忘れられた姫と猫皇子

kotori

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公爵邸 6

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「フェリシア」
 
 どこからか、声が聞こえた。
 顔を上げるとランディだった。
 ランディは二階の窓から顔を出すと、そのまま飛び出した。
 思わず小さな声を上げてしまったフェリの目の前に、くるりと回って、ふわりと飛び降りる。
 
「ランディ、大丈夫なの?」

 走り寄って小声で尋ねると、ランディは「大丈夫」と答え、それからフェリを見て首を傾げた。
「どうした? 顔色が悪い」
 フェリが何も言えずにいると、ランディは隣のグリッグに顔を向けた。
「どこか、身を隠せる所に移った方がいい。ラティーシャがフェリシアを捕らえるよう騎士に命じた」

 え、私?
 フェリは驚いた。

「捕まったら殺される」
「……え?」

 グリッグの顔を見ると、
 グリッグは少し目を見開き、それからなんだか楽しそうな顔になった。
「おお」
 声まで弾んでいる。
「いよいよか」
 
 いよいよ? 
 フェリは拳を握ってた。
「絶対負けない! か、返り討ちにするから」
    するとランディは「は?」と言い、グリッグは笑いだした。
「無理無理。ちょっと剣を握ったからって……」
「でも……」
 言い返そうとしたら、頭をがしがしされた。
「まあ、見てなって」
 そう言うと、空を見上げた。

 どこからともなく水色の小鳥が現れ、グリッグの肩に留まる。
 グリッグが何事か囁くと、小鳥は飛び立っていった。
 それからランディを見ると
「皇子、大丈夫だ。むしろ……そう、大歓迎かな」
 そう言ってまた笑う。

 フェリはその顔を見ていると、なんだかふっと力が抜けた。
 ランディはまだ不満そうだったが、グリッグに促されて館を後にした。

 アビが「じゃあ、早く戻ろう」と先頭に立って飛び始める。来た時のように、妖精の近道らしい森へぐんぐん進む。
 フェリはランディを抱っこして後に続いた。来る時は走っていたランディだが、今は大人しくフェリに抱かれている。

 フェリは、ふわふわのランディをぎゅっと抱きしめた。
 そうしていると、なんだかとても落ち着いて安心するのだった。
 
 少し遅れてグリッグも来た。
 歩きながらグリッグがランディに向かって尋ねた。
「来るのはラムズ公爵家の従騎士か?」
「違う」
 ランディは答えてから、少し口をつぐみ、「グランデ騎士団……かもしれない」と答えた。

 フェリはハッとした。
 グランデ騎士団と言えば、ランドル皇子が団長になっていた騎士団ではないか。フェリが皇子宮に忍び込むと、いつもグランデ騎士団の騎士達がいた。あの人達がフェリを捕まえに来る……。
 ランドル皇子の部下なのに。
 団長はもう別の人なのだろうか。

 フェリは胸が重くなった。
 結局、ランディを元の姿に戻せそうな石も見つからなかったし……。
 フェリが考え込んでいると、ランディが口を開いた。

「さっき言った返り討ちってなんだ? ちょっと剣を握ったって──」
「あ……」
 余計な事を言わなければよかった。フェリはそう思った。

「ランディがまだ眠ってた頃、……グリッグに剣を習ってたの。
 でもドレスを着てると、剣を下げられなくて……。
 ……剣を持てても、そんなに上手じゃないんだけどね……」
 フェリは話しながら、ちょっと落ち込んだ。

 もしも、また皇子が斬られたりする事があったら、自分も一緒に戦おうと思った。だから、グリッグにお願いして剣を教えて貰っていたのだけど、正直、まだまだ大した腕ではない。そしてこの先腕前が上がるともあまり思えなかった。

 せっかく来たのに、何も見つからなかったし……。
 ランディを人の姿に戻すって、絶対、って思ったのに。

 フェリの腕の中で、ランディが舌打ちした。
「フェリシアがそんな事をする必要はないんだ」
 そして長い尻尾をパタパタと動かした。
「まったく」
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