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第61話 王子様抱っことクレアの勘
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「本当に粉々に破壊し尽くしたって感じだな……一体何が起きたら、こんな酷いことになるんだかな」
旧教神殿跡地をきょろきょろと見回しながら、レオニスが呟く。
レオニスは、先程ライトが名も無き巫女の祈りによって転職が完了したことを、全く知らないようだ。
やはりあの時、ライトと名も無き巫女以外の時間は完全に停止していたのだろう。
「そうだね……レオ兄ちゃんは、この神殿跡地に今でも何か力とか魔力とか、そういうのを感じる?」
「んー……特に何かがある、とは感じないな」
「そうなんだ……」
「ここまで破壊するからには、何らかの秘密なり理由はあるんだろうがな」
レオニスには、この地に何の力も感じ取れないようだ。
転職神殿のシステムを使えるのは、やはり前世のブレイブクライムオンラインで勇者候補生だった経験のあるライトだけなのかもしれない。
そこら辺は、もっと詳しく調査してみないことには分からないが。
「今は、旧教への弾圧とかこの神殿跡地に対する禁忌みたいなものはないんだよね?」
「ああ、表立ってそういうことはほぼないな」
「表立ってってことは、やっぱりまだどこかにそういう部分は残ってるの?」
「そうだな、さっきも言ったが年寄り連中なんかには忌避感が強い、らしい。昔から、あすこには近寄るな!とか、近づいたら祟られるぞ、とか言われ続けてきたせいだろうけどな」
「そうなんだね……」
やはり古い世代には、苦手意識のようなものが根強く残っているらしい。
「あとはまぁ旧教、アヴェルブ教が完全に滅亡したからってのもある」
「アヴェルブ教に関する建物や書物も、ほとんど残っていないからな。国立図書館の禁書庫やグライフんとこの奥の方に行けば、何か残ってるかもしれんが」
「残ってたら残ってたで、それを知ったら何か厄介な事になりそうではある」
「だからライト、お前も今日ここに来たことはあんまり大っぴらに話すなよ?」
「今は禁忌ってほどでもないし、表立って罰せられるようなこともないが、それでも面倒事が起きないとも限らんからな」
レオニスはライトに釘を刺す。
確かにこの手の禁忌の慣わしの類いは、どこに地雷が潜んでいるか分からないものだ。
「分かった。レオ兄ちゃん、今日はここに連れてきてくれてありがとう」
「いや、お前の学習意欲が満たされるなら、それはとても良いことさ」
「うん。ぼく、ここに来れて本当に良かった」
「そうか。お前が良かったと思えるなら、俺にとっても良いことだよ」
レオニスは微笑みながら、ライトの頭を軽く撫でる。
「じゃ、そろそろ戻るか」
「あっ、レオ兄ちゃん、今度は小脇に抱えないでおんぶか抱っこで飛んでね?」
「了解、んじゃお姫様抱っこするか」
「!!ぼく、お姫様じゃないし!!」
「ハハハッ、分かった分かった、んじゃおんぶ……はやっぱり安定しないし、後ろに落っことしちゃマズいから、王子様抱っこさせてくれ」
「王子様抱っこ……んー、それならいっか」
お姫様抱っこはダメだけど、王子様抱っこならいいのか?という疑問は抱いてはいけない。
何故ならば、空を飛んで帰るにはどの道レオニスに抱っこされねばならないのだから。キニシナイ!
◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「じゃ、今日の用事の最後、冒険者ギルドに行くぞー」
「了解ー」
ライト達は、ディーノ村の人里から少しだけ離れたところで着地し、そこから歩いて冒険者ギルドに向かう。
相変わらず長閑な村だ。
冒険者ギルドの建物の中に入ると、そこにはいつものようにクレアが留守番、もとい受付嬢をしていた。
「あら、レオニスさん、こんにちは。今日は珍しく完全装備ですねぇ」
「よぅ、クレア。今日はライトを連れてグラン兄とレミ姉の墓参り行ってきたからな」
「まぁ、そうだったんですか」
「ライトも来月から、ラグナロッツァのラグーン学園に通うことになってな。墓参りにはその報告と、クレアにもその挨拶をしておこうかと思ってな」
「それはそれは、ご丁寧にありがとうございますぅ」
レオニスとクレアは、いつもと変わらぬのんびりとした会話を交している。
クレアはライトの方に向き直る。
「ライト君、ラグナロッツァのラグーン学園入学、おめでとうございます」
「ありがとうございます!」
「是非とも楽しく充実した学園生活を送ってくださいね」
「はい、頑張ります!」
優しい笑みとともに、祝福と励ましの言葉をライトに送るクレア。
ライトはその言葉がとても嬉しく、素直に喜び返事をした。
「ライト君。間違ってもどこぞの某レオニスさんのような、トンデモ非常識人になってはいけませんよ?常識とか常識とか常識とか、学園生活で最も学ぶべきことのひとつですからね」
「あはははは……はい」
「クレア、お前ね……人のこと言えたもんじゃないでしょ?」
「またまたぁ、金剛級冒険者ともあろうお人が何を寝言吐いてるんです?寝言は寝て言うものですよ?私なんて、幼い頃から今日に至るまで『常識を着て歩く模範の塊』と言われ続けてきてるんですからね。少しは私を見習ってくれてもいいんですよ?」
「それ、絶対に幻聴だろ……お前の耳さぁ、一度と言わず毎日新品に交換した方がいいんじゃないかね?」
これまたいつもの会話が交わされる。
そんな日常と変わらぬ風景だと、ライトがそう思っていた、その瞬間。
クレアがライトの方に向かって、小首を傾げながらじっと見つめてきた。
「……クレアさん?どうかしましたか?」
「ライト君…………貴方、何か少し、変わりました?」
「…………!!!!!」
ライトは内心驚愕する。
昨日と今日でライトが変わった点といえば、先程の旧教神殿跡地で念願の職業に就けたこと以外にない。
レオニスですら感じ取ることのなかったライトの異変を、クレアは察知したというのか?
だが、ライトもこんなところでジョブとは全く違う職業システムについてバレる訳にはいかない。努めて平静を装う。
「……?ぼく、何も変わったところなんてありませんよ?」
「んー、そうですか?……何か絶対に、これまでとは違う空気をまとっているように思えてならないんですが……」
クレアは眼鏡の奥から、鋭い眼光を放ち続ける。
その視線は、普段ののんびりのほほんとしたクレアからは程遠い、真実を探り当てようとする鋭敏さに満ち溢れていた。
「そうだぞ、クレア。お前が何かとおかしいのは皆知ってるが、今日は殊更おかしいな?」
「……レオニスさんへのお仕置きは、後ほど決行するとして。まぁいいでしょう、普段いっしょにおられるレオニスさんがそう言うのならばそうなんでしょう」
「おいクレア、お仕置きとかやめろ、お前のは洒落なんねぇから」
レオニスが若干後退りながら、クレアを止めようとする。
クレアはそんなことお構いなしに、話を続ける。
「でもそうなると、ライト君は基本的にラグナロッツァに移り住むのでしょう?レオニスさんも寂しくなりますねぇ」
「ああ、いや、ここだけの話、カタポレンの家と向こうの屋敷を転移門で繋いだんだ。冒険者ギルドへの転移門新設申請とその許可は、既に取ったしな」
「あら、そうなんですか?じゃあ、これからはお二人がラグナロッツァに行く時は、もうここの転移門は使う必要はない、ということで?」
「ああ、そういうことになるな」
レオニスから転移門の新設を聞かされたクレアが、非常にショックを受けた顔をしてわなわなと震えだした。
「レオニスさん、貴方何て酷いことを……この私から、ライト君という癒やしの天使を取り上げるだなんて!」
「おい、ちょっと待て。ライトがいつクレアの癒やしの天使になったよ……つーか、クレアには既にクー太っつー立派な天使がいるだろうよ?あいつ天使じゃなくてドラゴンだけど」
「それとこれとは別問題にして別腹です!癒やしのもとは、いくつあってもいいものなのです!」
クレアがいつになく真剣な顔で力説する。
しかし、クレアよ。癒やしの天使を別腹扱いするのは如何なものか。それではまるでスイーツではないか。
「えーと、クレアさん。これからぼくも学校通いで忙しくなりますし、あまり頻繁に遊びにも来れなくなるとは思いますが……それでも、たまにクレアさんに会いに来ても……いいですか?」
「んまぁぁぁぁ、ライト君ってば、本当に優しくて良い子ですねぇ。もちろんいつでも大歓迎ですよ?」
「ありがとうございます!」
ライトはクレアを宥めるように言う。もちろんそれは、ライトにしてもお世辞やお為ごかしなどではなく、本当にクレアに会いに来たいという気持ちから出た言葉でもある。
それを受けたクレアも、とても嬉しそうに優しく微笑んだ。
「しかし……レオニスさんの子守のために、今と変わらず森での生活を続けるのですか。ライト君も大変ですねぇ」
「子守って、お前……なぁクレア、お前の俺に対する評価、もうちょい何とかならんの?」
「え?なりませんよ?そんなの何とかなる日が来る訳ないじゃないですか。えぇえぇ、絶対に。もし!世界が!明日と言わず!今日!今すぐに!滅ぶとしても!このクレア、命に換えてもこれだけは決して曲げません!」
「命を懸ける場所が違うでしょうよ……」
天高く掲げた拳にグッと力を込めて握りしめながら、高らかに宣言するクレア。その姿はまるで、どこぞの覇王もしくは拳王を彷彿とさせる世紀末的オーラを感じさせる。
対して、そのあまりの酷い扱われようにがっくりと項垂れるレオニス。
世界最強の冒険者を、言葉だけでこうも完膚無きまでに凹ませることができるのは、世界広しと言えどこのクレア嬢唯一人であろう。
話の流れが変わったところで、ライトはレオニスに切り出す。
「レオ兄ちゃん、クレアさんへのご挨拶も済ませたことだし、そろそろ帰ろうか。ぼく、お腹空いてきちゃった」
「おお、そうだな。俺も腹減ってきたし、クレアに余計なお仕置きされる前にとっとと帰るか」
「レオニスさんへのお仕置き追加っと」
クレアがベレー帽の中からメモ帳とペンをサッと取り出し、何やら書き込んでいる。
追記はともかく、メモ帳類を出し入れする場所が根本的に違うのではなかろうか。
ライトはそう思ったものの、その切っ先鋭い矛先が自分に向けられてはたまったものではないので、ここは黙って笑顔で無言を貫くのみである。
「じゃあな、クレア」
「クレアさん、さようならー」
「お二人とも、お気をつけてお帰りくださいねぇー」
最後は和やかに別れる三人であった。
====================
その勘の鋭さといい、最強の冒険者レオニスへのあしらい方といい、『真の覇王はクレア嬢説』が有力かもしれません。
旧教神殿跡地をきょろきょろと見回しながら、レオニスが呟く。
レオニスは、先程ライトが名も無き巫女の祈りによって転職が完了したことを、全く知らないようだ。
やはりあの時、ライトと名も無き巫女以外の時間は完全に停止していたのだろう。
「そうだね……レオ兄ちゃんは、この神殿跡地に今でも何か力とか魔力とか、そういうのを感じる?」
「んー……特に何かがある、とは感じないな」
「そうなんだ……」
「ここまで破壊するからには、何らかの秘密なり理由はあるんだろうがな」
レオニスには、この地に何の力も感じ取れないようだ。
転職神殿のシステムを使えるのは、やはり前世のブレイブクライムオンラインで勇者候補生だった経験のあるライトだけなのかもしれない。
そこら辺は、もっと詳しく調査してみないことには分からないが。
「今は、旧教への弾圧とかこの神殿跡地に対する禁忌みたいなものはないんだよね?」
「ああ、表立ってそういうことはほぼないな」
「表立ってってことは、やっぱりまだどこかにそういう部分は残ってるの?」
「そうだな、さっきも言ったが年寄り連中なんかには忌避感が強い、らしい。昔から、あすこには近寄るな!とか、近づいたら祟られるぞ、とか言われ続けてきたせいだろうけどな」
「そうなんだね……」
やはり古い世代には、苦手意識のようなものが根強く残っているらしい。
「あとはまぁ旧教、アヴェルブ教が完全に滅亡したからってのもある」
「アヴェルブ教に関する建物や書物も、ほとんど残っていないからな。国立図書館の禁書庫やグライフんとこの奥の方に行けば、何か残ってるかもしれんが」
「残ってたら残ってたで、それを知ったら何か厄介な事になりそうではある」
「だからライト、お前も今日ここに来たことはあんまり大っぴらに話すなよ?」
「今は禁忌ってほどでもないし、表立って罰せられるようなこともないが、それでも面倒事が起きないとも限らんからな」
レオニスはライトに釘を刺す。
確かにこの手の禁忌の慣わしの類いは、どこに地雷が潜んでいるか分からないものだ。
「分かった。レオ兄ちゃん、今日はここに連れてきてくれてありがとう」
「いや、お前の学習意欲が満たされるなら、それはとても良いことさ」
「うん。ぼく、ここに来れて本当に良かった」
「そうか。お前が良かったと思えるなら、俺にとっても良いことだよ」
レオニスは微笑みながら、ライトの頭を軽く撫でる。
「じゃ、そろそろ戻るか」
「あっ、レオ兄ちゃん、今度は小脇に抱えないでおんぶか抱っこで飛んでね?」
「了解、んじゃお姫様抱っこするか」
「!!ぼく、お姫様じゃないし!!」
「ハハハッ、分かった分かった、んじゃおんぶ……はやっぱり安定しないし、後ろに落っことしちゃマズいから、王子様抱っこさせてくれ」
「王子様抱っこ……んー、それならいっか」
お姫様抱っこはダメだけど、王子様抱っこならいいのか?という疑問は抱いてはいけない。
何故ならば、空を飛んで帰るにはどの道レオニスに抱っこされねばならないのだから。キニシナイ!
◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「じゃ、今日の用事の最後、冒険者ギルドに行くぞー」
「了解ー」
ライト達は、ディーノ村の人里から少しだけ離れたところで着地し、そこから歩いて冒険者ギルドに向かう。
相変わらず長閑な村だ。
冒険者ギルドの建物の中に入ると、そこにはいつものようにクレアが留守番、もとい受付嬢をしていた。
「あら、レオニスさん、こんにちは。今日は珍しく完全装備ですねぇ」
「よぅ、クレア。今日はライトを連れてグラン兄とレミ姉の墓参り行ってきたからな」
「まぁ、そうだったんですか」
「ライトも来月から、ラグナロッツァのラグーン学園に通うことになってな。墓参りにはその報告と、クレアにもその挨拶をしておこうかと思ってな」
「それはそれは、ご丁寧にありがとうございますぅ」
レオニスとクレアは、いつもと変わらぬのんびりとした会話を交している。
クレアはライトの方に向き直る。
「ライト君、ラグナロッツァのラグーン学園入学、おめでとうございます」
「ありがとうございます!」
「是非とも楽しく充実した学園生活を送ってくださいね」
「はい、頑張ります!」
優しい笑みとともに、祝福と励ましの言葉をライトに送るクレア。
ライトはその言葉がとても嬉しく、素直に喜び返事をした。
「ライト君。間違ってもどこぞの某レオニスさんのような、トンデモ非常識人になってはいけませんよ?常識とか常識とか常識とか、学園生活で最も学ぶべきことのひとつですからね」
「あはははは……はい」
「クレア、お前ね……人のこと言えたもんじゃないでしょ?」
「またまたぁ、金剛級冒険者ともあろうお人が何を寝言吐いてるんです?寝言は寝て言うものですよ?私なんて、幼い頃から今日に至るまで『常識を着て歩く模範の塊』と言われ続けてきてるんですからね。少しは私を見習ってくれてもいいんですよ?」
「それ、絶対に幻聴だろ……お前の耳さぁ、一度と言わず毎日新品に交換した方がいいんじゃないかね?」
これまたいつもの会話が交わされる。
そんな日常と変わらぬ風景だと、ライトがそう思っていた、その瞬間。
クレアがライトの方に向かって、小首を傾げながらじっと見つめてきた。
「……クレアさん?どうかしましたか?」
「ライト君…………貴方、何か少し、変わりました?」
「…………!!!!!」
ライトは内心驚愕する。
昨日と今日でライトが変わった点といえば、先程の旧教神殿跡地で念願の職業に就けたこと以外にない。
レオニスですら感じ取ることのなかったライトの異変を、クレアは察知したというのか?
だが、ライトもこんなところでジョブとは全く違う職業システムについてバレる訳にはいかない。努めて平静を装う。
「……?ぼく、何も変わったところなんてありませんよ?」
「んー、そうですか?……何か絶対に、これまでとは違う空気をまとっているように思えてならないんですが……」
クレアは眼鏡の奥から、鋭い眼光を放ち続ける。
その視線は、普段ののんびりのほほんとしたクレアからは程遠い、真実を探り当てようとする鋭敏さに満ち溢れていた。
「そうだぞ、クレア。お前が何かとおかしいのは皆知ってるが、今日は殊更おかしいな?」
「……レオニスさんへのお仕置きは、後ほど決行するとして。まぁいいでしょう、普段いっしょにおられるレオニスさんがそう言うのならばそうなんでしょう」
「おいクレア、お仕置きとかやめろ、お前のは洒落なんねぇから」
レオニスが若干後退りながら、クレアを止めようとする。
クレアはそんなことお構いなしに、話を続ける。
「でもそうなると、ライト君は基本的にラグナロッツァに移り住むのでしょう?レオニスさんも寂しくなりますねぇ」
「ああ、いや、ここだけの話、カタポレンの家と向こうの屋敷を転移門で繋いだんだ。冒険者ギルドへの転移門新設申請とその許可は、既に取ったしな」
「あら、そうなんですか?じゃあ、これからはお二人がラグナロッツァに行く時は、もうここの転移門は使う必要はない、ということで?」
「ああ、そういうことになるな」
レオニスから転移門の新設を聞かされたクレアが、非常にショックを受けた顔をしてわなわなと震えだした。
「レオニスさん、貴方何て酷いことを……この私から、ライト君という癒やしの天使を取り上げるだなんて!」
「おい、ちょっと待て。ライトがいつクレアの癒やしの天使になったよ……つーか、クレアには既にクー太っつー立派な天使がいるだろうよ?あいつ天使じゃなくてドラゴンだけど」
「それとこれとは別問題にして別腹です!癒やしのもとは、いくつあってもいいものなのです!」
クレアがいつになく真剣な顔で力説する。
しかし、クレアよ。癒やしの天使を別腹扱いするのは如何なものか。それではまるでスイーツではないか。
「えーと、クレアさん。これからぼくも学校通いで忙しくなりますし、あまり頻繁に遊びにも来れなくなるとは思いますが……それでも、たまにクレアさんに会いに来ても……いいですか?」
「んまぁぁぁぁ、ライト君ってば、本当に優しくて良い子ですねぇ。もちろんいつでも大歓迎ですよ?」
「ありがとうございます!」
ライトはクレアを宥めるように言う。もちろんそれは、ライトにしてもお世辞やお為ごかしなどではなく、本当にクレアに会いに来たいという気持ちから出た言葉でもある。
それを受けたクレアも、とても嬉しそうに優しく微笑んだ。
「しかし……レオニスさんの子守のために、今と変わらず森での生活を続けるのですか。ライト君も大変ですねぇ」
「子守って、お前……なぁクレア、お前の俺に対する評価、もうちょい何とかならんの?」
「え?なりませんよ?そんなの何とかなる日が来る訳ないじゃないですか。えぇえぇ、絶対に。もし!世界が!明日と言わず!今日!今すぐに!滅ぶとしても!このクレア、命に換えてもこれだけは決して曲げません!」
「命を懸ける場所が違うでしょうよ……」
天高く掲げた拳にグッと力を込めて握りしめながら、高らかに宣言するクレア。その姿はまるで、どこぞの覇王もしくは拳王を彷彿とさせる世紀末的オーラを感じさせる。
対して、そのあまりの酷い扱われようにがっくりと項垂れるレオニス。
世界最強の冒険者を、言葉だけでこうも完膚無きまでに凹ませることができるのは、世界広しと言えどこのクレア嬢唯一人であろう。
話の流れが変わったところで、ライトはレオニスに切り出す。
「レオ兄ちゃん、クレアさんへのご挨拶も済ませたことだし、そろそろ帰ろうか。ぼく、お腹空いてきちゃった」
「おお、そうだな。俺も腹減ってきたし、クレアに余計なお仕置きされる前にとっとと帰るか」
「レオニスさんへのお仕置き追加っと」
クレアがベレー帽の中からメモ帳とペンをサッと取り出し、何やら書き込んでいる。
追記はともかく、メモ帳類を出し入れする場所が根本的に違うのではなかろうか。
ライトはそう思ったものの、その切っ先鋭い矛先が自分に向けられてはたまったものではないので、ここは黙って笑顔で無言を貫くのみである。
「じゃあな、クレア」
「クレアさん、さようならー」
「お二人とも、お気をつけてお帰りくださいねぇー」
最後は和やかに別れる三人であった。
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その勘の鋭さといい、最強の冒険者レオニスへのあしらい方といい、『真の覇王はクレア嬢説』が有力かもしれません。
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