44 / 99
第1章
竜と石版と封印の囁き
しおりを挟む
拠点としている見張り塔跡に戻った俺は、待機していたリンドに、先ほどの謎の人物――遺跡の守人らしき存在――との遭遇について詳しく話して聞かせた。プルも隣で、感じ取った守人の雰囲気や魔力の質について補足してくれる。
「キュルル……(守人……この遺跡を守る者か……)」
リンドは俺の話を静かに聞いていたが、「守人」という言葉に何か引っかかるような反応を見せた。まるで、古い記憶や伝承の中に、そのような存在を知っているかのように。だが、具体的な何かを思い出すには至らないようだ。
「奴が何者であれ、少なくとも今は俺たちに敵意はないらしい。だが、『中央神殿には近づくな』という警告は気になる。それに、騎士団のことも知っていた……」
あの守人は、俺たちが思う以上に多くのことを知っているのかもしれない。そして、底知れない力も持っている。迂闊に刺激するのは得策ではないだろう。
「……しばらくは、あいつの言う通り、慎重に行動しよう。中央神殿は避け、この周辺区域の探索を進める。目的は、追手から身を隠しつつ、力を蓄えること。経験値、情報、そして何か役立つものが見つかれば儲けものだ」
俺は当面の行動方針を決め、プルとリンドもそれに同意してくれた。
翌日から、俺たちは拠点の塔を中心に、遺跡群の探索を再開した。中央神殿のある方向は避け、比較的安全そうな区域を選んで進む。それでも、遺跡内部は危険と隣り合わせだ。崩れやすい床、隠された罠、そして縄張り意識の強い魔物たち。俺たちは常に警戒を怠らず、プルの索敵とリンドの力を頼りに、慎重に探索を進めた。
探索の中で、俺たちはこの遺跡を築いた古代文明の痕跡に数多く触れた。驚くほど精密な水路の跡、人々の生活を偲ばせる壁画や土器の破片、そして、完全に機能を停止しているが、かつては強力だったであろう古代ゴーレムの残骸。この場所に、高度な文明が存在したことは疑いようもなかった。
そして、探索を続ける中で、リンドの異変はさらに顕著になっていった。特定の場所――例えば、竜の紋章が刻まれた石碑の前や、ひときわ魔力が濃い泉のほとり――に近づくと、リンドの体が淡い光を放ち、鱗の一部が虹色に輝いたり、額の角が微かに伸びたりするのだ。時には、苦しげに唸り声を上げることさえあった。
「大丈夫か、リンド?」
「キュル……(問題ない、主よ。だが……何か、呼ばれているような……懐かしいような……)」
リンド自身にも、何が起きているのか完全には理解できていないようだった。だが、この遺跡が、彼の竜としての本能、あるいはその血に眠る何かを呼び覚まそうとしているのは明らかだった。俺は、彼のさらなる成長への期待と共に、未知の変化への不安も感じていた。この力が、制御不能なものにならなければいいのだが……。
ある夜、拠点に戻った俺は、以前拾った古代文字が刻まれた石版の破片を、ランプの灯りの下で改めて眺めていた。この文字が解読できれば、遺跡の秘密や、リンドの異変の原因、あるいは守人の正体について、何か分かるかもしれない。
(守人に聞くのはまだ早い……。自力でどうにかできないか?)
俺は【収納∞】スキルに、こういう知識系の情報を解析するような機能はないかと探ってみたが、残念ながら見当たらない。経験値を使って新たなスキルを得るという手もあるかもしれないが、どのスキルが役立つか分からない現状では博打に近い。
俺は石版の文様を指でなぞりながら、これまでの出来事を思い返した。守人の言葉、リンドの様子、遺跡の雰囲気……。いくつかの文字は、他の場所で見かけた壁画の文様と似ている気がする。特に、竜を描いた壁画に頻繁に現れる、螺旋のような模様……。
(もし、これが『竜』を意味する文字だとしたら? そして、この塔のような記号は……守人が近づくなと言っていた『神殿』か? あと、この鎖のような模様は……『封印』?)
確証はない。だが、いくつかのキーワードが頭の中で繋がり始めた。『竜』、『神殿』、『封印』……。
「竜…神殿…封印…。この遺跡には、俺たちが思っている以上の秘密が眠っている。そして、それはリンドと無関係じゃないはずだ」
守人は言った、「中央神殿には近づくな」と。だが、もしそこにリンドの覚醒の鍵や、この世界の秘密に関わる何かが『封印』されているとしたら? 危険を冒してでも、確かめる価値があるのではないか?
