33 / 45
不安
しおりを挟む
なんだかんだと忙しくしているうちに、野外実習まであと10日となりました。グリフォル族連合王国から第2王子殿下がこの国にやって来るのも1月を切り、俄に空気が張り詰めてきたのは気のせいではありません。相変わらず、セアベルテナータ殿下は私たちの元へやって来ては、騒ぎ立てるだけ騒いでいきます。ミランダ様があまり来なくなっただけましと言えるかもしれません。このくらいの時期から1年生は課題とテストで忙しくなります。それに週末毎の薬草採取や魔獣討伐の課題はひとりでは出来ませんから、クラスでの交流が必須です。これを怠ると、野外実習で苦労することになりますから、ミランダ様も私たちに構っていられない訳です。今年は、お兄様たちが無属性と新しい魔力制御を教えに来ているせいで例年よりも忙しそうです。それでも「レオ兄様ぁ~」と来ますけどね・・・・。
野外実習のメンバーは私たち2人は纏まっていた方が守りやすいということで、いつもと同じパーティーです。クラス内ではほぼ固定のパーティーで活動していますから、それは特に問題ありません。野外実習には、お兄様、アイゼン様、イシュタお姉様たちがついてきてくれます。もちろん、諜報部からも誰かついてくるのでしょう。
「あー!!!イライラする!」
お茶会室で野外実習の作戦をたてたり、授業の復習や魔道具のことを話していると、いきなりランスロット様が吠えました。分かります!吠えたくなる気持ちはよく分かります!
「気持ちはわかるけど、もう少しだ」
「野外実習で仕掛けてくると思うか?」
「どうだろう?ちょっと早い気もする。野外実習でロッテたちを浚ったとして、国から船がつくまで何処に隠しておくかが問題になる」
「浚うのも至難の技だけど、その後もってことか」
「だから、まあ、隙があれば実行するだろうけど、それよりも船が着いた後の方が危ないと睨んでる」
「ハァ」
思わず溜め息が出てしまいました。
「どうしたの、ロッテ?」
「去年の野外実習は楽しかったなぁと思いまして」
「あ~。明日は休みだし、お出掛けしようか?」
「・・そうですわね・・・・」
「ランス、わたくしたちも出掛けませんこと?」
「いいぞ。そう言えば、新しい店が出来たんだってな。マイカルたちが先週行ったんだが、珍しいものが食べれるらしい」
「へえ。楽しそうですわね。そこに行きましょう。ロッテたちも一緒にどう?」
私はレオナルド様をちらりと見ました。どうやら、断っても大丈夫なようです。
「・・・・止めておきますわ。お二人で楽しんでらして?」
「私たちは他に行きたいところがあるから」
「そう。残念ね」
時間も遅くなり、私たちはそれぞれの部屋へと戻りました。
「ロッテ。どうしたの?」
部屋に戻ってすぐにレオナルド様が転移してきました。
「特には」
「嘘だよね?」
即座にバレてしまいました。ああ、レオナルド様には隠しきれませんね。普段と異なる生活に心が擦り切れ始めたのは確かです。ですが、それだけではなく・・・・。今回、グリフォル族連合王国に連れ去られるのを回避できても、次がないとは言い切れません。セアベルテナータ殿下はどうすれば、諦めてくれるのでしょうか?
「・・・・」
レオナルド様は何も言わず、何も聞かず、黙って私をぎゅうっと抱き締めてくれます。それだけのことなのに、堪えきれずポロポロと涙が溢れてしまいました。私からもレオナルド様の背中に腕を回します。
「レオと離れるのは嫌です。セアベルテナータ殿下を諦めさせるにはどうすればいいのですか?きっとあの方は、わたくしたちが婚姻を結ぼうと、わたくしが純潔でなくなろうと関係ありません。わたくしとミリーという最高相性の相手であれば、誰でも構わないのですから」
諦めてもらえなければ、ずっと警戒して過ごさなければなりません。そんなこと無理です。いっそうのこと・・・・。
「滅ぼしてしまおうかしら?」
いい考えな気がしてきました。私の背中をぽんぽんと優しく叩いていた手がピタリと止まりました。
「ロッテ。私は絶対にロッテを手放さないし、セアベルテナータ殿下をこのままにはしないよ。だから、実行できちゃう物騒なこと考えるのはやめよう?」
「本当に?」
「本当に」
「レオを信じます」
「うん」
レオナルド様の膝に乗せられ、再びぽんぽんと優しく背中が叩かれます。これから先の不安が全て取り払われたわけではありません。ですが、はっきりとレオナルド様が言葉にしてくれたお蔭で少しだけ落ち着くことができました。レオナルド様の温かな体温といつもの匂いに心が弛んで・・・・。
「おはよう、ロッテ」
「・・・・」
まだ眠いですzzzzzz。
レオナルド様にすり寄り頬をペタリと胸にくっつけ身体を預けました。ゆったりと髪をすく心地よい手に身を委ねます。時々、擽ったい感触が顔や首筋を掠めます。
「ん、んん」
私の眠りを邪魔するそれを拒否するように顔を振りますが、止まる気配はありません。仕方なく、眠い目を開けて、レオナルド様を上目遣いに睨みました。
「擽ったいです。眠れません」
「ウッ・・・・」
一言唸ったレオナルド様は、珍しくくるりと私に背を向けて蹲ってしまいました。その普段ではあり得ない行動に私の意識がはっきりと覚醒しました。
「え?あれ?ここ・・・・」
私のベッドでは?
「キ、%#$\@※εβ£§」
悲鳴が漏れそうになったところで、レオナルド様に手で口を覆われました。
「ロッテ、昨日のことは覚えてる?」
「・・・・」
・・・・思い出しました。レオナルド様に不安を打ち明けたあと・・・・ね、寝ちゃった?・・嘘ですよね?さっと顔が青くなりました。
「思い出してくれたみたいだね。眠ったあとも私の首に手を回して離さなかったから、一緒に寝ちゃった」
ううう。乙女としての自覚と羞じらいが足りません。いくらレオナルド様とはいえ、寝落ちは・・・・。
「このことはお兄様には・・・・」
「はは。言えないよねぇ。アレクに八つ裂きにされる。さて、そろそろ部屋に戻るよ。1時間後にここに来るね?ここから転移して朝は外に食べに行こう」
「はい」
自分の危機意識の甘さに頭を抱えつつ、私は身支度を整えたのでした。
野外実習のメンバーは私たち2人は纏まっていた方が守りやすいということで、いつもと同じパーティーです。クラス内ではほぼ固定のパーティーで活動していますから、それは特に問題ありません。野外実習には、お兄様、アイゼン様、イシュタお姉様たちがついてきてくれます。もちろん、諜報部からも誰かついてくるのでしょう。
「あー!!!イライラする!」
お茶会室で野外実習の作戦をたてたり、授業の復習や魔道具のことを話していると、いきなりランスロット様が吠えました。分かります!吠えたくなる気持ちはよく分かります!
「気持ちはわかるけど、もう少しだ」
「野外実習で仕掛けてくると思うか?」
「どうだろう?ちょっと早い気もする。野外実習でロッテたちを浚ったとして、国から船がつくまで何処に隠しておくかが問題になる」
「浚うのも至難の技だけど、その後もってことか」
「だから、まあ、隙があれば実行するだろうけど、それよりも船が着いた後の方が危ないと睨んでる」
「ハァ」
思わず溜め息が出てしまいました。
「どうしたの、ロッテ?」
「去年の野外実習は楽しかったなぁと思いまして」
「あ~。明日は休みだし、お出掛けしようか?」
「・・そうですわね・・・・」
「ランス、わたくしたちも出掛けませんこと?」
「いいぞ。そう言えば、新しい店が出来たんだってな。マイカルたちが先週行ったんだが、珍しいものが食べれるらしい」
「へえ。楽しそうですわね。そこに行きましょう。ロッテたちも一緒にどう?」
私はレオナルド様をちらりと見ました。どうやら、断っても大丈夫なようです。
「・・・・止めておきますわ。お二人で楽しんでらして?」
「私たちは他に行きたいところがあるから」
「そう。残念ね」
時間も遅くなり、私たちはそれぞれの部屋へと戻りました。
「ロッテ。どうしたの?」
部屋に戻ってすぐにレオナルド様が転移してきました。
「特には」
「嘘だよね?」
即座にバレてしまいました。ああ、レオナルド様には隠しきれませんね。普段と異なる生活に心が擦り切れ始めたのは確かです。ですが、それだけではなく・・・・。今回、グリフォル族連合王国に連れ去られるのを回避できても、次がないとは言い切れません。セアベルテナータ殿下はどうすれば、諦めてくれるのでしょうか?
「・・・・」
レオナルド様は何も言わず、何も聞かず、黙って私をぎゅうっと抱き締めてくれます。それだけのことなのに、堪えきれずポロポロと涙が溢れてしまいました。私からもレオナルド様の背中に腕を回します。
「レオと離れるのは嫌です。セアベルテナータ殿下を諦めさせるにはどうすればいいのですか?きっとあの方は、わたくしたちが婚姻を結ぼうと、わたくしが純潔でなくなろうと関係ありません。わたくしとミリーという最高相性の相手であれば、誰でも構わないのですから」
諦めてもらえなければ、ずっと警戒して過ごさなければなりません。そんなこと無理です。いっそうのこと・・・・。
「滅ぼしてしまおうかしら?」
いい考えな気がしてきました。私の背中をぽんぽんと優しく叩いていた手がピタリと止まりました。
「ロッテ。私は絶対にロッテを手放さないし、セアベルテナータ殿下をこのままにはしないよ。だから、実行できちゃう物騒なこと考えるのはやめよう?」
「本当に?」
「本当に」
「レオを信じます」
「うん」
レオナルド様の膝に乗せられ、再びぽんぽんと優しく背中が叩かれます。これから先の不安が全て取り払われたわけではありません。ですが、はっきりとレオナルド様が言葉にしてくれたお蔭で少しだけ落ち着くことができました。レオナルド様の温かな体温といつもの匂いに心が弛んで・・・・。
「おはよう、ロッテ」
「・・・・」
まだ眠いですzzzzzz。
レオナルド様にすり寄り頬をペタリと胸にくっつけ身体を預けました。ゆったりと髪をすく心地よい手に身を委ねます。時々、擽ったい感触が顔や首筋を掠めます。
「ん、んん」
私の眠りを邪魔するそれを拒否するように顔を振りますが、止まる気配はありません。仕方なく、眠い目を開けて、レオナルド様を上目遣いに睨みました。
「擽ったいです。眠れません」
「ウッ・・・・」
一言唸ったレオナルド様は、珍しくくるりと私に背を向けて蹲ってしまいました。その普段ではあり得ない行動に私の意識がはっきりと覚醒しました。
「え?あれ?ここ・・・・」
私のベッドでは?
「キ、%#$\@※εβ£§」
悲鳴が漏れそうになったところで、レオナルド様に手で口を覆われました。
「ロッテ、昨日のことは覚えてる?」
「・・・・」
・・・・思い出しました。レオナルド様に不安を打ち明けたあと・・・・ね、寝ちゃった?・・嘘ですよね?さっと顔が青くなりました。
「思い出してくれたみたいだね。眠ったあとも私の首に手を回して離さなかったから、一緒に寝ちゃった」
ううう。乙女としての自覚と羞じらいが足りません。いくらレオナルド様とはいえ、寝落ちは・・・・。
「このことはお兄様には・・・・」
「はは。言えないよねぇ。アレクに八つ裂きにされる。さて、そろそろ部屋に戻るよ。1時間後にここに来るね?ここから転移して朝は外に食べに行こう」
「はい」
自分の危機意識の甘さに頭を抱えつつ、私は身支度を整えたのでした。
57
あなたにおすすめの小説
生まれ変わりも楽じゃない ~生まれ変わっても私はわたし~
こひな
恋愛
市川みのり 31歳。
成り行きで、なぜかバリバリのキャリアウーマンをやっていた私。
彼氏なし・趣味は食べることと読書という仕事以外は引きこもり気味な私が、とばっちりで異世界転生。
貴族令嬢となり、四苦八苦しつつ異世界を生き抜くお話です。
※いつも読んで頂きありがとうございます。誤字脱字のご指摘ありがとうございます。
まだ20歳の未亡人なので、この後は好きに生きてもいいですか?
せいめ
恋愛
政略結婚で愛することもなかった旦那様が魔物討伐中の事故で亡くなったのが1年前。
喪が明け、子供がいない私はこの家を出て行くことに決めました。
そんな時でした。高額報酬の良い仕事があると声を掛けて頂いたのです。
その仕事内容とは高貴な身分の方の閨指導のようでした。非常に悩みましたが、家を出るのにお金が必要な私は、その仕事を受けることに決めたのです。
閨指導って、そんなに何度も会う必要ないですよね?しかも、指導が必要には見えませんでしたが…。
でも、高額な報酬なので文句は言いませんわ。
家を出る資金を得た私は、今度こそ自由に好きなことをして生きていきたいと考えて旅立つことに決めました。
その後、新しい生活を楽しんでいる私の所に現れたのは……。
まずは亡くなったはずの旦那様との話から。
ご都合主義です。
設定は緩いです。
誤字脱字申し訳ありません。
主人公の名前を途中から間違えていました。
アメリアです。すみません。
【本編完結】伯爵令嬢に転生して命拾いしたけどお嬢様に興味ありません!
