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召喚聖女とジュエルの貴公子④
今日は、学園の卒業式だ。長かった。攻略対象者の好感度はバッチリ。婚約破棄した攻略対象者もいない。卒業式の後で行われる夜会で"ざまぁ"さえなければ、この夜会の終わりまでに隠れキャラと遭遇できる!あと少し。ここまで頑張ったんだから、絶対に隠れキャラとハッピーエンドをなんだから!!!
卒業式。
首席は、第二王子だった。次席がミナリーナ様、第二王子の側近クリストフ様、ルシフェル様と続き、最後は知らない男子生徒だった。
おかしい。あれだけやったのに、何故、5人に入っていないの?まあ、いいわ。攻略対象者が誰も入っていないなら、好感度も下がりようがないわね。この5人に本人も側近達も誰も選ばれなかったことで、王太子争いから1歩後退するラファーガ様は、すごい形相で舞台を睨んでるけど、私には関係ないわね。ああ、今夜が楽しみだわ♪
そして、夜会が始まった・・・・。
私は事前にプレゼントされた衣装に着替え、迎えを待った。ドレスはラファーガ様、髪飾りはフェルド様、靴はオルト様、首飾りはガリバ様、イヤリングと手袋、扇子はシーラント様が用意してくれた。どれも一流品ばかりだ。私の美しさを余すところなく引き出している。
暫くして、今宵のエスコート役であるラファーガ様がやって来たが、ミナリーナ様が見当たらない。いつもなら隣にひっそりと居るのに。
「遅くなってすまない」
「ミナリーナ様はどうされたのですか?」
「少し具合が悪いから遅れると直前で連絡が入ったのだ。今日は父親のブラックローズ公爵と参加するそうだ」
「あら、折角学生最後の夜会ですのに。そう言うことでしたら、宜しくお願い致しますわ、ラファーガ様。ふたりで、なんて、初めてですわね」
「フフ。こんなに美しい方だけをエスコート出来るとは、なんて幸運なんだろう。これからもそうしたいものだ」
「お上手ですわね。さあ、参りましょう?」
ミナリーナ様が居ないのは想定外だが、少し遅れるくらいなら、問題ないだろう。
私とラファーガ様が入場すると、ざわざわとざわめきが広がった。ミナリーナ様が居ないからだろう。「もしや・・・・」とか「まさか・・・・」とか聴こえてくる。少しその視線をうっとうしく感じていると、側近達が人の間を縫うようにしてこちらに来るのが見えた。
「殿下、ミナリーナ様はどうされたのですか?」
「ミナリーナは体調を崩して遅れると連絡があった。ブラックローズ公爵と共に来るそうだ」
「私とオルトの婚約者も体調を崩したと連絡を受けた。仕方ないから、それぞれの親族と来たんだが・・・・」
「なんだと。妙な偶然だな。どうなっている?そう言えば、まだセルベージの姿が見えないな」
どういうこと?今までこんなことなかったのに。
まるで示し合わせたようにラファーガ様の周囲の婚約者が体調を崩すだなんて。3人か。気にする必要はない?
私達がおろおろとしているうちに、国王陛下が入場された。そして、その後ろには・・・・。第二王子と国王の側室がいた。
ラファーガ様は、取り乱したようになり「何故だ?何故、母上が、王妃様がいないのだ!セルベージが何故あの場にいるのだ」と小声で繰り返してばかり。鋭い視線を周囲に投げ掛けて、ある一点で視線を止めた。
「あそこに群がる者らのせいか。忌々しい。父上は何故、あのような賤しい者らを招待したのだ?」
イライラとこちらが話し掛けるのも憚られる程の殺気を出している。
周りの貴族は、嗤うように見てくる者、距離をとろうとする者、憐れみの視線を寄越す者ばかりで、誰も近づいては来ない。
「部屋に戻る!」
ラファーガ様は、一言吐き出すように言い捨て、会場から出ていってしまった。側近達も慌てて後を追って行った。ひとり取り残された私は、居心地の悪い視線を感じつつも、夜会の会場で、隠れキャラが迎えに来るのを信じて待っていた。
その後、第二王子が王太子となることミナリーナが婚約者になることが発表されたが、付添人もエスコート役もいない私は、ひとりテラスに居たためにそれを聞くことはなかった。
3日程、時は遡り・・・・。
今日、一足早くローゼンタール王国から第一王子とその番殿が我が国の招待に応じ来てくださった。前国王夫妻も来てくださるという。これで、他国も他種族と交流を深めていく我が国の方針を信じてくれるだろう。
