チートを貰えなかった召喚聖女は帰りたい

第15話 貨幣の数え方

　お姉さんが、自分の作ったポーションの前に銀色の硬貨を５枚積んだ。そして、椿のポーションの前に３枚の硬貨を積んだ。どうやらこれがポーションに付いた値らしい。最後に大きな銀色の硬貨を７枚と銀貨６枚が椿の前に置かれた。ポーション３０個で銀貨９０枚、つまり銀貨１２枚で大銀貨１枚の価値があると言うことだろうか、まさかの１２進法か？　計算機が欲しいな……

　椿はポーションの前に積まれた銀貨から２枚を抜いて取ってみせた。取り分は２枚で良いと言う意思表示だ。腕を組んで神妙に頷いて見せたお姉さん、巾着袋に大銀貨５枚を入れて渡してくれた。お金の価値はまだ分からないが、なんとなく５００円硬貨を思い出す。まずは十分だ。お姉さんに取り分を残すのは、当分はここに置いてくれと言う意思表示でもある。

　それよりも、数え方を教えて欲しいな。机の上には銀貨が大量に散らばっている。良い機会だから教えてもらおう。

　銀貨を１枚ずつ摘んで手元に並べながら「ひとつ、ふたつ、・・・」と数える、そしてお姉さんの顔を見る。すると、椿が並べた銀貨を同じように数えながら手元に置いてみせてくれた。

「『１』『２』『３』・・・『１２』『銀貨』※、『１』『大銀貨』※※※※※」

　１２銀貨と１大銀貨に付けたのが恐らくそれぞれの単位に違いない。そして、やっぱり１２で繰り上げのようだ。数字は……　駄目だ！　覚えられない！　なにか書くものはないか！

　ぐむむと唸って中空に字を書く仕草をしていると、鉛筆が差し出された。いや、木炭か。鉛筆の芯だけが太くなったようなものだ。紙もくれた。コピー紙のように真っ白ではない、和紙のように繊維が残って見えるものだ。これでは、ザラ半紙にクレヨンの組み合わせではないか。お姉さんを見ると、子供にお絵かきセット与えたような慈愛に満ちた顔をしていた。



　紙に銀貨のイラストを描く、お姉さんにそれを指し示し『銀貨』？　と問いかけると肯定の頷きを頂いた。紙を引ったくると、まじまじと見つめている。イラストに関心があるようだ、変なところに食いつくなぁ。続けて、大きい方の銀貨もイラストを描き、読み方を教わりカタカナで書き込む。続けて数字はローマ数字で並べ、同じようにカタカナで読み方を書いていく。３までしか覚えられなかったので、『１』『２』『３』・・・と読み上げて視線を投げると、お姉さんは続けて『４』『５』『６』・・・と読み上げる。丸っきり幼児に歌を教えるお姉さんだ。

　と言うか、服飾屋の店長さんといい、このお姉さんといい、テレパシー持ちかと思うくらい察しが良い。助かり過ぎる。好き。

　イラストを書いて指差すと、その名前を読み上げてくれる。これは使える。イラストは割と得意だ。この手で、単語を収集していこう。スケッチブックみたいなものを手に入れたいな。単語の知識が増えれば文法も見えてくるかもしれない。

　明くる日、お姉さんがまたポーションを荷造りし始めた。自分も出かける旨を伝える、紙と鉛筆、続けて巾着袋を指差す。買い物したいのだと、伝えたつもり。それに対して、分かったのかどうか曖昧な顔で頷くお姉さん、きっとポーションの売上に心を奪われているのだろう。

　商店の通りまで一緒に歩いたが、途中で分かれてそれぞれの買い物に向かった。



　雑貨屋で鉛筆と筆入れを手に入れた。銀貨で支払うと、お釣りが来た。受け取ったのは、お約束通り銅貨だった。こういう価値観は地球でも国を跨いでいたが、異世界でも似通ってくるものなのだな、不思議だ。買い物をする中、身振り手振りを交えて異世界の住人達とやり取りを行ったが、「お金」と言う概念的な単語や、貨幣の単位となる単語がどうしても分からない、もしくは出てこない。数字＋貨幣の名前で通っているようだ。銀貨３枚の値段なら『３銀貨』のように。銀貨はセレディエと聞こえる。日本語では馴染みのない母音が混ざっている気がするが、長く暮せば聞き取れるようになるだろう。……いや、長く暮らす気はないんだけれども。

　スケッチブックは見つからなかった。雑貨屋、生地屋、本屋を回って、最終的にはザラ半紙を自分で製本することにした。丈夫な糸と太い縫い針を見つけたからだ。そして肩掛けカバンも手に入れた。それだけ買っても大銀貨３枚程度だった。ポーションの単価が高いのが意外だった。消耗品だから、もっと安いものと思っていたよ。そこらに生えてる草で作れるんだから、こちらとしては都合が良いけど。

　パンや野菜を物色していると、お姉さんと合流した。そのまま食材を買って一緒に夕飯を作る、もう傍から見たら中の良い夫婦だろうコレは。

　当分お世話になりたいものだ。