44 / 58
その鎧を外すのは
5
しおりを挟む簡易的に設られた義足は、思ったよりもミナリアの行動を制限した。
義足すらもなかった状態で森を抜けた頃に比べれば格段の差ではあるが。
その足で、ミナリアはシャトマーニに続いて王の間へと訪れた。
広々とした空間に、存在感を放つ一つの玉座。
本来は重臣が集うであろうその場には、シャトマーニのみが控えている。
対面に椅子を一つ置かれて、ミナリアはその横でその時を待った。
「よう、お前がミナリアか?」
「?!」
唐突に真横から掛けられた声にミナリアはバランスを崩して椅子へと沈んだ。
椅子がなければ硬い床へ体を打ち付けていただろう。
ミナリアは混乱しつつもその男を見返した。
「……閣下。戯れが過ぎます」
「いいじゃねーか、シャトマ。相変わらず堅苦しいな」
王。
この男が。
ミナリアは真国の最たる権力を前に、固唾を飲んで見上げるしかなかった。
「カラザール=ファルマダール。よろしくな」
馴れ馴れしい口調に反して、全く気の抜けない男である。
長い黒髪と、頭の横から伸びた角。
深紅のマントを翻して、その男、カラザールは玉座へと腰を下ろした。
「お前、創神の神話は知ってるか?」
カラザールが最初に口にした質問はそれだった。
意図を測りかねるが、ミナリアは母に聞かされた物語を脳内に思い出す。
「一匹の獣が……」
「そう、それだ」
ミナリアが全てを語る間もなくカラザールは話を続けた。
「真国ではな、王になるものは生まれた時から強者で、王だ。だから俺は王になった」
「生まれた時から……?」
「真国王は、獣と共に生まれ落ちる。先の真国王の獣は、美しい白い大きな鳥だったな」
ミナリアは自らの背の翼を振り返った。
ぼろぼろに折れ曲がったそれは、美しさからは程遠い。
ぐっと唇を噛んで、ミナリアはカラザールを見つめた。
「俺の獣だ」
カラザールはミナリアの視線を受けながら、何もない空間に腕を振り下ろした。
ぽっかりと漆黒の空間が開いて、中に艶めく漆黒の毛並みがふわりと舞った。
犬のような、狐のような。
吻を持った四つ足の獣だ。
その獣の額からは一本の角が伸びている。
しかしその獣は瞳を閉じて丸くなって眠っていた。
「……目覚めていない。俺はまだ仮初の王だ。だから俺を王と認めないやつも中にはいる」
カラザールは切なげに目を細めて愛しそうにその獣を空間に戻した。
何故、自分にそんな重要な話をしたのか理解できず、ミナリアはそのままカラザールの言葉の続きを待った。
「お前はよ、その翼に誇り持ってたんだろ? 見りゃわかる」
カラザールは真っ直ぐに自分を見つめている。
美しい翼を失った自分に、何を言おうと言うのか。
ミナリアはカラザールの言葉に下を向いて拳を握った。
「……お前は、如何にして這い上がる?」
ミナリアははっとしてその顔を正面に向けた。
「お前の目はまだ死んでねえ。お前の価値を示せ」
ミナリアは震える唇をゆっくりと開閉して、ぐっと目を閉じた。
生きると、決めたのだ。
翼を失っても、脚を失っても、なお。
「……強く、なる。誰よりも、強く」
「……いい目だ。お前を養子に迎えてやる。我が息子ミナリア。その日を待っている」
そしてミナリアはミナリア=リィントス=ファルマダールとなった。
0
あなたにおすすめの小説
邪神の祭壇へ無垢な筋肉を生贄として捧ぐ
零
BL
鍛えられた肉体、高潔な魂――
それは選ばれし“供物”の条件。
山奥の男子校「平坂学園」で、新任教師・高尾雄一は静かに歪み始める。
見えない視線、執着する生徒、触れられる肉体。
誇り高き男は、何に屈し、何に縋るのか。
心と肉体が削がれていく“儀式”が、いま始まる。
運命の番ってそんなに溺愛するもんなのぉーーー
白井由紀
BL
【BL作品】(20時30分毎日投稿)
金持ち社長・溺愛&執着 α × 貧乏・平凡&不細工だと思い込んでいる、美形Ω
幼い頃から運命の番に憧れてきたΩのゆき。自覚はしていないが小柄で美形。
ある日、ゆきは夜の街を歩いていたら、ヤンキーに絡まれてしまう。だが、偶然通りかかった運命の番、怜央が助ける。
発情期中の怜央の優しさと溺愛で恋に落ちてしまうが、自己肯定感の低いゆきには、例え、運命の番でも身分差が大きすぎると離れてしまう
離れたあと、ゆきも怜央もお互いを思う気持ちは止められない……。
すれ違っていく2人は結ばれることができるのか……
思い込みが激しいΩとΩを自分に依存させたいαの溺愛、身分差ストーリー
★ハッピーエンド作品です
※この作品は、BL作品です。苦手な方はそっと回れ右してください🙏
※これは創作物です、都合がいいように解釈させていただくことがありますのでご了承くださいm(_ _)m
※フィクション作品です
※誤字脱字は見つけ次第訂正しますが、脳内変換、受け流してくれると幸いです
従僕に溺愛されて逃げられない
大の字だい
BL
〈従僕攻め×強気受け〉のラブコメ主従BL!
俺様気質で傲慢、まるで王様のような大学生・煌。
その傍らには、当然のようにリンがいる。
荷物を持ち、帰り道を誘導し、誰より自然に世話を焼く姿は、周囲から「犬みたい」と呼ばれるほど。
高校卒業間近に受けた突然の告白を、煌は「犬として立派になれば考える」とはぐらかした。
けれど大学に進学しても、リンは変わらず隣にいる。
当たり前の存在だったはずなのに、最近どうも心臓がおかしい。
居なくなると落ち着かない自分が、どうしても許せない。
さらに現れた上級生の熱烈なアプローチに、リンの嫉妬は抑えきれず――。
主従なのか、恋人なのか。
境界を越えたその先で、煌は思い知らされる。
従僕の溺愛からは、絶対に逃げられない。
番を拒み続けるΩと、執着を隠しきれないαが同じ学園で再会したら逃げ場がなくなった話 ――優等生αの過保護な束縛は恋か支配か
雪兎
BL
第二性が存在する世界。
Ωであることを隠し、平穏な学園生活を送ろうと決めていた転校生・湊。
しかし入学初日、彼の前に現れたのは――
幼い頃に「番になろう」と言ってきた幼馴染のα・蓮だった。
成績優秀、容姿端麗、生徒から絶大な信頼を集める完璧なα。
だが湊だけが知っている。
彼が異常なほど執着深いことを。
「大丈夫、全部管理してあげる」
「君が困らないようにしてるだけだよ」
座席、時間割、交友関係、体調管理。
いつの間にか整えられていく環境。
逃げ場のない距離。
番を拒みたいΩと、手放す気のないα。
これは保護か、それとも束縛か。
閉じた学園の中で、二人の関係は静かに歪み始める――。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる