6 / 125
第6話 最後の手紙 (side:レオニス)
しおりを挟む
レオニスは「廃都の魔城」と呼ばれる魔窟を、文字通り「蹂躙」した。
無限とも思える階層の多さや悪質な罠をものともせず、出てくる魔物全てを一瞬のうちに屠り続けたのだ。
「グランの兄貴を殺ったのはお前か!」
「お前であろうとなかろうと、ここにいる魔物共は全て殺す!」
「貴様等に明日が来るなどと思うなよ!」
そんなことを叫びながら、1メートルはあろうかという重厚な大剣をいとも容易く振り回し、魔物から噴き出る大量の返り血など欠片も気にすることなくひたすら蹂躙し続けたレオニス。
彼のトレードマークである深紅のロングジャケットは、瞬く間に数多の魔物の血で染め上げられ乾く暇もなかったという。
最終的には深奥のボスクラスの四帝【武帝】【愚帝】【賢帝】【女帝】と対峙し、それら全てを赤子の手を捻るかの如く容易く捻じ伏せた。
兄と慕うグランの死を知ったレオニスの怒りは、それ程までに強く凄まじかったのだ。
レオニスの二つ名はもとは【深紅】だった。彼の戦闘服である深紅のロングジャケットの出で立ちがその由来だ。
そこに「恐怖」を表す言葉が加えられたのは、この魔窟遠征時の彼の悪鬼羅刹の如く戦いひたすら敵を蹂躙し続けた、凄惨な姿から来ているという。
【深紅の恐怖】―――金剛級冒険者の新たな二つ名が誕生したのは、紛れもなくこの廃都の魔城討滅戦が契機だった。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆
廃都の魔城の攻略任務をひとまず完了したレオニスだったが、その後すぐにはディーノ村に戻ることができなかった。
魔窟という名に相応しい階層の多さにより、最奥部に辿り着くまでかなりの日数がかかったのと、全滅した先遣隊の遺体確認や遺品探しもしなければならなかったからだ。
レオニスとしても、グランの遺品があれば是非とも見つけたかったし、何としても何某かの遺品を見つけてグランの唯一の家族であるレミの元に届けたかった。
仲間の遺品をひとつでも見つけて、家で待つ家族のもとに届けてやりたい―――その思いは誰もが同じで、その場にいた者全員が数日間懸命に捜索し続けた甲斐あって、かなりの遺品を確保することができた。
そしてその中には、グランの物と思しきものもあった。
グランが愛用していたサブのナイフと、野営用のマント。特徴のあるナイフの柄に、黒いマントの襟元には最愛の妻レミの手縫いであろう紅色の糸で施された刺繍の、グランの名。
レオニスもそれらがグランのもとで何度も使われるところを見ていた品々なので、グランの物であることに間違いはない。
グランの遺体は、見つけられなかった。というか、今回のような魔物相手の討伐隊遠征で殉死した場合、誰の遺体か判別できる方が稀である。むしろ、明確にその人のものだと分かる遺品があるだけでもまだマシな方なのだ。
幸いにも発見できた、グランの遺品。そのうちのひとつ、黒のマントの内側のポケットには、最愛の家族レミに宛てた一枚の手紙が折り畳んであった。
『愛しいレミ。お腹の子と元気に過ごしているか。
子供は男の子かな、女の子かな。元気に生まれてきてくれれば、俺はどっちでも嬉しいな。
名前はどうしようか。子供ができる前に、男ならライト、女ならシェリィがいい!とか昔話したことあったっけな。
子供が生まれる前には必ず戻る。それまでレミも頑張ってくれ。
大事な時に一人にしてすまない。だが、俺も親父になるからには気張らなきゃな!父ちゃん頑張るぜ!!
