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第1章
目覚めの朝
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柔らかな光が瞼を透かし、意識がゆっくりと浮上していく。最初に感じたのは、全身を包む心地よい疲労感と、どこか懐かしいような穏やかな空気だった。重い瞼をこじ開けると、見慣れた拠点の、石造りの天井が目に入った。
「……ん……」
体を起こそうとすると、すぐ傍らからパタパタという小さな羽音と共に、心配そうな声が飛んできた。
「レント! 目が覚めたんだね! よかったぁ……!」
プルが、俺の顔を覗き込むように目の前で浮遊していた。その小さな体からは、心からの安堵が伝わってくる。
「ああ、プル……。俺は、どれくらい……?」
「丸三日だよ! プル、ずっと心配してたんだから!」
三日か……。アルヴィンとの死闘、限界を超えた力の解放。その代償はやはり大きかったようだ。だが、不思議と体は重くない。むしろ、深い眠りから覚めた後のような、奇妙な爽快感すらあった。プルの献身的な回復魔法と、古代竜の祝福、そしてリンド自身の治癒能力も影響しているのかもしれない。
『主よ、お目覚めですか』
部屋の隅で静かに休んでいたリンドからも、穏やかなテレパシーが届いた。覚醒を経て、その声には以前にも増して落ち着きと知性が感じられる。彼の翼の傷も、もうほとんど塞がっているようだった。
「リンドも、無事だったんだな。よかった」
『ええ。プルがつきっきりで看病してくれましたので』
「ぷるん!(当然だよ!)」
俺はゆっくりと体を起こし、窓の外を見た。穏やかな春の日差しが、遺跡群を優しく照らしている。若葉が芽吹き始め、鳥のさえずりが聞こえる。八王子の丘陵地帯の春を思わせるような、長閑な風景だ。あの激しい戦いが、まるで遠い昔のことのように感じられた。
そこへ、エルミナが静かに入ってきた。
「目覚めたか、レント。体の具合はどうじゃ?」
「はい、おかげさまで……。戦いの後、どうなりましたか?」
エルミナは、俺が眠っている間の出来事を静かに語ってくれた。アルヴィンが消滅した後、騎士団の残党は完全に撤退し、追ってくる気配はないこと。遺跡全体の鳴動も収まり、中央神殿の封印も安定を取り戻したこと。ドワーダルでは、アルヴィンと騎士団主力部隊の失踪が大きな混乱を招いているが、原因は「古代遺跡での大規模な地殻変動」として処理され、俺たちの関与は(少なくとも表向きには)知られていないこと。そして、ゼノは記憶の一部を封じられ、聖域から遠く離れた場所へ転移させられたという。
「世界の危機は、ひとまず回避された。そなたたちの力が、それを成し遂げたのじゃ」
エルミナは静かに告げた。その言葉には、労いと、そしてわずかな寂しさのようなものも含まれている気がした。
それから数日間、俺たちは遺跡で穏やかな休息の日々を過ごした。リンドはエルミナの指導を受けながら、覚醒した力の制御訓練を再開した。プルも新しい補助魔法の練習に余念がない。俺は、まだ完全ではない体力を回復させつつ、エルミナから古代文字の解読を学び、遺跡に残された石版や壁画の解読に時間を費やした。
そこには、驚くべき古代の知識や、失われた歴史の断片が記されていた。竜と人が共存し、高度な魔導文明を築き上げていた時代。しかし、力の暴走と猜疑心から、やがて両者は袂を分かち、悲劇的な結末を迎えたこと…。俺たちが触れたのは、その壮大な物語の、ほんの一部に過ぎないのだろう。
穏やかな日差しの中、仲間たちと語らい、学び、そして回復していく。追われることのない日々は、追放されて以来、初めて経験するものかもしれなかった。満身創痍だった体も、日に日に力が戻ってくるのを感じる。スキル【収納∞】も、以前のような不安定さはなくなり、むしろより深く、俺自身の魂と結びついたような、不思議な一体感があった。
だが、この平穏が永遠に続くわけではないことも、俺は分かっていた。
体力が回復し、リンドの力も安定してきたある日、俺は塔の屋上に立ち、広大な遺跡群と、その向こうに広がる未知の世界を見渡しながら、静かに自問した。
(これから、俺たちはどうするべきなんだろうか……)
戦いは終わった。だが、俺たちの人生は、まだ続くのだ。
「……ん……」
体を起こそうとすると、すぐ傍らからパタパタという小さな羽音と共に、心配そうな声が飛んできた。
「レント! 目が覚めたんだね! よかったぁ……!」
プルが、俺の顔を覗き込むように目の前で浮遊していた。その小さな体からは、心からの安堵が伝わってくる。
「ああ、プル……。俺は、どれくらい……?」
「丸三日だよ! プル、ずっと心配してたんだから!」
三日か……。アルヴィンとの死闘、限界を超えた力の解放。その代償はやはり大きかったようだ。だが、不思議と体は重くない。むしろ、深い眠りから覚めた後のような、奇妙な爽快感すらあった。プルの献身的な回復魔法と、古代竜の祝福、そしてリンド自身の治癒能力も影響しているのかもしれない。
『主よ、お目覚めですか』
部屋の隅で静かに休んでいたリンドからも、穏やかなテレパシーが届いた。覚醒を経て、その声には以前にも増して落ち着きと知性が感じられる。彼の翼の傷も、もうほとんど塞がっているようだった。
「リンドも、無事だったんだな。よかった」
『ええ。プルがつきっきりで看病してくれましたので』
「ぷるん!(当然だよ!)」
俺はゆっくりと体を起こし、窓の外を見た。穏やかな春の日差しが、遺跡群を優しく照らしている。若葉が芽吹き始め、鳥のさえずりが聞こえる。八王子の丘陵地帯の春を思わせるような、長閑な風景だ。あの激しい戦いが、まるで遠い昔のことのように感じられた。
そこへ、エルミナが静かに入ってきた。
「目覚めたか、レント。体の具合はどうじゃ?」
「はい、おかげさまで……。戦いの後、どうなりましたか?」
エルミナは、俺が眠っている間の出来事を静かに語ってくれた。アルヴィンが消滅した後、騎士団の残党は完全に撤退し、追ってくる気配はないこと。遺跡全体の鳴動も収まり、中央神殿の封印も安定を取り戻したこと。ドワーダルでは、アルヴィンと騎士団主力部隊の失踪が大きな混乱を招いているが、原因は「古代遺跡での大規模な地殻変動」として処理され、俺たちの関与は(少なくとも表向きには)知られていないこと。そして、ゼノは記憶の一部を封じられ、聖域から遠く離れた場所へ転移させられたという。
「世界の危機は、ひとまず回避された。そなたたちの力が、それを成し遂げたのじゃ」
エルミナは静かに告げた。その言葉には、労いと、そしてわずかな寂しさのようなものも含まれている気がした。
それから数日間、俺たちは遺跡で穏やかな休息の日々を過ごした。リンドはエルミナの指導を受けながら、覚醒した力の制御訓練を再開した。プルも新しい補助魔法の練習に余念がない。俺は、まだ完全ではない体力を回復させつつ、エルミナから古代文字の解読を学び、遺跡に残された石版や壁画の解読に時間を費やした。
そこには、驚くべき古代の知識や、失われた歴史の断片が記されていた。竜と人が共存し、高度な魔導文明を築き上げていた時代。しかし、力の暴走と猜疑心から、やがて両者は袂を分かち、悲劇的な結末を迎えたこと…。俺たちが触れたのは、その壮大な物語の、ほんの一部に過ぎないのだろう。
穏やかな日差しの中、仲間たちと語らい、学び、そして回復していく。追われることのない日々は、追放されて以来、初めて経験するものかもしれなかった。満身創痍だった体も、日に日に力が戻ってくるのを感じる。スキル【収納∞】も、以前のような不安定さはなくなり、むしろより深く、俺自身の魂と結びついたような、不思議な一体感があった。
だが、この平穏が永遠に続くわけではないことも、俺は分かっていた。
体力が回復し、リンドの力も安定してきたある日、俺は塔の屋上に立ち、広大な遺跡群と、その向こうに広がる未知の世界を見渡しながら、静かに自問した。
(これから、俺たちはどうするべきなんだろうか……)
戦いは終わった。だが、俺たちの人生は、まだ続くのだ。
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