俺は、石版の破片を握りしめた。守人の警告に従い、安全策を取り続けるか。それとも、危険を承知で、遺跡の核心へと足を踏み入れるか。騎士団の追跡という脅威も忘れてはならない。
静かな遺跡の夜。俺は、再び迫られる決断の重さに、深く息をついた。
「キュルル……(守人……この遺跡を守る者か……)」
リンドは俺の話を静かに聞いていたが、「守人」という言葉に何か引っかかるような反応を見せた。まるで、古い記憶や伝承の中に、そのような存在を知っているかのように。だが、具体的な何かを思い出すには至らないようだ。
「奴が何者であれ、少なくとも今は俺たちに敵意はないらしい。だが、『中央神殿には近づくな』という警告は気になる。それに、騎士団のことも知っていた……」
あの守人は、俺たちが思う以上に多くのことを知っているのかもしれない。そして、底知れない力も持っている。迂闊に刺激するのは得策ではないだろう。
「……しばらくは、あいつの言う通り、慎重に行動しよう。中央神殿は避け、この周辺区域の探索を進める。目的は、追手から身を隠しつつ、力を蓄えること。経験値、情報、そして何か役立つものが見つかれば儲けものだ」
俺は当面の行動方針を決め、プルとリンドもそれに同意してくれた。
翌日から、俺たちは拠点の塔を中心に、遺跡群の探索を再開した。中央神殿のある方向は避け、比較的安全そうな区域を選んで進む。それでも、遺跡内部は危険と隣り合わせだ。崩れやすい床、隠された罠、そして縄張り意識の強い魔物たち。俺たちは常に警戒を怠らず、プルの索敵とリンドの力を頼りに、慎重に探索を進めた。
探索の中で、俺たちはこの遺跡を築いた古代文明の痕跡に数多く触れた。驚くほど精密な水路の跡、人々の生活を偲ばせる壁画や土器の破片、そして、完全に機能を停止しているが、かつては強力だったであろう古代ゴーレムの残骸。この場所に、高度な文明が存在したことは疑いようもなかった。
そして、探索を続ける中で、リンドの異変はさらに顕著になっていった。特定の場所――例えば、竜の紋章が刻まれた石碑の前や、ひときわ魔力が濃い泉のほとり――に近づくと、リンドの体が淡い光を放ち、鱗の一部が虹色に輝いたり、額の角が微かに伸びたりするのだ。時には、苦しげに唸り声を上げることさえあった。
「大丈夫か、リンド?」
「キュル……(問題ない、主よ。だが……何か、呼ばれているような……懐かしいような……)」
リンド自身にも、何が起きているのか完全には理解できていないようだった。だが、この遺跡が、彼の竜としての本能、あるいはその血に眠る何かを呼び覚まそうとしているのは明らかだった。俺は、彼のさらなる成長への期待と共に、未知の変化への不安も感じていた。この力が、制御不能なものにならなければいいのだが……。
ある夜、拠点に戻った俺は、以前拾った古代文字が刻まれた石版の破片を、ランプの灯りの下で改めて眺めていた。この文字が解読できれば、遺跡の秘密や、リンドの異変の原因、あるいは守人の正体について、何か分かるかもしれない。
(守人に聞くのはまだ早い……。自力でどうにかできないか?)
俺は【収納∞】スキルに、こういう知識系の情報を解析するような機能はないかと探ってみたが、残念ながら見当たらない。経験値を使って新たなスキルを得るという手もあるかもしれないが、どのスキルが役立つか分からない現状では博打に近い。
俺は石版の文様を指でなぞりながら、これまでの出来事を思い返した。守人の言葉、リンドの様子、遺跡の雰囲気……。いくつかの文字は、他の場所で見かけた壁画の文様と似ている気がする。特に、竜を描いた壁画に頻繁に現れる、螺旋のような模様……。
(もし、これが『竜』を意味する文字だとしたら? そして、この塔のような記号は……守人が近づくなと言っていた『神殿』か? あと、この鎖のような模様は……『封印』?)