アルフォンス殿と番殿が宿に到着したとの知らせを受けて、挨拶に赴いた。通常ならば、陛下に挨拶をするため、王宮にあちらから足を運ぶが、今回は夜会までローゼンタール王家から招待客が来ていることを知られたくない。だから、第二王子の私から挨拶に出向いたというわけだ。
「ようこそお出でくださいました、アルフォンス殿」
「ご招待、有難うございます。隣国が友好国になるのは我が国にとっても有益ですから。前国王夫妻も前日の夜までには到着する予定です」
それから、夜会からその後の予定や騎士団の配置などについて意見を交わした。ローゼンタール王国の騎士にも協力してもらう。人族至上主義派と他種族友好派で二分している我が国の騎士だけでは、対応できない。兄上や人族至上主義派の連中に知られずに事を進めるには、信頼できる騎士が足りない。
「夜会には前国王夫妻が参加します。私と私の番は、翌日の謁見のみの参加になります。私の番は、夜会が苦手でね。ご容赦願いたい。代わりと言ってはなんですが、警備には私達も加わりますよ」
「私達とは、アルフォンス殿とまさか、番殿、ではないですよね?」
「そのまさか、です。番を独りには出来ませんから。それに、少し確かめたいこともありますし。番からは離れませんし、心配はご無用です」
「フフ、羨ましい限りですね。私にも番の印はありますが、未だに現れない」
「必ず出会えますよ。我が国の副団長も番同士ですが、出会って数年は番だと気づかなかったそうです。お互い、反発ばかりだったと。ですから、意外と既に出会っていたりするかもしれませんよ。特に相手が人族の場合は、相手には何の反応もありませんから」
そんなものか、と聞きながら、ひとつの顔が浮かんだ。無いな。
「おや、心当たりがあるようだ」
「ありませんよ」
断じて違う!
・・・・確認くらいはした方がいいか?
「そういうことにして。・・謁見の前に一度、異世界の魔術師が封印されている場所を見たいのですが、案内いただけますか?」
「もちろんです。明日でよければお昼にご案内致します」
「では、そのように。くれぐれも国王陛下には、宜しくお伝えください」
私達は、ガッチリと握手をして別れた。
彼等は私の正体を知っている。ローゼンタール王国へ赴いた折り、私から正体を明かした。なぜなら、獣人は、獣人がわかるからだ。そう、私は獣人だ。私の母もまた、獣人だ。父はそれを知っていて、母を側室に迎えた。前国王陛下、私の祖父は、父と母の婚姻を許さなかった。祖父は、母が獣人だとは知らない。ただ、他国の者というだけで反対したそうだ。当時の父は、後ろ楯の力が弱かった。祖父は、無理矢理、人族至上主義派の現王妃様と婚姻を結ばせ、後ろ楯とした。親心だったのかもしれない。その直後に祖父は病を得て亡くなった。すぐに父は母を側室とした。そして、13年の時を費やし、人族至上主義を撤廃した父は、本当に母のことを愛しているんだと思う。私の正体を知っているのは、ここでは父と母と獣人の乳母だけだ。
私がローゼンタール王国と繋がりを作りたいと伝を探している時、それを知っているかのようにアルフォンス殿からミナリーナが懇意にしている孤児院を通して手紙を受け取った。召喚聖女に纏わることで話がしたい、と。なぜ、私に?疑問はあったが、渡りに船だ。断る理由はない。すぐにローゼンタール王国を訪れた。
私がローゼンタール王国で得た情報は、この国の根本を、いや、人族の根本を揺るがすようなことだった。その時の衝撃たるや、暫く口も聞けなくなったほどだ。神獣様にまで会おうことになるとは、誰が予想できただろう。父は、陛下は、召喚聖女の役割を知っていた。それが書かれた国王と王太子のみが閲覧できる秘伝の魔道具が存在するという。ただ、その歴史までは知らなかったようだが。だから、兄上が召喚聖女を招いてしまった事態に憤りを覚えていた。そして、その秘密がどこから漏れたのか、調査していたらしい。出所は、すぐに判明した。王妃様の実家だ。門外不出とされていたにもかかわらず、古い日記には、当時、召喚に関わった者によって、召喚陣とそのやり方のみが記されていたという。それを兄上は王妃様の実家で見つけ出し、召喚を行ってしまった。その意味さえ知らずに・・・・。
今宵の夜会には、その召喚聖女が会場の片隅に淑女にあるまじき顔で佇んでいる。近くには、警備に紛れ込んだアルフォンス殿と傍らには番殿がいる。あの娘は、これから、どうなるのだろうか・・・・。
なぜ、なぜ来ないの?