それじゃ行ってくるよ。俺の帰りを待っててくれ。
魂だけになってでも、絶対にお前達の元に戻るから。
グラン』
「……グラン兄……何で……どうして……」
「レミ姉に……何て言えばいいんだよ……」
「なぁ、嘘だって……嘘だって言ってくれよ……」
「いつものようにさぁ……大声で笑いながら……俺の背中をバンバン叩いてくれよ……」
「兄貴……あぁ……ッ……兄貴ぃぃぃぃぃッ!!」
レオニスは手紙を胸に抱き、人目も憚らずその場で泣き崩れた。
どうしようもなく溢れる涙で、グランの手紙を最後まで読むことができなかった。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆
そう、これは紛れもない遺書だ。
家に残してきた、愛しい家族への最後の手紙。
グランに限らず、既婚者や親兄弟など家族がいる冒険者や騎士は、危険度の高いダンジョンや遺跡に赴く際何かしら遺書のような手紙を毎回書いて持ち歩く慣わしがある。
万が一出先で死んでしまった時に、少しでも悔いが残らないように―――その時家族に伝えておきたい言葉を、その都度書き残しておくのだ。
もちろん冒険や任務を無事クリアし、己の住む街や家族の待つ家に帰ることができれば、遺書は晴れて御役御免となる。
だが、今回の廃都の魔城攻略の先遣隊は約100人もの冒険者全てが一人残らず帰らぬ人となってしまった。
レオニスが預かったグランの遺品以外にも、冒険者が書き遺した手紙がたくさんあった。
これら全ての遺品を、首都ラグナロッツァにあるアクシーディア公国冒険者ギルド総本部に届けなければならない。
同じ冒険者として、仲間である彼らの最後の声を遺族に届けるために。
冒険者の遺品を届けるのは、とても辛い仕事だ。訃報とともに遺品を見て、泣き崩れる遺族の姿は何度見ても慣れることができない。
明日は我が身、いつ同じ道を辿ってもおかしくない。冒険者とは、そういう生き様を背負う宿命なのだ。
だからこそ、仲間が伝えたかった最後の声はひとつも漏らさず届けたい。いつの日か、自分もその世話になるかもしれないのだから―――
無限とも思える階層の多さや悪質な罠をものともせず、出てくる魔物全てを一瞬のうちに屠り続けたのだ。
「グランの兄貴を殺ったのはお前か!」
「お前であろうとなかろうと、ここにいる魔物共は全て殺す!」
「貴様等に明日が来るなどと思うなよ!」
そんなことを叫びながら、1メートルはあろうかという重厚な大剣をいとも容易く振り回し、魔物から噴き出る大量の返り血など欠片も気にすることなくひたすら蹂躙し続けたレオニス。
彼のトレードマークである深紅のロングジャケットは、瞬く間に数多の魔物の血で染め上げられ乾く暇もなかったという。
最終的には深奥のボスクラスの四帝【武帝】【愚帝】【賢帝】【女帝】と対峙し、それら全てを赤子の手を捻るかの如く容易く捻じ伏せた。
兄と慕うグランの死を知ったレオニスの怒りは、それ程までに強く凄まじかったのだ。
レオニスの二つ名はもとは【深紅】だった。彼の戦闘服である深紅のロングジャケットの出で立ちがその由来だ。
そこに「恐怖」を表す言葉が加えられたのは、この魔窟遠征時の彼の悪鬼羅刹の如く戦いひたすら敵を蹂躙し続けた、凄惨な姿から来ているという。
【深紅の恐怖】―――金剛級冒険者の新たな二つ名が誕生したのは、紛れもなくこの廃都の魔城討滅戦が契機だった。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆
廃都の魔城の攻略任務をひとまず完了したレオニスだったが、その後すぐにはディーノ村に戻ることができなかった。
魔窟という名に相応しい階層の多さにより、最奥部に辿り着くまでかなりの日数がかかったのと、全滅した先遣隊の遺体確認や遺品探しもしなければならなかったからだ。
レオニスとしても、グランの遺品があれば是非とも見つけたかったし、何としても何某かの遺品を見つけてグランの唯一の家族であるレミの元に届けたかった。
仲間の遺品をひとつでも見つけて、家で待つ家族のもとに届けてやりたい―――その思いは誰もが同じで、その場にいた者全員が数日間懸命に捜索し続けた甲斐あって、かなりの遺品を確保することができた。
そしてその中には、グランの物と思しきものもあった。
グランが愛用していたサブのナイフと、野営用のマント。特徴のあるナイフの柄に、黒いマントの襟元には最愛の妻レミの手縫いであろう紅色の糸で施された刺繍の、グランの名。
レオニスもそれらがグランのもとで何度も使われるところを見ていた品々なので、グランの物であることに間違いはない。
グランの遺体は、見つけられなかった。というか、今回のような魔物相手の討伐隊遠征で殉死した場合、誰の遺体か判別できる方が稀である。むしろ、明確にその人のものだと分かる遺品があるだけでもまだマシな方なのだ。
幸いにも発見できた、グランの遺品。そのうちのひとつ、黒のマントの内側のポケットには、最愛の家族レミに宛てた一枚の手紙が折り畳んであった。
『愛しいレミ。お腹の子と元気に過ごしているか。
子供は男の子かな、女の子かな。元気に生まれてきてくれれば、俺はどっちでも嬉しいな。
名前はどうしようか。子供ができる前に、男ならライト、女ならシェリィがいい!とか昔話したことあったっけな。
子供が生まれる前には必ず戻る。それまでレミも頑張ってくれ。
大事な時に一人にしてすまない。だが、俺も親父になるからには気張らなきゃな!父ちゃん頑張るぜ!!