確証はない。だが、いくつかのキーワードが頭の中で繋がり始めた。『竜』、『神殿』、『封印』……。
「竜…神殿…封印…。この遺跡には、俺たちが思っている以上の秘密が眠っている。そして、それはリンドと無関係じゃないはずだ」
守人は言った、「中央神殿には近づくな」と。だが、もしそこにリンドの覚醒の鍵や、この世界の秘密に関わる何かが『封印』されているとしたら? 危険を冒してでも、確かめる価値があるのではないか?
俺は、石版の破片を握りしめた。守人の警告に従い、安全策を取り続けるか。それとも、危険を承知で、遺跡の核心へと足を踏み入れるか。騎士団の追跡という脅威も忘れてはならない。
静かな遺跡の夜。俺は、再び迫られる決断の重さに、深く息をついた。
273
あなたにおすすめの小説
追放された無能鑑定士、実は世界最強の万物解析スキル持ち。パーティーと国が泣きついてももう遅い。辺境で美少女とスローライフ(?)を送る
夏見ナイ
ファンタジー
貴族の三男に転生したカイトは、【鑑定】スキルしか持てず家からも勇者パーティーからも無能扱いされ、ついには追放されてしまう。全てを失い辺境に流れ着いた彼だが、そこで自身のスキルが万物の情報を読み解く最強スキル【万物解析】だと覚醒する! 隠された才能を見抜いて助けた美少女エルフや獣人と共に、カイトは辺境の村を豊かにし、古代遺跡の謎を解き明かし、強力な魔物を従え、着実に力をつけていく。一方、カイトを切り捨てた元パーティーと王国は凋落の一途を辿り、彼の築いた豊かさに気づくが……もう遅い! 不遇から成り上がる、痛快な逆転劇と辺境スローライフ(?)が今、始まる!
地味な薬草師だった俺が、実は村の生命線でした
有賀冬馬
ファンタジー
恋人に裏切られ、村を追い出された青年エド。彼の地味な仕事は誰にも評価されず、ただの「役立たず」として切り捨てられた。だが、それは間違いだった。旅の魔術師エリーゼと出会った彼は、自分の能力が秘めていた真の価値を知る。魔術と薬草を組み合わせた彼の秘薬は、やがて王国を救うほどの力となり、エドは英雄として名を馳せていく。そして、彼が去った村は、彼がいた頃には気づかなかった「地味な薬」の恩恵を失い、静かに破滅へと向かっていくのだった。
《レベル∞》の万物創造スキルで追放された俺、辺境を開拓してたら気づけば神々の箱庭になっていた
夏見ナイ
ファンタジー
勇者パーティーの雑用係だったカイは、魔王討伐後「無能」の烙印を押され追放される。全てを失い、死を覚悟して流れ着いた「忘れられた辺境」。そこで彼のハズレスキルは真の姿《万物創造》へと覚醒した。
無から有を生み、世界の理すら書き換える神の如き力。カイはまず、生きるために快適な家を、豊かな畑を、そして清らかな川を創造する。荒れ果てた土地は、みるみるうちに楽園へと姿を変えていった。
やがて、彼の元には行き場を失った獣人の少女やエルフの賢者、ドワーフの鍛冶師など、心優しき仲間たちが集い始める。これは、追放された一人の青年が、大切な仲間たちと共に理想郷を築き、やがてその地が「神々の箱庭」と呼ばれるまでの物語。
「お前の戦い方は地味すぎる」とギルドをクビになったおっさん、その正体は大陸を震撼させた伝説の暗殺者。
夏見ナイ
ファンタジー
「地味すぎる」とギルドをクビになったおっさん冒険者アラン(40)。彼はこれを機に、血塗られた過去を捨てて辺境の村で静かに暮らすことを決意する。その正体は、10年前に姿を消した伝説の暗殺者“神の影”。
もう戦いはこりごりなのだが、体に染みついた暗殺術が無意識に発動。気配だけでチンピラを黙らせ、小石で魔物を一撃で仕留める姿が「神業」だと勘違いされ、噂が噂を呼ぶ。
純粋な少女には師匠と慕われ、元騎士には神と崇められ、挙句の果てには王女や諸国の密偵まで押しかけてくる始末。本人は畑仕事に精を出したいだけなのに、彼の周りでは勝手に伝説が更新されていく!
最強の元暗殺者による、勘違いスローライフファンタジー、開幕!
