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第23話 魔物との会話
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アルがレオニス達の家に来てから、三週間が経過した。
母狼のいない不安はどこへいったやら、今ではすっかり元気いっぱいに日々過ごしている。
ライトやレオニスにもとても懐き、いっしょにお風呂に入ったり同じベッドで寝たりもしている。
身体の大きさも、食べるものの試行錯誤の研究成果もあるのか、この家に連れてこられた当初より目に見えて大きくなっていた。
いつかは―――というか、もうすぐ母狼が帰ってきて自然の中の野生に戻らなければならないのだから、人間の生活様式にどっぷりと浸からせるのはあまり良くないことだ、とは思いつつ―――
今だけしか経験できないのだから、と心の中で詫びながら、艷やかな銀碧色の毛に埋もれてもふもふしていた。
「もうそろそろ、アルのお母さん、帰ってくるかなぁ」
「お母さんのところに帰っても、たまには遊びに来てね?」
「アルのお部屋は、いつ来てもおとまりできるように、このままずっと、とっとくからね」
ライトはそんな独り言をアルに話しかけながら、最高級のブラシでアルの毛並みを整える。
アルも気持ち良さそうな顔つきで、ライトの側に寝そべっていた。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆
その日の晩御飯の時に、ライトはレオニスに尋ねた。
「ねぇ、レオ兄ちゃん。ぼくも動物やまものと、お話できるようになりたい。アルや、アルのお母さんと、お話したいの」
「あー、動物や魔物との会話かぁ。んー、できんこともないぞ?」
「ほんと?どうしたらいいの?何か、とくしゅなくんれんとか、するの?」
「いや、訓練とか特訓とかじゃないんだ。あれは相手のレベルとか知能の問題が大きくてな」
「そうなの?」
「そう、知能の高い動物や魔物なら、人間が発する言語も理解できる。銀碧狼なんかが良い例だな、彼らは高い知能だけでなく知性も持ち合わせている」
「アルもいつかは、お話できるようになる?」
「ん?そりゃあもちろん、アルだって銀碧狼の子だから、当然……」
ライト達の横で、晩御飯をたらふく食べて満足げに腹をさすりながら寝そべるアルの姿を見遣る。
「………………」
「………………多ぁぁぁぁ分、できる、ように、なる、とは、思、う……ぞ?」
一抹の不安がよぎる二人であった。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「相手の知能がなくても、動物やまものとお話する方法って、あるの?」
夜もすっかり更けた頃、ライトはベッドの中でレオニスに問う。
晩御飯時の会話で、アルの知能に若干の疑問と不安を抱いた故の質問では、決してない。ないったらない。
二人のそんな会話や視線も知らず、アルはスピスピと鼻を小さく鳴らしながら完全に寝ている。
ライトとレオニスとの間に、アルが寝そべる。それはもう見事なまでに美しい、パーフェクトな川の字である。
時折アルの尻尾がもぞもぞパタパタ揺れ動くのは、ご愛嬌。
『野生動物のくせに、そんなんでいいのか?』
『おめー警戒心無さ過ぎじゃね?』
『野外でそんなんなってたら、致命的っしょ?』
このような、至極真っ当かつ野暮な疑問は抱いてはいけない。
アルのその寝姿の愛らしさの前では、全ては平伏し無力と化すのだ。別名『骨抜き』とも言う。
「んー、個々で契約魔法を交せば、念話での会話もできるけどなぁ……」
「けいやく、魔法?」
「そ、契約魔法。自分より格下の相手に対して、主従関係を結ぶ魔法な。特に魔物使いがよく使う魔法だ」
「へえ、そんな魔法もあるんだぁ」
俺は即座に、脳内フル回転サルベージを開始する。
契約魔法、契約、契約…………あれか!
ブレイブクライムオンラインでいうところの『コントラクトシステム』か!
