8 / 17
幸せの始まり
しおりを挟む
2階に上がった私たちは、ソファーでお互いの存在を確かめるようにぎゅっと抱き締め合っている。そのまま、ポツリポツリと言葉を交わす。
「やっと会えた。なかなか会えないから、神様に忘れられたのかと思った」
「もう、会えないと思ってた」
「シェリアは、・・・・姿の変わってしまった私を受け入れてくれるのか?」
少しだけ、抱き締める腕に力が入った。
「ん?姿なんて関係ないよ。アルが纏ってるエネルギーが同じだもん。あ、こっちでは、魔力になるのかな?ふわふわで優しいよ」
「ふ。前にもそんなこと言ってたな。ふわふわで包まれてるみたいって」
「うん。安心する」
「そうか」
「私の方こそ、なんか微妙に変わっちゃったでしょ?」
「いや、全然変わらない。ちょっとだけ若いか?」
「そうじゃなくて!前と配置がちょっとずつ違うでしょ?」
「同じだろ?今も前も可愛いままだ」
さらっとそういうことを言えちゃうのは、前と変わらない。たぶん顔が赤い。
「相変わらず可愛いな。
・・・・I love you, Saria.
I never ever leave you.」
「うん。I love you, too.
Please do not leave me alone.」
優しいキスが顔中に降ってくる。暫くそうしてお互いを堪能しあった。その間も下から叫び声が聴こえる。
「団長!自制、してくださいよ!!!」
「・・・・・・・・」
やっと落ち着き、アルの膝に乗ったまま状況を確かめ合う。
「いつからここに?」
「2年前、突然ここに来たの。アルが居なくなって10年過ぎたクリスマス・イブに足元が光って、気がついたらこの家に居たの。神様からの手紙で、地球じゃないって知ったんだ。その手紙がこれ」
それにざっと目を通したアルは、難しい顔だ。
「ここにある番は、私だ。左胸に印があるだろう?あっちで死んだ後、ここの神様っていうのに会った。この世界に記憶を保持したまま産まれ変わってほしいと頼まれたんだ。それだけで、この世界の危機が半減するからと。私は、ある条件を付けて承諾した。・・・・」
「条件?」
「ああ。シェリアが承知するなら、この世界に伴侶として呼んで欲しいと」
私の髪を触っていた手が、今度は頬にあてられて愛おしそうにそっと触れてくる。また、私の瞳から涙が零れた。
「アルが呼んでくれたから、私、ちゃんとここに来れたよ」
「ああ、そうだな」
アルがコツンと額を合わせると、私の瞳はアルでいっぱいだ。そのまま優しく口づけされる。啄むように角度を変えて、何度も。だんだんと深くなっていく。下に居る白銀たちが一瞬頭を過ったが、それに気づいたのか、更に深くなり何も考えられなくなった。このまま、流されてしまおうかと思い始めた頃・・・・。
「シェリアアアアア!!!いい加減に降りて来~い!」
白銀の叫び声が木霊した。
「ん!んん!」
「チュッ、チュッ。あれは?」
リップ音をさせて渋々といった感じで、話に戻ったアルに苦笑した。
「私の従魔。フェンリル、青龍、鳳凰、玄亀。正式な紹介は下でするね。神域から出てきたところを助けたの。でも、彼らは、私のご飯が目当てだから。私を見失わないようにって、騙し討ちで血の契約までしたんだよ、もう!人型なのは、他の人に知られない方がいいって彼らが判断したから」
白銀との出会いから説明していく私をポカンと見ている。どこから突っ込んでいいのか分からないようだ。というか、突っ込みどころ満載?
