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第62話 母子の来訪

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 ディーノ村の冒険者ギルドを出た後、ライト達はカタポレンの森の自宅に帰宅した。
 晩御飯を済ませて、さあ今から汗を流しに風呂に入るか、となった頃。
 ライトは外から何か、強大な力の塊のようなものが近づいてきていることに気がついた。

「レオ兄ちゃん、これは……」
「……ああ、来てるな」

 二人で玄関から家の外に出ると、しばらくしてその力の塊二つが二人の目の前に現れた。

「…………アル!!」
「ワォン!ワォン!」

 その二つの力の塊とは銀碧狼の母子、アルとシーナだった。
 ライトの姿を確認したアルは、嬉しそうにライトに飛びつく。
 勢い良くライトの顔をペロペロと舐めるアル、それをくすぐったそうにしながら嬉しそうな顔で迎えるライト。
 久しぶりの再会を、双方とも心から喜んでいる様子が伺える。

「よう、久しぶり。母子ともに元気そうだな」
『ええ、そちらもお二人とも壮健そうで何よりです』
「今日はこんな夜遅くに来て、一体どうしたよ?」
『ああ、それがですねぇ……明るいうちにはこちらに着く予定だったのですが……』

 銀碧狼母シーナの話によると、アルがライトに会いたがったため氷の洞窟を朝早くに出立したはいいものの、道中様々な出来事に遭遇しまくりこんな時間になってしまったんだとか。

灰闘牙熊グレイファングベアに遭遇し、今度こそは完膚無きまでにけちょんけちょんのこてんぱんのボッコボコのぺっちゃんこに蹴散らして、のしイカならぬのしクマにしてやったのはいいのですが……』
『その次の目覚めの湖で、アルが「水遊びするー!」と言うや否や、思いっきり湖面に飛び込みまして……』
『あっという間に湖中央の小島に辿り着いたと思ったら、今度は巨大なクラーケンが出現してですね……』

 気高くも美しい佇まいの銀碧狼の口から、けちょんけちょんだのボッコボコだののしクマだのと、まぁ面白おかしい愉快な単語がポロポロと飛び出してくる。
 何ともかなりおかしな光景だが、当のシーナはそれどころではない。半ばげっそりしたような表情で、シーナが語り続ける。

「あー、そいつはイードだな。目覚めの湖の主で、ライトとアルの友達だ」
『ええ、そうらしいですね。ですが―――森の王者たる銀碧狼が湖の覇者クラーケンとお友達なんて、一体誰が考えます?』
「ん、まぁ……そこら辺はなぁ、俺も同意するよ……」
『でしょう?少なくとも私には、想像すらつきませんよ……』

 がっくりと項垂れるアルの母シーナの二の腕?あたりを、ぽふぽふ、と優しく撫でるレオニス。
 その慰めにもならないような慰めを受け、シーナはさらに萎れる。

『で、目覚めの湖で散々水遊びして、クラーケンのイードさん?には「お母様にもお近づきの印にー、つまらないものですが、どぞー」とか言われて、『クラーケンあんよのおすそ分け』なるものまでご丁寧に頂きまして』
『そしてまたこの『クラーケンあんよのおすそ分け』なるもののお味が絶品も絶品で、大変美味なのがどうにも納得いかないと言いますか、何とも複雑な心境でしてね……』

 イードは相変わらず優しくて、献身的なようだ。
 アルも久しぶりのクラーケン脚を、さぞ美味しそうにいただいたに違いあるまい。

「ま、イードはそういうやつだ。心の優しい、とても良いやつだから……まぁ気にすんな。つーか、気にしたら負けだ」
『ええ、そうですね……私も気にしないことにします。というか、『気にしたら負け』という事象がこの世には本当にあるのだ、ということを……我が身を以て初めて経験したような気がしますよ……』

 レオニスとシーナ、二人の間には神々しくもありがたい彼の神が降臨していた。
 キニシナイ!……キニシナイ!………キニシナイ!(←リフレイン

『他にも、そこら辺の雑草やらキノコを囓っては吐き出したり』
『川を見れば、また水遊びするー!と叫びながら突っ込んでいったり』
『本当に、あちこち動いて一瞬も立ち止まらない忙しない子で……』

 アルの楽しそうに燥ぎ回る姿が目に浮かぶ。
 シーナはレオニスを、ちろりと横目に見遣る。

『貴方の元に預けるまでは、こんな子ではなかったような気がするのですが』
「ハハハッ、アルのかーちゃんよ、それこそ気にしたら負けだぞ?」
「ま、どっちみち今日は俺達出かけてて夕方まで不在だったからな。この時間に来てくれて、逆に良かったよ」

 レオニスはシーナの視線などものともせず、快活に笑い飛ばす。

「それに、友達がいて元気溌剌ってのは、子供にとって一番良いことじゃないか!」
「俺もライトも、アルの友達だしな!」
「これからもたくさんの友達ができるさ、何てったってアルは良い子だもんな!」

 シーナは、降参しました、とばかりに小さなため息をつきつつ頭を振りながら微笑む。

『まぁ、そうなんですけどね。あの子がたくさんの友達に囲まれて、元気に育ってくれればこれに勝る喜びはありません』

 レオニスとシーナは、じゃれ合うライトとアルの姿を微笑みながら見守っていた。


 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 もう夜も遅いということで、とりあえずアルとシーナにも家の中に入ってもらうことにした。
 アルはまだ大型犬より一回りか二回り大きい程度なので、家に入るのも問題ないとして。より大きくて立派な身体つきの母シーナはどうするのかと思ったら、何と彼女は人化の術が使えるという。
 何やら小声で呪文のようなものをブツブツと呟いたかと思うと、彼女の身体が淡く光り出し、するすると人の姿になっていった。

 シーナの姿は、銀碧色に輝くハイネックのロングドレスを着た美しい妙齢の女性になった。
 透き通るような白い肌、すらりとした美しい流線型のモデル体型、適度な大きさの胸、腰まである長く真っ直ぐな銀碧色の髪に神秘的な青緑の瞳、その全てが華麗で艶めかしい。

「おお、とても子持ちのかーちゃんとは思えんな」
「うん、アルのお母さん、とっても綺麗!」

 思わずレオニスは感嘆し、ライトは絶賛する。
 シーナも満更でもなさそうだが、少しだけ照れ臭そうにそっぽを向く。

『人の美醜は、私達には分かりません』
「アルもいつか、お母さんのように人化の術を使えるようになるの?」

 ライトはワクテカ顔で、シーナの顔を見上げながら問う。

『ええ、もちろんいつかは人化できるようになりますよ』
「そうなんだね!とっても楽しみ!」
『ただし、そこまで辿り着くのに100年はかかるかもしれませんが』
「…………!!!!!」

 Σガーーーン!!
 ライトは思いっきり項垂れる。
 ライトの孫の顔まで見る気満々のレオニスならいざ知らず、ライトはそこまで長生きする自信などさらさらない。
 人化したアルの姿、ぼくが生きてる間には見れないんだぁ……
 そんな悲しみに打ちひしがれていると、シーナはいたずらっぽく笑いながらライトに言う。

『ふふっ、冗談ですよ。他種族と会話ができるようになる頃には、人化の姿も取れるようになるはずです』
「…………!!!!」

 Σガーーーーーン!!
 いつもお上品なアルのお母さんが、こんな冗談を言うなんて!!
 さてはアレだな、レオ兄ちゃんの冗談口が移ったんだな!?

 ライトは涙目になりながら、レオニスをキッと睨む。

「んもー!レオ兄ちゃんがアルのお母さんに変なことばっかり言うから!」
「……え?俺?」
「そう!レオ兄ちゃんのせいだよ!」
「ええ?全部俺のせいなの??」

 レオニスは、ライトからの唐突なご指名と謂れ無き糾弾に、訳も分からず己の顔を指差しながらきょとんとしている。
 レオニスにしてみれば、とんだとばっちりもいいところだが、本当にレオニスの軽口がシーナに移ってしまった可能性も無きにしもあらず、なのは否めないところでもある。
 一方のシーナは、我が意を得たりとばかりに笑みを大きくする。

『ほほほ、ライトはほんに賢いお子ですこと。アルもこのような素晴らしく賢(さか)しい子になってほしいものよ』
「くっそー、俺への正しい評価はどこにいった!」

 レオニスは先程クレアに散々言われた直後なので、何気に凹んでいるようである。
 そんなレオニスの姿を見て、ライトはすかさずフォローする。

「レオ兄ちゃんはいつでも格好良いよ!(口はともかく)誰よりも強くて、優しくて、格好良いの、ぼく知ってるよ!」
「うおおおおッ、ライト!俺のことを分かってくれるのは、お前だけだああああッ」

 二人はヒシッ!と抱き合う。
「口はともかく」の部分は敢えて極小の小声で呟いたおかげか、レオニスの耳には届かず他の良いところだけ聞こえたようだ。

『人の子らも、相変わらず仲良しですねぇ』
「ワォン!ワォン!」

 銀碧狼の母子もまた、仲睦まじくじゃれ合うライトとレオニスを微笑ましく眺めていた。




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 もふもふ母子の再登場でございます。美人さんなかーちゃん、いいですねぇ。
 そして、アルのやんちゃ度にますます磨きがかかっていますが、かーちゃんとしては育児が大変そうです。やんちゃ坊主を持つ母親ってのは、本当に苦労が絶えないようですからねぇ……(実姉育児観察経験より)
 かーちゃん、子育て頑張ってね!
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