本当なら今頃スチル通りに攻略対象者に囲まれて、隠れキャラとの事を応援されてるはずなのに。
弟を助けなかったから?
好感度がマックスじゃなかったの?そんなことはないわ。手応えはあったもの。誰も婚約破棄だってしていないわ。
何を間違えたの?
「ここは、ゲームの世界なんでしょ。好感度だって、マナーだってちゃんとやったわ。こんな展開あり得ない!私はヒロインなのよ!今更こんなノーマルエンド、冗談じゃない!」
夜会も終わりに近づき、人もまばらになった会場でひとり、私は、ゲームが思い通りにいかないことに腹をたてて顔を歪めた。すぐそばで隠れキャラとその番が見ているとも知らずに・・・・。
そこからが悪夢の始まりだった。
翌日、朝から王様に呼び出された。ここに来て2年になるが、初めてのことだ。何を今更、とも思うが、隠れキャラに会えなかった以上、これからの生活を保証してもらわなければならない。もしかしたら、帰り方を知っているかもしれない。一縷の望みを託して、王様に会うことにした。
「随分と堂々とした娘だな」
「召喚聖女は、王族と同格なのでしょう?」
「まあ、よい。その方を呼び出したのは、召喚聖女としての役割を果たしてもらおうと思ってな」
何それ?そんなのゲームにはなかった。何をさせるつもりなの?
「役割?果たしているでしょう。回復魔法で騎士達を治療しているし、何よりここに居ることが一番の役割でしょう?私がいれば、魔獣が減るんだもの」
「召喚聖女の本来の役割も知らずに2年もの間、王宮で、あるいは学園で好き放題していたとはなぁ。その方の行動は全て報告を受けている。どれ程のものかと思えば、学園中の令嬢から嫌悪されているとは、お粗末なものだ」
「な、何を根拠に!私は学園の女生徒を纏め上げていたじゃない!」
コンコンコン
「入れ」
「失礼致します」
入ってきたのは、第二王子とミナリーナだった。なぜか、ミナリーナは、第二王子にエスコートされている。
「お呼びと伺いましたが」
「まあ、ふたりとも座れ」
私は立ったままなのに、ふたりを座らせるとはどういうことよ!
「これから、召喚聖女殿にご自分の役割を果たしていただこうと思ってな。王太子となったその方にも見届けさせようと思ったのだ」
は?第二王子が王太子?何の冗談。だって、ノーマルエンドでもラファーガ様はミナリーナと結婚して王様になるんでしょう?どうなってるの?
「ラファーガ様はどうされたのです?ミナリーナ様は、ラファーガ様の婚約者でしょう」
「ああ、言い忘れておったが、ラファーガは、急な病を得て、今朝方、見罷かった。側近達も王宮にはおらんぞ。ミナリーナは、5日も前に婚約を解消しておるぞ」
「えっ!」
婚約を解消している?5日も前に?
ラファーガ様が見罷った?
急な病を得て?
殺したってこと?!!!
もう嫌!帰りたい!どうしたら帰れるの?
「さあ、行こうか。ミナリーナも着いて参れ。セルベージの番なら知っておくべきだ」
「畏まりました」
何処へ行こうというの?
私は騎士に囲まれるようにして、王宮の奥、廊下の突き当たりにあるタペストリーの前まで連れてこられた。
「その方ら騎士はここで待機だ」
タペストリーを捲ると扉があった。扉の向こうは薄暗く、地下に向かって階段が続いている。王様が足を踏み入れると、灯りが灯った。私は王様の後ろについて、ひたすら螺旋状の階段を降りていく。どれくらい降りただろう。扉があった。
「この中に居る者を回復せよ。それが召喚聖女の役目だ。我々は中には入れぬ。行け」
背中を押されて放り込まれた。そこには、頭に角を持つ異形が横たわっていた。
これを回復するの?