「・・・・。あー、まずは、番の印を確認していいか?左胸にあるだろう?」
あっ、後回しにした。
言われた通り、左胸の印を見せる。アルにも同じ印があった。蔦が絡まるように車輪を描いている。まさに、運命の輪だ。
太い指がそっと私の印をなぞる。ちょっとくすぐったい。したいようにさせていたら、口づけられてペロッと舐められた。
「ハウ!」
「ああ、悪い。番の印は、獣人にとって甘い蜜のようなものなんだ。無意識に引き寄せられる」
無意識だったようだ。ばつの悪そうな顔をしている。
「アルは、獣人なの?でも、耳も尻尾もないよ?」
「シェリアは、獣人は嫌か?」
「好きだよ。リン君の耳も尻尾も可愛いよね」
「あー、耳と尻尾は、大人になると余程のことがない限り、伴侶以外には見せない。神獣様と反対で獣化もできるが、人型が基本だ。狩りや討伐で必要なら獣化する」
そう言いながら、ピョコンと耳と尻尾を出してくれた。
うわー。ピョコピョコ動いてる!尻尾もふさふさだぁ。くぅー、触りたい。
「触るのは、後でな」
あー、しまちゃった・・・・。あとで、獣化してくれないかなぁ。
「虎さん?」
「白虎だな。リンハルトと同じだ」
「えっと・・・・、王族?」
「ご名答。ローゼンタール王国の第一王子だ。騎士団の団長をしている。アルフォンス・ローゼンタールがこの世界での名前だ。さて、シェリア。一緒に召喚された高校生について、知っていることは?」
「たまたま、信号待ちで隣にいただけ。制服を着なれた感じだったから、17歳か18歳だと思う。蒼貴が2年前にビジュー王国で召喚に成功したって言ってたよ」
「ビジュー王国か、厄介だな。そうすると、今は20歳くらいか」
「それから、今回のリン君たちが魔獣に襲われたのも関係あるんじゃないかって」
「なるほどな。その話は下でしよう。下に降りる前に、お互いのステータスを確認したい。いいか?」
「うん」
アルに見せる分には全く問題ない。アル曰く、冒険者のパーティーなんかだと、お互いのステータスを知っていないといざというときに困るから、信用のおける仲間とだけ属性とスキルは見せ合うんだそうだ。騎士団でも、隊長格になると部下の属性とスキルは、ある程度把握してるんだって。番は、神名を教え合うためにも全て公開する。
アルのステータスは、戦いに特化したものだった。知将、剣豪、猛将、鬼神、策略家、腹黒・・・・。うん、最後のこれは見なかったことにしよう。
そして、称号・・・・鍵を握る者。
アルは私のステータスを見て、苦笑している。
「これ、どうする?見事に防御一本だな。それに聖女かぁ。フッ、クク・・・・。回復魔法を使えるな。さて、どこまで公表するかなぁ。だが、まずは、番の儀式だな。シェリア、今から番の儀式をする。これをすることで、お互いが何処に居るのか把握できるようになる。従魔も称号も知られると不味いものが多すぎる」
聖女で笑わないでよ。私だってお尻の座りが悪いんだよ。
「やっぱり?結界もね、彼ら全員の全力攻撃に耐えられるんだよね。知ったときには、命の危険を感じたよ」
「おいおい。じゃあ、早い方がいいな。始めようか」
ふたり向き合い、お互いの印に手を当てる。
「私、アルバート・シャガロアは、この先、番サリア・シノザキ・シャガロアと共にある」
「私、サリア・シノザキ・シャガロアは、この先、番アルバート・シャガロアと共にある」
宣誓が終わると、お互いの印から一本の光が放たれ、それは、絡まりあい印と同じ模様を描くと、シュンと消えた。
「これで、何処にいても分かる。シェリアは、人間だから、寿命合わせも兼ねてるからな?」
ほっとした顔だ。わたし、そんなに危なかったんだ。危機意識、低いかも・・・・。
「寿命合わせ?」
「獣人は、魔力にもよるが、短くても200年は生きる。これは、祖先からの名残だ。が、人間は、地球と変わらない。短いくらいだ。だから、人間が番の場合は、儀式をすることで、番の獣人と寿命を同じくする。要するに、私が死ねば、シェリアも死ぬってことだな」
「そっか。じゃあ、今度は置いていかれないんだね?」
アルに無言で抱き締められた。髪に顔を埋めてくる。「ごめん」と呟く声が聞こえた。
ふたりが仲良く2階へと行ってしまった後、下では・・・・。
「緑葉、茶なんてしてる場合か!」
「まあ、落ち着かんか、白銀。あれが、待っておった番じゃろ」
「ふん!やっと来おったか」
「じゃ、待つしかないね。印の確認もするだろうし」
待機を言い渡された3人は、未だに呆けておる。ジルベルトとリンハルトは、驚きながらも現状を受け入れたようじゃ。
「ほれ、そこの3人もこっちで座って茶でも飲まんか。当分、降りてこんじゃろ」
「はっ!団長!自制、してくださいよ!!!」
「俺、あんな団長初めて見た」
「いや、誰も見たことないと思うぞ。なんせ、凍てつく氷山だからな」
「ジルベルトは、なんとも思わないのかよ?」
「いえ、驚いてますよ。ですが、私の最優先はリンハルト殿下ですから」
「ぶれないねぇ、おまえ」
「リンハルト様、直にお昼になります。食べすぎないでください」
「無視かよ」
「そういうわけでは・・・・」
「分かってるよ。今日のお昼は何かなぁ。ぼく、ドーナツがいいなぁ」
「それは、おやつにしていただきましょう。ご自分でお願いしてください?」
「うん!外で遊んでもいい?」
「そうですね。まだ、時間がかかりそうですから、許可しますよ」
「やったぁ!紅蓮、一緒に遊ぼう!」
紅蓮が見てくれるなら、大丈夫じゃろ。紅蓮に目配せして、着いていくように促す。
「いいよぉ。木のアスレチックに行こうか」
ジルベルトと紅蓮がリンハルトを連れ出したところで、儂らは3人にシェリアさんの用意した茶菓子を勧めた。
「お気遣い、感謝します」
「こちらの主にお礼を申したいが、ご在宅か」
「儂らの主はお主らの主と共におるな」
「ぶっ、ふぅ」「ごっふ」「ゴホゴホ・・・・」
「しつ、失礼しました。貴方がここの主ではないのですか?」
吹きだすのは堪えたか。
こやつら、礼儀正しいのか、そうでないのか、わからんのう。だいたい、儂が主なわけなかろう。こやつら3人の手綱なぞ握れるか!見る目のないやつらじゃ。
「そんなことはどうでもいい。あいつは、何者だ?シェリアの番など、誰よりも強くなくては認めん!」
「同感だな。弱い者に任せて、シェリアが泣くくらいなら、鍛えねばならん。何度神の身許に行くかは分からんが・・・・」
「そうじゃの。少なくとも、儂らくらいにはなってもらわんとの」
おお?獣人どもの顔色が悪いのぉ。何故じゃ?
「団長ぉ」
「なんだよ、この威圧は・・・・」
「怖えー」
「それで、どれ程のもんかの?」
「あっと、えー、騎士団でも、敵うものはおりません。魔獣ならワイバーン3体くらいはひとりで倒します」
「弱い。弱すぎる。獣人なら、ケルベロス・グリフォンくらい簡単であろう。サラマンダーなら5体は容易いな!」
「鬼だ。鬼が居る」
「団長、骨は拾います」
「それは、本人でないと何とも・・・・」
「そうじゃの。尤もじゃな」
「シェリアアアアア!!!いい加減に降りて来~い!」
「全く、あいつには、慎みと言うものがないのか」などと白銀はぶつくさ言っておるが、シェリアさんにそれを求めてはいかん。慎みがあれば、儂らの手入れなんぞしてはくれんよ。風呂上がりに甲羅をきゅきゅとオイルを含んだタオルで拭いてもらうのは、至福のときじゃな。かく言う白銀も気持ちよさげにブラッシングされておる癖にのぉ。
そして、気まずい沈黙。
取り残された3人は、自己紹介もさせてもらえないまま、ただひたすら、ふたりが早く降りてきてくれることを祈りつつ、静かにお茶を飲むのだった。
「やっと会えた。なかなか会えないから、神様に忘れられたのかと思った」
「もう、会えないと思ってた」
「シェリアは、・・・・姿の変わってしまった私を受け入れてくれるのか?」
少しだけ、抱き締める腕に力が入った。
「ん?姿なんて関係ないよ。アルが纏ってるエネルギーが同じだもん。あ、こっちでは、魔力になるのかな?ふわふわで優しいよ」
「ふ。前にもそんなこと言ってたな。ふわふわで包まれてるみたいって」
「うん。安心する」
「そうか」
「私の方こそ、なんか微妙に変わっちゃったでしょ?」
「いや、全然変わらない。ちょっとだけ若いか?」
「そうじゃなくて!前と配置がちょっとずつ違うでしょ?」
「同じだろ?今も前も可愛いままだ」
さらっとそういうことを言えちゃうのは、前と変わらない。たぶん顔が赤い。
「相変わらず可愛いな。
・・・・I love you, Saria.
I never ever leave you.」
「うん。I love you, too.
Please do not leave me alone.」
優しいキスが顔中に降ってくる。暫くそうしてお互いを堪能しあった。その間も下から叫び声が聴こえる。
「団長!自制、してくださいよ!!!」
「・・・・・・・・」
やっと落ち着き、アルの膝に乗ったまま状況を確かめ合う。
「いつからここに?」
「2年前、突然ここに来たの。アルが居なくなって10年過ぎたクリスマス・イブに足元が光って、気がついたらこの家に居たの。神様からの手紙で、地球じゃないって知ったんだ。その手紙がこれ」
それにざっと目を通したアルは、難しい顔だ。
「ここにある番は、私だ。左胸に印があるだろう?あっちで死んだ後、ここの神様っていうのに会った。この世界に記憶を保持したまま産まれ変わってほしいと頼まれたんだ。それだけで、この世界の危機が半減するからと。私は、ある条件を付けて承諾した。・・・・」
「条件?」
「ああ。シェリアが承知するなら、この世界に伴侶として呼んで欲しいと」
私の髪を触っていた手が、今度は頬にあてられて愛おしそうにそっと触れてくる。また、私の瞳から涙が零れた。
「アルが呼んでくれたから、私、ちゃんとここに来れたよ」
「ああ、そうだな」
アルがコツンと額を合わせると、私の瞳はアルでいっぱいだ。そのまま優しく口づけされる。啄むように角度を変えて、何度も。だんだんと深くなっていく。下に居る白銀たちが一瞬頭を過ったが、それに気づいたのか、更に深くなり何も考えられなくなった。このまま、流されてしまおうかと思い始めた頃・・・・。
「シェリアアアアア!!!いい加減に降りて来~い!」
白銀の叫び声が木霊した。
「ん!んん!」
「チュッ、チュッ。あれは?」
リップ音をさせて渋々といった感じで、話に戻ったアルに苦笑した。
「私の従魔。フェンリル、青龍、鳳凰、玄亀。正式な紹介は下でするね。神域から出てきたところを助けたの。でも、彼らは、私のご飯が目当てだから。私を見失わないようにって、騙し討ちで血の契約までしたんだよ、もう!人型なのは、他の人に知られない方がいいって彼らが判断したから」
白銀との出会いから説明していく私をポカンと見ている。どこから突っ込んでいいのか分からないようだ。というか、突っ込みどころ満載?
「・・・・。あー、まずは、番の印を確認していいか?左胸にあるだろう?」
あっ、後回しにした。
言われた通り、左胸の印を見せる。アルにも同じ印があった。蔦が絡まるように車輪を描いている。まさに、運命の輪だ。
太い指がそっと私の印をなぞる。ちょっとくすぐったい。したいようにさせていたら、口づけられてペロッと舐められた。
「ハウ!」
「ああ、悪い。番の印は、獣人にとって甘い蜜のようなものなんだ。無意識に引き寄せられる」
無意識だったようだ。ばつの悪そうな顔をしている。
「アルは、獣人なの?でも、耳も尻尾もないよ?」
「シェリアは、獣人は嫌か?」
「好きだよ。リン君の耳も尻尾も可愛いよね」
「あー、耳と尻尾は、大人になると余程のことがない限り、伴侶以外には見せない。神獣様と反対で獣化もできるが、人型が基本だ。狩りや討伐で必要なら獣化する」
そう言いながら、ピョコンと耳と尻尾を出してくれた。
うわー。ピョコピョコ動いてる!尻尾もふさふさだぁ。くぅー、触りたい。
「触るのは、後でな」
あー、しまちゃった・・・・。あとで、獣化してくれないかなぁ。
「虎さん?」
「白虎だな。リンハルトと同じだ」
「えっと・・・・、王族?」
「ご名答。ローゼンタール王国の第一王子だ。騎士団の団長をしている。アルフォンス・ローゼンタールがこの世界での名前だ。さて、シェリア。一緒に召喚された高校生について、知っていることは?」
「たまたま、信号待ちで隣にいただけ。制服を着なれた感じだったから、17歳か18歳だと思う。蒼貴が2年前にビジュー王国で召喚に成功したって言ってたよ」
「ビジュー王国か、厄介だな。そうすると、今は20歳くらいか」
「それから、今回のリン君たちが魔獣に襲われたのも関係あるんじゃないかって」
「なるほどな。その話は下でしよう。下に降りる前に、お互いのステータスを確認したい。いいか?」
「うん」
アルに見せる分には全く問題ない。アル曰く、冒険者のパーティーなんかだと、お互いのステータスを知っていないといざというときに困るから、信用のおける仲間とだけ属性とスキルは見せ合うんだそうだ。騎士団でも、隊長格になると部下の属性とスキルは、ある程度把握してるんだって。番は、神名を教え合うためにも全て公開する。
アルのステータスは、戦いに特化したものだった。知将、剣豪、猛将、鬼神、策略家、腹黒・・・・。うん、最後のこれは見なかったことにしよう。
そして、称号・・・・鍵を握る者。
アルは私のステータスを見て、苦笑している。
「これ、どうする?見事に防御一本だな。それに聖女かぁ。フッ、クク・・・・。回復魔法を使えるな。さて、どこまで公表するかなぁ。だが、まずは、番の儀式だな。シェリア、今から番の儀式をする。これをすることで、お互いが何処に居るのか把握できるようになる。従魔も称号も知られると不味いものが多すぎる」
聖女で笑わないでよ。私だってお尻の座りが悪いんだよ。
「やっぱり?結界もね、彼ら全員の全力攻撃に耐えられるんだよね。知ったときには、命の危険を感じたよ」
「おいおい。じゃあ、早い方がいいな。始めようか」
ふたり向き合い、お互いの印に手を当てる。
「私、アルバート・シャガロアは、この先、番サリア・シノザキ・シャガロアと共にある」
「私、サリア・シノザキ・シャガロアは、この先、番アルバート・シャガロアと共にある」
宣誓が終わると、お互いの印から一本の光が放たれ、それは、絡まりあい印と同じ模様を描くと、シュンと消えた。
「これで、何処にいても分かる。シェリアは、人間だから、寿命合わせも兼ねてるからな?」
ほっとした顔だ。わたし、そんなに危なかったんだ。危機意識、低いかも・・・・。
「寿命合わせ?」
「獣人は、魔力にもよるが、短くても200年は生きる。これは、祖先からの名残だ。が、人間は、地球と変わらない。短いくらいだ。だから、人間が番の場合は、儀式をすることで、番の獣人と寿命を同じくする。要するに、私が死ねば、シェリアも死ぬってことだな」
「そっか。じゃあ、今度は置いていかれないんだね?」
アルに無言で抱き締められた。髪に顔を埋めてくる。「ごめん」と呟く声が聞こえた。
ふたりが仲良く2階へと行ってしまった後、下では・・・・。
「緑葉、茶なんてしてる場合か!」
「まあ、落ち着かんか、白銀。あれが、待っておった番じゃろ」
「ふん!やっと来おったか」
「じゃ、待つしかないね。印の確認もするだろうし」
待機を言い渡された3人は、未だに呆けておる。ジルベルトとリンハルトは、驚きながらも現状を受け入れたようじゃ。
「ほれ、そこの3人もこっちで座って茶でも飲まんか。当分、降りてこんじゃろ」
「はっ!団長!自制、してくださいよ!!!」
「俺、あんな団長初めて見た」
「いや、誰も見たことないと思うぞ。なんせ、凍てつく氷山だからな」
「ジルベルトは、なんとも思わないのかよ?」
「いえ、驚いてますよ。ですが、私の最優先はリンハルト殿下ですから」
「ぶれないねぇ、おまえ」
「リンハルト様、直にお昼になります。食べすぎないでください」
「無視かよ」
「そういうわけでは・・・・」
「分かってるよ。今日のお昼は何かなぁ。ぼく、ドーナツがいいなぁ」
「それは、おやつにしていただきましょう。ご自分でお願いしてください?」
「うん!外で遊んでもいい?」
「そうですね。まだ、時間がかかりそうですから、許可しますよ」
「やったぁ!紅蓮、一緒に遊ぼう!」
紅蓮が見てくれるなら、大丈夫じゃろ。紅蓮に目配せして、着いていくように促す。
「いいよぉ。木のアスレチックに行こうか」
ジルベルトと紅蓮がリンハルトを連れ出したところで、儂らは3人にシェリアさんの用意した茶菓子を勧めた。
「お気遣い、感謝します」
「こちらの主にお礼を申したいが、ご在宅か」
「儂らの主はお主らの主と共におるな」
「ぶっ、ふぅ」「ごっふ」「ゴホゴホ・・・・」
「しつ、失礼しました。貴方がここの主ではないのですか?」
吹きだすのは堪えたか。
こやつら、礼儀正しいのか、そうでないのか、わからんのう。だいたい、儂が主なわけなかろう。こやつら3人の手綱なぞ握れるか!見る目のないやつらじゃ。
「そんなことはどうでもいい。あいつは、何者だ?シェリアの番など、誰よりも強くなくては認めん!」
「同感だな。弱い者に任せて、シェリアが泣くくらいなら、鍛えねばならん。何度神の身許に行くかは分からんが・・・・」
「そうじゃの。少なくとも、儂らくらいにはなってもらわんとの」
おお?獣人どもの顔色が悪いのぉ。何故じゃ?
「団長ぉ」
「なんだよ、この威圧は・・・・」
「怖えー」
「それで、どれ程のもんかの?」
「あっと、えー、騎士団でも、敵うものはおりません。魔獣ならワイバーン3体くらいはひとりで倒します」
「弱い。弱すぎる。獣人なら、ケルベロス・グリフォンくらい簡単であろう。サラマンダーなら5体は容易いな!」
「鬼だ。鬼が居る」
「団長、骨は拾います」
「それは、本人でないと何とも・・・・」
「そうじゃの。尤もじゃな」
「シェリアアアアア!!!いい加減に降りて来~い!」
「全く、あいつには、慎みと言うものがないのか」などと白銀はぶつくさ言っておるが、シェリアさんにそれを求めてはいかん。慎みがあれば、儂らの手入れなんぞしてはくれんよ。風呂上がりに甲羅をきゅきゅとオイルを含んだタオルで拭いてもらうのは、至福のときじゃな。かく言う白銀も気持ちよさげにブラッシングされておる癖にのぉ。
そして、気まずい沈黙。
取り残された3人は、自己紹介もさせてもらえないまま、ただひたすら、ふたりが早く降りてきてくれることを祈りつつ、静かにお茶を飲むのだった。
77
あなたにおすすめの小説
私のことが大好きな守護竜様は、どうやら私をあきらめたらしい
鷹凪きら
恋愛
不本意だけど、竜族の男を拾った。
家の前に倒れていたので、本当に仕方なく。
そしたらなんと、わたしは前世からその人のつがいとやらで、生まれ変わる度に探されていたらしい。
いきなり連れて帰りたいなんて言われても、無理ですから。
そんなふうに優しくしたってダメですよ?
ほんの少しだけ、心が揺らいだりなんて――
……あれ? 本当に私をおいて、ひとりで帰ったんですか?
※タイトル変更しました。
旧題「家の前で倒れていた竜を拾ったら、わたしのつがいだと言いだしたので、全力で拒否してみた」
すれ違う輪、重なる道
紅子
恋愛
~数多の想いを乗せて、運命の輪は廻る~の続編です。そちらを先にお読みください。
異世界に来て4年。役目を終え、もう一度会いたいと願った人と過ごす日々の中、突然、私に異変が・・・・。この世界は、いったい何をしたいのか?茶番のような出来事に振り回される私とアルの運命は?
8話完結済み 毎日00:00に更新します。
R15は、念のため。
自己満足の世界に付き、合わないと感じた方は読むのをお止めください。設定ゆるゆるの思い付きで書いているため、深い内容ではありません。さらっと読みたい方向けです。矛盾点などあったらごめんなさい(>_<)
山賊な騎士団長は子にゃんこを溺愛する
紅子
恋愛
この世界には魔女がいる。魔女は、この世界の監視者だ。私も魔女のひとり。まだ“見習い”がつくけど。私は見習いから正式な魔女になるための修行を厭い、師匠に子にゃんこに変えれた。放り出された森で出会ったのは山賊の騎士団長。ついていった先には兄弟子がいい笑顔で待っていた。子にゃんこな私と山賊団長の織り成すほっこりできる日常・・・・とは無縁な。どう頑張ってもコメディだ。面倒事しかないじゃない!だから、人は嫌いよ~!!!
完結済み。
毎週金曜日更新予定 00:00に更新します。
R15は、念のため。
自己満足の世界に付き、合わないと感じた方は読むのをお止めください。設定ゆるゆるの思い付き、ご都合主義で書いているため、深い内容ではありません。さらっと読みたい方向けです。矛盾点などあったらごめんなさい(>_<)
王弟殿下の番様は溺れるほどの愛をそそがれ幸せに…
ましろ
恋愛
見つけた!愛しい私の番。ようやく手に入れることができた私の宝玉。これからは私のすべてで愛し、護り、共に生きよう。
王弟であるコンラート公爵が番を見つけた。
それは片田舎の貴族とは名ばかりの貧乏男爵の娘だった。物語のような幸運を得た少女に人々は賞賛に沸き立っていた。
貧しかった少女は番に愛されそして……え?
【完結】ペンギンの着ぐるみ姿で召喚されたら、可愛いもの好きな氷の王子様に溺愛されてます。
櫻野くるみ
恋愛
笠原由美は、総務部で働くごく普通の会社員だった。
ある日、会社のゆるキャラ、ペンギンのペンタンの着ぐるみが納品され、たまたま小柄な由美が試着したタイミングで棚が倒れ、下敷きになってしまう。
気付けば豪華な広間。
着飾る人々の中、ペンタンの着ぐるみ姿の由美。
どうやら、ペンギンの着ぐるみを着たまま、異世界に召喚されてしまったらしい。
え?この状況って、シュール過ぎない?
