辺境伯令嬢はもう一度恋をする

紅子

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カリストロ辺境伯領編

繋がった空間

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ウダウダと悩みすぎて、そのストレスから魔窟の森をズタボロにしてしまうところだった。ハルトの制止があって助かった。その辺、黒鋼はそれも自然の摂理だと気にしない。

「さて、と。魔道具と魔方陣の理解を深めないと、あれは創れないよね」

魔窟の森で発散してから数日。私は漸く自分の時間を得て、図書室に向かっている。

「隠し部屋にあるライトの資料をより深く理解することからだな」

黒鋼の言うとおりだ。私はあれの1/10も理解していないのだから。ライトール様の遺したそれらは、10歳の理解できるものではない。魔法省の長官ですら理解できるか、という代物だ。ハルトなら数年研究すれば、一部を再現できるかもしれない。資料が膨大なのも私の理解を妨げている。どこから手をつけたら分かりやすいのかすら手探りなのだから。

「ハルトに手伝ってもらわぬのか?」

「ここに入れるの?」

「ああ。レーネはまだ気付いておらんのだったな。1度、ハルトを招待するといい。面白いことが起こるぞ?」

黒鋼の悪戯な言葉にのって、私は父様にハルトの図書室への入室許可、というか、王太子宮への立ち入り許可をもらった。ここは、特別に許可されたもの以外の立ち入りは許されていない。それが例え婚約者であろうとも。侍女や警備のための騎士すら、厳しい条件を満たしたものだけだ。母様を助けてもらったときは領主一族専用の医務室だったから、ハルトは王太子宮には未だ入ったことはない。




「これ・・・・凄いな」

ハルトの休みの日、早速、黒鋼の提案通りに図書室の魔方陣の前に連れてきた。

「ハルトには見えるんだ?」

突然、王太子宮に招かれてちょっと不審そうにしていたハルトだったけど、今は息を呑んで、壁を見つめている。

「他の人には見えないの?こんなに強い魔力なのに」

「うん。5歳の時に見つけて、私の他は今まで誰も見えなかった。ライトール様が創ったんだって」

ハルトは「そっか」と言いながら、そっと魔方陣をなぞり始めた。

「うわっ!」

どうやら魔方陣に魔力を取られたらしい。仄かに光り始めた。そして、浮き上がった言葉は・・・・。


『PASSWORD?』

私とは違って、でも私たちのよく知る言葉だった。

「え?なんだ、これ?」

「私の時は『合い言葉は?』だった」

「開けゴマ、か?」

「うん」

「なら、この場合は。OPEN SESAME」

『魔力を確認しました。おかえりなさいませ、ご主人様』

そして、私たちは見知らぬ部屋へと誘われた。

「あれ?ちょっと!黒鋼!ここ何処?」

いつもの隠し部屋に転移すると思っていたのに、全く知らない応接室に来てしまったのだから、慌てて黒鋼を振り返った。

「休憩室だ」

休憩室?

「ここは、ライトとエギザが研究の合間にふたりでのんびり過ごした場所よ。懐かしいわね」

黒鋼の端的な説明を真珠が補う。

「エギザって、ライトール様の伴侶で王妃だったエギザリーナ様のこと?」

『カリストロ領の英雄』に出てきたし、我が領の歴史の中ではとても重要な位置にいる人だ。その、とても豪胆というか、女傑だったという。

「レーネはここに連れてきたかったわけじゃないみたいだね」

「うん。黒鋼と転移するときは、隠し部屋に行くんだけど、違うところに来ちゃった」

「違うところではないぞ?その扉の向こうがレーネの隠し部屋になっておる」

「こっちの扉の向こうがハルトの隠し部屋ね」

ハルトの隠し部屋?

「「???」」

私たちふたりの頭の中に疑問符が浮かんだのに気付いた黒鋼によると、元エギザリーナ様の隠し部屋にハルトの魔力が反応して登録されたと。

「ふたりで来るときにはここに案内される仕様になっておる。お互いの部屋には許可なくば入れん」

「それに、直接ここや隣の部屋には転移できないわ。さっきの魔方陣から来ることね」

どういう訳か、私の隠し部屋に招待する予定が、エギザリーナ様の隠し部屋を開いてしまった。黒鋼の面白いこととは、これのこと?

「何故、私の魔力でエギザリーナ様の魔力を上書きできたのですか?」

そうだよ!気にもしてなかったけど、私も子孫ってだけでライトール様の魔力を上書きできるの?

「上書きではない。同じ魔力だっただけだ」

そんなことあり得るの?

ハルトの方を窺い見ると、目を見開いて、あり得ないという顔をしている。

「それは、つまり・・・・」

「アレンチュア公爵家はライトとエギザの子のひとりが興した家よ」

「それでも、同じ魔力なんてあり得ない」

「そうだな。普通ならあり得んだろう」

「・・・・・・」

「思い出せんか?」「思い出せない?」

黒鋼と真珠の魔力がぶわっと膨らんだ。

「な、にを?」

ふたりの魔力に圧倒されてくらりと世界が回転した。

「レーネ!ふたりとも!どう言うつもりだ!魔力を収めろ!!!」

私を抱えて、黒鋼と真珠に向き合うハルトの声も苦しげだ。それだけの魔力がこの空間に満ちている。ふたりが私たちに攻撃することはないと分かっていてもこの魔力の密度はきつい。すっと空気が緩んだ。ふたりが魔力を収めたのだ。

「仕方ないわね」

「ここに来れば、あるいは、と思ったのだがな」

「どういうことだ?」

魔力に当てられてぐったりした私と違い、ハルトは少し荒い息をしながらもふたりと対峙している。

「んっ!」「くっ!」

突然、意識を何処かに引っ張られる感じがして、息を呑んだ。咄嗟にハルトに目を向けると、目が合った。が、同じように苦悶の表情を浮かべている。その感覚は、徐々に強くなり抵抗も虚しく、私は、恐らくハルトも意識を手放した。
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