扉は開いたままだ。王様、第二王子、ミナリーナが見ている。いや、監視している、が正しい。仕方なく、目の前の異形を回復させる。が、魔力を注いでも注いでも泡のように消えていく。限界まで注いだが、全く手応えはなかった。
「この程度か。ハァ。ローゼンタール王国に借りを作ることにはなるが、助力を願うしかあるまいな」
私は、役立たずの烙印を押され、理不尽にも罪を犯した王族が入るという塔に幽閉された。
卒業式。
首席は、第二王子だった。次席がミナリーナ様、第二王子の側近クリストフ様、ルシフェル様と続き、最後は知らない男子生徒だった。
おかしい。あれだけやったのに、何故、5人に入っていないの?まあ、いいわ。攻略対象者が誰も入っていないなら、好感度も下がりようがないわね。この5人に本人も側近達も誰も選ばれなかったことで、王太子争いから1歩後退するラファーガ様は、すごい形相で舞台を睨んでるけど、私には関係ないわね。ああ、今夜が楽しみだわ♪
そして、夜会が始まった・・・・。
私は事前にプレゼントされた衣装に着替え、迎えを待った。ドレスはラファーガ様、髪飾りはフェルド様、靴はオルト様、首飾りはガリバ様、イヤリングと手袋、扇子はシーラント様が用意してくれた。どれも一流品ばかりだ。私の美しさを余すところなく引き出している。
暫くして、今宵のエスコート役であるラファーガ様がやって来たが、ミナリーナ様が見当たらない。いつもなら隣にひっそりと居るのに。
「遅くなってすまない」
「ミナリーナ様はどうされたのですか?」
「少し具合が悪いから遅れると直前で連絡が入ったのだ。今日は父親のブラックローズ公爵と参加するそうだ」
「あら、折角学生最後の夜会ですのに。そう言うことでしたら、宜しくお願い致しますわ、ラファーガ様。ふたりで、なんて、初めてですわね」
「フフ。こんなに美しい方だけをエスコート出来るとは、なんて幸運なんだろう。これからもそうしたいものだ」
「お上手ですわね。さあ、参りましょう?」
ミナリーナ様が居ないのは想定外だが、少し遅れるくらいなら、問題ないだろう。
私とラファーガ様が入場すると、ざわざわとざわめきが広がった。ミナリーナ様が居ないからだろう。「もしや・・・・」とか「まさか・・・・」とか聴こえてくる。少しその視線をうっとうしく感じていると、側近達が人の間を縫うようにしてこちらに来るのが見えた。
「殿下、ミナリーナ様はどうされたのですか?」
「ミナリーナは体調を崩して遅れると連絡があった。ブラックローズ公爵と共に来るそうだ」
「私とオルトの婚約者も体調を崩したと連絡を受けた。仕方ないから、それぞれの親族と来たんだが・・・・」
「なんだと。妙な偶然だな。どうなっている?そう言えば、まだセルベージの姿が見えないな」
どういうこと?今までこんなことなかったのに。
まるで示し合わせたようにラファーガ様の周囲の婚約者が体調を崩すだなんて。3人か。気にする必要はない?
私達がおろおろとしているうちに、国王陛下が入場された。そして、その後ろには・・・・。第二王子と国王の側室がいた。
ラファーガ様は、取り乱したようになり「何故だ?何故、母上が、王妃様がいないのだ!セルベージが何故あの場にいるのだ」と小声で繰り返してばかり。鋭い視線を周囲に投げ掛けて、ある一点で視線を止めた。
「あそこに群がる者らのせいか。忌々しい。父上は何故、あのような賤しい者らを招待したのだ?」
イライラとこちらが話し掛けるのも憚られる程の殺気を出している。
周りの貴族は、嗤うように見てくる者、距離をとろうとする者、憐れみの視線を寄越す者ばかりで、誰も近づいては来ない。
「部屋に戻る!」
ラファーガ様は、一言吐き出すように言い捨て、会場から出ていってしまった。側近達も慌てて後を追って行った。ひとり取り残された私は、居心地の悪い視線を感じつつも、夜会の会場で、隠れキャラが迎えに来るのを信じて待っていた。
その後、第二王子が王太子となることミナリーナが婚約者になることが発表されたが、付添人もエスコート役もいない私は、ひとりテラスに居たためにそれを聞くことはなかった。
3日程、時は遡り・・・・。
今日、一足早くローゼンタール王国から第一王子とその番殿が我が国の招待に応じ来てくださった。前国王夫妻も来てくださるという。これで、他国も他種族と交流を深めていく我が国の方針を信じてくれるだろう。