それじゃ行ってくるよ。俺の帰りを待っててくれ。
魂だけになってでも、絶対にお前達の元に戻るから。
グラン』
「……グラン兄……何で……どうして……」
「レミ姉に……何て言えばいいんだよ……」
「なぁ、嘘だって……嘘だって言ってくれよ……」
「いつものようにさぁ……大声で笑いながら……俺の背中をバンバン叩いてくれよ……」
「兄貴……あぁ……ッ……兄貴ぃぃぃぃぃッ!!」
レオニスは手紙を胸に抱き、人目も憚らずその場で泣き崩れた。
どうしようもなく溢れる涙で、グランの手紙を最後まで読むことができなかった。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆
そう、これは紛れもない遺書だ。
家に残してきた、愛しい家族への最後の手紙。
グランに限らず、既婚者や親兄弟など家族がいる冒険者や騎士は、危険度の高いダンジョンや遺跡に赴く際何かしら遺書のような手紙を毎回書いて持ち歩く慣わしがある。
万が一出先で死んでしまった時に、少しでも悔いが残らないように―――その時家族に伝えておきたい言葉を、その都度書き残しておくのだ。
もちろん冒険や任務を無事クリアし、己の住む街や家族の待つ家に帰ることができれば、遺書は晴れて御役御免となる。
だが、今回の廃都の魔城攻略の先遣隊は約100人もの冒険者全てが一人残らず帰らぬ人となってしまった。
レオニスが預かったグランの遺品以外にも、冒険者が書き遺した手紙がたくさんあった。
これら全ての遺品を、首都ラグナロッツァにあるアクシーディア公国冒険者ギルド総本部に届けなければならない。
同じ冒険者として、仲間である彼らの最後の声を遺族に届けるために。
冒険者の遺品を届けるのは、とても辛い仕事だ。訃報とともに遺品を見て、泣き崩れる遺族の姿は何度見ても慣れることができない。
明日は我が身、いつ同じ道を辿ってもおかしくない。冒険者とは、そういう生き様を背負う宿命なのだ。
だからこそ、仲間が伝えたかった最後の声はひとつも漏らさず届けたい。いつの日か、自分もその世話になるかもしれないのだから―――
2
あなたにおすすめの小説
いっとう愚かで、惨めで、哀れな末路を辿るはずだった令嬢の矜持
空月
ファンタジー
古くからの名家、貴き血を継ぐローゼンベルグ家――その末子、一人娘として生まれたカトレア・ローゼンベルグは、幼い頃からの婚約者に婚約破棄され、遠方の別荘へと療養の名目で送られた。
その道中に惨めに死ぬはずだった未来を、突然現れた『バグ』によって回避して、ただの『カトレア』として生きていく話。
※悪役令嬢で婚約破棄物ですが、ざまぁもスッキリもありません。
※以前投稿していた「いっとう愚かで惨めで哀れだった令嬢の果て」改稿版です。文章量が1.5倍くらいに増えています。
黄金の魔導書使い -でも、騒動は来ないで欲しいー
志位斗 茂家波
ファンタジー
‥‥‥魔導書(グリモワール)。それは、不思議な儀式によって、人はその書物を手に入れ、そして体の中に取り込むのである。
そんな魔導書の中に、とんでもない力を持つものが、ある時出現し、そしてある少年の手に渡った。
‥‥うん、出来ればさ、まだまともなのが欲しかった。けれども強すぎる力故に、狙ってくる奴とかが出てきて本当に大変なんだけど!?責任者出てこぉぉぉぃ!!
これは、その魔導書を手に入れたが故に、のんびりしたいのに何かしらの騒動に巻き込まれる、ある意味哀れな最強の少年の物語である。
「小説家になろう」様でも投稿しています。作者名は同じです。基本的にストーリー重視ですが、誤字指摘などがあるなら受け付けます。
異世界に転移してしまった私、古民家をもらったのでカフェを始めたら大盛況。国王陛下が頻繁に来るのですが、どうしたらいいですか?
来栖とむ
ファンタジー
ブラック企業で疲れ果てた30歳の元OL・美里(みさと)が転移した先は、見渡す限りの深い森。
そこで彼女が授かったのは、魔女の称号……ではなく、一軒の**「日本の古民家」**だった!
亡き祖母が遺したその屋敷には、異世界では失われたはずの「お醤油」「お味噌」「白いお砂糖」という禁断の調味料が眠っていて――。
「えっ、唐揚げにそんなに感動しちゃうの?」
「プリン一口で、国王陛下が泣いちゃった……!?」
おにぎり、オムライス、そして肉汁溢れるハンバーグ。
現代日本の「当たり前」が、この世界では常識を覆す究極の美食に。
お掃除のプロな親子や、お忍びの王様、さらにはツンデレな宮廷料理人まで巻き込んで、
美味しい香りに包まれた、心もお腹も満たされるスローライフが今、始まります!
