自慰観察依頼

大田ネクロマンサー

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優しい男(2)

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男は、私にかかっている全ての体液を拭き取りながら言う。

「今日はゆっくりできるの?」

私は息を整えながら首を横に振る。

「じゃあ、おいで」

私は男に誘われるがまま風呂に向かう。

私は自分のことをマゾヒストなのかと考えることがある。痴態を見られることに快楽を覚えるからだ。しかし、痴態は晒せても、人から触れられることに極端な嫌悪を感じる。それは総じてサディストなのかとも思う。

風呂場に行くと男がシャワーを出して私を待っていた。
男はシャワーを頭からかけてくれる。私はその湯で顔を洗う。男は肩からシャワーをかけ、椅子へ座るよう促す。
私が座る間にボディーソープのついたタオルを男から受け取る。

「髪の毛にもかけてしまったかから、髪の毛を洗うよ」

男は私に気を使っている。
それは私がそうさせているからだ。どんな小さな穴でも、あいてしまえば決壊につながることを身をもって知っている。
しかし男は不思議とそれを超えてこないのだ。

私は頷いて、男が髪の毛を洗うことを許す。
男はさっきまでとは打って変わり、ガシガシと容赦なく洗う。

頭からシャワーを浴び、全ての泡を落とすと、男は湯船に向かい、湯に浸かった。
私は湯船に座る男の股の間に入り、男の胸に手を当ててゆっくり湯に浸かる。
そのまま男の上胸に耳を当てる。

「この前の場所まで送るよ」

私は頷く。

「まだ、遊び足りない?」

送る場所の土地柄、私がこの後夜の歓楽街で遊ぶと思ったのだろうと推測した。それでよかった。私はもっとこの男が喋らないか、待っていた。こうして胸に耳を当て、男の胸に響く声を聞くのが好きだった。

「君がお金に不自由していないことは、なんとなくわかるんだけど」

私は唐突な話題に少し身構えた。それを悟られぬように身動ぎせずにいることが、さらに勘づかれることにならないか思案した。

「こういったホテルを短時間でチェックアウトするのは、あからさますぎるから、次は俺の家にしないか?」

あからさますぎる。
考えてもみなかったことに気が逸れた。

「もし嫌だったら、連絡を無視すればいい」

私は少し安堵し、頷く。

「次がなくても、お金はいらないよ」

私はもっと、この男が何かどうでもいいことを話さないか待っていたが、結局これ以上のことを喋らなかった。

ホテルをチェックアウトし、男の車に乗り込む。都内で車を持つことは一般的なことだろうか? さっきの質問で疑念を抱く。

私はあまり車に詳しくない。この車が一般的な車なのか、そうではないのかがわからない。不安になり、ハンドルを握る男の腕時計を見やる。それに気がついたのか、気づかなかったのか、男は見透かしたように呟く。

「少しでも不安を感じたなら、連絡を無視してくれて構わないよ」

空気が揺れて、多分男が私の方を見たのだと思うが、私はそれを無視した。

目的の場所で男の車から降りた。礼も次の約束も述べず、車のドアを閉める。

発進する車を見送り、テールランプが見えなくなってから、男と会う間中カバンに入れていた腕時計を取り出す。時間はまだ23時だった。時計を腕にしながら、会社へと向かった。
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