アルフォンス殿と番殿が宿に到着したとの知らせを受けて、挨拶に赴いた。通常ならば、陛下に挨拶をするため、王宮にあちらから足を運ぶが、今回は夜会までローゼンタール王家から招待客が来ていることを知られたくない。だから、第二王子の私から挨拶に出向いたというわけだ。
「ようこそお出でくださいました、アルフォンス殿」
「ご招待、有難うございます。隣国が友好国になるのは我が国にとっても有益ですから。前国王夫妻も前日の夜までには到着する予定です」
それから、夜会からその後の予定や騎士団の配置などについて意見を交わした。ローゼンタール王国の騎士にも協力してもらう。人族至上主義派と他種族友好派で二分している我が国の騎士だけでは、対応できない。兄上や人族至上主義派の連中に知られずに事を進めるには、信頼できる騎士が足りない。
「夜会には前国王夫妻が参加します。私と私の番は、翌日の謁見のみの参加になります。私の番は、夜会が苦手でね。ご容赦願いたい。代わりと言ってはなんですが、警備には私達も加わりますよ」
「私達とは、アルフォンス殿とまさか、番殿、ではないですよね?」
「そのまさか、です。番を独りには出来ませんから。それに、少し確かめたいこともありますし。番からは離れませんし、心配はご無用です」
「フフ、羨ましい限りですね。私にも番の印はありますが、未だに現れない」
「必ず出会えますよ。我が国の副団長も番同士ですが、出会って数年は番だと気づかなかったそうです。お互い、反発ばかりだったと。ですから、意外と既に出会っていたりするかもしれませんよ。特に相手が人族の場合は、相手には何の反応もありませんから」
そんなものか、と聞きながら、ひとつの顔が浮かんだ。無いな。
「おや、心当たりがあるようだ」
「ありませんよ」
断じて違う!
・・・・確認くらいはした方がいいか?
「そういうことにして。・・謁見の前に一度、異世界の魔術師が封印されている場所を見たいのですが、案内いただけますか?」
「もちろんです。明日でよければお昼にご案内致します」
「では、そのように。くれぐれも国王陛下には、宜しくお伝えください」
私達は、ガッチリと握手をして別れた。
彼等は私の正体を知っている。ローゼンタール王国へ赴いた折り、私から正体を明かした。なぜなら、獣人は、獣人がわかるからだ。そう、私は獣人だ。私の母もまた、獣人だ。父はそれを知っていて、母を側室に迎えた。前国王陛下、私の祖父は、父と母の婚姻を許さなかった。祖父は、母が獣人だとは知らない。ただ、他国の者というだけで反対したそうだ。当時の父は、後ろ楯の力が弱かった。祖父は、無理矢理、人族至上主義派の現王妃様と婚姻を結ばせ、後ろ楯とした。親心だったのかもしれない。その直後に祖父は病を得て亡くなった。すぐに父は母を側室とした。そして、13年の時を費やし、人族至上主義を撤廃した父は、本当に母のことを愛しているんだと思う。私の正体を知っているのは、ここでは父と母と獣人の乳母だけだ。
私がローゼンタール王国と繋がりを作りたいと伝を探している時、それを知っているかのようにアルフォンス殿からミナリーナが懇意にしている孤児院を通して手紙を受け取った。召喚聖女に纏わることで話がしたい、と。なぜ、私に?疑問はあったが、渡りに船だ。断る理由はない。すぐにローゼンタール王国を訪れた。
私がローゼンタール王国で得た情報は、この国の根本を、いや、人族の根本を揺るがすようなことだった。その時の衝撃たるや、暫く口も聞けなくなったほどだ。神獣様にまで会おうことになるとは、誰が予想できただろう。父は、陛下は、召喚聖女の役割を知っていた。それが書かれた国王と王太子のみが閲覧できる秘伝の魔道具が存在するという。ただ、その歴史までは知らなかったようだが。だから、兄上が召喚聖女を招いてしまった事態に憤りを覚えていた。そして、その秘密がどこから漏れたのか、調査していたらしい。出所は、すぐに判明した。王妃様の実家だ。門外不出とされていたにもかかわらず、古い日記には、当時、召喚に関わった者によって、召喚陣とそのやり方のみが記されていたという。それを兄上は王妃様の実家で見つけ出し、召喚を行ってしまった。その意味さえ知らずに・・・・。
今宵の夜会には、その召喚聖女が会場の片隅に淑女にあるまじき顔で佇んでいる。近くには、警備に紛れ込んだアルフォンス殿と傍らには番殿がいる。あの娘は、これから、どうなるのだろうか・・・・。
なぜ、なぜ来ないの?
