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トリプティック 3
しおりを挟む毎週のように、佐藤と飲みに行っていた。
それが叶わない世の中になって、すると、二人はお互いの部屋に行くようになった。
男女、そして、会社の同僚。
互いに独身。
ならばやましいこともない。
たぶん。
巴は、「男女の間にも友人関係は成立するのか」なんてお題目に興味はなく、大体においていちいちそんなことを殊更取り上げる人種を冷ややかに見ている。
そんなことはどうでもいいではないか。
佐藤とは男女の仲ではない。
互いにそれを、注意深く斥けているように巴は感じている。
その是非は、自分ではわからない。
佐藤がどう自分を思っているのか、それもわからない。
都市計画設計事務所に入ったのは紹介で、中途採用の巴と佐藤はたまたま同い年だった。
佐藤は若手スタッフとしては頭一つ抜けているようだが、巴は実際の業務を知らないのでわからない。
ほとんどが公共の案件で、大きなプロジェクトを生業とする会社に、巴は専門事務職のような形で就職した。
役所を相手にするということは、恐ろしいほど無駄とも思える、永遠に続くがごとき各種の申請書類を必要とする。
それらの専門処理として採用されたのだ。
県の土木局で勤めていた巴が離職を決意したのは、上司からのパワハラとセクハラに公然と立ち向かったからだ。
慰安旅行や忘年会などで、女中のように扱おうとし、尚且つ常に身体をまさぐろうとする男を拒否し、パワハラ相談窓口に報告した。
しかし、窓口は「飾り窓」だった。
そんなものなら、最初から作るなという憤りに耐えられるほどの冷静さは、その時巴には既になかった。
辞表を出す時に、大勢の同僚がいる事務所で男の横っ面を思い切り叩いた。
スカッとするかと思いきや、男が逆上し、周りの人間が止めに入り巴を逃がすなど、事務所は上へ下へのパニック状態になった。
飛ぶ鳥跡を濁さずというのは、誠に下らない格言だと巴は思う。
翼を削ごうという輩に泥をかぶせて逃げて行くのだ。
いつの世も、そこに居続けるのは間違った者で、逃げ去らねばならない者は正しい者なのだ。
女は綺麗で、なまめかしく、だから私は女を好きなのだが、女が生きる社会としてはこの国は未開の野蛮な荒野に過ぎない。
そんなのは、私は、イヤだ。
そんな巴を案じ、土木局の同僚が今の会社を紹介してくれた。
こんな業界だ。
表に裏にいろいろある関係だとしても、この社会に清廉を望む方がどうかしている。
前職のキャリアを生かせるなら(しかも向こうは喉から手が出そうなほど欲しい人材)迷う理由などどこにあろうか。
事務所のホワイトボードの所長の欄は、月に何度も土木局の管理職との予定が書いてある。
「直帰」となっている予定の内容を知りたいとは思わないが、そこにかつてのセクハラ男の名前が無いことだけは救いだなと巴は思った。
そんなこんなも、この2年間はご無沙汰にせざるを得ない世の中に変わり果てた。
事務所もかなりのテレワークとなり、何より役所も予算執行に制約がかかったことで、大型プロジェクトも予定が繰延べになるなど、会社の状況は誠に芳しくはない。
そんな日々を生きる一人の女として、巴にとって佐藤との関係は心のライフラインになっていた。
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