ななのん
恋愛
早川梅乃、享年25才。お祭りの日に通り魔に刺されて死亡…したはずだった。死後の世界と思いしや目が覚めたらシルキア伯爵の一人娘、クリスティナに転生!きらきら~もふわふわ~もまったく興味がなく本ばかり読んでいるクリスティナだが幼い頃のお茶会での暴走で王子に気に入られ婚約者候補にされてしまう。つまらない生活ということ以外は伯爵令嬢として不自由ない毎日を送っていたが、シルキア家に養女が来た時からクリスティナの知らぬところで運命が動き出す。気がついた時には退学処分、伯爵家追放、婚約者候補からの除外…―― それでもクリスティナはやっと人生が楽しくなってきた!と前を向いて生きていく。
※本編完結してます。たまに番外編などを更新してます。
英雄の番が名乗るまで
長野 雪
恋愛
突然発生した魔物の大侵攻。西の果てから始まったそれは、いくつもの集落どころか国すら飲みこみ、世界中の国々が人種・宗教を越えて協力し、とうとう終息を迎えた。魔物の駆逐・殲滅に目覚ましい活躍を見せた5人は吟遊詩人によって「五英傑」と謳われ、これから彼らの活躍は英雄譚として広く知られていくのであろう。
大侵攻の終息を祝う宴の最中、己の番《つがい》の気配を感じた五英傑の一人、竜人フィルは見つけ出した途端、気を失ってしまった彼女に対し、番の誓約を行おうとするが失敗に終わる。番と己の寿命を等しくするため、何より番を手元に置き続けるためにフィルにとっては重要な誓約がどうして失敗したのか分からないものの、とにかく庇護したいフィルと、ぐいぐい溺愛モードに入ろうとする彼に一歩距離を置いてしまう番の女性との一進一退のおはなし。
※小説家になろうにも投稿
【本編完結済み】二人は常に手を繋ぐ
もも野はち助
恋愛
【あらすじ】6歳になると受けさせられる魔力測定で、微弱の初級魔法しか使えないと判定された子爵令嬢のロナリアは、魔法学園に入学出来ない事で落胆していた。すると母レナリアが気分転換にと、自分の親友宅へとロナリアを連れ出す。そこで出会った同年齢の伯爵家三男リュカスも魔法が使えないという判定を受け、酷く落ち込んでいた。そんな似た境遇の二人はお互いを慰め合っていると、ひょんなことからロナリアと接している時だけ、リュカスが上級魔法限定で使える事が分かり、二人は翌年7歳になると一緒に王立魔法学園に通える事となる。この物語は、そんな二人が手を繋ぎながら成長していくお話。
※魔法設定有りですが、対人で使用する展開はございません。ですが魔獣にぶっ放してる時があります。
★本編は16話完結済み★
番外編は今後も更新を追加する可能性が高いですが、2024年2月現在は切りの良いところまで書きあげている為、作品を一度完結処理しております。
※尚『小説家になろう』でも投稿している作品になります。
笑い方を忘れた令嬢
Blue
恋愛
お母様が天国へと旅立ってから10年の月日が流れた。大好きなお父様と二人で過ごす日々に突然終止符が打たれる。突然やって来た新しい家族。病で倒れてしまったお父様。私を嫌な目つきで見てくる伯父様。どうしたらいいの?誰か、助けて。
「結婚しよう」
まひる
恋愛
私はメルシャ。16歳。黒茶髪、赤茶の瞳。153㎝。マヌサワの貧乏農村出身。朝から夜まで食事処で働いていた特別特徴も特長もない女の子です。でもある日、無駄に見目の良い男性に求婚されました。何でしょうか、これ。
一人の男性との出会いを切っ掛けに、彼女を取り巻く世界が動き出します。様々な体験を経て、彼女達は何処へ辿り着くのでしょうか。
【完結済】私、地味モブなので。~転生したらなぜか最推し攻略対象の婚約者になってしまいました~
降魔 鬼灯
恋愛
マーガレット・モルガンは、ただの地味なモブだ。前世の最推しであるシルビア様の婚約者を選ぶパーティーに参加してシルビア様に会った事で前世の記憶を思い出す。 前世、人生の全てを捧げた最推し様は尊いけれど、現実に存在する最推しは…。 ヒロインちゃん登場まで三年。早く私を救ってください。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる