【本編完結】嫌味な男と婚約させられた令嬢ですが、ある日その婚約者が猫になっていました

翠月 歩夢

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14.猫になった婚約者とおもちゃ2

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 ふわふわの羽が糸の先についたおもちゃをライルの目の前で動かす。

 右、左と動かす度にライルの緑色の目が同じように行ったり来たりする。

 たまに上に勢いよく跳ねさせてみたり動きを止めてみたりする。

 そうすると、ライルはその瞬間に、掴もうと手を伸ばす。


「待て!」

「逃げるな!」

「捕まえた!」


 こんな風なことを時々言いながら、羽をペシペシと叩く。捕まえて、がぶがぶと噛み付く時もある。

 これは完全に猫だ。元は人間だということを忘れそうなくらいの猫仕草だ。

 可愛い。とても可愛い。嬉々として獲物を狙う姿も、捕まえて誇らしげにしている顔も……全てが可愛い。

 ああ、ライルを猫にしてくれた魔女さんありがとう。おかげで私は今、最大限の幸福を味わっています。


「ふぅ……流石に疲れたぞ。喉も乾いた」
「あら、いつの間にかかなり時間が経っていますわね」


 時計を見ると、遊び始めた時から二周も針が回っていた。

 私的には五分くらいだったのだが。楽しい時間はあっという間だ。二時間も動き回っていたライルは、相当疲れただろう。


「俺は水を飲んでくる」
「ええ、分かりました」


 そう言い残してとことこ歩いていった。あの機械は自動で綺麗な水が常時飲めるようになっている。喉が渇いた時に、ライルがいつでも飲めるようになっているのだ。

 ちろちろ舌で上手く飲むライルを眺めながら、私も水を飲むことにした。置いてあるコップに冷えた水を注ぐ。

 手で掴んでコップを傾けて飲む。思ったよりも、喉が渇いていたようだ。


「意外と楽しいな、あれ」


 水を飲み終えて素早く帰ってきたライルがにこにこしながら言う。


「それは良かったです」
「ずっとあれを動かしてたがお前は疲れてないか?」
「ええ。私は平気です」
「そうか」


 私を気遣ってくれているようだ。魔女によって猫にされてから、ライルはだいぶ丸くなった。

 最初こそ威張っていたが、今では威張らないし、むしろ気遣ってくれることが増えた。

 いつも気難しく、冷たい口調で嫌味を言うだけだったのも変わった。表情がころころ変わるようになり、人間味が出たように思う。

 ライルに対して、嫌いという感情はもうなかった。どちらかといえば、愛しさの方が強い。しかし、それは多分……猫の姿だからだ。ライル自身を愛しいかと言われたら分からない。


「疲れたから寝てくる」
「はい。分かりました」


 本気で悩んでいるライルには悪いが、猫の姿のライルは好きだ。だから、できるだけ長く猫のままでいて欲しいなんて思ってしまう。

 ハウスに入っていくライルを見ながら、そんなことをぼんやりと考えていた。
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