忘れられた姫と猫皇子

kotori

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フェリとランディ

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 ランドル皇子……。いや、ランディはかなり元気になった。
 半年くらいはまったく寝床のかごから動かず、ほとんど寝ていたのだが、最近少しづつ部屋の中を動けるようになっていった。
 この調子なら春には、すっかり元気になっていそうだ。
 
 フェリがそう思っているそばから、ランディがととと……と目の前を横切っていく。
 フェリは慌てて追いかけるとランディを抱き上げた。
「ダメですよ、ランディ。まだまだ寒いんですから。廊下は冷えますよ」
「裸足だからな」
 隣でグリッグがからかうようにそう言う。それは無視して、フェリはランディをちょっと抱きしめ、大切にかごに戻す。
 畏れ多いと思っても、本当にランディのふわもふ感が素晴らしすぎて、抱きしめずにはいられなかった。
 
 本当によかった。
 
 本当に本当によかった。
 
 かごの中で、白金色のランディの頭がくるっとフェリの方へ向けられる。

 なんて綺麗。

 フェリはうっとりする。

 猫は館の庭にもよくいるけれど、こんなに綺麗な猫は見たことがない。
 なめらかに体を覆う長い毛並みは光り輝いている。
 眩しいくらい! 
 まさしく猫の皇子様だ。

 そして宝石のような瞳。
 そのきれいなブルーの瞳を見ると、フェリは思わず目元が緩んでしまう。
 幸せな気持ちがじんわり湧き上がる。

 ランディの頭から背中へ手を滑らすと、手から体中幸せに包まれていくようだ。
 なんて気持ちがいいんだろう。
 なんて綺麗なんだろう。
 
 うっとりとそう思いながらも、フェリは今度は不安になる。

 長毛だからふっくらして見えるけれど、触ると意外にほっそりしている。
 毛並みは艶があって滑らかで素晴らしいけれど、ちょっと痩せすぎじゃないかな。
 もっと栄養のあるご飯が必要じゃないかな。
 水だけじゃなくて、採れたてのミルクとかあった方がいいかな。
 酪農家とか、どこに行けばいるのかな。
 そこに行ったらミルクを分けてもらえるかな。
 
「ねえ、グリッグ……」
 振り返ると、グリッグが腕組みをして立っていた。

「……」
「あのね……」
「ミルクとかなら要らないからな」
「え」
「こいつは、今朝チーズ入りのマカロニグラタンを食っただろ」
「そ、そうだけど」
「あとで食べるローストビーフもある」
「わあ、ロ、ローストビーフ!」
「だからとにかく、栄養は十分だからな!」
 
 フェリは目を丸くした。
「どうして私の考えてることが分かったの? すごい、グリッグ」
 グリッグはため息をついた。
「お前、昨日の朝も同じことを言ったろうが……」
「そうだっけ」
「そのあと、牧場を探しに行こうとしてただろ……」
「あ……」
 そう言えばそうだった。
「栄養が必要なのは、ランディじゃなくてお前だ!」
「え?、」
 フェリはきょとんとした。

「私はさっきランディと一緒にグラタン食べたよ? それからバタつきパンも。グリッグが焼いてくれたでしょ」
 今日もそれは美味しい朝ごはんだった。
「その上、半熟卵にソーセージにインゲンもあったし」
 思い出しただけでまた嬉しくなる。

「ね、グリッグ、バターがのったパンって、もう最高だね」
 しかし、グリッグはいらいらしたように、眉間に皺を寄せた。
「バターなー。良かったなー。毎朝バタつきパンだもんなー」
「うん!」
 フェリは、にっこりした。
 しかしグリッグは、ますます不機嫌そうな顔をする。

 どうしてかなあ。
 フェリにはよく分からなかった。
「今度、私もお料理してあげるよ、前にじゃがいもふかして潰してベーコンを混ぜたことあるんだ。あれはすごく美味しかったよ。私、天才かと思ったもん。もし、ベーコンがあったら、作れる……んだけど……」
 グリッグの顔がますます怖くなってきたので、フェリは最後まで言わずにやめた。

 前に、ごくたまに、ベーコンが少し置いてある時があって、その時に作ったんだけど、そんなの嫌いかな……。
 グリッグは不機嫌そうなまま答えた。
「マッシュポテトか? そのうちな」

 マッシュポテト……ではない、かな。グリッグが作ってくれたマッシュポテトはすごく滑らかで柔らかかった。フェリの作ったのは、もっとゴロゴロして固かったな……。やっぱりそんなの嫌いかな……。

 グリッグは、いつもすごく親切で優しいんだけれど、時々こんなふうに急に怒ってしまうときがある。
 何か変なことを言ってしまったのかも。

 フェリは大体物事を知らない、と思う。フェリの知っていることは、大抵、図書室の本で読んだことだけだ。

 ロイ以外の人とは、もう何年も話したことがないし、レオンとステラは滅多に顔も合わせないけど、会っても叱られるだけだし、きっとどこか変なのかも……。

 窓の外を見ると、また雪が降り出していた。道理で今日は寒いと思った。
「ランディ、ランディ?」
 ソファの上で丸くなっていたランディを見つけると、フェリは頭を撫でた。
「ランディ、雪が降ってるの。冷えるから暖炉のそばに行こう」
 フェリはランディを抱き上げて、暖炉の前へ移したかごの中にそっと入れた。
 
「うふ。暖かいね」
 フェリもクッションを持ってきて、暖炉の前に横になった。
 暖かい敷物とふかふかのクッションが気持ちいい。
 
 こんなに素敵な冬は初めてだった。去年は暖炉はあっても薪がほとんどなかった。少しだけある薪は料理に使いたかったので、それ以外は、ベッドの上で薄い布団にくるまるしかなかった。
 ……こんなに暖かくて、そして明るい毎日は初めてだった。

 自分以外誰も動かないこの館で、日が沈んだ後を過ごすのはとてもとても、寂しかった。キラキラはそばに居てくれたけれど、寒いと中々眠れないこともあった。何より誰かと一緒に過ごしたかった。

 フェリはグリッグを見ると幸せそうに笑った。
「グリッグ、ありがとう」
 グリッグは、もういつもの優しい顔になっていて、フェリのそばに来ると頭をがしがし撫でてくれた。髪がぐしゃぐしゃになるけれど、これをしてもらうとフェリはとても嬉しかった。

「グリッグがいなかったら、私もランディも凍えてたね」
 するとグリッグの笑顔がひっこんだ。
「こいつはどうでもいいんだよ。猫なんだからなんとでもなるんだ」
「でも、大怪我したんだから、大事にしないと……」
 フェリは、かごの中のランディを撫でた。
 柔らかくて暖かい……。
 フェリのまぶたが落ちてきた……。
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