【本編完結】嫌味な男と婚約させられた令嬢ですが、ある日その婚約者が猫になっていました

翠月 歩夢

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3.猫になった婚約者とご飯

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「おい、カレン! 腹が減ったぞ!」


 ライルが騒いでいる。私の部屋に来たばかりだというのに、もはや我が物顔としている。くつろぎながら、尻尾を床にぺちぺちと叩きつけて私を呼ぶ。あれは、人間でいうと手を叩いて人を呼ぶ仕草だろうか。


「はいはい。エサですね」
「エサっていう言い方はやめろ! 全く、品のない娘だ……」


 街で調達してきたキャットフードを皿に入れる。粒が皿に当たって、カラカラと小気味よい音をたてる。大体、これくらいだろう。傾けていた手を垂直に戻し、キャットフードを入れる手を止めた。


「ライル様、ご飯ですよ。どうぞお召し上がりください」
「うむ。……これはキャットフードか?」
「そうですよ」
「俺を馬鹿にしているのか!?」
「していませんよ」


 再びライルはシャッーと声を荒らげる。相当怒っているようだ。毛が逆立っている。


「貴方今猫なんですから。人間のものを食べたらお腹を壊しますよ」
「だからといってキャットフードは……」
「いらないなら下げますよ」
「食べる! 仕方ないから食べてやる!」
「はい。どうぞ」


 ライルは不服そうな顔をしながら、食べ始めた。いや、食べようとして、止まった。


「……これは、顔をつけて食べるのか?」
「そうなりますね」
「……マナーとして良くないだろ」
「猫なんですから関係ありませんよ」
「そうか……?」
「そもそもフォークもナイフも持てないでしょう」
「それも……そうだな」


 ライルはようやく納得したようだった。多少は躊躇っていたが、意を決した顔をして、皿に顔を突っ込んだ。

 カリカリとキャットフードを噛む音が聞こえる。何も言わずに大人しく食べていた。

 皿の中身を一通り食べ尽くしたようだ。皿には何も入っていない。


「意外と……悪くない味だな。まあ、普段食べているものには当然劣るがな」
「それは良かったですわ。一番安いキャットフードでしたので」
「一番安いキャットフード!?」
「はい。セールしていました」
「この俺にそんなものを食べさせたのか!?」


 ありえない、という顔をされた。不信感がありありと目に出ている。その上、不機嫌そうに尻尾を激しく横に振っていた。


「たくさん入っていたので。足りないよりは良いかと思いまして」
「む……むう。まぁ、いきなり押しかけたしな……用意してくれただけありがたいが……」


 不服そうな様子は変わらなかったが、なにやらボソボソ呟いて納得したようだった。人間の頃と比べて、だいぶ丸くなった気がする。前のライルだったら、意地でも食べなかったし、平手打ちされていただろう。


「次はもっと良いものを用意致しますわ」
「ああ。楽しみにしている。……ところで水はないか?」
「今用意しますわ」
「助かる。あれは喉が渇いて仕方ない」


 水を皿に入れた。本当に喉が渇いていたらしくごくごくと飲み始めた。ついさっきまでマナーを気にしていたのに、もう気にしていないようだ。

 ご飯を食べている姿はとても可愛い。こうしてみるとただの猫にしか見えなかった。
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