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雨の降る日
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ピピピ…と目覚ましの音が耳に響き、重い目蓋を持ち上げて眠たい瞳で見つめる。
ベッドのサイドテーブルに置いていたスマホから大きなアラーム音を響かせていた。
手を伸ばして、アラームを切るとホーム画面が映し出された。
着信が一件入っていて、それを見なかった事にして起き上がる。
大学の学生寮で一人暮らしを始めて二年が過ぎていた。
あまり物もない殺風景な部屋で、暮らしている。
バイトはしているし、学費も奨学金で通っているから特に困っている事はない。
今困っている事といえば、頭がとても痛い事…でもこれは俺にはどうする事も出来ない。
頭痛薬を飲んでも俺の頭はあの事を思い出して拒否反応を起こす。
窓を叩く音に嫌な感じがしつつ、大学に行くためにベッドから降りた。
梅雨の真っ只中の季節、毎日のように降り続ける雨。
片頭痛というわけではない、頭の痛さと同時にあの事も思い出すからだ。
幼稚園児の頃、両親は離婚して母に引き取られた。
俺のために一生懸命働く母を見ていて、大きくなったら楽させてやるんだと子供ながらに思っていた。
小学校に上がる頃に、母は再婚してやっと母は楽になれるんだと思っていた。
でもある日の夜、急にトイレがしたくなって目を覚まして布団から起き上がるとリビングに続く襖から明かりが漏れているのが見えた。
母と義父の声が聞こえてきて、好奇心で覗き込んだ。
二人の話は、俺の養育費の話で当時の俺は何の事か分からなかった。
一度だけではなく、よくその話を俺が眠った夜にしていた。
でも、俺の耳は分からない事ながらもその言葉を覚えていた。
それを理解出来たのは小学校卒業間近まで掛かってしまった。
俺の養育費を再婚した後も実の父に知らせず貰い続けていた。
父は会社を経営していて、働かなくても親子二人でやっていけるほどの金は貰っていた。
母が働きに出ていると思っていたが、子供を置いて外に遊びに行っていたらしい。
そこで知り合った男と再婚したが、俺の事をいないもののようにしていた。
俺も父はいい思い出はなかったが、実の父だけが本物の父だと思っていたから気にしなかった。
母が俺の養育費目当てで引き取ったとしても、俺は住む場所と食事さえあればいいと思っていた。
友達はゲームや漫画などで盛り上がっていても、俺には何も与えられないし…ねだると義父に殴られていたから何も言わなくなった。
知らないのに周りに合わせる事を小さいながらに学んでいた。
それが、世界で孤立しないために必要な事だと理解している。
あの日もこんな激しく雨が降っていたジメジメとした日だった。
中学生だった俺は部活をしていなかったから、授業が終わるとすぐに家に帰った。
水溜りを踏むと、靴の底が染みていて靴下まで冷たく嫌な感じがした。
早く帰って、靴下を脱ぎたいと思いながら鍵を開けてアパートの中に入った。
家の中には誰もいなくて、いつもの事だと思っていた。
でも、いつもと違うのは夕飯代として置いてある筈のお金がなかった。
すぐ帰ってくるからないのかと思って、宿題をしていた。
しかし、その日誰も帰ってくる事はなかった……次の日も、その次の日も…
いつか帰ってくると信じていたが、いつまでも帰って来なかった。
腹が限界でどうしたらいいのか分からずに近くの交番に向かったら保護された。
俺は母に捨てられたんだと、その時初めて理解した。
ずっと雨が降り続けていた、俺の心も静かに泣いていた。
あれから施設で暮らして、今はその施設も出て大学の寮にいる。
両親が何をしているのか分からない、俺を捨てた後ももしかしたらずっと養育費を貰っていたのかもしれない。
俺は俺の人生を歩むつもりだ、もうあの人に振り回されたくはない。
痛む頭に眉を寄せながら寝間着を着替えて、寮を出た。
ポツポツと傘に雫が落ちる音を響かせながら、水溜りを避けて歩く。
大手ゲームショップの前を通り、広告が見えた。
待望の最新作の続編と大々的に宣伝していて、思い出した。
このゲームの初代は二世代前のゲーム機で発売されたゲームだった事を覚えている。
施設にいた中学生の頃、誕生日プレゼントとして先生達にゲーム機を買ってもらったからよく覚えている。
そして、施設の女の子達に「もうクリアしたから」とゲームを貰った。
初めてのプレゼントで大切にしていて、大学生になった今でもそのゲームを持っている。
広告の絵は少し大人びた少女とその後ろには少女を守るように数人の男達がいた。
俺が知っているゲームはもう少し幼かったから、大人になった姿なのかな。
見つめていたら、店の中にある時計が見えて時間が迫っているのに気付いて大学に急いだ。
大学に着いても頭痛は治らず、ため息を吐いていると友人が俺の肩を叩いた。
「どうしたんだー?彼女にフラれたのか?」
「彼女はいないって…ちょっと雨は憂鬱になるだけだから」
「あー、確かにな…そんな時は合コンしようぜ!可愛い子が集まりそうなんだよ!」
友人は他の友人達と盛り上がっているが、俺は今そんな気分ではない。
丁重に断って、さっさと帰って雨の日は何もしないで家に居ようと思った。
帰り道、もう一度ゲームショップの前を通った。
貰ってすぐにゲームをやっていたからクリアしてからやっていなかった。
久々にやろうかな、気分転換にもなりそうだし。
そのまま寮に向かって歩いた、早くトラウマが克服出来たらいいのに…
寮の部屋のベッドに倒れるように横になり、今日は何もしたくなかった。
雨音だけが静かに響いて、目蓋を閉じて眠ろうと思った。
でも考える事はあの捨てられたら雨の日の事だった。
眠れなくて目を開けると、付けた覚えがないテレビが勝手に付いていた。
寮の全ての部屋に備え付けられたテレビは、なにかを映し出していた。
それは昔俺がやっていたあのゲームのCMだった。
最新作だからアニメーションがゲームにあるのかCMのために作られたのか分からない。
ぼんやりとした意識の中、ベッドから降りてテレビに近付く。
黒髪のボブヘアーの女性がドレスを揺らしながら走っている。
「新しい生活、新しい出会いを貴女に…」
暗い人生に光が差したその顔は、幸せいっぱいで明るく見えた。
初めてゲームを買ってもらったあの頃を思い出して懐かしさに頬が緩む。
主人公は操り人形屋敷の令嬢で、両親に溺愛されて生きてきた。
その反動で姉と弟には嫌われていて、いつも影で奴隷のようにこき使われていた。
それでも主人公は持ち前の明るさと強気な態度で姉と弟に言いなりにならずに反抗したりしていた。
黒の王国と呼ばれるところが舞台で、パッケージに描かれていた男達と恋愛するゲームでゲームが下手な俺でも出来た。
極悪令嬢と呼ばれる少女は恋愛を通して、最強キャラの男達を味方に操り人形屋敷と戦う物語だ。
ベッドのサイドテーブルに置いていたスマホから大きなアラーム音を響かせていた。
手を伸ばして、アラームを切るとホーム画面が映し出された。
着信が一件入っていて、それを見なかった事にして起き上がる。
大学の学生寮で一人暮らしを始めて二年が過ぎていた。
あまり物もない殺風景な部屋で、暮らしている。
バイトはしているし、学費も奨学金で通っているから特に困っている事はない。
今困っている事といえば、頭がとても痛い事…でもこれは俺にはどうする事も出来ない。
頭痛薬を飲んでも俺の頭はあの事を思い出して拒否反応を起こす。
窓を叩く音に嫌な感じがしつつ、大学に行くためにベッドから降りた。
梅雨の真っ只中の季節、毎日のように降り続ける雨。
片頭痛というわけではない、頭の痛さと同時にあの事も思い出すからだ。
幼稚園児の頃、両親は離婚して母に引き取られた。
俺のために一生懸命働く母を見ていて、大きくなったら楽させてやるんだと子供ながらに思っていた。
小学校に上がる頃に、母は再婚してやっと母は楽になれるんだと思っていた。
でもある日の夜、急にトイレがしたくなって目を覚まして布団から起き上がるとリビングに続く襖から明かりが漏れているのが見えた。
母と義父の声が聞こえてきて、好奇心で覗き込んだ。
二人の話は、俺の養育費の話で当時の俺は何の事か分からなかった。
一度だけではなく、よくその話を俺が眠った夜にしていた。
でも、俺の耳は分からない事ながらもその言葉を覚えていた。
それを理解出来たのは小学校卒業間近まで掛かってしまった。
俺の養育費を再婚した後も実の父に知らせず貰い続けていた。
父は会社を経営していて、働かなくても親子二人でやっていけるほどの金は貰っていた。
母が働きに出ていると思っていたが、子供を置いて外に遊びに行っていたらしい。
そこで知り合った男と再婚したが、俺の事をいないもののようにしていた。
俺も父はいい思い出はなかったが、実の父だけが本物の父だと思っていたから気にしなかった。
母が俺の養育費目当てで引き取ったとしても、俺は住む場所と食事さえあればいいと思っていた。
友達はゲームや漫画などで盛り上がっていても、俺には何も与えられないし…ねだると義父に殴られていたから何も言わなくなった。
知らないのに周りに合わせる事を小さいながらに学んでいた。
それが、世界で孤立しないために必要な事だと理解している。
あの日もこんな激しく雨が降っていたジメジメとした日だった。
中学生だった俺は部活をしていなかったから、授業が終わるとすぐに家に帰った。
水溜りを踏むと、靴の底が染みていて靴下まで冷たく嫌な感じがした。
早く帰って、靴下を脱ぎたいと思いながら鍵を開けてアパートの中に入った。
家の中には誰もいなくて、いつもの事だと思っていた。
でも、いつもと違うのは夕飯代として置いてある筈のお金がなかった。
すぐ帰ってくるからないのかと思って、宿題をしていた。
しかし、その日誰も帰ってくる事はなかった……次の日も、その次の日も…
いつか帰ってくると信じていたが、いつまでも帰って来なかった。
腹が限界でどうしたらいいのか分からずに近くの交番に向かったら保護された。
俺は母に捨てられたんだと、その時初めて理解した。
ずっと雨が降り続けていた、俺の心も静かに泣いていた。
あれから施設で暮らして、今はその施設も出て大学の寮にいる。
両親が何をしているのか分からない、俺を捨てた後ももしかしたらずっと養育費を貰っていたのかもしれない。
俺は俺の人生を歩むつもりだ、もうあの人に振り回されたくはない。
痛む頭に眉を寄せながら寝間着を着替えて、寮を出た。
ポツポツと傘に雫が落ちる音を響かせながら、水溜りを避けて歩く。
大手ゲームショップの前を通り、広告が見えた。
待望の最新作の続編と大々的に宣伝していて、思い出した。
このゲームの初代は二世代前のゲーム機で発売されたゲームだった事を覚えている。
施設にいた中学生の頃、誕生日プレゼントとして先生達にゲーム機を買ってもらったからよく覚えている。
そして、施設の女の子達に「もうクリアしたから」とゲームを貰った。
初めてのプレゼントで大切にしていて、大学生になった今でもそのゲームを持っている。
広告の絵は少し大人びた少女とその後ろには少女を守るように数人の男達がいた。
俺が知っているゲームはもう少し幼かったから、大人になった姿なのかな。
見つめていたら、店の中にある時計が見えて時間が迫っているのに気付いて大学に急いだ。
大学に着いても頭痛は治らず、ため息を吐いていると友人が俺の肩を叩いた。
「どうしたんだー?彼女にフラれたのか?」
「彼女はいないって…ちょっと雨は憂鬱になるだけだから」
「あー、確かにな…そんな時は合コンしようぜ!可愛い子が集まりそうなんだよ!」
友人は他の友人達と盛り上がっているが、俺は今そんな気分ではない。
丁重に断って、さっさと帰って雨の日は何もしないで家に居ようと思った。
帰り道、もう一度ゲームショップの前を通った。
貰ってすぐにゲームをやっていたからクリアしてからやっていなかった。
久々にやろうかな、気分転換にもなりそうだし。
そのまま寮に向かって歩いた、早くトラウマが克服出来たらいいのに…
寮の部屋のベッドに倒れるように横になり、今日は何もしたくなかった。
雨音だけが静かに響いて、目蓋を閉じて眠ろうと思った。
でも考える事はあの捨てられたら雨の日の事だった。
眠れなくて目を開けると、付けた覚えがないテレビが勝手に付いていた。
寮の全ての部屋に備え付けられたテレビは、なにかを映し出していた。
それは昔俺がやっていたあのゲームのCMだった。
最新作だからアニメーションがゲームにあるのかCMのために作られたのか分からない。
ぼんやりとした意識の中、ベッドから降りてテレビに近付く。
黒髪のボブヘアーの女性がドレスを揺らしながら走っている。
「新しい生活、新しい出会いを貴女に…」
暗い人生に光が差したその顔は、幸せいっぱいで明るく見えた。
初めてゲームを買ってもらったあの頃を思い出して懐かしさに頬が緩む。
主人公は操り人形屋敷の令嬢で、両親に溺愛されて生きてきた。
その反動で姉と弟には嫌われていて、いつも影で奴隷のようにこき使われていた。
それでも主人公は持ち前の明るさと強気な態度で姉と弟に言いなりにならずに反抗したりしていた。
黒の王国と呼ばれるところが舞台で、パッケージに描かれていた男達と恋愛するゲームでゲームが下手な俺でも出来た。
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