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第120話 穢れの真相

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 マキシに話を聞くのは、三日後ということになった。
 その日は平日なのでライトは学園に行かなければならないが、どうしてもいっしょに話を聞きたいので、ライトが学園から帰ってきてから開始してもらうことになっている。

 それまでは、再び各自自分の役割を果たす、ということでいつもの日常に戻る。
 ライトは学園に通い、レオニスはカタポレンの森の見回りと空間魔法陣付与の研究、ラウルはフェネセンへの料理指導、フェネセンは午前は料理特訓、午後はレオニスの研究の手伝い。
 それぞれにやること、やらねばならぬことがたくさんあった。


 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆


「なーんかねぇ。吾輩だけ、ものすごーく忙しい気がするのよ」
「んー?気のせいじゃないか?」
「そう?気のせいかなぁ?……って、んなはずないやろがえッ!」
「ま、料理も魔法研究も、どちらもお前にとって大事なことだろう?」
「むーん、そりゃそうなんだけどさぁー……」

 マキシの穢れを祓った三日後の昼下がり。
 レオニスとフェネセンは、昼食をラグナロッツァの屋敷でラウルとともに摂っていた。
 この日は午後にライトが帰宅したら、皆でマキシに話を聞くことになっている。

 マキシの体調の方は、すこぶる良さそうだ。
 漆黒の羽毛に覆われた八咫烏故に、顔色やら血色などは傍目からは全く分からないが、それでもラウルの話ではかなり回復速度が早く調子も良いとのこと。

「ラウル、予定通り今日マキシに話を聞いても良さそうか?」
「ああ、大丈夫だ。あれからまだ昼寝等の睡眠時間は若干多めだが、マキシの顔色も良いし、ベッドでも手助けなく起き上がれるようにはなってきている」
「お前、カラスの顔色の良し悪しなんて分かるの?」
「そりゃ当然だろ。マキシは俺の親友だぞ?分からん方がどうかしてる」
「さいですか……すげぇもんなんだね、友情パワーって」

 ラウルに言わせれば、全てのカラスの顔色が分かるというわけではなく、マキシが相手だからこそ分かる、という理論らしい。その言い分に、レオニスは感嘆する。
 それはいわゆる『根性論』というものに近い、もはやラウル独自の謎理論だが、そこまで深く繋がれた友情というのも一周回って羨ましく思えてくる。

「そういえば、マキシの魔力の方はどうだ?穢れが完全に祓えたなら、本来あるべき魔力がマキシの身体には既に戻っているんだろう?」
「あ、そこら辺は吾輩が見てるよん。足輪の方はマキシからの魔力を溜め込み過ぎないように、吾輩が毎日魔力を吸い上げてるようにしてるのねん。この量を調整しつつ、足輪を少しづつ外していく前段階を施してるってところかにぃー」
「そうか。ヒヒイロカネの足輪の耐久性はどうだ?まだ持ちそうか?」
「うん、そこはさすがに幻の金属と謳われるだけのことはあるよねぃ。あの時はギリ耐えたっぽいけど、今は吾輩が魔力を調整しながら吸い上げてるから壊れる心配はないよん」
「それなら良かった。ヒヒイロカネの余りはもう手元に一欠片もないし、壊れたからまた採掘しに行けって言われても当分行けんからな」

 そう、ヒヒイロカネの余りはカイ達三姉妹への報酬として、全部譲渡済みだ。
 そして採掘元である幻の鉱山へ行くにも、『幻のツルハシ・ニュースペシャルバージョン』の魔力補充を少なくとも半年はしなければならないのである。

「ぃゃー、それにしてもマキシんぐの魔力を調整がてら吸い上げてるおかげでさぁ、吾輩魔力的には今までにないくらいかなーり漲っちゃってるのよね!おかげでご飯もほとんど食べなくてもいいくらい?」
「なら、この昼食や午後のおやつも要らんか?」
「あッ、それは別腹というものなのー!ラウルっち師匠の作るご飯やスイーツは、何が何でも絶対に美味しくいただくのー!ッキエェェェエィ!」

 フェネセンは慌てて自分の食事分の皿を、キーキー言いながら腕の中に隠すようにして囲い込む。
 美味しいものは別腹とは、古今東西世界を問わずどこでも同じようだ。

 しかしフェネセンの話によれば、彼の無尽蔵にも近い魔力が今までにないくらい漲っているという。
 それほどの膨大な魔力を、マキシは今まで己の内に隠れ潜む穢れに消耗させられていた、ということだ。
 そんな莫大な量の魔力を、一気に身体に戻すのはやはり危険過ぎるだろう。

「だが、フェネセンの魔力がそこまで満ち足りるほどとなると―――そんな莫大な魔力の9割近くを、マキシの内に潜む穢れは長年喰い続けてきたってことだろう?その穢れの正体が、ますます気になるな」
「あ、そのことなんだけど」

 それまで懸命に、ラウル製昼食をひたすらもっしゃもっしゃと食べていたフェネセンが急に手を止めて、非常に険しい顔つきになった。

「あの穢れを祓った時に感じた波動。あの波動に、吾輩……覚えがある」
「何!?」
「そう、あの波動は―――絶対に忘れもしなければ、間違えるはずもない。あれは廃都の魔城に巣食う四帝の一角、【女帝】の波動だ」


 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 フェネセンの口から告げられた驚愕の事実に、レオニスもラウルも驚きを隠せない。
 いつも底抜けに明るいフェネセンが、その目に深い暗闇を宿しながら話を続ける。

「絶対に間違いない、あの穢れはクッソ忌々しい【女帝】の仕掛けた罠だ」
「腐れ女狐め、如何にも奴らしい狡猾さだ」
「奴のことだから、おそらくは他にも同様の罠を多数仕掛けていると見ていい」

 ギリギリと歯を食いしばり、呻くように話すフェネセンの顔つきはいつもの底抜けに明るい彼とは全く違う。その瞳は暗く曇り、眉間に極限まで皺を寄せて宙を睨む姿は、明確な憎悪を満ち溢れさせている。
 レオニスはフェネセンのその姿に、背筋が凍った。
 フェネセンと知り合ってから何年も経つが、ここまで激しい憎悪に満ち満ちた姿を見るのは初めてだったからだ。

「……フェネセン?」
「……ああ、ごめんね。吾輩としたことが、ついカッとなっちゃって……」

 声をかけるのも躊躇われるくらいに近寄り難い空気だったが、レオニスが意を決して名を呼ぶと、フェネセンはハッ、と我に返り瞬時に普段の柔和な表情に戻った。

「ただ、今回のことで……はっきりと分かったことがある」
「ん?他にも何か見つけたのか?」
「うん。それはね、何故廃都の魔城の奴等がいつまで経っても完全に滅することなく、何百年もの間幾度となく復活し続けてこれたかってこと」

 フェネセンは若干険しい顔をしながら、前を向きレオニスの瞳をじっと見つめる。

「レオぽんは、今まで不思議に思ったことはない?廃都の魔城に巣食う奴等が、何故かいつの間にか復活してることに」
「ん、そりゃあな……昔からずっと、それこそ廃都の魔城が出現してから数百年もの間、アクシーディア公国を始めとして世界各国が散々討伐隊を派遣したり、勢いが増す度にその都度殲滅させてはきたが……結局数年も経てば、何食わぬ顔でまた復活してやがる。本当に厄介な奴等だよ」
「そう、毎回毎度完膚無きまでに叩きのめしては、もうこれで終わりだ、やっと蹴りがついた、ようやく平和になる、そう思っても奴等は必ず戻ってくる」
「一体どこからそんなエネルギーを出してきやがるのかって話だよな…………って、まさか」

 俯き加減に思考しながら言葉を発しているうちに、レオニスは何かに気づいたように、ハッ、と顔を上げてフェネセンの方に振り返る。

「そう、おそらく奴等はあれと同様の穢れを世界中にばら撒いて、そこから魔力を奪い掠め取っている」




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 甘いものは別腹―――。これは古今東西異世界問わず、おやつやスイーツが存在する世界ならばきっと同じなはず!

 ……と、先日までは作者もそう思ってました。

 ですが、某紳士ドーナツの食べ放題ビュッフェに初めて行きまして。その時に、

『如何に食べ放題でも、焼肉やサラダバーなどとは勝手が違って甘いもの系はそんな思う程詰め込み食いできん!』

ということを、我が身を以て思い知りました。

 焼肉とかなら本当にもうちょい頑張れるのですが……アレは如何せん無理だ、どんなに頑張っても惣菜パイ系含めて7個とドリンク3杯が限界でした。

 後々になってよくよく考えてみると、市販の菓子パンだって5個や6個も食や十分に腹膨れますもんねぇ……

 これからはもう、紳士ドーナツは食べたい時に普通にバラで好きなものだけを厳選チョイスして買うことにします……
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