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勘違いは続く
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アリアは、俺の数歩後ろを、先ほど以上に緊張した面持ちでついてくる。時折、畏敬の念に満ちた視線を俺の背中に送ってくるのが、ひしひしと感じられた。居心地が悪いこと、この上ない。
「あの、賢者様…」
沈黙を破ったのはアリアだった。
「先ほどの『言霊』ですが…もしや、あの魔獣を浄化されたのでは…?」
浄化? 何を言っているんだ、この子は。
「え? いや、ただ追い払っただけだと思うけど…かなり嫌な音だったみたいだし」
「いえ!」
俺の言葉を、アリアはきっぱりと否定した。「あれほどの苦しみと恐怖…! あれは、邪悪なる存在が、聖なる御力に触れた証です! きっと賢者様の御力によって、この森に巣食う穢れが、また一つ祓われたのです!」
目をキラキラさせながら力説するアリアに、俺はもう訂正する気力も失せた。そうか、浄化されたのか。よかったな、森。
俺は内心のツッコミを押し殺し、意識を目の前の探索に集中させる。記録書の写しに記された『星の降りし場所』への手がかりは、あまりにも乏しい。
『…古代樹の森、その奥深く、星の降りし場所に、古き民の住まう遺跡あり…』
『…大地の裂け目に隠され、賢き者のみ、その門を見出す…』
抽象的すぎる。だが、やるしかない。俺は図書館司書時代に培った、わずかな情報から必要な資料を探し出すスキル…というか、勘を頼りに、周囲の観察を始めた。
「ん…?」
しばらく進むと、森の様子に、わずかな違和感を覚えた。木々の生え方が、この一帯だけ妙に規則的な気がする。まるで、人の手が入っているかのように。
「この辺りの木、妙に真っ直ぐ並んでるな…それに、あそこの岩…苔のむし方が、不自然に新しいような…?」
俺が独り言のように呟くと、隣のアリアが「はっ!」と息を呑んだ。
「さすが賢者様! 常人では到底気づかぬ、微細なマナの流れや、時が作り出した歪みをお見通しなのですね! この岩、確かに周囲から浮いたマナの残滓を感じます!」
いや、マナとかじゃなくて、ただの景観の違和感なんだが…。俺は再び口をつぐんだ。
さらに進むと、今度は足元に、奇妙な光を放つキノコのようなものが群生している場所に出た。暗い森の中で、ぼんやりと青白い光を放っている。
「賢者様、お気をつけください! 『魔光苔(まこうごけ)』です! 触れるとマナを吸われ、幻覚を見ると言われています!」
アリアが警戒の声を上げる。俺は記録書の写しと、その奇妙な植物を見比べた。禁書には、この世界の動植物に関する記述も、かなり詳細に載っているのだ。
「ふむ…これか。『光苔モドキ』…禁書の記述によれば、『食用だが、弱い幻覚作用あり。乾燥させ粉末にすれば、夜間の携行光源として利用可能』…とあるな」
「なっ…!?」
アリアが絶句した。
「あ、あの危険な魔光苔の真の名と性質、そして利用法までご存じとは…! 私など、ただ危険なものとしか…!」
「あ、いや、この本に書いてあっただけで…」
「このアリア、賢者様の深遠なる知識に、ただただ感服するばかりです!」
…もう、どうにでもなれ。
俺たちは、俺が気づいた些細な違和感――不自然な木々の並び、人工的な加工の跡がある岩、特定の場所にだけ生える植物――を頼りに、森の奥へと進んでいった。それらは恐らく、エルフが施した、遺跡への道を示す目印なのだろう。禁書の知識がなければ、ただの自然物として見過ごしてしまっていたはずだ。アリアは、俺が次々と「聖なる道標」を見つけ出すことに、いちいち感動している。
やがて、俺たちは切り立った崖の前にたどり着いた。高さは数十メートルはありそうだ。目の前は行き止まりに見える。
「ここで行き止まり…でしょうか?」
アリアが不安げに呟く。俺は記録書の記述を思い返す。
『星の降りし場所は、大地の裂け目に隠される』
大地の裂け目…。この崖のことか? 俺は崖の表面を注意深く観察した。一面が太いツタで覆われているが、その下に何かがありそうな気がする。特に、中央付近の一角だけ、ツタの絡まり方が、他の場所と微妙に違う。まるで、何かを隠すように。
「アリアさん、あそこのツタを、少し取り払ってみてくれないか?」
俺は、違和感を覚えた箇所を指差した。そこには、禁書に描かれていた、隠し扉の開閉機構に似たパターンが、うっすらと見えている気がしたのだ。
「はっ! 承知いたしました!」
アリアは、俺の指示に何の疑問も挟まず、鉈を使って、指定された箇所のツタを丁寧に切り払い始めた。
ザッ、ザッ、とツタが切れる音が響く。そして、分厚い緑のカーテンが取り払われた先に、ソレは姿を現した。
「……!」
「あ……!」
俺もアリアも、思わず息を呑んだ。
ツタの下から現れたのは、明らかに人工的な構造物だった。高さ5メートルほどの、精緻な彫刻が施された石造りのアーチ。表面には、星々や星座のような図形と共に、見たこともない複雑なルーン文字がびっしりと刻まれている。風化しているとはいえ、古代の技術力の高さをうかがわせる、荘厳な門だった。
そして、アーチの奥は、暗い洞窟のようになっており、そこから、魔光苔とは違う、清浄で神秘的な青白い光が、微かに漏れ出ている。
「……見つけた……」
俺は、知らず呟いていた。目的の場所、エルフの遺跡の入り口に、ついにたどり着いたのだ。安堵と、これから先に待ち受けるであろう未知への不安が、同時に押し寄せてくる。
「これが…古き民、エルフの遺跡…! なんという荘厳さ…そして、この清浄なマナの気配…!」
アリアは、目の前の光景に完全に心を奪われているようだった。
俺は、ごくりと喉を鳴らし、光の漏れ出るアーチの奥を見つめた。
この先に、星銀はあるのだろうか。そして、どんな危険が待ち受けているのだろうか。
不安は尽きないが、ここまで来たのだ。進むしかない。
「あの、賢者様…」
沈黙を破ったのはアリアだった。
「先ほどの『言霊』ですが…もしや、あの魔獣を浄化されたのでは…?」
浄化? 何を言っているんだ、この子は。
「え? いや、ただ追い払っただけだと思うけど…かなり嫌な音だったみたいだし」
「いえ!」
俺の言葉を、アリアはきっぱりと否定した。「あれほどの苦しみと恐怖…! あれは、邪悪なる存在が、聖なる御力に触れた証です! きっと賢者様の御力によって、この森に巣食う穢れが、また一つ祓われたのです!」
目をキラキラさせながら力説するアリアに、俺はもう訂正する気力も失せた。そうか、浄化されたのか。よかったな、森。
俺は内心のツッコミを押し殺し、意識を目の前の探索に集中させる。記録書の写しに記された『星の降りし場所』への手がかりは、あまりにも乏しい。
『…古代樹の森、その奥深く、星の降りし場所に、古き民の住まう遺跡あり…』
『…大地の裂け目に隠され、賢き者のみ、その門を見出す…』
抽象的すぎる。だが、やるしかない。俺は図書館司書時代に培った、わずかな情報から必要な資料を探し出すスキル…というか、勘を頼りに、周囲の観察を始めた。
「ん…?」
しばらく進むと、森の様子に、わずかな違和感を覚えた。木々の生え方が、この一帯だけ妙に規則的な気がする。まるで、人の手が入っているかのように。
「この辺りの木、妙に真っ直ぐ並んでるな…それに、あそこの岩…苔のむし方が、不自然に新しいような…?」
俺が独り言のように呟くと、隣のアリアが「はっ!」と息を呑んだ。
「さすが賢者様! 常人では到底気づかぬ、微細なマナの流れや、時が作り出した歪みをお見通しなのですね! この岩、確かに周囲から浮いたマナの残滓を感じます!」
いや、マナとかじゃなくて、ただの景観の違和感なんだが…。俺は再び口をつぐんだ。
さらに進むと、今度は足元に、奇妙な光を放つキノコのようなものが群生している場所に出た。暗い森の中で、ぼんやりと青白い光を放っている。
「賢者様、お気をつけください! 『魔光苔(まこうごけ)』です! 触れるとマナを吸われ、幻覚を見ると言われています!」
アリアが警戒の声を上げる。俺は記録書の写しと、その奇妙な植物を見比べた。禁書には、この世界の動植物に関する記述も、かなり詳細に載っているのだ。
「ふむ…これか。『光苔モドキ』…禁書の記述によれば、『食用だが、弱い幻覚作用あり。乾燥させ粉末にすれば、夜間の携行光源として利用可能』…とあるな」
「なっ…!?」
アリアが絶句した。
「あ、あの危険な魔光苔の真の名と性質、そして利用法までご存じとは…! 私など、ただ危険なものとしか…!」
「あ、いや、この本に書いてあっただけで…」
「このアリア、賢者様の深遠なる知識に、ただただ感服するばかりです!」
…もう、どうにでもなれ。
俺たちは、俺が気づいた些細な違和感――不自然な木々の並び、人工的な加工の跡がある岩、特定の場所にだけ生える植物――を頼りに、森の奥へと進んでいった。それらは恐らく、エルフが施した、遺跡への道を示す目印なのだろう。禁書の知識がなければ、ただの自然物として見過ごしてしまっていたはずだ。アリアは、俺が次々と「聖なる道標」を見つけ出すことに、いちいち感動している。
やがて、俺たちは切り立った崖の前にたどり着いた。高さは数十メートルはありそうだ。目の前は行き止まりに見える。
「ここで行き止まり…でしょうか?」
アリアが不安げに呟く。俺は記録書の記述を思い返す。
『星の降りし場所は、大地の裂け目に隠される』
大地の裂け目…。この崖のことか? 俺は崖の表面を注意深く観察した。一面が太いツタで覆われているが、その下に何かがありそうな気がする。特に、中央付近の一角だけ、ツタの絡まり方が、他の場所と微妙に違う。まるで、何かを隠すように。
「アリアさん、あそこのツタを、少し取り払ってみてくれないか?」
俺は、違和感を覚えた箇所を指差した。そこには、禁書に描かれていた、隠し扉の開閉機構に似たパターンが、うっすらと見えている気がしたのだ。
「はっ! 承知いたしました!」
アリアは、俺の指示に何の疑問も挟まず、鉈を使って、指定された箇所のツタを丁寧に切り払い始めた。
ザッ、ザッ、とツタが切れる音が響く。そして、分厚い緑のカーテンが取り払われた先に、ソレは姿を現した。
「……!」
「あ……!」
俺もアリアも、思わず息を呑んだ。
ツタの下から現れたのは、明らかに人工的な構造物だった。高さ5メートルほどの、精緻な彫刻が施された石造りのアーチ。表面には、星々や星座のような図形と共に、見たこともない複雑なルーン文字がびっしりと刻まれている。風化しているとはいえ、古代の技術力の高さをうかがわせる、荘厳な門だった。
そして、アーチの奥は、暗い洞窟のようになっており、そこから、魔光苔とは違う、清浄で神秘的な青白い光が、微かに漏れ出ている。
「……見つけた……」
俺は、知らず呟いていた。目的の場所、エルフの遺跡の入り口に、ついにたどり着いたのだ。安堵と、これから先に待ち受けるであろう未知への不安が、同時に押し寄せてくる。
「これが…古き民、エルフの遺跡…! なんという荘厳さ…そして、この清浄なマナの気配…!」
アリアは、目の前の光景に完全に心を奪われているようだった。
俺は、ごくりと喉を鳴らし、光の漏れ出るアーチの奥を見つめた。
この先に、星銀はあるのだろうか。そして、どんな危険が待ち受けているのだろうか。
不安は尽きないが、ここまで来たのだ。進むしかない。
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