本当なら今頃スチル通りに攻略対象者に囲まれて、隠れキャラとの事を応援されてるはずなのに。
弟を助けなかったから?
好感度がマックスじゃなかったの?そんなことはないわ。手応えはあったもの。誰も婚約破棄だってしていないわ。
何を間違えたの?
「ここは、ゲームの世界なんでしょ。好感度だって、マナーだってちゃんとやったわ。こんな展開あり得ない!私はヒロインなのよ!今更こんなノーマルエンド、冗談じゃない!」
夜会も終わりに近づき、人もまばらになった会場でひとり、私は、ゲームが思い通りにいかないことに腹をたてて顔を歪めた。すぐそばで隠れキャラとその番が見ているとも知らずに・・・・。
そこからが悪夢の始まりだった。
翌日、朝から王様に呼び出された。ここに来て2年になるが、初めてのことだ。何を今更、とも思うが、隠れキャラに会えなかった以上、これからの生活を保証してもらわなければならない。もしかしたら、帰り方を知っているかもしれない。一縷の望みを託して、王様に会うことにした。
「随分と堂々とした娘だな」
「召喚聖女は、王族と同格なのでしょう?」
「まあ、よい。その方を呼び出したのは、召喚聖女としての役割を果たしてもらおうと思ってな」
何それ?そんなのゲームにはなかった。何をさせるつもりなの?
「役割?果たしているでしょう。回復魔法で騎士達を治療しているし、何よりここに居ることが一番の役割でしょう?私がいれば、魔獣が減るんだもの」
「召喚聖女の本来の役割も知らずに2年もの間、王宮で、あるいは学園で好き放題していたとはなぁ。その方の行動は全て報告を受けている。どれ程のものかと思えば、学園中の令嬢から嫌悪されているとは、お粗末なものだ」
「な、何を根拠に!私は学園の女生徒を纏め上げていたじゃない!」
コンコンコン
「入れ」
「失礼致します」
入ってきたのは、第二王子とミナリーナだった。なぜか、ミナリーナは、第二王子にエスコートされている。
「お呼びと伺いましたが」
「まあ、ふたりとも座れ」
私は立ったままなのに、ふたりを座らせるとはどういうことよ!
「これから、召喚聖女殿にご自分の役割を果たしていただこうと思ってな。王太子となったその方にも見届けさせようと思ったのだ」
は?第二王子が王太子?何の冗談。だって、ノーマルエンドでもラファーガ様はミナリーナと結婚して王様になるんでしょう?どうなってるの?
「ラファーガ様はどうされたのです?ミナリーナ様は、ラファーガ様の婚約者でしょう」
「ああ、言い忘れておったが、ラファーガは、急な病を得て、今朝方、見罷かった。側近達も王宮にはおらんぞ。ミナリーナは、5日も前に婚約を解消しておるぞ」
「えっ!」
婚約を解消している?5日も前に?
ラファーガ様が見罷った?
急な病を得て?
殺したってこと?!!!
もう嫌!帰りたい!どうしたら帰れるの?
「さあ、行こうか。ミナリーナも着いて参れ。セルベージの番なら知っておくべきだ」
「畏まりました」
何処へ行こうというの?
私は騎士に囲まれるようにして、王宮の奥、廊下の突き当たりにあるタペストリーの前まで連れてこられた。
「その方ら騎士はここで待機だ」
タペストリーを捲ると扉があった。扉の向こうは薄暗く、地下に向かって階段が続いている。王様が足を踏み入れると、灯りが灯った。私は王様の後ろについて、ひたすら螺旋状の階段を降りていく。どれくらい降りただろう。扉があった。
「この中に居る者を回復せよ。それが召喚聖女の役目だ。我々は中には入れぬ。行け」
背中を押されて放り込まれた。そこには、頭に角を持つ異形が横たわっていた。
これを回復するの?
扉は開いたままだ。王様、第二王子、ミナリーナが見ている。いや、監視している、が正しい。仕方なく、目の前の異形を回復させる。が、魔力を注いでも注いでも泡のように消えていく。限界まで注いだが、全く手応えはなかった。
「この程度か。ハァ。ローゼンタール王国に借りを作ることにはなるが、助力を願うしかあるまいな」
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