俺の嫁が可愛すぎるので、とりあえず隣国を滅ぼすことにした。

イコ

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第一話

決着

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《side エルド・カレヴィ》

 ノーラは、誘拐騒動の混乱や泣いたことで疲れ果て、家の一角で静かに眠り込んでいた。

 俺はその姿を確認すると、何も知らずに彼女を幸せにしようとしていた自分を、重い罪のように感じた。

  彼女を抱き上げて、部屋のベッドへと連れていく。

 ノーラが来てから、彼女の部屋に入るのは初めてだが、何も物が増えていない。

 彼女が何も望まず、自分を卑下した結果なのだろう。

「ゆっくりおやすみ」

 ノーラの頭を優しく撫でてやり、怒りに震える拳を握りしめる。
 
 屋敷の明かりがわずかに灯る中、俺は静かに家の外へと足を運んだ。

 夜空は雲ひとつなく澄み、遠くで魔物の咆哮すら聞こえるような気がした。
 
 庭先で、オン婆とアルヴィが待っていた。

 オン婆は杖を片手に、どこか穏やかでありながらも、確かな危機感を滲ませた表情でこちらを見ている。

 アルヴィは、普段通りの冷静さを保ちながらも、今は不安と焦燥を隠せずにいるようだった。
 
「エルドや、ノーラ嬢は……かなり疲れておられます。誘拐騒動のせいで、心も体も限界に達しているようじゃな」
 
 オン婆が低く呟く。
 
 拳を握り締め、空を見上げた。

 これまで、俺はただ彼女を守ることだけに全力を注いでいた。しかし、今、初めて分かったのだ。
 
 王国は、ノーラにとって決して救いではなかった。

 むしろ、放置していればノーラを殺そうとする害悪だ。

 これまで連合国は、王国からの無理難題に苦しみながらも、必死に自分たちの生を守ってきた。しかし、王国の理不尽な命令や政治的圧力は、彼女の心に深い傷を刻んでいた。
 
「……俺は、ただ、ノーラを幸せにしたかっただけだ。だが、彼女の心に触れた今、俺には分かった。王国という枠組みが、どれほど彼女にとって害であったか。そして、王国は未だに彼女の足枷になっている」
 
 アルヴィが頷くのを感じながら、俺はさらに言葉を重ねた。
 
「これまでも、連合国は王国に抑圧され、無理な要求を突き付けられてきた。だが、今やその弊害は表面化している。異形の存在がいるからこそ、俺たちは動けない……動けば、また予想もしない災厄が襲いかかる」
 
 その言葉に、オン婆は苦い笑みを浮かべながら呟いた。
 
「どうするんだい? エルド。お前の手で何ができる?」
 
 俺は拳を握りしめ、決意のこもった眼差しで遠くの夜空を見つめた。
 
「俺は、絶対にノーラを守る。たとえ、この王国の底知れぬ闇の中でも……彼女の笑顔を、俺の手で取り戻してみせる」
 
 心の奥で、俺の怒りと悲しみが一つに溶け合い、未来への闘志となって燃え上がる。
 
 その瞬間、風がざわめき、夜空に一筋の星が輝いた。俺は、その星のように、輝くべき未来を、必ず取り戻してみせると誓った。

「異形の者たちを退けて、王国と対等な国を作るつもりだ」

 俺の言葉に、オン婆とアルヴィは、膝を折って俺に礼を尽くした。

「我らが導き手よ。我らはエルド王の、言葉に従います」
「エルド王の思うがままに」
「まずは、力をつけるぞ。連合国として、各々で力を蓄えよ」
「はっ!」

 連合国は魔王軍の残党が集まった寄せ集めではない。

 そのことを王国に思い知らせる必要がありそうだ。

 俺の嫁を傷つけたことを思い知らせてやる。
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