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向けられた刃
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しおりを挟む意思を持たないはずの魔物がまるで嘲笑うかのように自身の攻撃を避けるのを、ミナリアは舌打ちをしながら見つめていた。
ここまで大きな魔物と対峙するのは久方ぶりである。
その上明確な意思を持って動く魔物を前に、ミナリアは冷静に脳内で情報を整理しながらその剣を奮っていた。
突然学内に沸いた魔物。
教師の不在に現れたタイミング。
他の生徒を無視してミナリアにのみ向けられる攻撃。
それが導き出す答えは。
「……リア!」
繰り出された斬撃を剣で受けきれずに頬に線が走る。
武器や装備が異なる上、体内の魔素が使えないこの状況では、いつもの力は出せない。
焦ったようなユイセルの声が、ミナリアの怒りを増していく。
自分の怪我などどうでもいい。
ユイセルに傷を付けたこの魔物は、自らの手で葬り去らなければ気が済まない。
それくらい、鍵など開けずとも容易いことだ。
ユイセルはそれを理解していないのか。
自分の力がみくびられたような気がして腹立たしい。
「はあ……」
ミナリアは、怒りに任せてその魔物をついに屠ることに成功した。
残りの武器を大気に溶かしたミナリアは、戦闘で乱れた前髪をかき上げながら地面に足を下ろした。
「リア!」
ユイセルが足を縺れされながらもこちらに駆け寄ってくる。
「ユイセル、ぶじ……っ」
無事か?
そう問うた言葉は、ユイセルに強く抱き込まれた事で中断した。
焦ってそのまま何も出来ずにいると、ユイセルの切迫した声が直接耳を打った。
「リアが……っ、傷付くの、嫌だ……っ」
「ユイセル……」
「わかってる……っ、リアが、そういう立場だって……でも、っ俺……っ」
慟哭するユイセルに、ミナリアは何も言う言葉を持たない。
ミナリアはそっとユイセルの胸を押して距離をとった。
「リアが死んじゃうかもしれないのに、俺が鍵持ってたくない……っ」
ミナリアのシャツを握りながら顔を歪めるユイセルに、胸がずきりと痛んだ。
それでもミナリアは、自らが決めた言葉を紡ぐだけだ。
「俺は、皆を守るための盾であり、刃だ。自らのために、力は奮えない」
だが、今は今だけはきっと。
ミナリアはユイセルのためだけに剣を奮っていた。
鍵などなくても、ユイセルを守れる。
「リアは、なんで一人になりたがるんだ……っ」
「……お前に、鍵を渡したのは、早計だったのかもな」
ミナリアは初めて、ユイセルに鍵を渡したことを後悔した。
駆け寄ってきた少女が、ユイセルの隣に並ぶ。
ミナリアはそれを横目で見て、教師への報告のためにその場を後にした。
ミナリアの心がユイセルに届かないように、ユイセルの心もまた、ミナリアには届かなかった。
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