40 / 99
第1章
束の間の勝利と決意
しおりを挟む
夜明け前の森の中、俺たちは短い休息を取りながらも、警戒を解くことはなかった。昨夜の第7倉庫での爆破と脱出。魔力増幅器は破壊し、奴らの計画は阻止できたはずだ。だが、勝利の余韻に浸るには、状況はあまりにも切迫していた。
(アジトは壊滅させたが、諜報員の一部は逃げた可能性が高い。奴らが『氷刃』と合流すれば、俺たちの手の内…プルとリンドの能力、俺のスキルについても、ある程度は伝わるだろう)
そして、その『氷刃』は、早ければ今日の夜にもドワーダルに到着する。計画を潰されたと知れば、彼は激怒し、なりふり構わず俺たちを排除しようとするだろう。斥候部隊を壊滅させ、アジトまで破壊した俺は、彼らにとって最優先で排除すべき脅威となっているはずだ。
(アルヴィンも背後にいるとなれば、追手はさらに強化される。王国の正規兵や、あるいは奴が個人的に雇った手練れが投入される可能性もある)
考えれば考えるほど、楽観できる要素はなかった。
俺はまず、ボルガン親方への報告と感謝を伝えるため、一枚の羊皮紙に簡単なメッセージを書き記した。「街の危機は去りました。多大な感謝を。しばらく街を離れます。ご自身の身にもお気をつけて。レント」とだけ書き、人目につかない方法で工房に届けさせる手配(早朝に宿を出る際に、信頼できそうな宿の少年にチップを渡して頼んだ)をした。直接会って礼を言えないのは心苦しいが、今はそれが最善だろう。
夜が明け、太陽が昇り始めると、俺たちはドワーダルの街の様子を遠くの丘から窺った。予想通り、昨夜の倉庫街での爆発と火災は大きな騒ぎとなっていた。街の衛兵隊や、冒険者ギルドの調査チームが慌ただしく動き回っているのが見える。
ギルドに立ち寄るのは危険だと判断し、代わりに街に出入りする商人や旅人に紛れて情報を収集してみると、「倉庫での違法な魔道具実験が失敗した事故らしい」という噂が流れている一方で、「昨夜の騒ぎは、あの『竜使いの新人』が関わっているのではないか」と囁く声も聞こえてきた。俺への称賛と同時に、その特異な能力と行動を危険視する目も向けられ始めているようだ。
そして夕刻、事態は動いた。街の主要な門が一時的に封鎖され、物々しい雰囲気の武装集団が衛兵に代わって警備に立ち始めたのだ。その鎧に刻まれた紋章は、紛れもなく王国騎士団のものだった。
(……来たか!)
彼らはおそらく『氷刃』の先遣隊、あるいは本隊の一部だろう。彼らはギルドや領主の館へ向かい、何らかの圧力をかけているに違いない。街全体に、目に見えない捜索網が張られようとしていた。
「ぷるる……(街の中、ピリピリしてる……怖い人たちがいっぱいいる……)」
プルが不安そうに震える。リンドも、街の方角を睨みつけ、低い唸り声を上げていた。
(ドワーダルに留まるのは、もう限界だ)
俺は最終的な決断を下した。氷刃の包囲網が完全に敷かれる前に、この地域から脱出する。
次の目的地は……南の別の都市か? いや、奴らは俺たちが南へ向かうと予測しているかもしれない。ならば、裏をかく。
「……東だ」
俺は呟いた。村長が言っていた、東の森の奥に眠るという『古代遺跡群』。危険な場所かもしれないが、追手がすぐに追ってくるとは考えにくい。それに、もし『星霜の結晶』が古代の遺物なら、遺跡群で何か新たな手がかりが見つかるかもしれないという期待もあった。
「プル、リンド。また移動だ。今度は東を目指す。厳しい旅になるかもしれないが、ついてきてくれるか?」
二匹は、迷うことなく力強く頷いた。
その夜、俺たちは月明かりだけを頼りに、ドワーダルを脱出した。城壁の上には、松明を持った見張りの数が増え、騎士団兵らしき人影も見える。まさに、間一髪だった。
「……ここも、もう長居はできないな。行くぞ、東へ。奴らの知らない場所へ」
俺は振り返らず、東へと続く道なき道へと足を踏み出した。氷刃の冷たい視線、アルヴィンの歪んだ執念を背中に感じながら。
鉱山都市での束の間の栄光と戦いを後にし、俺たちの新たな、そしておそらくはさらに過酷な旅が、再び始まろうとしていた。
(アジトは壊滅させたが、諜報員の一部は逃げた可能性が高い。奴らが『氷刃』と合流すれば、俺たちの手の内…プルとリンドの能力、俺のスキルについても、ある程度は伝わるだろう)
そして、その『氷刃』は、早ければ今日の夜にもドワーダルに到着する。計画を潰されたと知れば、彼は激怒し、なりふり構わず俺たちを排除しようとするだろう。斥候部隊を壊滅させ、アジトまで破壊した俺は、彼らにとって最優先で排除すべき脅威となっているはずだ。
(アルヴィンも背後にいるとなれば、追手はさらに強化される。王国の正規兵や、あるいは奴が個人的に雇った手練れが投入される可能性もある)
考えれば考えるほど、楽観できる要素はなかった。
俺はまず、ボルガン親方への報告と感謝を伝えるため、一枚の羊皮紙に簡単なメッセージを書き記した。「街の危機は去りました。多大な感謝を。しばらく街を離れます。ご自身の身にもお気をつけて。レント」とだけ書き、人目につかない方法で工房に届けさせる手配(早朝に宿を出る際に、信頼できそうな宿の少年にチップを渡して頼んだ)をした。直接会って礼を言えないのは心苦しいが、今はそれが最善だろう。
夜が明け、太陽が昇り始めると、俺たちはドワーダルの街の様子を遠くの丘から窺った。予想通り、昨夜の倉庫街での爆発と火災は大きな騒ぎとなっていた。街の衛兵隊や、冒険者ギルドの調査チームが慌ただしく動き回っているのが見える。
ギルドに立ち寄るのは危険だと判断し、代わりに街に出入りする商人や旅人に紛れて情報を収集してみると、「倉庫での違法な魔道具実験が失敗した事故らしい」という噂が流れている一方で、「昨夜の騒ぎは、あの『竜使いの新人』が関わっているのではないか」と囁く声も聞こえてきた。俺への称賛と同時に、その特異な能力と行動を危険視する目も向けられ始めているようだ。
そして夕刻、事態は動いた。街の主要な門が一時的に封鎖され、物々しい雰囲気の武装集団が衛兵に代わって警備に立ち始めたのだ。その鎧に刻まれた紋章は、紛れもなく王国騎士団のものだった。
(……来たか!)
彼らはおそらく『氷刃』の先遣隊、あるいは本隊の一部だろう。彼らはギルドや領主の館へ向かい、何らかの圧力をかけているに違いない。街全体に、目に見えない捜索網が張られようとしていた。
「ぷるる……(街の中、ピリピリしてる……怖い人たちがいっぱいいる……)」
プルが不安そうに震える。リンドも、街の方角を睨みつけ、低い唸り声を上げていた。
(ドワーダルに留まるのは、もう限界だ)
俺は最終的な決断を下した。氷刃の包囲網が完全に敷かれる前に、この地域から脱出する。
次の目的地は……南の別の都市か? いや、奴らは俺たちが南へ向かうと予測しているかもしれない。ならば、裏をかく。
「……東だ」
俺は呟いた。村長が言っていた、東の森の奥に眠るという『古代遺跡群』。危険な場所かもしれないが、追手がすぐに追ってくるとは考えにくい。それに、もし『星霜の結晶』が古代の遺物なら、遺跡群で何か新たな手がかりが見つかるかもしれないという期待もあった。
「プル、リンド。また移動だ。今度は東を目指す。厳しい旅になるかもしれないが、ついてきてくれるか?」
二匹は、迷うことなく力強く頷いた。
その夜、俺たちは月明かりだけを頼りに、ドワーダルを脱出した。城壁の上には、松明を持った見張りの数が増え、騎士団兵らしき人影も見える。まさに、間一髪だった。
「……ここも、もう長居はできないな。行くぞ、東へ。奴らの知らない場所へ」
俺は振り返らず、東へと続く道なき道へと足を踏み出した。氷刃の冷たい視線、アルヴィンの歪んだ執念を背中に感じながら。
鉱山都市での束の間の栄光と戦いを後にし、俺たちの新たな、そしておそらくはさらに過酷な旅が、再び始まろうとしていた。
333
あなたにおすすめの小説
もふもふと始めるゴミ拾いの旅〜何故か最強もふもふ達がお世話されに来ちゃいます〜
双葉 鳴
ファンタジー
「ゴミしか拾えん役立たずなど我が家にはふさわしくない! 勘当だ!」
授かったスキルがゴミ拾いだったがために、実家から勘当されてしまったルーク。
途方に暮れた時、声をかけてくれたのはひと足先に冒険者になって実家に仕送りしていた長兄アスターだった。
ルークはアスターのパーティで世話になりながら自分のスキルに何ができるか少しづつ理解していく。
駆け出し冒険者として少しづつ認められていくルーク。
しかしクエストの帰り、討伐対象のハンターラビットとボアが縄張り争いをしてる場面に遭遇。
毛色の違うハンターラビットに自分を重ねるルークだったが、兄アスターから引き止められてギルドに報告しに行くのだった。
翌朝死体が運び込まれ、素材が剥ぎ取られるハンターラビット。
使われなくなった肉片をかき集めてお墓を作ると、ルークはハンターラビットの魂を拾ってしまい……変身できるようになってしまった!
一方で死んだハンターラビットの帰りを待つもう一匹のハンターラビットの助けを求める声を聞いてしまったルークは、その子を助け出す為兄の言いつけを破って街から抜け出した。
その先で助け出したはいいものの、すっかり懐かれてしまう。
この日よりルークは人間とモンスターの二足の草鞋を履く生活を送ることになった。
次から次に集まるモンスターは最強種ばかり。
悪の研究所から逃げ出してきたツインヘッドベヒーモスや、捕らえられてきたところを逃げ出してきたシルバーフォックス(のちの九尾の狐)、フェニックスやら可愛い猫ちゃんまで。
ルークは新しい仲間を募り、一緒にお世話するブリーダーズのリーダーとしてお世話道を極める旅に出るのだった!
<第一部:疫病編>
一章【完結】ゴミ拾いと冒険者生活:5/20〜5/24
二章【完結】ゴミ拾いともふもふ生活:5/25〜5/29
三章【完結】ゴミ拾いともふもふ融合:5/29〜5/31
四章【完結】ゴミ拾いと流行り病:6/1〜6/4
五章【完結】ゴミ拾いともふもふファミリー:6/4〜6/8
六章【完結】もふもふファミリーと闘技大会(道中):6/8〜6/11
七章【完結】もふもふファミリーと闘技大会(本編):6/12〜6/18
《レベル∞》の万物創造スキルで追放された俺、辺境を開拓してたら気づけば神々の箱庭になっていた
夏見ナイ
ファンタジー
勇者パーティーの雑用係だったカイは、魔王討伐後「無能」の烙印を押され追放される。全てを失い、死を覚悟して流れ着いた「忘れられた辺境」。そこで彼のハズレスキルは真の姿《万物創造》へと覚醒した。
無から有を生み、世界の理すら書き換える神の如き力。カイはまず、生きるために快適な家を、豊かな畑を、そして清らかな川を創造する。荒れ果てた土地は、みるみるうちに楽園へと姿を変えていった。
やがて、彼の元には行き場を失った獣人の少女やエルフの賢者、ドワーフの鍛冶師など、心優しき仲間たちが集い始める。これは、追放された一人の青年が、大切な仲間たちと共に理想郷を築き、やがてその地が「神々の箱庭」と呼ばれるまでの物語。
追放された無能鑑定士、実は世界最強の万物解析スキル持ち。パーティーと国が泣きついてももう遅い。辺境で美少女とスローライフ(?)を送る
夏見ナイ
ファンタジー
貴族の三男に転生したカイトは、【鑑定】スキルしか持てず家からも勇者パーティーからも無能扱いされ、ついには追放されてしまう。全てを失い辺境に流れ着いた彼だが、そこで自身のスキルが万物の情報を読み解く最強スキル【万物解析】だと覚醒する! 隠された才能を見抜いて助けた美少女エルフや獣人と共に、カイトは辺境の村を豊かにし、古代遺跡の謎を解き明かし、強力な魔物を従え、着実に力をつけていく。一方、カイトを切り捨てた元パーティーと王国は凋落の一途を辿り、彼の築いた豊かさに気づくが……もう遅い! 不遇から成り上がる、痛快な逆転劇と辺境スローライフ(?)が今、始まる!
地味な薬草師だった俺が、実は村の生命線でした
有賀冬馬
ファンタジー
恋人に裏切られ、村を追い出された青年エド。彼の地味な仕事は誰にも評価されず、ただの「役立たず」として切り捨てられた。だが、それは間違いだった。旅の魔術師エリーゼと出会った彼は、自分の能力が秘めていた真の価値を知る。魔術と薬草を組み合わせた彼の秘薬は、やがて王国を救うほどの力となり、エドは英雄として名を馳せていく。そして、彼が去った村は、彼がいた頃には気づかなかった「地味な薬」の恩恵を失い、静かに破滅へと向かっていくのだった。
「お前の戦い方は地味すぎる」とギルドをクビになったおっさん、その正体は大陸を震撼させた伝説の暗殺者。
夏見ナイ
ファンタジー
「地味すぎる」とギルドをクビになったおっさん冒険者アラン(40)。彼はこれを機に、血塗られた過去を捨てて辺境の村で静かに暮らすことを決意する。その正体は、10年前に姿を消した伝説の暗殺者“神の影”。
もう戦いはこりごりなのだが、体に染みついた暗殺術が無意識に発動。気配だけでチンピラを黙らせ、小石で魔物を一撃で仕留める姿が「神業」だと勘違いされ、噂が噂を呼ぶ。
純粋な少女には師匠と慕われ、元騎士には神と崇められ、挙句の果てには王女や諸国の密偵まで押しかけてくる始末。本人は畑仕事に精を出したいだけなのに、彼の周りでは勝手に伝説が更新されていく!
最強の元暗殺者による、勘違いスローライフファンタジー、開幕!
追放された”お荷物”の俺がいないと、聖女も賢者も剣聖も役立たずらしい
夏見ナイ
ファンタジー
「お荷物」――それが、Sランク勇者パーティーで雑用係をするリアムへの評価だった。戦闘能力ゼロの彼は、ある日ついに追放を宣告される。
しかし、パーティーの誰も知らなかった。彼らの持つ強力なスキルには、使用者を蝕む”代償”が存在したことを。そして、リアムの持つ唯一のスキル【代償転嫁】が、その全てを人知れず引き受けていたことを。
リアムを失い、スキルの副作用に蝕まれ崩壊していく元仲間たち。
一方、辺境で「呪われた聖女」を救ったリアムは自らの力の真価を知る。魔剣に苦しむエルフ、竜の血に怯える少女――彼は行く先々で訳ありの美少女たちを救い、彼女たちと安住の地を築いていく。
これは、心優しき”お荷物”が最強の仲間と居場所を見つけ、やがて伝説となる物語。
「お前は無能だ」と追放した勇者パーティ、俺が抜けた3秒後に全滅したらしい
夏見ナイ
ファンタジー
【荷物持ち】のアッシュは、勇者パーティで「無能」と罵られ、ダンジョン攻略の直前に追放されてしまう。だが彼がいなくなった3秒後、勇者パーティは罠と奇襲で一瞬にして全滅した。
彼らは知らなかったのだ。アッシュのスキル【運命肩代わり】が、パーティに降りかかる全ての不運や即死攻撃を、彼の些細なドジに変換して無効化していたことを。
そんなこととは露知らず、念願の自由を手にしたアッシュは辺境の村で穏やかなスローライフを開始。心優しいエルフやドワーフの仲間にも恵まれ、幸せな日々を送る。
しかし、勇者を失った王国に魔族と内通する宰相の陰謀が迫る。大切な居場所を守るため、無能と蔑まれた男は、その規格外の“幸運”で理不尽な運命に立ち向かう!
40歳のおじさん 旅行に行ったら異世界でした どうやら私はスキル習得が早いようです
カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
部長に傷つけられ続けた私
とうとうキレてしまいました
なんで旅行ということで大型連休を取ったのですが
飛行機に乗って寝て起きたら異世界でした……
スキルが簡単に得られるようなので頑張っていきます
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる