【収納∞】スキルがゴミだと追放された俺、実は次元収納に加えて“経験値貯蓄”も可能でした~追放先で出会ったもふもふスライムと伝説の竜を育成〜

あーる

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第1章

禁断への決意

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 拠点の塔、その最上階。崩れた壁の隙間から差し込む月明かりが、俺の手の中にある石版の破片を淡く照らしていた。『竜』、『神殿』、『封印』……推測に過ぎないが、これらの言葉が頭の中で不気味に反響する。

 窓の外には、静寂に包まれた広大な遺跡群が広がっている。この地のどこかにいるであろう謎の守人。そして、執拗に俺たちを追う王国騎士団と、その背後にいるアルヴィン。リンドの身に起きている、不可解だが無視できない変化。

(安全を考えれば、これ以上深入りすべきではない……守人の警告もあった。だが……)

 俺は眠っているプルと、隣で静かに月を見上げているリンドに視線を移した。リンドの鱗が、月光を浴びて微かに、周期的に明滅している。まるで、遺跡の奥深くにある何かと共鳴しているかのように。

(このままでは、リンドの身に何が起こるか分からない。それに、『封印』という言葉……もし、それが解かれた時、あるいは悪用された時、この遺跡、いや、世界に何が起こる? 騎士団がこの遺跡に現れない保証もない。座して待つだけでは、結局何も守れないのかもしれない)

 迷いはあった。恐怖もあった。だが、それ以上に、真実を知りたいという欲求と、仲間を守りたいという強い思いが、俺の背中を押していた。

 俺は静かに立ち上がり、リンドの前に立った。
「リンド。俺は、あの中央神殿へ行こうと思う。危険なのは分かっている。守人の警告もある。だが、この遺跡の秘密、そしてお前の身に起きていることの答えが、そこにある気がするんだ」

「キュル……」
 リンドは俺の目をじっと見つめ返してきた。その瞳には、不安よりもむしろ、覚悟と、そして俺への絶対的な信頼の色が浮かんでいた。

「ぷるぅ……(レントが行くなら、プルも行く!)」
 いつの間にか目を覚ましていたプルが、俺の足元から決意のこもった声で鳴いた。

(……ありがとう、二人とも)

 俺は覚悟を決めた。
「よし、行こう。中央神殿へ」

 俺たちはすぐさま準備を開始した。守人や騎士団の斥候に気づかれずに中央神殿へ到達するため、出発は夜明け前の、最も闇が深い時間帯を選んだ。装備を再点検し、ポーションや食料を【収納∞】に補充する。新しい剣『星穿』の感触を確かめ、ボルガン親方から貰った小型爆弾も、いざという時のために準備しておく。

 プルには先行偵察を強化させ、周囲の気配、特に守人の気配に最大限の注意を払うよう指示。リンドには、飛行は使わず、巨体が生む音や気配を極限まで抑えて移動するように頼んだ。

 拠点を出て、遺跡群の中心部へと向かう。中央神殿に近づくにつれて、空気中の魔力の濃度はさらに高まり、肌をピリピリと刺すような感覚さえ覚える。道中、これまで遭遇したものよりさらに強力な魔物――古代の魔法で自律稼働しているらしい石像兵や、魔力溜まりから生まれた不定形のエレメンタル――に遭遇したが、俺たちは極力戦闘を避け、迂回したり、プルの機転でやり過ごしたりしながら進んだ。守人の気配は感じられなかったが、油断はできない。

 そして、東の空が白み始める頃、俺たちはついに目的地の前にたどり着いた。
「……あれが、中央神殿か」

 目の前にそびえ立つ建造物は、これまでに見たどの遺跡よりも巨大で、荘厳だった。天を突くような巨大な石柱が何本も立ち並び、その多くは崩れているものの、残った部分は今なお圧倒的な存在感を放っている。壁面には、天翔ける竜の姿や、古代の神々を思わせる精緻なレリーフがびっしりと刻まれ、風化しつつも、かつての栄華を偲ばせた。神殿全体が、強力な魔力のヴェール、あるいは古代の結界のようなものに淡く覆われているのを感じる。

 神殿の正面入り口は、巨大な一枚岩の扉で固く閉ざされていたが、その脇の壁が大きく崩落しており、そこから内部へと進入できそうだった。

「キュルルル……!」
 神殿を前にして、リンドがこれまでで最も強く共鳴するように、低く長い唸り声を上げた。その体が、内側から発光しているかのように明滅する。プルも不安そうに俺の外套にしがみついていた。

「大丈夫だ。行こう」

 俺は二匹を励ますように声をかけ、崩れた壁の隙間から、神殿の内部へと足を踏み入れた。
 内部は、外観以上に広大だった。高い天井、太い柱が林立する広大なホール。壁には色鮮やかな壁画が残り、床には意味不明な文様が描かれている。祭壇らしき石の台座や、壊れた儀式用の道具のようなものも散乱していた。ここでもリンドの共鳴は続いている。彼の本能が、この場所の深奥にある何かを強く感じ取っているのだ。

 探索を進めると、ホールの奥に、さらに内部へと続く巨大な扉が見えてきた。扉は閉ざされているが、その隙間から、微かに青白い光が漏れ、そして……これまで感じたことのない、清浄で、しかしどこか悲しみを帯びたような、特殊な魔力の波動が発せられているのを感じ取った。

「……この奥に、何かがある。石版に書かれていた『封印』と関係があるのか……?」

 俺はゴクリと唾を飲み込み、巨大な扉を見上げた。守人の警告が再び頭をよぎる。だが、もう引き返すことはできない。
 俺は意を決し、その巨大な扉へと、ゆっくりと手を伸ばした――。
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