戸惑う由美だが、更に自分が王子の結婚相手として召喚されたことを知る。
現れた王子はイケメンだったが、冷たい雰囲気で、氷の王子様と呼ばれているらしい。
そんな怖そうな人の相手なんて無理!と思う由美だったが、王子はペンタンを着ている由美を見るなりメロメロになり!?
実は可愛いものに目がない王子様に溺愛されてしまうお話です。
完結しました。
呪われた黒猫と蔑まれた私ですが、竜王様の番だったようです
シロツメクサ
恋愛
ここは竜人の王を頂点として、沢山の獣人が暮らす国。
厄災を運ぶ、不吉な黒猫─────そう言われ村で差別を受け続けていた黒猫の獣人である少女ノエルは、愛する両親を心の支えに日々を耐え抜いていた。けれど、ある日その両親も土砂崩れにより亡くなってしまう。
不吉な黒猫を産んだせいで両親が亡くなったのだと村の獣人に言われて絶望したノエルは、呼び寄せられた魔女によって力を封印され、本物の黒猫の姿にされてしまった。
けれど魔女とはぐれた先で出会ったのは、なんとこの国の頂点である竜王その人で─────……
「やっと、やっと、見つけた────……俺の、……番……ッ!!」
えっ、今、ただの黒猫の姿ですよ!?というか、私不吉で危ないらしいからそんなに近寄らないでー!!
「……ノエルは、俺が竜だから、嫌なのかな。猫には恐ろしく感じるのかも。ノエルが望むなら、体中の鱗を剥いでもいいのに。それで一生人の姿でいたら、ノエルは俺にも自分から近付いてくれるかな。懐いて、あの可愛い声でご飯をねだってくれる?」
「……この周辺に、動物一匹でも、近づけるな。特に、絶対に、雄猫は駄目だ。もしもノエルが……番として他の雄を求めるようなことがあれば、俺は……俺は、今度こそ……ッ」
王様の傍に厄災を運ぶ不吉な黒猫がいたせいで、万が一にも何かあってはいけない!となんとか離れようとするヒロインと、そんなヒロインを死ぬほど探していた、何があっても逃さない金髪碧眼ヤンデレ竜王の、実は持っていた不思議な能力に気がついちゃったりするテンプレ恋愛ものです。世界観はゆるふわのガバガバでつっこみどころいっぱいなので何も考えずに読んでください。
※ヒロインは大半は黒猫の姿で、その正体を知らないままヒーローはガチ恋しています(別に猫だから好きというわけではありません)。ヒーローは金髪碧眼で、竜人ですが本編のほとんどでは人の姿を取っています。ご注意ください。
【完結】召喚された2人〜大聖女様はどっち?
咲雪
恋愛
日本の大学生、神代清良(かみしろきよら)は異世界に召喚された。同時に後輩と思われる黒髪黒目の美少女の高校生津島花恋(つしまかれん)も召喚された。花恋が大聖女として扱われた。放置された清良を見放せなかった聖騎士クリスフォード・ランディックは、清良を保護することにした。
※番外編(後日談)含め、全23話完結、予約投稿済みです。
※ヒロインとヒーローは純然たる善人ではないです。
※騎士の上位が聖騎士という設定です。
※下品かも知れません。
※甘々(当社比)
※ご都合展開あり。
ヒロインと一緒に間違えて召喚されたみたいです!
麻竹
恋愛
ある日、図書委員の仕事を終え帰る途中、菜子はクラスメートの河井美香と校舎内ですれ違った瞬間、床が割れ異世界に召喚されてしまったのだった。
目が覚めたら美香が聖女と呼ばれていて・・・・・
「あれ私間違えて一緒に召喚されてしまったみたいですね。」
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
他サイト様にも投稿しています。(こちらは一部修正しています。)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる