数多の想いを乗せて、運命の輪は廻る

紅子

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幸せの始まり

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2階に上がった私たちは、ソファーでお互いの存在を確かめるようにぎゅっと抱き締め合っている。そのまま、ポツリポツリと言葉を交わす。

「やっと会えた。なかなか会えないから、神様に忘れられたのかと思った」

「もう、会えないと思ってた」

「シェリアは、・・・・姿の変わってしまった私を受け入れてくれるのか?」

少しだけ、抱き締める腕に力が入った。

「ん?姿なんて関係ないよ。アルが纏ってるエネルギーが同じだもん。あ、こっちでは、魔力になるのかな?ふわふわで優しいよ」

「ふ。前にもそんなこと言ってたな。ふわふわで包まれてるみたいって」

「うん。安心する」

「そうか」

「私の方こそ、なんか微妙に変わっちゃったでしょ?」

「いや、全然変わらない。ちょっとだけ若いか?」

「そうじゃなくて!前と配置がちょっとずつ違うでしょ?」

「同じだろ?今も前も可愛いままだ」

さらっとそういうことを言えちゃうのは、前と変わらない。たぶん顔が赤い。

「相変わらず可愛いな。
・・・・I love you, Saria.愛してる
I never ever leave you.もう離さない

「うん。I love you, too.私もだよ。愛してる
Please do not leave me alone.もう、独りにしないで

優しいキスが顔中に降ってくる。暫くそうしてお互いを堪能しあった。その間も下から叫び声が聴こえる。

「団長!自制、してくださいよ!!!」

「・・・・・・・・」



やっと落ち着き、アルの膝に乗ったまま状況を確かめ合う。

「いつからここに?」

「2年前、突然ここに来たの。アルが居なくなって10年過ぎたクリスマス・イブに足元が光って、気がついたらこの家に居たの。神様からの手紙で、地球じゃないって知ったんだ。その手紙がこれ」

それにざっと目を通したアルは、難しい顔だ。

「ここにある番は、私だ。左胸に印があるだろう?あっちで死んだ後、ここの神様っていうのに会った。この世界に記憶を保持したまま産まれ変わってほしいと頼まれたんだ。それだけで、この世界の危機が半減するからと。私は、ある条件を付けて承諾した。・・・・」

「条件?」

「ああ。シェリアが承知するなら、この世界に伴侶として呼んで欲しいと」

私の髪を触っていた手が、今度は頬にあてられて愛おしそうにそっと触れてくる。また、私の瞳から涙が零れた。

「アルが呼んでくれたから、私、ちゃんとここに来れたよ」

「ああ、そうだな」

アルがコツンと額を合わせると、私の瞳はアルでいっぱいだ。そのまま優しく口づけされる。啄むように角度を変えて、何度も。だんだんと深くなっていく。下に居る白銀たちが一瞬頭を過ったが、それに気づいたのか、更に深くなり何も考えられなくなった。このまま、流されてしまおうかと思い始めた頃・・・・。

「シェリアアアアア!!!いい加減に降りて来~い!」

白銀の叫び声が木霊した。

「ん!んん!」

「チュッ、チュッ。あれは?」

リップ音をさせて渋々といった感じで、話に戻ったアルに苦笑した。

「私の従魔。フェンリル、青龍、鳳凰、玄亀。正式な紹介は下でするね。神域から出てきたところを助けたの。でも、彼らは、私のご飯が目当てだから。私を見失わないようにって、騙し討ちで血の契約までしたんだよ、もう!人型なのは、他の人に知られない方がいいって彼らが判断したから」

白銀との出会いから説明していく私をポカンと見ている。どこから突っ込んでいいのか分からないようだ。というか、突っ込みどころ満載?

「・・・・。あー、まずは、番の印を確認していいか?左胸にあるだろう?」

あっ、後回しにした。

言われた通り、左胸の印を見せる。アルにも同じ印があった。蔦が絡まるように車輪を描いている。まさに、運命の輪だ。
太い指がそっと私の印をなぞる。ちょっとくすぐったい。したいようにさせていたら、口づけられてペロッと舐められた。

「ハウ!」

「ああ、悪い。番の印は、獣人にとって甘い蜜のようなものなんだ。無意識に引き寄せられる」

無意識だったようだ。ばつの悪そうな顔をしている。

「アルは、獣人なの?でも、耳も尻尾もないよ?」

「シェリアは、獣人は嫌か?」

「好きだよ。リン君の耳も尻尾も可愛いよね」

「あー、耳と尻尾は、大人になると余程のことがない限り、伴侶以外には見せない。神獣様と反対で獣化もできるが、人型が基本だ。狩りや討伐で必要なら獣化する」

そう言いながら、ピョコンと耳と尻尾を出してくれた。

うわー。ピョコピョコ動いてる!尻尾もふさふさだぁ。くぅー、触りたい。

「触るのは、後でな」

あー、しまちゃった・・・・。あとで、獣化してくれないかなぁ。

「虎さん?」

「白虎だな。リンハルトと同じだ」

「えっと・・・・、王族?」

「ご名答。ローゼンタール王国の第一王子だ。騎士団の団長をしている。アルフォンス・ローゼンタールがこの世界での名前だ。さて、シェリア。一緒に召喚された高校生について、知っていることは?」

「たまたま、信号待ちで隣にいただけ。制服を着なれた感じだったから、17歳か18歳だと思う。蒼貴が2年前にビジュー王国で召喚に成功したって言ってたよ」

「ビジュー王国か、厄介だな。そうすると、今は20歳くらいか」

「それから、今回のリン君たちが魔獣に襲われたのも関係あるんじゃないかって」

「なるほどな。その話は下でしよう。下に降りる前に、お互いのステータスを確認したい。いいか?」

「うん」

アルに見せる分には全く問題ない。アル曰く、冒険者のパーティーなんかだと、お互いのステータスを知っていないといざというときに困るから、信用のおける仲間とだけ属性とスキルは見せ合うんだそうだ。騎士団でも、隊長格になると部下の属性とスキルは、ある程度把握してるんだって。番は、神名を教え合うためにも全て公開する。

アルのステータスは、戦いに特化したものだった。知将、剣豪、猛将、鬼神、策略家、腹黒・・・・。うん、最後のこれは見なかったことにしよう。

そして、称号・・・・鍵を握る者。

アルは私のステータスを見て、苦笑している。

「これ、どうする?見事に防御一本だな。それに聖女かぁ。フッ、クク・・・・。回復魔法を使えるな。さて、どこまで公表するかなぁ。だが、まずは、番の儀式だな。シェリア、今から番の儀式をする。これをすることで、お互いが何処に居るのか把握できるようになる。従魔も称号も知られると不味いものが多すぎる」

聖女で笑わないでよ。私だってお尻の座りが悪いんだよ。

「やっぱり?結界もね、彼ら全員の全力攻撃に耐えられるんだよね。知ったときには、命の危険を感じたよ」

「おいおい。じゃあ、早い方がいいな。始めようか」

ふたり向き合い、お互いの印に手を当てる。

「私、アルバート・シャガロアは、この先、番サリア・シノザキ・シャガロアと共にある」

「私、サリア・シノザキ・シャガロアは、この先、番アルバート・シャガロアと共にある」

宣誓が終わると、お互いの印から一本の光が放たれ、それは、絡まりあい印と同じ模様を描くと、シュンと消えた。

「これで、何処にいても分かる。シェリアは、人間だから、寿命合わせも兼ねてるからな?」

ほっとした顔だ。わたし、そんなに危なかったんだ。危機意識、低いかも・・・・。

「寿命合わせ?」

「獣人は、魔力にもよるが、短くても200年は生きる。これは、祖先からの名残だ。が、人間は、地球と変わらない。短いくらいだ。だから、人間が番の場合は、儀式をすることで、番の獣人と寿命を同じくする。要するに、私が死ねば、シェリアも死ぬってことだな」

「そっか。じゃあ、今度は置いていかれないんだね?」

アルに無言で抱き締められた。髪に顔を埋めてくる。「ごめん」と呟く声が聞こえた。





ふたりが仲良く2階へと行ってしまった後、下では・・・・。

「緑葉、茶なんてしてる場合か!」

「まあ、落ち着かんか、白銀。あれが、待っておった番じゃろ」

「ふん!やっと来おったか」

「じゃ、待つしかないね。印の確認もするだろうし」

待機を言い渡された3人は、未だに呆けておる。ジルベルトとリンハルトは、驚きながらも現状を受け入れたようじゃ。

「ほれ、そこの3人もこっちで座って茶でも飲まんか。当分、降りてこんじゃろ」

「はっ!団長!自制、してくださいよ!!!」

「俺、あんな団長初めて見た」

「いや、誰も見たことないと思うぞ。なんせ、凍てつく氷山だからな」

「ジルベルトは、なんとも思わないのかよ?」

「いえ、驚いてますよ。ですが、私の最優先はリンハルト殿下ですから」

「ぶれないねぇ、おまえ」

「リンハルト様、直にお昼になります。食べすぎないでください」

「無視かよ」

「そういうわけでは・・・・」

「分かってるよ。今日のお昼は何かなぁ。ぼく、ドーナツがいいなぁ」

「それは、おやつにしていただきましょう。ご自分でお願いしてください?」

「うん!外で遊んでもいい?」

「そうですね。まだ、時間がかかりそうですから、許可しますよ」

「やったぁ!紅蓮、一緒に遊ぼう!」

紅蓮が見てくれるなら、大丈夫じゃろ。紅蓮に目配せして、着いていくように促す。

「いいよぉ。木のアスレチックに行こうか」

ジルベルトと紅蓮がリンハルトを連れ出したところで、儂らは3人にシェリアさんの用意した茶菓子を勧めた。

「お気遣い、感謝します」

「こちらの主にお礼を申したいが、ご在宅か」

「儂らの主はお主らの主と共におるな」

「ぶっ、ふぅ」「ごっふ」「ゴホゴホ・・・・」

「しつ、失礼しました。貴方がここの主ではないのですか?」

吹きだすのは堪えたか。
こやつら、礼儀正しいのか、そうでないのか、わからんのう。だいたい、儂が主なわけなかろう。こやつら3人の手綱なぞ握れるか!見る目のないやつらじゃ。

「そんなことはどうでもいい。あいつは、何者だ?シェリアの番など、誰よりも強くなくては認めん!」

「同感だな。弱い者に任せて、シェリアが泣くくらいなら、鍛えねばならん。何度神の身許に行くかは分からんが・・・・」

「そうじゃの。少なくとも、儂らくらいにはなってもらわんとの」

おお?獣人どもの顔色が悪いのぉ。何故じゃ?

「団長ぉ」

「なんだよ、この威圧は・・・・」

「怖えー」

「それで、どれ程のもんかの?」

「あっと、えー、騎士団でも、敵うものはおりません。魔獣ならワイバーン3体くらいはひとりで倒します」

「弱い。弱すぎる。獣人なら、ケルベロス・グリフォンくらい簡単であろう。サラマンダーなら5体は容易いたやすいな!」

「鬼だ。鬼が居る」

「団長、骨は拾います」

「それは、本人でないと何とも・・・・」

「そうじゃの。尤もじゃな」

「シェリアアアアア!!!いい加減に降りて来~い!」

「全く、あいつには、慎みと言うものがないのか」などと白銀はぶつくさ言っておるが、シェリアさんにそれを求めてはいかん。慎みがあれば、儂らの手入れなんぞしてはくれんよ。風呂上がりに甲羅をきゅきゅとオイルを含んだタオルで拭いてもらうのは、至福のときじゃな。かく言う白銀も気持ちよさげにブラッシングされておる癖にのぉ。



そして、気まずい沈黙。
取り残された3人は、自己紹介もさせてもらえないまま、ただひたすら、ふたりが早く降りてきてくれることを祈りつつ、静かにお茶を飲むのだった。
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