DIRECTION

Leoll Bluefield

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「なあ…推薦枠の最後の一人知ってる?」
「それ皆知らないんだよ」

「ウチラの学年ちょっと変だよね 転校生が来たと思ったら知らない間にいないし お化け出るし 推薦枠一人不明だし」
「お化けって言い方かわいすぎない?」
「それ以外言い方なくない?」

飛頼がアティスになる訓練を始めて1年が経ちビュートへ向かうときが来た。
「じゃあ 行ってきます」
「一年後に帰ってこれるのね」
「うん」
「今更何を言っても同じだが人と違う道は苦労も多いぞ……まあ悔いの無いようにな」
「うん」
「楽しいと思えるならそれで十分よ」
「二人とも本当にありがとう こんなぶっ飛んだ話を理解してくれて 親が二人で良かったよ 必ず帰ってくるから 他のみんなにもよろしく また」
家の玄関で両親に見送られ飛頼は優志のカフェに向かう。
「おはようございます」
「おはよう これが最後の確認だ 覚悟は?」
「この1年間貴方に鍛えてもらいました 今更引けませんよ」
「そうか ここからはもう戻れない 君が地球に帰ることができるのは1年後 分かってるな」
「…ええ」
「…よし…この1年間…本当にありがとう…そしてここから1年間よろしく頼む 行くぞ ビュートディレクションオープンワールド」
飛頼はビュートへ向かっていく。

「地球とビュートの行き来には制限があるんですか?」
「いや」
「では地球に戻れないというのはマスターが決めただけとか?」
「そう思ってもらっても良いかな」
「さて今日からは君自身で頑張ってもらおうかの」
「え?」
「わしはもう見守るだけでいい」
「まだそれは早くないですか?ほら!ハンドガンの扱いになれると同時にエルガイアを纏うってのもまだ出来てなかったですし」
「うむ…とりあえず今日はここに住むことから慣れんとな」
「え…ええ…」
飛頼は拍子抜けだった。
(一日でも早く俺を強くしたいんじゃないのか?それとも気を使ってくれてる?)
「ではわしは頑張る君のために最高の夕飯を作ってこようか!」
そう言って優志は拠点に消えていく。飛頼は外で今までの訓練を自主的に続けた。夕飯は飛頼の好物のすき焼きを優志がふるまってくれた。
「やったぁ~!」
「肉も最高のものをそろえてる これからの君のアティス生活に!」
飛頼は優志の差し出すグラスに自分のグラスをそっとぶつける。

飛頼は薄っすらと夢を見ていた。
「ただいま」
それは自分の家の夢だった。
「え!?どうしたの!?」
母親は驚く。
「やっぱり……普通の生活に戻るよ」
そこで飛頼の記憶が薄れて翌日には全てを思い出すことはなかった。
(何だよ初日から……帰りたいのかな……フッ……まあちょっと寂しい気持ちあるしな)
飛頼は洗面台に向かい、ふと鏡を見る。
「あん?何か……俺が……俺じゃない?……ん……何言ってんだ俺は フフいよいよヤバいな……」

翌日になり飛頼は優志の訓練を受けようとするが優志はそれに応えない。
「どうしたんですか?何で訓練を受けさせてくれないんですか?」
「昨日も言ったろう もうわしの訓練は意味がない」
「だからって反復だけで強くなんてなれないでしょう?」
「そんなに強くなりたいか?」
「え?あ…はい…先生もそのつもりで俺を鍛えてくれたんでしょう?」
「そうか」
優志は言葉と同時に飛頼の腹部にアッパーを放つ。
「ッカフ…!」
飛頼は一瞬息ができなくなり地面に手をつく。
「……」
突然殴られ飛頼は混乱し入れ替わるように怒りが湧いてくる。
「これは…必要な…攻撃ですか?」
「さあ」
「は?じゃあ…何故殴ったんですか?」
「なあ…どうして俺を信用できると思ったんだ?」
「え……え?」
「急に突拍子もないこと言う知らないおじさんの話信じるのか?」
「……」
「キャンディー持ったおじさんについていくなんて今どきの幼稚園児でもしないぞ?」
「ふざけんな…お前が俺を必要だと言ったんだろ…ッくはっ…あんな話持ちかけておいて…よく言えたな…」
「違うだろ…お前は逃げたんだ」
「は?」
「退屈な日常から逃げた 机に向かってペンを走らせることから逃げた 現実から逃げたんだよ」
飛頼は心当たりがあるため反論できなかった。
「お前の住んでいる国の常識は他の国の子供からしたらどう映るだろうな 毎日生き抜くのに必死で否が応でも自立しなければならない 暑くて遠い道のりを重たい水を持って往復しなければならない 知識を得るために世界を知るために勉強したくてもお金が無くて何もできない 厳しい日常が当たり前になってる人間もいる中でお前はどうだ? 口を開けば『理不尽だ』『不平等だ』有り難みを忘れてぬるま湯に浸かろうと必死だな 1つ良いことを教えてやろう 苦しくて辛いことから逃げることはできるがそれは必ず後から追いついてくる その時立ち向かったやつは後々が楽しくなり その時逃げたやつは後々が苦しくなる」
飛頼は思わずその話を聞き入ってしまっていた。
「だから嫌いなんだよ!」
そう言いながら優志は掌を組んで高く振り上げる。
「お前みたいな奴がぁ!」
手をついて起き上がろうとしている飛頼の背中に思い切り組んだ手を振り下ろす。
「があぁっ!!」
鈍い音がなり飛頼は地面に叩きつけられる。優志は近づいて飛頼に囁く。
「この拠点はもう俺には必要ない使いたければ使え また会おう せいぜい恐怖に慄いてろ」
そう言って飛頼の元から去っていく。
「……ック……ハァハァ……あいつ……ふざけやがって絶対殺す」
痛む体を庇いながら拠点に戻る飛頼。
「んだよ何なんだよあいつ!ざけやがって!!」
拠点に戻った瞬間怒りと同時に涙が溢れ出す。
飛頼はトレーニングルームへと向かいサンドバッグを見つける。
「らぁっ!ふん!ふん!」
フックやキックを何度も放つが怒りは消えない。
「ハァ…ハァ…うぜ…風呂どこだっけ」
飛頼は泥だらけ汗だらけの体を洗いに浴場へ向かう。
「あいつ確かここって言ってたな」
飛頼は浴室に入り驚愕する。
「嘘だろ?スゲーな!」
そこは小さな温泉ともとれるほどの浴室だった。
「う~…あぁ~はぁ~」
熱い湯に浸かり癒やされながら飛頼はふと気づく。
「あれ?あの瞬間はすげー痛かったけどアザにもなってないし痛みもない……アティスって治癒も早いんだっけ……」
飛頼は寝室に向かい眠りにつく。

翌日、飛頼は生活に必要なものを手に入れるため街へ出る。地球での1年間の訓練の間、優志が手続きをしたことでアティスの証明となるカード1つで何でもできた。
「ビュートでベーグルマップ使えないしな…どうしよ……」
と地球から持ってきたスマートフォンで検索アプリを開いてみる。
「あれ?ビュートもマップに反映されてるじゃん!?良かったぁ~」
飛頼は近くのスーパーマーケットを見つけて向かおうとした。
「ロンゼムが出たぞ!」
「きゃあぁ~!」
「早く逃げろ!」
近くで騒ぐ人々の声を聞き飛頼はそちらへ向かう。
「あいつは!?」
そこには学校に現れた怪物がいた。
(翼神の話じゃビュートでも一般人の住むような街には出ないって……なのに何で!)
そう思いながらも飛頼は走り出す。
灯剣マード!!」
走りながら伸ばした右手に光が発生して長くなる。
(振り抜く度に強くなる)
念じてマードをロンゼムに振り抜くとマードは剣になり相手を斬りつける。
「グルルッ!」
ロンゼムは痛がるように声を上げる。
「フンッ!ッラァ!」
飛頼は立て続けに攻撃を重ねてロンゼムを倒す。ロンゼムは傷はついても血のようなものが流れることはなかった。
「ハァ…ハァ…やっぱり学校のときと同じだ」
飛頼がロンゼムを見ているとビュートの人間が集まってきた。
「アティスだ…アティスがロンゼムを倒したぞ!」
「ありがとう!」
「あんた最高だな!」
飛頼は周囲の称賛の声に気分が良くなる。
(アティス楽しいぃ~!)
浮かれてしまって飛頼はふと我に返る。
(この力もアイツのおかげだしな……どうすんだこれから……もう地球には戻れないのか……マジでここで一人かよ……まだエルガイアで身を護れてもいないってのに……逃げるって……俺だけじゃないだろ!?学校に来ない奴だっている 部活を辞める奴だっている 自分から話し持ちかけておいて……ふざけんな)
飛頼は生活に必要な物を買い込み、拠点へ戻る。
(とりあえず今は強くならないとエルガイアで身を護れないなら攻撃だ マードもハンドガンも極めきってやる!)
意気込む飛頼だったがついた炎に水が差す。
「ゼシュレイドに来れたと思ったらこんなところに思わぬ発見 今日は奇妙だ」
飛頼に緊張が走る。

「ヴァイスとは闘うなって 敵対してるんでしょう?」
「ヴァイスとアティスには圧倒的力の差があるんじゃよ」
マードのトレーニング中、飛頼は優志にアティスとヴァイスについて質問する。
「ヴァイスはアティスよりも希少な存在でヴァイスになることも難しい アティスは逆にヴァイスよりも成れる者は増えるが最終形態までの道のりは長く そこへたどり着ける者はヴァイスより少ない」
「最終形態?」
「アティスにはランクがあってな?君が成ろうとしているのは無音光伝ノーマルアティス つまり普通のアティスじゃよ」
「段階はいくつあるんですか?」
「それはまたのお楽しみ 今教えても気が遠くなるしな」
優志は笑って答えた。

「ザリーグ それが俺の名前 覚えたか?お前はアティスに近いがそれにしてはエルガイアが弱い 何なんだ?」
そう言ってザリーグは右手を前に出す。
「マード」
現れたのは黒いマードだった。飛頼もマードを出し攻撃に備える。
(やっぱりヴァイスか!ノーマルアティスでもないのにアティスの上を行くヴァイスにどうやって勝つんだ?逃げるか……それしかない)
飛頼がそう思った次の瞬間ザリーグが目の前に跳んでくる。
「なっ!?」
何とかマードで敵の斬撃を受け止めるが立て続けの攻撃に防戦一方の飛頼。
(よく見ろ!よく見ろ!受けたら終わりだ!)
「やはりマードが出せるようだな!未熟なアティスってわけか!だったら殺るしかない」
「待った!最終的な目的は平和な世界だろ!?何で同じ目的で敵になるんだよ!」
「何を今更 貴様らはエルガイアセンスを濫用して徹底的に犯罪者を痛めつけて正義を振りかざす偽善者だろ 俺達は違う 起伏の激しい感情を削ることで皆が静かに過ごせる世界を目指す 貴様らの悪意だけを力で捻じ伏せるようなやり方は理想でしかない 必ず反発が起きる 助けた人間だって悪人になる時があるかもしれない そしたら次はそいつを虐めるのか?」
「俺はまだアティスじゃない!そして俺もアティスへの信用はない!俺にマードを教えた奴は急に裏切ってどこかへ消えた!闘わなくていいなら俺だって闘わないさ!」
「命乞いか?哀れだなぁ!」
ザリーグは飛頼のマードを弾き飛ばす。
「ヴァイスは危険分子の排除 アティスは危険分子の抑制が目的だ お前らアティスは未熟だろうが何だろうが排除すんだよ!!」
「くっ!」
飛頼はその場から逃げようとする。
「フッ!」
ザリーグは高く跳び飛頼の先へ回り込む。
「逃げんのか?」
「まっ待ってくれよ!俺も騙されてんだよ!ヴァイスが正しいならそれでも良い!」
「お前ダサすぎだなぁ!!」
ザリーグは逃げる暇を与えずマードを振り下ろす。
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