【本編完結】嫌味な男と婚約させられた令嬢ですが、ある日その婚約者が猫になっていました

翠月 歩夢

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番外編

ここへ来た理由

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「僕のことはともかく、なにか用事でもあったの?」


 何かここに来た理由があったような……と考えていれば、タイミングよくへクセに問われる。


「ええ……でも肝心の用を忘れてしまいましたわ」


 正直に答える。別に誤魔化す必要も無いことだ。それにしても、出かけ先で用を忘れるなんて。


「なにそれぇ、カレンも意外とドジっ子だった?」
「ドジっ子って他人に言われると恥ずかしいですわね」


 ヘクセはくすくす笑ってからかうように言う。どことなく気恥ずかしい。ドジっ子だなんて初めて言われた。


「まあ、思い出したら言ってよ」
「そうしますわ」


 頭を捻っても出てこない。大したことのない用だった気がするし、焦る必要も無いだろう。

 何気なく視線を落とす。ああ、そういえば手土産を持ってきているのだった。喜びそうな紅茶と菓子。


「へクセ、これを」
「ん? ……わぁーい、紅茶とお菓子だ!」


 受け取り、中身を見て子供のように喜んでいる。想像通りの反応。些細なものでも嬉しそうにされると、ついつい色々なものを渡したくなる。

 そういえば昔からへクセは人から何かを貰うことが多かった。私と同じく、あげたくなるのだろう。


「せっかくだし一緒にお茶しよー」
「ええ」


 手招きをするへクセについて行く。いつもの奥の部屋を通り過ぎ、先程の倉庫っぽいところの脇にある階段を登る。人ひとり通れる程度の幅だ。今更だが、ここに階段があったのを初めて知った。二階あるんだ。


「ちょっと用意してくるから座って待っててー」
「分かりましたわ」


 上につけば、広い部屋がすぐそこにあった。ごちゃごちゃして薄暗い一階とは反対に、物がなくスッキリしており明るい。テーブルと大きなソファのみが鎮座している。

 ソファに腰かける。ふかふかで座り心地がいい。視線の先にはちょうどキッチンらしきものがあり、へクセが紅茶をいれているのが見える。


「お待たせー」


 湯気の立っている紅茶と皿に綺麗に盛り付けられたお菓子を持って、楽しげに戻ってくる。テーブルにカチャと軽く音を立てて置いて、隣に腰を下ろした。

 甘い匂いが鼻腔をくすぐる。恐らくこれは、目の前にあるものたちからではなく、隣から香るものだ。焼き菓子の香ばしさとも紅茶のフルーティな香りとも違う。


「あれ、ぼーっとしてるけど大丈夫?」
「……平気よ、大丈夫」
「そっかー、じゃ食べよ食べよー」


 一瞬不思議そうにした後、もぐもぐと食べだした。

 距離感が近いのも当たり前のように隣に座るのも、へクセのいつも通りだ。しかし、ライルに慣れてしまうと不意をつかれた気持ちになる。ライルは積極的な部分もあるが、割とあたふたするし近づくと照れる。触るとなれば緊張しているのが分かるくらいだ。そこが可愛いのだけれど。
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