あれは会話可能な種族のモンスターと戦闘したり、会話交渉などを用いることでモンスターと友誼を結べるシステムだ。
友誼を結べる数は基本5体までで、課金による枠拡張をすれば10体まで上限を引き上げられる。
友誼を結んだモンスターは、ユーザーといっしょに冒険や探索ができるようになり、旅のお供として常時連れ歩くことも可能だ。
種族による制限はないが、相手のレベルが自分より下であることが条件である。そして、ボスクラスのモンスターだけは友誼を結べない。ま、それができちゃったら冒険ストーリーなんかも完全に破綻するからな。
コントラクトシステムの上限とか、職業による習得制限の有無とか、この世界ではどういう扱いがなされているのかまだ全然分かっていない。
だが、いずれにせよこのコントラクトシステムを活用するには、まず自分のレベル上げも相当しとかなきゃならんってことだな。
レベリング&カンストが趣味な俺向きじゃねぇか!腕が鳴るぜぇぇぇぇ!
「ただ、その契約魔法とて相手の知能次第ではあるんだ。そもそも知能の低い名無しのスライムやゴブリン、アンデッドのスケルトンやゾンビ、グールなんかは他者の発する言語の理解すらできんからな」
「あー、そうだよねぇ……」
「そこら辺の下位連中は、まともな会話はほぼ無理だから期待しない方がいい。同じアンデッドでも、ジェネラル級やリッチとかになれば会話は可能だがな」
確かにねぇ、身体ボロボロであちこち欠けたりデロデロ溶けてる屍鬼やゾンビなんかと積極的に会話しようとは、欠片も思わんなぁ……
「リッチとかジェネラルは、本でも読んだよ!そっかぁ、まものも格が高くなると、知能も高いんだねー」
「だがな、アンデッド系の奴等とは会話はできても仲間にはできんぞ?あいつらすんげー性格悪いし、属性的にも完全に邪悪属性に振り切ってるからな」
「そなの……うん、そだね……」
この世界のアンデッド系モンスターのことなら、俺も知っている。
【廃都の魔城】と呼ばれた魔窟、そこに潜む四天王【四帝】。
奴等と戦闘に入る前と倒した後に会話するシーンがあるが、奴等は世界に仇なす存在であり、人間と相容れることは決してない。
「ま、アルのことなら心配しなくていい。大丈夫、あいつだって正真正銘銀碧狼だ、そのうち話せるようになるさ」
「……うん。アルが何歳くらいになったら、おしゃべりできるようになるかなぁ?」
「んー、俺は学者じゃないからそこら辺は分からんが……天使なんかは、生まれたその瞬間から他者と会話できる、とか聞いたことはあるな」
……天使?……天使!?……天使だとぅ!!!
レオ兄の口からもその名を聞けるということは、やっぱりこの世界にも天使はいるんだな!
ブレイブクライムオンラインでは、いっつもユーザー人気上位の種族だったな!あいつら基本的に頭固くて頑固者属性だけど、見た目いいのと魔法強くて使い勝手良かったからなぁ。
あああ懐かしいー、もう『天使』と聞いただけであれこれ思い出が甦ってきて、今にも涙が出そうだ。
「そうなんだー。世界には、まだまだぼくの知らないこと、楽しそうなことが、いっぱいいっぱいあるんだね!」
「ああ、そうだぞー。俺だってまだまだ知らない国に入ったことのない遺跡、見たこともないダンジョン、聞いたこともない珍しいお宝、たーーーッくさんあるんだ!いつか絶対に、全部見てやるぞ!」
「うん!ぼく、レオ兄ちゃんと世界中を旅したい!」
「おう!ライトも連れてってやるぞ!大きくなったら、俺といっしょにダンジョン攻略しような!」
「……うん!!!」
生粋の冒険者であるレオニス、冒険のこととなるとそれこそ夢中になって目を輝かせる。
だが、ライトも負けてはいない。まだ見ぬ世界へ馳せる思いは、レオニスのそれに勝るとも劣らない自信がある。
それは、ブレイブクライムオンラインを知り尽くすほどやり込んだプレイヤーの誇りか性か、はたまたレオニスが尊敬して止まないグランの血を引いているからか。
いずれにせよ、兄と慕うレオニスとともに世界に羽ばたく。そんな壮大な夢と希望を目標に、今はただの幼子として微睡みに身を委ねるのであった。
母狼のいない不安はどこへいったやら、今ではすっかり元気いっぱいに日々過ごしている。
ライトやレオニスにもとても懐き、いっしょにお風呂に入ったり同じベッドで寝たりもしている。
身体の大きさも、食べるものの試行錯誤の研究成果もあるのか、この家に連れてこられた当初より目に見えて大きくなっていた。
いつかは―――というか、もうすぐ母狼が帰ってきて自然の中の野生に戻らなければならないのだから、人間の生活様式にどっぷりと浸からせるのはあまり良くないことだ、とは思いつつ―――
今だけしか経験できないのだから、と心の中で詫びながら、艷やかな銀碧色の毛に埋もれてもふもふしていた。
「もうそろそろ、アルのお母さん、帰ってくるかなぁ」
「お母さんのところに帰っても、たまには遊びに来てね?」
「アルのお部屋は、いつ来てもおとまりできるように、このままずっと、とっとくからね」
ライトはそんな独り言をアルに話しかけながら、最高級のブラシでアルの毛並みを整える。
アルも気持ち良さそうな顔つきで、ライトの側に寝そべっていた。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆
その日の晩御飯の時に、ライトはレオニスに尋ねた。
「ねぇ、レオ兄ちゃん。ぼくも動物やまものと、お話できるようになりたい。アルや、アルのお母さんと、お話したいの」
「あー、動物や魔物との会話かぁ。んー、できんこともないぞ?」
「ほんと?どうしたらいいの?何か、とくしゅなくんれんとか、するの?」
「いや、訓練とか特訓とかじゃないんだ。あれは相手のレベルとか知能の問題が大きくてな」
「そうなの?」
「そう、知能の高い動物や魔物なら、人間が発する言語も理解できる。銀碧狼なんかが良い例だな、彼らは高い知能だけでなく知性も持ち合わせている」
「アルもいつかは、お話できるようになる?」
「ん?そりゃあもちろん、アルだって銀碧狼の子だから、当然……」
ライト達の横で、晩御飯をたらふく食べて満足げに腹をさすりながら寝そべるアルの姿を見遣る。
「………………」
「………………多ぁぁぁぁ分、できる、ように、なる、とは、思、う……ぞ?」
一抹の不安がよぎる二人であった。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「相手の知能がなくても、動物やまものとお話する方法って、あるの?」
夜もすっかり更けた頃、ライトはベッドの中でレオニスに問う。
晩御飯時の会話で、アルの知能に若干の疑問と不安を抱いた故の質問では、決してない。ないったらない。
二人のそんな会話や視線も知らず、アルはスピスピと鼻を小さく鳴らしながら完全に寝ている。
ライトとレオニスとの間に、アルが寝そべる。それはもう見事なまでに美しい、パーフェクトな川の字である。
時折アルの尻尾がもぞもぞパタパタ揺れ動くのは、ご愛嬌。
『野生動物のくせに、そんなんでいいのか?』
『おめー警戒心無さ過ぎじゃね?』
『野外でそんなんなってたら、致命的っしょ?』
このような、至極真っ当かつ野暮な疑問は抱いてはいけない。
アルのその寝姿の愛らしさの前では、全ては平伏し無力と化すのだ。別名『骨抜き』とも言う。
「んー、個々で契約魔法を交せば、念話での会話もできるけどなぁ……」
「けいやく、魔法?」
「そ、契約魔法。自分より格下の相手に対して、主従関係を結ぶ魔法な。特に魔物使いがよく使う魔法だ」
「へえ、そんな魔法もあるんだぁ」
俺は即座に、脳内フル回転サルベージを開始する。
契約魔法、契約、契約…………あれか!
ブレイブクライムオンラインでいうところの『コントラクトシステム』か!
あれは会話可能な種族のモンスターと戦闘したり、会話交渉などを用いることでモンスターと友誼を結べるシステムだ。
友誼を結べる数は基本5体までで、課金による枠拡張をすれば10体まで上限を引き上げられる。
友誼を結んだモンスターは、ユーザーといっしょに冒険や探索ができるようになり、旅のお供として常時連れ歩くことも可能だ。
種族による制限はないが、相手のレベルが自分より下であることが条件である。そして、ボスクラスのモンスターだけは友誼を結べない。ま、それができちゃったら冒険ストーリーなんかも完全に破綻するからな。
コントラクトシステムの上限とか、職業による習得制限の有無とか、この世界ではどういう扱いがなされているのかまだ全然分かっていない。
だが、いずれにせよこのコントラクトシステムを活用するには、まず自分のレベル上げも相当しとかなきゃならんってことだな。
レベリング&カンストが趣味な俺向きじゃねぇか!腕が鳴るぜぇぇぇぇ!
「ただ、その契約魔法とて相手の知能次第ではあるんだ。そもそも知能の低い名無しのスライムやゴブリン、アンデッドのスケルトンやゾンビ、グールなんかは他者の発する言語の理解すらできんからな」
「あー、そうだよねぇ……」
「そこら辺の下位連中は、まともな会話はほぼ無理だから期待しない方がいい。同じアンデッドでも、ジェネラル級やリッチとかになれば会話は可能だがな」
確かにねぇ、身体ボロボロであちこち欠けたりデロデロ溶けてる屍鬼やゾンビなんかと積極的に会話しようとは、欠片も思わんなぁ……
「リッチとかジェネラルは、本でも読んだよ!そっかぁ、まものも格が高くなると、知能も高いんだねー」
「だがな、アンデッド系の奴等とは会話はできても仲間にはできんぞ?あいつらすんげー性格悪いし、属性的にも完全に邪悪属性に振り切ってるからな」
「そなの……うん、そだね……」
この世界のアンデッド系モンスターのことなら、俺も知っている。
【廃都の魔城】と呼ばれた魔窟、そこに潜む四天王【四帝】。
奴等と戦闘に入る前と倒した後に会話するシーンがあるが、奴等は世界に仇なす存在であり、人間と相容れることは決してない。
「ま、アルのことなら心配しなくていい。大丈夫、あいつだって正真正銘銀碧狼だ、そのうち話せるようになるさ」
「……うん。アルが何歳くらいになったら、おしゃべりできるようになるかなぁ?」
「んー、俺は学者じゃないからそこら辺は分からんが……天使なんかは、生まれたその瞬間から他者と会話できる、とか聞いたことはあるな」
……天使?……天使!?……天使だとぅ!!!
レオ兄の口からもその名を聞けるということは、やっぱりこの世界にも天使はいるんだな!
ブレイブクライムオンラインでは、いっつもユーザー人気上位の種族だったな!あいつら基本的に頭固くて頑固者属性だけど、見た目いいのと魔法強くて使い勝手良かったからなぁ。
あああ懐かしいー、もう『天使』と聞いただけであれこれ思い出が甦ってきて、今にも涙が出そうだ。
「そうなんだー。世界には、まだまだぼくの知らないこと、楽しそうなことが、いっぱいいっぱいあるんだね!」
「ああ、そうだぞー。俺だってまだまだ知らない国に入ったことのない遺跡、見たこともないダンジョン、聞いたこともない珍しいお宝、たーーーッくさんあるんだ!いつか絶対に、全部見てやるぞ!」
「うん!ぼく、レオ兄ちゃんと世界中を旅したい!」
「おう!ライトも連れてってやるぞ!大きくなったら、俺といっしょにダンジョン攻略しような!」
「……うん!!!」
生粋の冒険者であるレオニス、冒険のこととなるとそれこそ夢中になって目を輝かせる。
だが、ライトも負けてはいない。まだ見ぬ世界へ馳せる思いは、レオニスのそれに勝るとも劣らない自信がある。
それは、ブレイブクライムオンラインを知り尽くすほどやり込んだプレイヤーの誇りか性か、はたまたレオニスが尊敬して止まないグランの血を引いているからか。
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