いつの日かの誰か。

瀬戸 朱音

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宙の初恋

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  「最近、宙が病気にかかった」と心葉から連絡が来た。文面に違和感を感じ、「どういうこと?」と返えすと強制的に心葉の部屋で行われる謎の会議に参加するハメになってしまった。

  心葉は一度咳払いをしてから机の周りに座る僕と宙と目を合わせ話し始める。
「えー、第1回、宙の恋の病についての会議を始める!」
  彼女の話に少し食い込み気味で口を出したのは宙だった。
「ちょっと!心葉大袈裟だってば!まだそうと決まったわけでもないのに!」
  その話の流れである程度理解できた。つまり、宙に気になる人ができたのを一人浮かれた心葉がわざわざ僕に伝えたということだろう。いつも通り話が飛躍しすぎている。ただ、宙をいじれるチャンスなので今回だけは心葉に乗っかる。
「それで、宙は誰が好きなの?」
「私も知りたい!」
「悠真まで!まだ、気になってるだけだし…。」
  宙は恥じらうように下を向いた。僕と心葉はニヤニヤ笑う。
「別に誰かに言いふらす訳でもないんだし、教えてよ。僕と心葉の知ってる人?」
  質問にこくんと頷く。僕は少しずつ範囲を狭めていく。
「同級生?」
  もう一度頷く。
「同じクラス?」
  また頷いた。これで選択肢が17になった。それから、好きになりそうな男子を一人づつ挙げていこうとすると、微かに声が聞こえた。
「…や……き…。」
  宙が小さく口を開いた。
「今なんて?」
  心葉が小さな声に反応した。
「だから!…山崎が気になってるの!」
  さっきとは裏腹に声を荒げた宙に僕らはフリーズした。
「山崎って悠真の隣の席の山崎 明音あかね?」
  我に返った心葉はそっと宙の言葉を確認した。明音は一年の頃からの友達で陽気なやつだ。写真部を自ら立ち上げ現部長である。何に関しても行動第一で、よく周りを振り回す。最初はなんだこいつと思ったが、もう慣れた。周りも同様であろう。僕はいたずらにニヤリと笑いながら口を開いた。
「へー、明音が好きなの?まぁ、人気者だしねー。」
「だから、気になってるだけだってば!」
  机に両手を叩きつけた。
「ご、ごめん!からかったことは謝る!!」
  僕は必死に頭を下げた。ただ、本気ではない。本当に恋ならそれがまたネタになる。面白いかぎりだ。
「それで?アプローチ的なのはしないの?」
  これは真面目に言った話だ。
「あ、アプローチ!?ないないない!!」
  顔を真っ赤にして全力で否定する宙。これ、絶対に好きだろ。本人には言わないけど。
「でも、明音は人気あるぞ?男女問わずに。」
「確かに山崎くんは人気だよねー。いい人だもん!」
  心葉は腕を組んで数回頷いた。
「わ、分かってるよ!」
  相変わらず宙の顔は真っ赤。僕の心の中は宙の初めての表情への驚きが1割、残りの9割は笑いを堪えるのが大変なほどの面白さ。もし、ここで笑ったりなんかしたら絶対に殺される。
「…でも、こんなの初めてだし…。何をしていいのか……。」
「えっ、まさか初恋!?」
  心葉が嬉しそうに身を乗り出した。宙は目を合わせずにこくんと頷いた。
「じゃあ、じゃあ!もっともっと応援するよ!!」
「…なんで?」
「だって、恋がこんなに楽しいことを知らないなんて勿体ないもの!」
  そう言うと心葉は僕の肩を寄せて目を合わせた。かなり恥ずかしく、これには慣れずに心臓が跳ね上がる。気付かれないように飽きれたフリをする。
「お前ってやつはよくそんな恥ずかしいこと言えるよな。」
  僕はやれやれとため息をついた。彼女は褒められたらように照れながら笑った。
「そんで?これからどーするのさ。告るの?何もしないで見てるの?」
「もちろん告白しよう!放課後の体育館裏で!!」
  真っ先に声を上げたのは心葉だった。何故か時と場所まで指定したことは誰も触れない。
「いやいや、待ってって!本気で言ってる?」
  心葉は大きく頷いた。
「当たり前でしょ!当たって砕けろーってね。」
「いや、砕けたら本末転倒じゃん。」
「あっ、そっか。」
  心葉はキョトンとした顔で僕と目を合わせた。


  翌日の朝。僕は自転車を押しながら学校へ向う道を心葉と歩いていた。話の内容は昨日の宙の初恋のことについて。
「でも、まさか本当に恋をするなんて思ってもみなかった。いつだかの心葉の予想的中だったね。」
「だから言ったでしょ!付き合ったらお祝いしないとね!!」
「告白すらしてないのに気が早すぎるだろ。」
「だって、宙だもん!絶対大丈夫だよ!」
  そう言って心葉は自信ありげに小さくガッツポーズをした。
  ふと目線を上にあげるとそこには黒いリュックを背負った宙の姿が見えた。視界に入った瞬間、心葉を見る。彼女も宙を見つけ、何も言わず走り出した。いつも通りの流れなのだが毎回少し腑に落ちないのは嫉妬というものなのか…と考えながら心葉の後に続き自転車を押す。
「宙!おはよ!」
「って、うわぁっ!」
  宙が心葉の言葉に振り返った瞬間、勢いよくどっついた心葉と衝突した。
「あははー、ごめーん。」
  心葉は上手くバランスを保ち僕の隣で軽く謝る。
「大丈夫?怪我してない?ごめん、朝からうるさくて。」
  僕もついでに謝る。
「大丈夫だよー、心葉が元気なのはもともとだもん。あ、あとおはよー。」
  そう言って宙は僕らに小さく手を振った。

  そのまま3人で学校へ向う。
  もちろん話の内容はそのまま宙のことについて。
「それにしても、この歳になって初恋って遅くないか?」
  僕は失礼を承知で話た。からかいのつもりで。
「私は周りの恋愛見てる方が好きだったし…。そもそも、恋愛なんてしたくて出来るものでもないでしょ?」
  負けたと、肩をすぼめる。
「おっしゃる通りです…。」
  続いて能天気な心葉の質問。
「それで、山崎くんのどこに惚れたの?ちなみに、私は悠真の……っいたっ!なにすんのよ!」
  ギリギリのところで耳をつねる。そんな話本人がいる前でしないでいただきたい。僕は大きくため息をつく。そして話を元に戻す。
「ごめんそれた。それで、どこに惚れたの?」
「惚れた…って言うかいつの間にか気になってたって感じで…。」
まさしく、恋に落ちたってことだね!私も悠真と……」
  また耳をつねろうと手を近づけると、耳を塞ぎ同時に静かになった。それと、なぜか睨まれた。
  気を取り直してもう一つ質問。
「んで、まず始めにアプローチからだけど、なにする?」
「なにって、私に聞かれても困るよ。」 
  宙は小さくため息をついた。僕の隣にいる心葉は何か提案したそうにこちらを見ている。選択肢は2つ期待して話を聞くか、無視をするか。答えはもちろん無視だ。何食わぬ顔で違う質問をしようとすると、心葉が思いっきり食い込んで話始めた。
「はい!提案!!まずは話すとこから始めよう!」
「お、意外とまともな事言った。」
  もっと大それた事を言い出すかと思っていた。例えば、ほら、ともかく1回告白する。とか。でも、それはそれでいい案なのかもしれない…。
「そうだな。まずは話しかけるとこから始めるのがいいかもな。」
  まず始めに宙から明音に声をかけることになった。心葉と僕は応援役として、チャンスがある度にフォローをした。だが、宙は顔やら耳やらを赤く染めて一向に話そうとしない。

「もう!どうしたの宙!?ちゃんと話さないとダメじゃん!」
「だって…。意識しちゃうんだもん…。」
  恋をしているのはもう確実だ。
「それなら、僕達と一緒なら話せるんじゃない?」
「どういうこと?」
  心葉が首を傾げる。
「一対一だと意識するけど一対三なら意識しないと思うんだけど、どう?宙。」
「頑張ってみる…。」

  まずは、僕が明音に声をかける。それから心葉が宙を連れて話に入ってくる。そのまま話を盛り上げながら宙と明音が話すように仕組む。結局、最後は宙の勇気が一番大事になってくる。
  たまたま、僕の席の隣に明音がいたので話しかけるのは簡単だった。
「なあ、明音。数学得意?ここがわかんないんだけど…。」
  前回の授業のページから適当に指をさした。
「んー…得意ではないけど、この公式にあてはめればできるよ。」
  明音は優しくそう応えた。騙しているのが申し訳なくなる。
「あー、そういうことか、それじゃあこの式はこういうこと?」
「違う違う!この問題はこっちの公式だよー。」
「そっか!僕どうも数学苦手でさ…」
  心葉が宙を連れてくるまでできるだけ話を続けなければならない。早く来てくれ…。と心の中で叫ぶ。
  数分間、話を進めているとようやく心葉がこちらに気がついた。話は二転三転して文化祭の話になっていた。
「悠真!なんの話してるの?」
  僕の後ろでニヤニヤしながら話しかけられる。心葉の隣には全く目が合わない宙がいた。
「そういえば来月の末に文化祭あるなーって。」
「あー確かに!山崎くんは部活で忙しくなるね。」
  心葉は上手く明音に話を振った。
「いいや、写真部は展示だけだよ。よかったら見に来てね。」
「うん!絶対行くよね!宙も!」
「え?あ、うん!もちろんだよ!」
  やはり目を合わせようとしない。そして、相変わらず顔が赤い。きっと心葉が頑張っているのにも気づかないくらい焦っている。
「そういえば望月さんと如月さんはすごく仲がいいよね。同じ中学だったとか?」
  次は明音本人から声をかけてくれた。いい機会だ!と僕は心葉と目を合わせ宙を見る。
「ううん、こ、心葉とは1年の頃クラスが…同じだったから…。その…」
  僕に始めて話しかけた時はスラスラ言っていたはずなのにスムーズに進まない。結局、授業が始まる直前まで4人で話していたのだが、宙は口を開けようともしなかった。

  それから数日、何度かチャンスはあったもののまるで話にならずじまいだった。

「宙!これじゃあアプローチどころか、変な人っていうイメージついちゃうよ!」
  もっともらしい説教をする心葉に対して肩をすぼめ目をそらす宙。
「そんなこと言われても…。」
「話すのがハードル高かったのか?でもこれ以上下げることも出来ないぞ?」
  話すことができなかったら何もすることがない。僕はなにか手立てがないかと考えていると、心葉が不意に手を挙げた。
「もう、いっそのこと、告っちゃえばいいじゃん!」
  彼女は名案だと目を輝かせている。
「心葉!?何言ってんの!無理だよ!無理!!」
  対して全力で拒否する宙。
「でも、実際のところ、告白って自分の気持ちを伝えることであって、決してゴールが付き合うってことじゃないよ。告白のゴールは相手に気持ちを知ってもらうことだよ。」
  どっかの誰かがそんなことを言っていたので、僕は少し言葉を借りて無理矢理説得させようと企む。
「つまり、1回好きだって知ってもらって意識させるってこと。」
  後付でそれっぽくまとめる。
「なるほど!さすが悠真!!」
  心葉はすごいと僕を褒める。ほぼ全てが人の言葉だということは言わないでおこう。 
「でも、そんな勇気もってないよ。だって、山崎と話すことすら出来てなかったし。」
   宙はそう言って小さくため息をついた。
「弱気になっちゃだめだよ!この告白に失敗とか成功とかないじゃん!言って終わりだよ?」
「そんな簡単に言わないでよ!」
  宙はいきなり大声で叫びその場から走り去っていった。

  それから僕らと宙の間には嫌な空気が漂い、話すことがなくなってしまった。
 
  この関係をどうにかしなければ、と考えているとふと肩を叩かれた。
「ねえ、最近如月さん元気ないみたいだけど、何かあったの?」
「ちょっと、喧嘩しちゃって…。」
「そっか、なんか手伝えることある?」
「えっ!?」
  急展開に驚く。聞き間違いではないか確認する。
「手伝い…?」
「うん、あれだけ元気ないと心配でさ…」
「それだったら、明音から声かければ?」
「そ、それはちょっと…。」
  ん?この反応、どこかで見たことがある。
「どうした。明音ならそれくらい造作もないだろ?」
「ううん、如月さんは少し別。」
「というと?」
「意識しちゃうから、話しずらくて…。」
  語尾を濁しながら明音はそう呟いた。
「まさか、恋!?」
  僕は驚いて想像より大きな声をあげてしまう。我に返り、二人にしか聞こえない程度の音量で話を続けた。
「それ、嘘じゃないよな?」
  明音も少し音量を下げて話し出す。
「えっ?ま、まぁ。恋かどうかは別だけど気になってるかもな。」
  これを宙に伝えればきっと喜ぶ。そう思った。

  その日の放課後。まず、心葉にその事を話し、宙に話そうと提案した。
「ダメだよ!絶対にダメ!」
「え?二人は両思いなんだし、いいことじゃない?」
「これだから男子は…。」
  呆れるようにため息をついた。
「両思いなら尚更ダメなの!」
「なんでだよ。わけわからん。」
「第三者が人の恋愛に頭突っ込んじゃダメなの!ホントの気持ちは本人から聞かないと意味無いでしょ!?」
「そういうもんなのか?」
「そういうもんなの!だから、絶対にダメ!」
  無理矢理言いくるめられた気もするが、仕方なく納得する。
「それじゃあ、両思いってことが分かったけどこれからどうします?」
  次の議案を挙げると心葉はいつになく真面目な顔で口を開いた。
「告白できる環境を作るべきなんだよね…。」
  最もだ。環境を整えた上であとは当人に任せるのだが、その環境によっては良い方にも悪い方にも転がってしまう。大事な仕事ではある。
「そーいや、文化祭近いんだったね。」
  近くを文化祭委員が通り気づく。いつだかもその話を明音としていた。
「それだ!!」
「ん?文化祭?」
「そう!文化祭!四人でまわろう!!」
「でも、明音は他の奴と回る約束してそうだけど。人気者だし。」
「確かに…。まぁ、直接本人に聞いてみようか!」
  そう言って心葉は僕の手を引っ張り、どこにいるか分からない明音を探し始めた。数分校内をうろちょろしていると男子と話している明音を見つけた。
「いたー!山崎くーん!ちょっと話聞いてー!!」
  彼を見つけた瞬間、心葉は廊下を駆け出した。もちろん、僕を引っ張りながら。
「ど、どうしたの?望月さん。そんなに息を切らして。」
  急すぎて明音は戸惑いながら心配そうに声をかけた。
「心配しなくて大丈夫!そんなことより、文化祭って誰かと回る約束してる?」
「ううん。まだ誰ともしてないけど…?」
「それじゃあ、私たちと回らない!?」
  嬉しそうに心葉がグイッと顔を寄せた。僕は襟を掴んでこれ以上近づけないように後ろに引く。この行為は嫉妬ではなく他の人に迷惑にならないようにしているだけだ。
「突然だね。でもどうして俺と?」
  そう思うのも無理はない。僕は明音の耳に口を近づけ、説明する。
「この前、宙のこと気になってるって言ってただろ?」
  このあとは察してくれ。彼は僕の目を見て口を開く。
「わざわざそんなことしてくれなくてもいいのに。これに関しては俺の問題だし、自分でなんとかするから。」
  こいつイケメンかよ…。心の中でそう呟く。
「そっか、残念…。」
  心葉は肩をすくめた。
「それに、折角の文化祭なのに悠真たちの邪魔しちゃうといけないからね。」
  明音はいたずらに笑った。さっきの言葉は思わなかったことにしよう。

  その後、もう一度二人で話し合った。
「明音はああ言ってたけど、どうする?」
  もうお手上げだと僕は手を挙げた。
「ともかく、宙と仲直りしたい。」
「確かにな、仮に上手くいっても「おめでとう」さえ言えないしな。」
  僕らは同時にため息をつき、空気は一段と重くなる。
  それから数分間何も言わずに時間だけが過ぎていった。せめて何か案を出さないと…。切り詰めた顔で悩んでいると、静かな廊下から足音が近づいてきた。どんどん大きくなる足音に少し恐怖を感じ身震いをする。すると、僕らのいる教室の前でピタッと音が止まる。ガラガラッといきなり扉が開き、大きな声が教室に響きわたる。
「この間は本当にごめん!!」
  頭を深く下げて謝ったのは宙だった。それを見た心葉は急に立ち上がった。そして、駆け寄り両手を広げ宙を包んだ。
「私たちこそごめん…。宙の気持ちも考えないで。」
「ううん。わざわざ協力してくれたのに感情的になった私が悪いんだよ。ごめんね。」
  なんだろう、この青春感…。

  仲直りはできたが、両思いということを告げることもできず今に至る。
「次はどうやって振り向かせよーか?」
  能天気な声で心葉が口を開く。
「そうだな…」
  僕も真剣に悩む。なんせ宙を怒らせた原因は僕だからもう下手なことは言えない。
「あの…さ、ひとつ提案なんだけど…。」
  宙がそっと手を挙げながら呟いた。
「ん?どうしたの、宙?」
「…あのさ、私、1回ちゃんと告白してみようと思う。」
「えっ!?ほんとに?」
「怒った手前恥ずかしいけど、前に悠真が言ってたこと改めて考えてたら、それが一番早く振り向いてもらえる方法だなって思って…。」
  僕は何を言い出すかと思ってヒヤヒヤしていたが、まるで見当違いの応えに何も言えずにいる。
「宙がそう言ってくれたら話が早いね!それじゃあ、告白の手段とか決めてすぐに実行だ!!」
  心葉は張り切りながら拳を上にあげた。
  僕的には両思いの二人だし宙が告白すれば明音も首を縦に振るだろう。だから、そんなに深く考え込まなくてもいい気がする。ただ、女子達の話は大いに盛り上がった。僕の出番がなくてもさらさらと計画が決まっていき、いつの間にか数時間が過ぎていた。
  決まった計画は、今から一番近い学校行事である文化祭の後夜祭でバンドが演奏している中、告白するという感じらしい。だが、当日まで数週間ほど時間があるので、その間は明音と少しずつ話し距離を縮めていくのだと言う。
  文化祭が近づくにつれて準備で忙しくなっていく。少し宙の様子を伺うと業務的な内容ではあるものの普通に明音と話せている。どちらかといえば、明音のほうがぎこちない気もする。



  いよいよ当日だ。関係ないがとても晴天である。
  後夜祭までは時間があるたっぷりあるので、三人で満喫することにした。なんてったって去年は心葉を探し回って文化祭を楽しんだ記憶がない。だから、今年こそは大事な思い出にしたい。

  文化祭が始まり役割のない人は一斉に校内を歩き始める。
「私、ここにいてよかったの?」
  宙が不安そうに尋ねた。
「なんで?」
  パンフレットを片手に心葉が首をかしげた。
「仮にも心葉たち恋人同士じゃん。二人で回ればいいのに。」
「人数は多いほうがいいでしょ?そっちの方が楽しいもん!」
  個人的には二人で回りたかったのだが、心葉が楽しそうに笑うあの顔にはどうしたって負けてしまう。
「それじゃあ、まず最初は屋台からかな!」 
  心葉はそういって走りだそうとしたので速攻捕まえる。念の為彼女の手元にある地図を覗く。そもそも進む方向が真逆だ。

  心葉に振り回された結果、全てのクラスを見ることが出来た。どこもすごくクオリティが高かった。特にお化け屋敷なんて宙が泣くくらいだった。

  ようやく後夜祭。参加は任意なので人数は全校生徒の半分ほど。明音はなんとか誘導してこの場にいる。
  時間になると共に体育館中の電気が消え、司会にスポットライトが集まった。テンション高く前振りを終わらせる。やがて、司会が呼びかけると、ライトが消え幕が上がっていった。
  プログラムは順調に進んだ。陸上部のトップ二人組のコント、演劇部の即興劇、ダンス部の本格的なヒップホップなど。それぞれかなり手の込んだ物ばかりだった。
 そして、軽音部が準備を始めた。司会が間を繋ぐために雑談をしている。その間に宙を明音の隣に連れていく。僕らは知らないフリをして舞台を見る。あとは宙次第だ。
「隣、いい?」
  宙が自ら話しかけた。
「もちろん。次が最後なんだね。少し名残惜しいかも。」
  明音も話を続ける。いい雰囲気だ。
「そうだね…。」
  宙がそう言い終えると、司会がタイミングよく声を張った。
「さぁ!これが最後のプログラム!軽音部の演奏です!どうぞっ!!」
  ライトはたちまちボーカルに集まった。歌う曲は最近流行っているバンドの曲らしい。ドラマーの合図で曲が始まる。生徒のテンションは最上級まで上昇しペンライトを振っていたり、跳んでいたり、とかなり騒がしい空気になっていく。僕はせいぜい手拍子が限界だ。
  その一方であちらの二人は舞台を眺めている。顔が赤く見えるのはライトのせいだろう。そんなことを考えていると、明音の口元が微かに動いた。歓声や歌い声で聞き取れない。歌っている心葉を連れて聞こえる所までそれとなく移動する。
  最初に宙の声が聞こえた。
「ねぇ、山崎くんは好きな人いる…?」
「いるよ。でも、いきなりどうしたの?」
「ううん。なんとなく…。」
  二人の間の沈黙を遮るように曲がサビに近づいてゆく。
「俺からも、1ついいかな?」
「どうぞ…。」
  いよいよ曲はサビに入る。より一層音量が増しているなか、僕は耳をすませる。
「俺、如月さんのこと好き。付き合ってくれない?」
  周りは騒がしく、はしゃいだ声が聞こえる。その中で二人の間には沈黙が続く。先に口を開いたのは明音だった。
「もちろん、すぐにとは言わないけど、俺の気持ち知って欲しかっただけだから。」
「ううん。うれ…し…いよ…。」
  途切れ途切れに宙は応える。
「だって、私も…。私も山崎のこと、好きなんだもん…。」
  いつにもなく顔を真っ赤に染めている。これはライトのせいなんかじゃない。
「本当か!?」
「こんなとこで嘘なんかつかないよ。」
  クスッと笑う。
「よかった…。絶対ダメだと思ってたから。」
  明音は胸をなでおろす。
「どうして?」
「だって、ずっと悠真と一緒にいるから、もしかしたら…って思ってて…。」
  再び沈黙が訪れる。
「そうね、一瞬だけ好きだったかも…。でも、昔の話。それに、心葉には適わないし。」
  僕はドキッとする。そんなの初耳だ。その話に興味が湧いたが、心葉に頬をつねられる。彼女はそっぽを向いて耳を赤く染めている。
「なんか、悠真に負けたみたいでちょっと悔しいかも。」
  二人は顔を見合わせて笑い合っていた。
  その後も二人の会話はライブの最後まで続き、とうとう後夜祭も幕を閉じた。
  
  
  体育館を出る時の混雑で二人を見失ってしまった。せめて「おめでとう」とだけでも言いたくて、心葉と一緒に探す。歩いている途中、不意に心葉が話し出す。
「あんまり、計画通りには進まないね。」
「そうだな。結局、明音に全部持ってかれた感じだったしな。」
  そう言って僕は呆れ笑いをする。
「でも、二人が付き合えて私すごく嬉しいな。」
  その通りだ、と深く頷く。
「そうだ!晴れて付き合えたんだからデート行かないとね!」
「それくらいなら、二人で計画立てて勝手に行くだろ。僕達の役目はないんじゃないか?」
「ううん!ダブルデートだよ!絶対楽しいよ!!」
  この暗い中、心葉の目はなによりも輝いている。幸せそうだからこっちも、幸せになる。そんなことを話しながら人の波に流されるように進む。すると、校門前で話している二人を見つけた。いつもは視界に入った瞬間に走り出す心葉だが、今はピタリと足を止め、宙たちを眺めている。
「うれしいな…。」
  心葉はポツリと呟いた。さっきの表情が嘘かのように静かに見つめている。そして、目には涙が見えた気がした。心葉が一度深呼吸をしてから足を動かす。僕は心葉の隣を歩いて二人の元に向かった。
「宙、おめでとう!これでリア充だ!!」
「僕からもおめでとう。」
  宙と明音は目を合わせはにかみながら笑っている。

  『恋のやまい』はまだまだ始まったばかりで、治ることもまだまだない。と僕はふと思ったのだ。だって、治ってしまう未来を想像することが出来ないし。なにより、治ってほしくないと本気で思っている今がある。
  そんな訳で、僕らの病気はまだまだ続きつづけている。終わりなんてきっとない。
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