自慰観察依頼

大田ネクロマンサー

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金を支払うということ(1)

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会社一階のエントランスでエレベーターを待つ。

私の仕事は定時という概念がない。社内に併設された、利用制限のないジムやカフェ。つまり勤務中にジムに行こうが、酒を飲もうが、外でセックスしようが、咎められることはない。そのかわりに、昼も夜もないのだ。こうやって夜中に数時間抜け出せるのは特権といえば特権だが、抜けた分の仕事は全て自分に降りかかってくる。

際限なく求められる精度の高い資料、昼夜問わず開かれる会議。一般的にいえば高給取りなのかもしれないが、そのかわりに求められることも多い。

年収や労働時間の話になると必ず「やりがい」という曖昧な概念についてコメントを求められるが、本質的に事業会社以外の業態に、そんなものはない。あらゆる手段で時間を煮詰め、それを換金するだけの、いわば作業だ。評価はその純度に応じ、金という尺度で完結する。公私、昼夜問わず、ただひたすらにその純度を高めることに傾倒する。「やりがい」はないが、この仕事は私には合っていた。

それ以外のことに傾倒する必要がないからだ。

会社へ上がるエレベーターのドアが開く。

しかし、私は開いたエレベーターに乗らず、エントランスホールのソファに腰掛けた。夜のエントランスはホテルの雰囲気と似ている。


エレベーターを見送り、私はあの男に初めて会った日のことを思い出していた。

条件提示型の仲介サイトに掲載したことを忘れた頃、男から初めての連絡があった。それ専用に作った捨てアカウントで場所と日時を指定して落ち合う。男の第一声はこうだ。

「思っていたよりキレイなんだな」

その苦笑いを見た時に、男も私と求めていたものが同じなのかもしれないと思った。私と同じ、もっと汚い男を求めていたのかもしれないと。

ホテルの一室へ入り男は質問をする。

「女の子ではダメなの?」

私は男を一瞥し、カバンをベッドに放り投げた。カバンがベッドに着地したことを見届けると、男を見ながらネクタイを緩め始める。

「質問もダメなら、答えなくてもいいよ、だからそんな目で睨まないでくれ」

私は男の前で着ているものを脱ぎ出しバサバサとベッドに放り込んで行く。男は顔を背ける。これは期待外れだったかもしれない、そう思った矢先に、私はカフスを床に落としてしまった。

男はその音に気がつき、私と同時に拾おうとした。しかし私は手を止めた。

それを見た男は、私とどう接すればいいのか理解したようだった。

裸で立ち尽くす私に、触れないようカフスを返す男。

男はベッドの端に腰掛け、しばらく俯いていた。そして、ようやく顔を上げるとともに質問をしたのだ。

「いつもはどうやって自分を慰めているの?」

私は男の横からベッドに上がり、枕元に膝を立てて座った。そして背中を丸め自分のペニスを見つめる。男は振り返り土足のまま私に触れない程度のところへ寝転んだ。男は頬杖をつき、私の股間を覗き込む。

「見ていてあげるから、やってごらん?」

私はまだ勃起していないペニスを握った。正直なところ、この男では性欲が掻き立てられなかった。少しの緊張もあったかもしれない。それもこれも、男があまりにも理想からかけ離れていたからだ。
しばらく、投げやりにペニスを擦ったが、勃つ気配がない。

「君は正直でいいね」

男は優しく微笑んだ。
男は靴を脱ぎ始めた。私は、何を始めるつもりだろう、とぼんやり見ていた。

男は私が端を踏んでいた枕をどかし、前に移動するよう促す。そして移動した私の両端に男の足が伸びてきた。
男は私に触れぬよう、器用に私の後ろへ座ったのだ。

「嫌じゃなければ、寄りかかって」

私は言われるがまま後ろに下がり男に寄りかかる。男の股間が熱くなっているのを背中から感じた。

「ゆっくりでいいから、手を動かしてごらん?」

男の声が男の胸から聞こえる。
男の体温を感じると、少しだけペニスが硬くなった。ゆっくり自分のものをしごいていく。

「そう、よく見えるよ」

男の顔は見えないが、見ている。男の体温が伝わる。そう思うと少しだけ性欲が湧き始めるが、私の理性を失わせるほどではなかった。
しばらく黙々と自分のペニスをしごいていたが、男は見かねて言った。

「いつもは手だけでしているの?」

私はゆっくり手を止めて、ベッドに転がっていたカバンを引き寄せた。
カバンから袋に包まれたブジーとローションを取り出すと、男は少し笑う。

「なんで隠してたの?」

私はこの言葉に一気に欲情した。

私がローションを取ろうと手を伸ばすと、男はそれを取り上げ、私のペニスの上にローションを落とした。
私はブジーをゆっくりペニスに当てる。腹の底で何かが締まるような感覚に襲われる。
男のペニスが背中に押し付けられた気がした。

私はブジーをゆっくり挿入していく。男がローションを継ぎ足すたびに、快楽が私の理性を奪っていき、息を荒げることへの抵抗をなくしていった。
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