巻き込まれ召喚になった私はまったりのんびりスローライフを目指します!

紅子

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翌日、休憩時間に冒険者ギルドを尋ねると、ダムが私を待ちわびていた。

「ちび、ちょっと来い!」

受付に辿り着く前に、問答無用で2階のある一部屋に連行された。受付のお姉さんもこれにはぽかんとしている。そこには、《ウルフの餌場》に滞在しているあのお客さんもいた。

「ちび、何やらかした?」

「何にもやらかしてない!毎日、ちゃんと働いてます!」

「ちょっとこの部屋を掃除してみろ?」

「え?やですよ」

何で無料奉仕なんてしなくちゃいけないのか?只でさえ、無一文なのに。

「依頼にしてやる。ちょっと待ってろ」

ダムはさらさらと依頼書を書いて、1階の受付でサインをもらうとすぐに戻ってきた。この間3分。逃げる隙もなかった。

「これが依頼書だ」

「銀貨1枚。すぐに取り掛かります!」

だって、銀貨1枚だよ。銀貨2枚で7日頑張ろうと思ってた私には大金だよ?ちょっと呆れてるダムは放っておいて早速掃除を始めた。まずは、床にまで散乱している書類をひとつに纏め、部屋全体を魔法で綺麗にする。次に棚にある茶葉のうち、古いものから手前に置いて、香りの飛んでいるものは脇によけた。さすがにこれで銀貨1枚はぼったくりだろうと、書類の期限の早いものから順に仕分けした。ここまで10分。

「完了です!サインください♪」

パッと振り返ると頭を抱えたダムと苦笑している宿のお客さんが目に入った。

「ちび。魔力ないと言ってなかったか?」

「あ、はい。ないと思ってましたが、あったようなので、使ってみました」

ダムは頭を抱えたまま座り込んでしまった。

「君、あのね。魔法は誰かに魔力の回路を開いてもらわないと使えないんだよ?普通は両親かな」

「!!!」

ああ。常識がないとこうなるのか。そのお手本のようなことをしでかしたようだ。

「この後まだ時間あるよな?特別にこいつに魔法の講義をしてもらえ。何かしでかす前に常識を叩き込んでやる」

ありがたい、のかな?

「僕は本来、弟子以外に魔法の講義なんてしないんだけど、これほど無知じゃあね。魔力量が多い分、怖さ倍増だよ」

「お手数をおかけします?あ。ミャーサといいます」

ぺこりとお辞儀をした。

「頭を下げるなんて珍しい挨拶の仕方だね。海の向こう出身かな?僕はタナート。魔術師さ。この間、弟子がみんな独り立ちしたから気楽なもんだよ」

「こちらの挨拶はどうするんですか?」

「こうするのさ」

頬に柔らかい感触が当たった。

「ふええええぇぇぇ!!!」

頬にキスとか、免疫のない元25歳にしちゃ駄目でしょ!顔が熱い。

「初いねぇ」

「ちびで遊んでんじゃねぇよ。ちびもおっさん相手になんて反応してんだ。普通は握手だ。そんなことより、時間はあまりないんだろ?さっさと始めろ」

そこから、みっちり2時間30分。魔法の“ま”から叩き込まれた。タナート、スパルタ過ぎる。

「明日は、実践ね。今日と同じ時間に受付に来て。地下の訓練場を予約しとく」

「はひ。ありがとうござひますた」

頭がグルグルする。魔法理論が私の脳ミソから溢れて漏れそうだ。宿に戻り受付の仕事をしていても、呪文の数々が時々口から吐き出されてしまい、アキとロルフに心配されてしまった。泊まり客からは不審な目で見られるし散々だ。翌日はアキとロルフから憐れみの視線を注がれて、涙目で私はギルドに足を運んだ。

「来たな。地下の訓練場で待ってるぞ」

そんな私を出迎えたのはいい笑顔のダムだった。暇なのかね?地下の訓練場に降りると、タナートが他の冒険者に囲まれているのが目に入った。

「来たね。じゃ、始めようか」

にっこり笑う顔が胡散臭い。昨日のスパルタ加減に顔が引き攣ってしまう。

「・・おねが」

「え?!タナートさんが直接指導するんですか?!」

駆け出しっぽい冒険者たちは驚愕に目を見開いている。

「羨ましい。俺も、俺も混ぜてくんねぇかな!」

「僕もお願いしたい!」

「是非とも!」

冒険者が板についている人たちは、タナートから教わろうと必死だ。タナート、実は凄い人?

「はは。僕はそんなに安くないよ」

私に羨望と嫉妬の視線が突き刺さる。私たちが使う訓練場の周りには人だかりが出来た。ううっ。やりにくいことこの上ない。

「さて、ここの中での会話は外には聞こえないから、安心して。まず、魔力回路をちゃんと開くよ」

タナートは私と掌を合わせた。

「魔力を流すから、力を抜いててね」

その直後。

「ふぎゃあああああああ。やめてぇぇぇぇぇぇ!!!ぎもぢわるいぃぃぃ」

物凄い異物感が身体を駆け巡った。悍ましさ満点。どんなに暴れても、タナートの手は私から離れなかった。

「うん。これでちゃんと開いた。中途半端に開いてたところもぶち抜いたから、今までより効率は良くなるよ」

いい笑顔のタナートは、絶対にSだ。私にMの気はない!!!

「さあ、魔法を使ってみようか。まず、落とし穴を作ってみよう♪」

落とし穴か。ほい!

「うわっ!・・・・君ねぇ。僕を狙うなんていい度胸してるじゃない。昨日教えた詠唱もないし」

違います。ちょっと落ちてしまえ!とは思ったけど、そんな怖いこと出来ないから!詠唱は・・・・。小っ恥ずかしくて。省いちゃった。

「狙ってません。たまたまソコに穴が開いちゃっただけですから!」

キョロキョロと視線が彷徨ったのは、落ちちゃえ!と思ったのは事実だからだ。不審そうにタナートは私をじろりと睨んだ。タラーと背中を冷や汗が流れる。

「ふーん。まあ、いいや。それにしても、どんだけ深い穴を掘ったのさ」

うん。やり過ぎた。底が見えない。タナートが落ちたら這い上がれないくらいじゃないと私が危険だとか考えたからだろう。

「じゃ次ね」

それから魔力操作をみっちりと扱かれ、身を護る方法とか攻撃の仕方とか索敵のやり方なんかを教えてもらった。一番教えてもらいたかった土魔法を使った畑の作り方とか栄養豊富にする方法は、聞き流されて知ることは出来なかった。外に押しかけていた野次馬たちは、ダムから聞いたところによると、タナートのスパルタ加減に顔を青くして途中で退散していったらしい。

何それ。みんな、ずるい。
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