30代社畜の私が1ヶ月後に異世界転生するらしい。
ひさまま
ファンタジー
前世で搾取されまくりだった私。
魂の休養のため、地球に転生したが、地球でも今世も搾取されまくりのため魂の消滅の危機らしい。
とある理由から元の世界に戻るように言われ、マジックバックを自称神様から頂いたよ。
これで地球で買ったものを持ち込めるとのこと。やっぱり夢ではないらしい。
取り敢えず、明日は退職届けを出そう。
目指せ、快適異世界生活。
ぽちぽち更新します。
作者、うっかりなのでこれも買わないと!というのがあれば教えて下さい。
脳内の空想を、つらつら書いているのでお目汚しな際はごめんなさい。
ゴミ捨て場領主のクラフト無双 ~最弱魔法【分解と合成】で領地を黄金郷に変えたら、俺を見下していた大貴族令嬢たちが掌を返してすり寄ってきた件~
namisan
ファンタジー
東西南北の大貴族から「毒の川」「凶暴な魔獣」「莫大な借金」を押し付けられ、王国の『ゴミ捨て場』と化したローゼンベルク領。
父と兄を謀殺され、その絶望の領地を押し付けられた無能貴族のアークは、領地の分割を企む高慢な令嬢たち(王女、公爵令嬢、姫将軍など)に嘲笑われていた。
だが、彼には現代の知識と、隠された最強チート能力があった!
触れたものを瞬時に素材に戻し、全く別のモノに作り変える神の御業――【分解と合成】。
「毒の川」を分解して『超高価な宝石と純水』へ!
「魔獣の死骸」と「瓦礫」を合成して『絶対に壊れない防壁』へ!
借金取りには新素材を高値で売りつけ、逆に敵の経済を支配していく。
圧倒的なクラフト能力で、瞬く間にゴミ捨て場を「無敵の黄金郷」へと作り変えていくアーク。
己の敗北を悟り、震え上がる悪徳貴族と高慢な令嬢たち。
さらに、アークの圧倒的な知略と底知れぬ実力は、気高い令嬢たちの本能に深く刻み込まれていく。
「どうか、私をあなたの手駒としてお使いください……っ!」
プライドを完全にへし折られた最高位の美少女たちは、いつしかアークの与える『恩恵』なしでは生きられないほど、彼に絶対の忠誠と依存を誓うようになっていく――。
最弱のゴミ捨て場から始まる、爽快クラフト内政&ざまぁファンタジー、堂々開幕!
【本編完結】転生令嬢は自覚なしに無双する
ベル
ファンタジー
ふと目を開けると、私は7歳くらいの女の子の姿になっていた。
きらびやかな装飾が施された部屋に、ふかふかのベット。忠実な使用人に溺愛する両親と兄。
私は戸惑いながら鏡に映る顔に驚愕することになる。
この顔って、マルスティア伯爵令嬢の幼少期じゃない?
私さっきまで確か映画館にいたはずなんだけど、どうして見ていた映画の中の脇役になってしまっているの?!
映画化された漫画の物語の中に転生してしまった女の子が、実はとてつもない魔力を隠し持った裏ボスキャラであることを自覚しないまま、どんどん怪物を倒して無双していくお話。
設定はゆるいです
大根令嬢の雑学無双、王弟殿下を添えて。~ 前世を思い出したので、許婚をほったらかして人助けしまくります!!
古森真朝
恋愛
気弱な伯爵令嬢のカレンは、自分勝手な婚約者レナートに振り回されていた。耐え続けていたある日、舞踏会で何者かに突き飛ばされ、階段から落ちてしまう。
その傷が元で儚く……なるかと思いきや。衝撃で前世を思い出したカレンは一転、かの『ド根性大根』みたいな超・ポジティブ人間になっていた。
『モラハラ婚約者の思惑なんぞ知るか!! 今度こそ好きなことやって、目いっぱい幸せに長生きするんだから!!!』
昔ひたすら読書に耽って身に着けた『雑学』を武器に、うっかり採れ過ぎた作物や、開墾しようとすると不幸に見舞われる土地、不治の病にかかった王族、等々の問題をどんどん解決。
領地の内外で心強い友人が出来たり、いつの間にかものすごく有名になっていたり、何かと協力してくれる王弟ヴィクトルから好意を寄せられたり(注:気付いてない)する中、温かい家族と共に仕事に励んでいく。
一方、前世から因縁のある人々もまた、こちらに転生していて――
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる