隻翼の月に吠える。

みん

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その鎧を外すのは

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《目覚められたか》
《……誰そ》

 久方ぶりに聞く自らと同じ言語に安堵して、警戒を緩める。
 声は酷く掠れていた。
 なかなか焦点を結ばない瞳に、意識を飛ばしていた時間を思い知る。

《シャトマーニ=ウルバ。真国の宰相である。先の真国言語を用いると兵より聞き、この場へ来た》
「少し……なら、話せる」

 ミナリアは共用語を拙く紡いで、シャトマーニと名乗る男と向き合った。
 ここでの言語も既に自分の操るものと異なることを知りミナリアは郷愁の念に駆られたが、ミナリアは感情をそっと胸の中にしまった。

「では、私も共用語でお話しします。今は真国言語は書面上でしか交わされることのない言語ですので、何かと不便もありましょうし」

 漸くはっきりとしてきた視界に、シャトマーニの姿が映し出される。
 青に黒が斑らになった髪。緩くウェーブするそれは耳の下程で結われて肩に垂れている。
 目を引くのは縦に開いた鋭い金の双眸に、真っ白な肌に絡みつくような黒い鱗。
 顎先から右の頬を辿り目の下までを覆う鱗は、蛇のようにつるりとした表面を見せていた。

「不躾な質問ですが、ミシェラ様に連なる方で間違いないですか?」
「……ミシェラは、母だ」
「やはり……」

 母を知る男に、ミナリアは警戒を僅かに強めた。
 父を殺したのは、真国のものだ。
 自分も弑される可能性がある。
 それは避けねばならない。
 ムザルが繋いだ自らの命を、ここで終わらせるわけにはいかなかった。

 逃げ切れるのか、この壊れかけた体で。

 そこまで思考を巡らせて、ミナリアは自らの格好に気が付いた。
 清潔な薄萌葱の衣服。
 寝かされていたのは白く柔らかなベッドだ。
 だるさはあるが、体の痛みはない。

 ミナリアは思わず体を持ち上げようとして失敗し、そのまま背中から落ちた。

「無理をなさらず。医師に癒術を施して貰いました。折れた翼は元通りになるのに数年はかかるでしょうが……」

 悲痛に歪められたシャトマーニの顔を横目に、肩越しに翼を振り返る。
 白い包帯が巻かれて固定されているようだ。
 ミナリアは無意識に右脚に手を伸ばした。

「ですが、失ったものは……」

 言葉を濁すシャトマーニに、ミナリアは緩く首を振った。
 覚悟はしていた。
 戻らずとも、仕方のないことだ。
 
「問題ない」

 治療をしたということは、殺すということはあるまい。
 ミナリアはシャトマーニの次の言葉を待った。

「……今、簡易的な義足を手配しています。正式なものは追々。体力がある程度回復したら、あなたを真国王へ引き合わせます」

 ミナリアは素直に頷きを返した。

「まだ、あなたの名前を窺っていませんでしたね」

「……ミナリア=リィントス。配慮、感謝する」

 それが、ミナリアが真国に流れて最初の夜だった。

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