38 / 38
<おまけ>固い結び目(イラスト付き)
しおりを挟む
「生きるのがツラくてなにが悪い!」はワンライを長編化した物語です。該当のワンライは2つあり、1つは1話に組み込まれており、もう一つは物語には組み込まなかったので、おまけとして公開いたします。
<1話に組み込まれたワンライお題>
#一次創作BL版深夜の真剣60分一本勝負
お題:好きな曲/散歩/そっぽ向かないで
タイトル:乱反射
<おまけのワンライのお題>
#一次創作BL版深夜の真剣60分一本勝負
お題:考え直して/平穏/靴ひも
タイトル:固い結び目
◆◆◆◆
「あのさ……」
さっきまで彼氏だった椎名君を玄関先で引き止める。靴を履きながら面倒そうに振り返るその目からもう答えがわかって、考え直して、 とは言えなかった。目を背けるため俯いたら視界にスニーカーが目に飛び込んでくる。靴紐がだらしなく解けてたから、屈んで結びなおした。
「なんなんだよ、そういうのがうぜーんだよ」
「でも外は雨が降ってるし、最後くらい……」
そこから先は胸から感情が込み上げて言えなかった。手が震えてもたもた結っていたら、上からため息が降ってくる。
「そんなキツく結んだら脱げねぇだろ」
「じゃあもう脱がなければいいよ。靴を見るたび僕を……思い出せばいい……」
最後のささやかな抵抗に椎名君が息をのむ。それはおじさんの執着に怯えているのかもしれない。
椎名君のスニーカーは、若さの象徴だった。僕よりずっと若い彼の考えていることなんか最後まで理解できなかったし、別れる理由もわからなかった。
昨日まで平穏に愛し合っていたのに今日から他人。なぜ人は別れるとその後の関係を断ち切らなければならないのだろう。別れたあとも一緒にいるのがつらいからなんていうのならば、それは違うだろうと反論したくなる。一緒にいてもあんなに胸が苦しかったのに。
「そっか……」
急に答えがわかって口をついて溢れてしまった。苦しいのに耐えられないなら、人と付き合う資格なんてないんだ。
「なに納得してるんだよ、おっさん。俺は全然納得できねーんだけど」
律儀にも僕が立ち上がるまで待っていたのか椎名君が怒り出す。もうその理不尽さに立ち上がることも宥めることもできなかった。
「え、え!? なに泣いてんだよ!!」
気持ち悪いなら早く出ていけばいい。これ以上居られると自分でもドン引きするようなみっともないこと言い出しそうなんだ。
「おっさんが他に乗り換えたんだろ! 泣きてーのはこっちだよ!!」
「ええ!?」
涙を流していることも忘れてスクッと立ち上がる。
「僕は誰に乗り換えたことになってるの!? それは椎名君よりイケメンなの!?」
「な……」
「ねえ、おじさんは椎名君みたいなイマドキの若い子がなに考えてるか本気でわからないんだ。なにがそう誤解させたのか詳しく、しかし3行くらいで教えてもらいたい」
「3行……」
「僕は椎名君しかいないんだ。さっきだって、椎名君が後3秒黙ってたら、ドン引きするようなこと言ってたと思う」
「なに、言ってよ」
「椎名君が好きすぎて生きるのがツラい。でも別れるくらいだったら死んだ方がマシ」
「なかなか重てぇな……」
「3行で言えそう?」
「やっぱり別れない」
僕が驚いて椎名君をみたら、恥ずかしそうに笑った。
「俺もおっさんが好きすぎて生きるのがツラい」
「え……?」
「疑ってごめん……3行」
最後の3行という言葉で恥ずかしいくらい泣き出してしまう。彼は僕を優しく抱きしめて、家に入ろうと靴を脱ごうとするが、なかなか脱げないようだった。
「ほらぁ、キツく結びすぎなんだよ!」
椎名君が笑いながら僕にキスをしてくれた。
◆◆◆◆
おまけイラスト
等身大の踊る椎名君を描いていただきました。
<1話に組み込まれたワンライお題>
#一次創作BL版深夜の真剣60分一本勝負
お題:好きな曲/散歩/そっぽ向かないで
タイトル:乱反射
<おまけのワンライのお題>
#一次創作BL版深夜の真剣60分一本勝負
お題:考え直して/平穏/靴ひも
タイトル:固い結び目
◆◆◆◆
「あのさ……」
さっきまで彼氏だった椎名君を玄関先で引き止める。靴を履きながら面倒そうに振り返るその目からもう答えがわかって、考え直して、 とは言えなかった。目を背けるため俯いたら視界にスニーカーが目に飛び込んでくる。靴紐がだらしなく解けてたから、屈んで結びなおした。
「なんなんだよ、そういうのがうぜーんだよ」
「でも外は雨が降ってるし、最後くらい……」
そこから先は胸から感情が込み上げて言えなかった。手が震えてもたもた結っていたら、上からため息が降ってくる。
「そんなキツく結んだら脱げねぇだろ」
「じゃあもう脱がなければいいよ。靴を見るたび僕を……思い出せばいい……」
最後のささやかな抵抗に椎名君が息をのむ。それはおじさんの執着に怯えているのかもしれない。
椎名君のスニーカーは、若さの象徴だった。僕よりずっと若い彼の考えていることなんか最後まで理解できなかったし、別れる理由もわからなかった。
昨日まで平穏に愛し合っていたのに今日から他人。なぜ人は別れるとその後の関係を断ち切らなければならないのだろう。別れたあとも一緒にいるのがつらいからなんていうのならば、それは違うだろうと反論したくなる。一緒にいてもあんなに胸が苦しかったのに。
「そっか……」
急に答えがわかって口をついて溢れてしまった。苦しいのに耐えられないなら、人と付き合う資格なんてないんだ。
「なに納得してるんだよ、おっさん。俺は全然納得できねーんだけど」
律儀にも僕が立ち上がるまで待っていたのか椎名君が怒り出す。もうその理不尽さに立ち上がることも宥めることもできなかった。
「え、え!? なに泣いてんだよ!!」
気持ち悪いなら早く出ていけばいい。これ以上居られると自分でもドン引きするようなみっともないこと言い出しそうなんだ。
「おっさんが他に乗り換えたんだろ! 泣きてーのはこっちだよ!!」
「ええ!?」
涙を流していることも忘れてスクッと立ち上がる。
「僕は誰に乗り換えたことになってるの!? それは椎名君よりイケメンなの!?」
「な……」
「ねえ、おじさんは椎名君みたいなイマドキの若い子がなに考えてるか本気でわからないんだ。なにがそう誤解させたのか詳しく、しかし3行くらいで教えてもらいたい」
「3行……」
「僕は椎名君しかいないんだ。さっきだって、椎名君が後3秒黙ってたら、ドン引きするようなこと言ってたと思う」
「なに、言ってよ」
「椎名君が好きすぎて生きるのがツラい。でも別れるくらいだったら死んだ方がマシ」
「なかなか重てぇな……」
「3行で言えそう?」
「やっぱり別れない」
僕が驚いて椎名君をみたら、恥ずかしそうに笑った。
「俺もおっさんが好きすぎて生きるのがツラい」
「え……?」
「疑ってごめん……3行」
最後の3行という言葉で恥ずかしいくらい泣き出してしまう。彼は僕を優しく抱きしめて、家に入ろうと靴を脱ごうとするが、なかなか脱げないようだった。
「ほらぁ、キツく結びすぎなんだよ!」
椎名君が笑いながら僕にキスをしてくれた。
◆◆◆◆
おまけイラスト
等身大の踊る椎名君を描いていただきました。
0
この作品の感想を投稿する
みんなの感想(4件)
あなたにおすすめの小説
オッサン課長のくせに、無自覚に色気がありすぎる~ヨレヨレ上司とエリート部下、恋は仕事の延長ですか?
中岡 始
BL
「新しい営業課長は、超敏腕らしい」
そんな噂を聞いて、期待していた橘陽翔(28)。
しかし、本社に異動してきた榊圭吾(42)は――
ヨレヨレのスーツ、だるそうな関西弁、ネクタイはゆるゆる。
(……いやいや、これがウワサの敏腕課長⁉ 絶対ハズレ上司だろ)
ところが、初めての商談でその評価は一変する。
榊は巧みな話術と冷静な判断で、取引先をあっさり落としにかかる。
(仕事できる……! でも、普段がズボラすぎるんだよな)
ネクタイを締め直したり、書類のコーヒー染みを指摘したり――
なぜか陽翔は、榊の世話を焼くようになっていく。
そして気づく。
「この人、仕事中はめちゃくちゃデキるのに……なんでこんなに色気ダダ漏れなんだ?」
煙草をくゆらせる仕草。
ネクタイを緩める無防備な姿。
そのたびに、陽翔の理性は削られていく。
「俺、もう待てないんで……」
ついに陽翔は榊を追い詰めるが――
「……お前、ほんまに俺のこと好きなんか?」
攻めるエリート部下 × 無自覚な色気ダダ漏れのオッサン上司。
じわじわ迫る恋の攻防戦、始まります。
【最新話:主任補佐のくせに、年下部下に見透かされている(気がする)ー関西弁とミルクティーと、春のすこし前に恋が始まった話】
主任補佐として、ちゃんとせなあかん──
そう思っていたのに、君はなぜか、俺の“弱いとこ”ばっかり見抜いてくる。
春のすこし手前、まだ肌寒い季節。
新卒配属された年下部下・瀬戸 悠貴は、無表情で口数も少ないけれど、妙に人の感情に鋭い。
風邪気味で声がかすれた朝、佐倉 奏太は、彼にそっと差し出された「ミルクティー」に言葉を失う。
何も言わないのに、なぜか伝わってしまう。
拒むでも、求めるでもなく、ただそばにいようとするその距離感に──佐倉の心は少しずつ、ほどけていく。
年上なのに、守られるみたいで、悔しいけどうれしい。
これはまだ、恋になる“少し前”の物語。
関西弁とミルクティーに包まれた、ふたりだけの静かな始まり。
(5月14日より連載開始)
【完結】※セーブポイントに入って一汁三菜の夕飯を頂いた勇者くんは体力が全回復します。
きのこいもむし
BL
ある日突然セーブポイントになってしまった自宅のクローゼットからダンジョン攻略中の勇者くんが出てきたので、一汁三菜の夕飯を作って一緒に食べようねみたいなお料理BLです。
自炊に目覚めた独身フリーターのアラサー男子(27)が、セーブポイントの中に入ると体力が全回復するタイプの勇者くん(19)を餌付けしてそれを肴に旨い酒を飲むだけの逆異世界転移もの。
食いしん坊わんこのローグライク系勇者×料理好きのセーブポイント系平凡受けの超ほんわかした感じの話です。
イケメン後輩のスマホを拾ったらロック画が俺でした
天埜鳩愛
BL
☆本編番外編 完結済✨ 感想嬉しいです!
元バスケ部の俺が拾ったスマホのロック画は、ユニフォーム姿の“俺”。
持ち主は、顔面国宝の一年生。
なんで俺の写真? なんでロック画?
問い詰める間もなく「この人が最優先なんで」って宣言されて、女子の悲鳴の中、肩を掴まれて連行された。……俺、ただスマホ届けに来ただけなんだけど。
頼られたら嫌とは言えない南澤燈真は高校二年生。クールなイケメン後輩、北門唯が置き忘れたスマホを手に取ってみると、ロック画が何故か中学時代の燈真だった! 北門はモテ男ゆえに女子からしつこくされ、燈真が助けることに。その日から学年を越え急激に仲良くなる二人。燈真は誰にも言えなかった悩みを北門にだけ打ち明けて……。一途なメロ後輩 × 絆され男前先輩の、救いすくわれ・持ちつ持たれつラブ!
☆ノベマ!の青春BLコンテスト最終選考作品に加筆&新エピソードを加えたアルファポリス版です。
【完結】君を上手に振る方法
社菘
BL
「んー、じゃあ俺と付き合う?」
「………はいっ?」
ひょんなことから、入学して早々距離感バグな見知らぬ先輩にそう言われた。
スクールカーストの上位というより、もはや王座にいるような学園のアイドルは『告白を断る理由が面倒だから、付き合っている人がほしい』のだそう。
お互いに利害が一致していたので、付き合ってみたのだが――
「……だめだ。僕、先輩のことを本気で……」
偽物の恋人から始まった不思議な関係。
デートはしたことないのに、キスだけが上手くなる。
この関係って、一体なに?
「……宇佐美くん。俺のこと、上手に振ってね」
年下うさぎ顔純粋男子(高1)×精神的優位美人男子(高3)の甘酸っぱくじれったい、少しだけ切ない恋の話。
✧毎日2回更新中!ボーナスタイムに更新予定✧
✧お気に入り登録・各話♡・エール📣作者大歓喜します✧
完結|好きから一番遠いはずだった
七角@書籍化進行中!
BL
大学生の石田陽は、石ころみたいな自分に自信がない。酒の力を借りて恋愛のきっかけをつかもうと意気込む。
しかしサークル歴代最高イケメン・星川叶斗が邪魔してくる。恋愛なんて簡単そうなこの後輩、ずるいし、好きじゃない。
なのにあれこれ世話を焼かれる。いや利用されてるだけだ。恋愛相手として最も遠い後輩に、勘違いしない。
…はずだった。
わがまま放題の悪役令息はイケメンの王に溺愛される
水ノ瀬 あおい
BL
若くして王となった幼馴染のリューラと公爵令息として生まれた頃からチヤホヤされ、神童とも言われて調子に乗っていたサライド。
昔は泣き虫で気弱だったリューラだが、いつの間にか顔も性格も身体つきも政治手腕も剣の腕も……何もかも完璧で、手の届かない眩しい存在になっていた。
年下でもあるリューラに何一つ敵わず、不貞腐れていたサライド。
リューラが国民から愛され、称賛される度にサライドは少し憎らしく思っていた。
Take On Me
マン太
BL
親父の借金を返済するため、ヤクザの若頭、岳(たける)の元でハウスキーパーとして働く事になった大和(やまと)。
初めは乗り気でなかったが、持ち前の前向きな性格により、次第に力を発揮していく。
岳とも次第に打ち解ける様になり…。
軽いノリのお話しを目指しています。
※BLに分類していますが軽めです。
※他サイトへも掲載しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。

最高に良かった。こういうのもっとください(お辞儀)。
主人公の二人も最高だし(須藤さんすぐ泣くしヒステリックな女の子みたいだけど、てんぱる気持ちめちゃくちゃ分かる)、
マーケティングの話も仕事で大切な結論を導き出すところもとてもよかったし、
商品開発のチームの人に商品のよさを伝えて涙しそうになるところで読んでるこちらは堪えきれずに涙したし、
椎名君が、今度は友達に戻れるよって言ったところでも泣きました。椎名君は頭が良くて須藤さんのことを大事に思って、ちゃんと考えているんだね…!(感涙)
椎名君が一切ぶれずに須藤さんのことを好きでいるのが本当に本当にいいなと思いました。
完結してるのが残念です。もっと二人のことを見ていたかった。
こういうのもっとください!(お辞儀)
sakuraさん
ボリュームのあるお話にもかかわらず、読んでいただけたうえに、マーケティングの話まで読み込んでいただいて……私が泣きそうです🥲本当にありがとうございます😭
現代モノをなんとなく避けていた自分がいたのですが、sakuraさんの言葉で背中を押してもらえました🙇♂️
読んでいただき、そしてご感想をいただき本当にありがとうございました😊
(また書きます!)
毎日更新を楽しみに読んでいます。
どの登場人物の気持ちも、
どこか今まで感じたことのあるものばかりで
ハッとしたりウンウンと頷いたり。
自分の中の曖昧な気持ちが
言葉にされると嬉しいですね。
これからの2人?3人?の展開を
楽しみにしています😊✨
無理はされないよう頑張ってください✨
とんこうさん
貴重なお時間を割いて読んでいただきありがとうございます😊😊
今を生きることが本当にツラいと未完のまま連載をはじめて痛感しています😂😅優しいお言葉、痛み入ります😊
これからどうなっていくのか、自分自身も課題解決できるか謎ですが、もうしばらくお付き合いいただければ幸いです🥰
胸がきゅんきゅんして一気読みしちゃいました
更新楽しみにしています!
まことママさん
きゅんきゅんしていただいて、ありがとうございます🥰💕
はじめて未完のまま書きながら連載しているので私もドキドキしています💓
一緒に旅していただいてとても嬉しいです😊😊