魔力ゼロで出来損ないと追放された俺、前世の物理学知識を魔法代わりに使ったら、天才ドワーフや魔王に懐かれて最強になっていた
黒崎隼人
ファンタジー
「お前は我が家の恥だ」――。
名門貴族の三男アレンは、魔力を持たずに生まれたというだけで家族に虐げられ、18歳の誕生日にすべてを奪われ追放された。
絶望の中、彼が死の淵で思い出したのは、物理学者として生きた前世の記憶。そして覚醒したのは、魔法とは全く異なる、世界の理そのものを操る力――【概念置換(コンセプト・シフト)】。
運動エネルギーの法則【E = 1/2mv²】で、小石は音速の弾丸と化す。
熱力学第二法則で、敵軍は絶対零度の世界に沈む。
そして、相対性理論【E = mc²】は、神をも打ち砕く一撃となる。
これは、魔力ゼロの少年が、科学という名の「本当の魔法」で理不尽な運命を覆し、心優しき仲間たちと共に、偽りの正義に支配された世界の真実を解き明かす物語。
「君の信じる常識は、本当に正しいのか?」
知的好奇心が、あなたの胸を熱くする。新時代のサイエンス・ファンタジーが、今、幕を開ける。
Sランクパーティを追放されたヒーラーの俺、禁忌スキル【完全蘇生】に覚醒する。俺を捨てたパーティがボスに全滅させられ泣きついてきたが、もう遅い
夏見ナイ
ファンタジー
Sランクパーティ【熾天の剣】で《ヒール》しか使えないアレンは、「無能」と蔑まれ追放された。絶望の淵で彼が覚醒したのは、死者さえ完全に蘇らせる禁忌のユニークスキル【完全蘇生】だった。
故郷の辺境で、心に傷を負ったエルフの少女や元女騎士といった“真の仲間”と出会ったアレンは、新パーティ【黎明の翼】を結成。回復魔法の常識を覆す戦術で「死なないパーティ」として名を馳せていく。
一方、アレンを失った元パーティは急速に凋落し、高難易度ダンジョンで全滅。泣きながら戻ってきてくれと懇願する彼らに、アレンは冷たく言い放つ。
「もう遅い」と。
これは、無能と蔑まれたヒーラーが最強の英雄となる、痛快な逆転ファンタジー!
追放された”お荷物”の俺がいないと、聖女も賢者も剣聖も役立たずらしい
夏見ナイ
ファンタジー
「お荷物」――それが、Sランク勇者パーティーで雑用係をするリアムへの評価だった。戦闘能力ゼロの彼は、ある日ついに追放を宣告される。
しかし、パーティーの誰も知らなかった。彼らの持つ強力なスキルには、使用者を蝕む”代償”が存在したことを。そして、リアムの持つ唯一のスキル【代償転嫁】が、その全てを人知れず引き受けていたことを。
リアムを失い、スキルの副作用に蝕まれ崩壊していく元仲間たち。
一方、辺境で「呪われた聖女」を救ったリアムは自らの力の真価を知る。魔剣に苦しむエルフ、竜の血に怯える少女――彼は行く先々で訳ありの美少女たちを救い、彼女たちと安住の地を築いていく。
これは、心優しき”お荷物”が最強の仲間と居場所を見つけ、やがて伝説となる物語。
無能と追放された鑑定士の俺、実は未来まで見通す超チートスキル持ちでした。のんびりスローライフのはずが、気づけば伝説の英雄に!?
黒崎隼人
ファンタジー
Sランクパーティの鑑定士アルノは、地味なスキルを理由にリーダーの勇者から追放宣告を受ける。
古代迷宮の深層に置き去りにされ、絶望的な状況――しかし、それは彼にとって新たな人生の始まりだった。
これまでパーティのために抑制していたスキル【万物鑑定】。
その真の力は、あらゆるものの真価、未来、最適解までも見抜く神の眼だった。
隠された脱出路、道端の石に眠る価値、呪われたエルフの少女を救う方法。
彼は、追放をきっかけに手に入れた自由と力で、心優しい仲間たちと共に、誰もが笑って暮らせる理想郷『アルカディア』を創り上げていく。
一方、アルノを失った勇者パーティは、坂道を転がるように凋落していき……。
痛快な逆転成り上がりファンタジーが、ここに開幕する。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる