そして俺が握っていたそれを少しずつ細くした。ミオが目を逸らしている間に、俺はフサフサの毛を掻き分けてミオの隠そうとしているそれをマジマジと見る。何度見ても雄々しい。しかし今日は前回見た時よりも細く長くなっていた。そこにゆっくりと口を近づける。

「なっ! なにを! レジー、なにするつもりなの!?」

「ミオがいつも俺にしてくれていることだ」

「だ、ダメだよ! お腹壊しちゃうだろ!」

 ミオは俺の喉から腹まで犯すつもりなのだろうか。ミオが望むならそれも構わないと濡れそぼつ先端に唇をつけた。

「ど、どうなったって! 知らないからな! あっ、ああっ!」

 俺が口の中にミオを飲み込んでいくと、部屋に静寂が訪れた。外の雨の冷気と、ミオの漏らす息に温度を感じる。丁寧に、ゆっくりと舐めあげれば時々口の中で太くなり、その度に制御をして我慢をしているのがわかる。ミオの好きにしていい、そう思った矢先、頭がすっぽりと包まれた。

 視線をあげると、ミオが思い詰めたような顔で俺の頭を優しく撫でていた。

 この時感じた衝撃をうまく表現することができない。様々な理解と納得、なにより感動が胸を震わせていた。

 思い出したのは、絶望の中乗り込んだ連絡船。初めて会ったミオに懐かしさを感じながらも、それはきっと自身の幼少期に根付く懐古だと思っていた。宝物の話を聞いた時も、ミオの胸の匂いを嗅いだ夜も。

 しかし、違ったのだ。俺は覚えていた。ミオの宝物を、胸の匂いを、慈しみ深い彼の全てを覚えていたのだ。

 あまりの衝撃に咥えていたものをポロッと落とし、呆然とする。ミオは心配そうに俺を見る。だから言葉が滑り落ちてしまった。

「こうしてもらいたかった……」

 皇帝に願ったそれは、ミオにそうしてもらったことを覚えていたのだ。

「そ、そんな顔すると、我慢できなくなるだろ……。お、俺も気持ちよかったから……レジーがまたしたいなら……いいよ……?」

 ミオは恥ずかしがりながらも俺の頭をクシャクシャとかき回す。ミオは俺の胸を打つこの感情を知らない。でも俺はどうしても伝えたかった。次生まれた時にミオだとすぐにわかるように、ミオに悲しい夜を与えないように、俺が彼を愛するように。

 もつれる言葉を吐き出そうとした時、唐突に胸の鼓動が高鳴った。高鳴ったというには生やさしいと感じるほどの動悸が俺を襲う。

「はっ……、ぁ……!」

「レジー? レジー!? なに!? 苦しいの!?」

 血が煮えたぎったように体が熱い。そして痒みに似た衝動が足の先から駆け巡る。

「レジー!」

 ミオが二の腕を掴んだら、そこから鋭利な快感が脳天まで突き抜け悲鳴をあげてしまう。その声に顔を歪めたミオは慌てて詠唱をはじめた。

「はぁっ! ああっ! ミオ!」

「レジー! 暴れないで! 暴れるなっ!」
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