乙女ゲームで強悪役な俺が人外攻略達とハーレムになりました

鮎田

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新しい人生

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堅物騎士団長や軟派副団長の騎士や執事と謎の商人と暗殺者と恋愛が出来て、同時に恋愛が可能で最後に一人を選ぶ事でその人のエンディングになるらしい。
「操り令嬢と悪魔な旦那様」というのがこのゲームのタイトル。

上手く好感度を上げれば、全員旦那に出来る特殊エンディングもある。
攻略条件がないからか、最初に見たのはそのエンディングだった。

何度かそのエンディングばかり向かってしまい、頑張ってやっと全てがコンプリートが出来た。
思い出していたら、また頭が痛くなってベッドに戻った。








雨の日が続いて、頭がズキズキしながらいつもの寮への道を歩いていた。

寮の前に誰かが見えて、俺はそのままその人の横を通り過ぎようと思っていた。
名前を呼ばれたら、足を止めないわけにはいかない。

後ろを振り返ると、茶髪が肩まで長い派手な女性がいた。
一瞬化粧が濃くて、誰だか分からなかったがすぐに分かると目を見開いた。
頭痛が酷くなり、今にも倒れてしまいそうになる。

「…久しぶり、ね」

「……母、さん」

「覚えてくれたのね、嬉しいわ」

母親はそう言って笑っていて、俺の腕に触れてくる。
振り払いたい気持ちでいっぱいだったが、身体が動かなかった。

なんで今更会いに来るんだよ…俺の事、捨てて今まで一度も来なかったのに…

俺が気付いていないと思っているのだろう、養育費の事も俺を引き取った本当の理由も…
覗いて知ったんだ、本人達には言ってはいけないと子供ながらに理解していたから母には何も言っていない。

捨てられた事も分かっていないと思っているのか、俺は馬鹿じゃない。

「俺、忙しいから」

「待って!母さん、貴方に謝りたくて」

「謝る…?」

「あの人と別れたの…また、一緒に暮らさない?」

そんな事言う資格があるのか、俺を捨てたくせに……いろいろ言いたい事はあった。

でも、俺は目の前で俯くこの人をどうしても突き放す事は出来なかった。

ずっと両親の愛情に飢えていた、甘えてもいつも「忙しい」と言われていた。
また捨てられたら傷付くのは俺、でも俺はもう子供じゃない…母が行方不明になったとしてもそれは母が自分で決めた事だ、俺はもうあんな思いはしない。

父は何処にいるか分からない俺にとって、母は唯一の肉親だ…どんなに憎くてもそれは変わらない。
俺のトラウマを克服するために、もう一度母と暮らそうと思った。

裏切られる事には慣れている、だからどんな事があっても覚悟していた。

まさかあんな事になるなんて思わなかった、俺は自分で思っている以上に愚か者だった。

母はマンションで一人暮らしをしているらしくて、俺は荷物をまとめて寮から出て母のところに向かった。

母が俺のために初めて手料理を作ってくれた、コンビニの冷たい弁当ではなく暖かい料理だ。
俺がずっとほしくて、何度も願っても手に入れる事が出来ないものだった。
母はスーパーでパートしているらしくて、賞味期限が近くなった食材を安く買って料理を作ってくれた。

もっと早く味わいたかった、なんでもっと早く迎えに来てくれなかったんだよ。

心の叫びを飲み込んで「美味しいよ」と母に言った。
母は嬉しそうにしていて、俺も何だか照れくさい気分だった。

そんな幸せだった毎日は、突然大きく雪崩のように崩れ去っていった。

雨の日、俺は初めて頭痛がしなくなって…母へのトラウマが少し和らいだのかなと思っていた。
あのトラウマは簡単に消え去る事はない、でも…和らぐ事はある。
ポツポツと振る雨を窓越しに眺めていたらチャイムが鳴らされた。

今日はバイトも大学も休みで、雨だから友人達と出かける気も起きなかった。
だから家にいると母に言ったら荷物が来るから出てほしいと言われていた事を思い出した。

宅配便かと思ってインターフォンに出ると、やはり宅配便ですぐにドアを開けた。
事前に宅配便の話を聞いていたから全く疑っていなかった。
目の前にいる人達は明らかに宅配便の人ではなかった。

ニヤニヤと笑うその人に腕を掴まれて、大きな声を出そうとすると大きな手で口を押さえられた。

「むぐっ!!」

「おいおい、大きな声出すなよ…」

「ぐっ…うっ」

「そんな睨むなよ、恨むならお前を売った母親を恨むんだな」

母親……それを理解する前に、視界がぐにゃりと歪んだ。
目の前に見えるのは注射器のようなものを持つ男の姿だった。

また捨てられた……少し優しくされただけで本当に馬鹿だな…俺は…
しかも、今度はそれだけではなかった。

傍にいる医者の会話からして臓器を売られるそうだと、ボーッとした頭の中で必死に考える。
若い臓器は高値で売れる、借金まみれだった母は俺を売った。

これは傷付くとかトラウマとかそういう問題ではない。
確実に死ぬものだった、俺はこの訳の分からない廃れた病院で死んでいくのだろう。
健常者の臓器を売るなんてまともな医者はしない…訳ありなのだろう。

後悔しても遅い、薬のせいで逃げ出す力も残っていない。
俺が自分で決めた事だ、覚悟していたのに涙が出て溢れて止まらない。

意識がだんだんなくなってくる、二度と見る事がない目の前の光景を目に焼き付ける。

あぁ、頭痛が酷いな…きっと外はまだ雨が降っているんだろう。
そう思いながら、俺の意識は深い深い底に沈んでいった。








ーーーーーーーー

二度と開ける事は出来ないと思っていた目蓋を開けた。
俺は生きている、生きるのに必要な臓器は残っているのかとまだ覚醒しない頭で考える。
でも、俺の目の前にある世界は俺の知らない世界だった。

天井は剥がれて中が見えそうになっていたのに、綺麗な真っ白い天井が見える。
剥がれた天井を修復するなんてどのくらい寝たんだろう、頭がうまく働かない。

寝返りも打てず、首も横に回らない…まるで身体中をギチギチに拘束されているようだ。
助かったと思っていたがまさか、まだ終わっていないという事なのか?

腕は動かせる、腕まで取られてしまったのではないかと思って不安だったが良かった。
自分の手だと確認するために目の前で開いたり閉じたりして確認する。

目の前のそれは確かに俺の目の前で動いていて、開いたり閉じたりを繰り返している。

でも、俺の手であるはずのそれは見覚えがない手だった。
子供の手だ、いや…子供よりも小さい…まるで赤ん坊の手のようだ。

驚いて、瞳が困惑で揺れていたら俺を覗き込む人がいた。
頭にヘッドドレスを付けたボブヘアーの見知らぬ女性だった。
無表情で、まるで生きているように見えない人形のように思えた。

俺を抱き上げる手も体温がなくて、とても冷たい。

俺は首も身体も動かない、かろうじて動く腕はなにかをするでもなく腹の上に置いていた。
どうしたらいいのか分からずギュッと手を握る事しか出来ない。
誰かに話しかけたくても、声になるのは「あー」とか「うー」とか言葉ではなかった。

もしかして俺は……血の気が引いていくのが分かる。

ヘッドドレスの女性が誰かに声を掛けると、数人の足音が聞こえる。

周りを囲うように俺の顔色を見つめている複数の顔は恐怖でしかない。
その中にいる、黒髪の美人な女性は俺を見ていた。

「人形じゃなくて、操り師の素質はありそうね」

その笑みは、美人だからかとても悪い顔をしているように見えた。

人形、操り師…何だか聞き覚えがある嫌な単語だった。

どうして俺は覚えているんだろう、赤ん坊の姿という事は俺は生まれ変わったんだ。
元の肉体は焼かれて、二度と取り戻す事が出来ないのだろう。
トラウマの過去はあるが、普通に大学に通って普通に過ごしていただけなのに…

出来れば記憶はトラウマごと消えてほしかった。
成長すると、今の記憶が増えて生まれ変わる前の記憶はなくなるのかな。

不安の中、俺は乳母車の中に寝かせられて移動する。
いろいろと成長していない身体が自由に動かせるわけがない。

やはり俺はあの日臓器を取られて死んだんだ、そして生まれ変わった。
この病院はあの廃れた病院ではない、俺の知っている人はきっと一人もいない場所なんだ。
病院ではなく家のように見える、お金持ちの家なのかな。

見た目が外国人なのかな、英語はあまり得意じゃなかったけど理解出来るなんて外国人に生まれたからなのかな。
昔はカッコよくなかったからちょっと期待してしまう。
無理矢理明るい話題を考えようとしても、やっぱり気分が沈む。

昔の記憶だけではない、女性の言葉で不安で押し潰されそうだ。

俺が最後にやった乙女ゲーム「操り令嬢と悪魔の旦那様」の世界であった人形と操り師という言葉が引っかかっていた。

そんなわけがないのに、どうしてここがゲーム世界なんだと思うんだろう。
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